夏を前に色々と考えすぎたのかもしれない。
暗い暗い夜が来るたびに幽霊が俺に話しかけてきた。
「お前の本意は何処だ?お前は本当は何が歌いたいのだ?答えよ。3秒以内に。」と。
俺は「あうあう」としか声にする事ができなかった。
昔からすぐに影響を受けるし
他人が「お前は間違っている」とキレれば
「ああそうなのか」と反論する事もなくただ聞き入れるのだった。
それを繰り返す事により自分が誰なのか分からなくなる事が度々あった。
へぼいな。
正直、富士ロックは受かったつもりでいたが今年もまた落選通知がやってきた。
そのハガキを眺めながら俺はいったいなぜコレに応募したのか考えた。
数日考えた結果、富士ロックに助けてほしかったのかと思った。
生活だったり何だったりをだ。
語弊があるかもしれんが、そう思ったのだ。
お客さんが入らないとか何やとか
そんな事は気にせずにやらないといかんと言いつつ
俺はただ有名になりたかったのかもしれんなと、そう思ったのだ。
何がロックじゃ何がパンクじゃと自分にキレあがり
ふてくされ、寝不足になり、数日を過ごした。
好きな音楽を「文句あるのか」と気迫をもって好きに表現すればいいだけなのに。
薄々気付いていた事だ。
そんな悶々とした日々を過ごし、
「もう良い。俺は好きな事しかやらん」と決めたとき
向井君に久しぶりに会った。
「せっかくやから一杯呑もうか」と2人で呑んだ。
ああでもないこうでもないと色々な話をした。
そろそろ行こうかと席を立とうとした時、店内のテレビから
What A Wonderful World のカバーが流れた。
鳥がさえずる
木々の緑はきれい
花はきれで
空もとても青い
恋人たちが愛してるとささやき合う
なんて素晴しい世界なんだろう
みたいな歌詞やった。いい曲よねと俺は言った。
向井君はこう言った。
「たしかにいい曲やね。みんなそう思うから、今の時代もこうやって名曲として残っている。俺は酔っ払って便器に顔を突っ込んでゲロをオエオエ吐いとる時になんて素晴しい世界なんだろうと思う事があるばい。それをこれからも歌っていくつもりや」
みたいな事を言ったと思う。
「ああ」と思った。
やはりこの人は紛れのない「成功者」なんだ。
経験した事を自分の言葉で、自分の視点で語り続けた人なんだ。
俺はなんてつまらない事で思い悩んでいたのだろうか。
マイノリティ→リアリティに変換セヨ。
簡単な事だった。
また前に進んだ気がしたのだ
ただ、それだけの事だ。
今村竜也