モーリタニアは、アフリカ大陸の北西部に位置する大西洋に面した国。
国名はアフリカの地中海岸に位置したベルベル人の古代国家マウレータニアに由来。
日本では、タコの輸入元として知られる。
日本の技術支援により蛸壺によるタコ漁が盛んになったもの。
日本のタコの産地である明石沖の海底の形状が類似しているのだと聞く。
しかし、食べる習慣はなく、全量輸出に回わる。
現地のガイドがバーベキューの具材にと・・・どこからか調達してきたが、
「何でこんなモノを食べるのか?!」と不思議がっていたのを思い出す。
モーリタニアの内陸部には、サハラ砂漠が広がる。
世界最大の砂漠で、南北1700kmに亘り、アフリカ大陸の3分の1を占める。
サハラは、アラビア語で「何もない」という意味。
ところが、「何もない」はずのサハラ砂漠であるが、
古くから交易のルートとして利用されていた。
西アフリカ内陸部は豊富な金資源やサハラ以南の地域の奴隷と、
地中海沿岸の塩などが交易の対象。
8世紀には幾つかの交易ルートが確立されたという。
モーリタニアのエリアでは、ワダンやシンゲッティが交易の中心地。
シンゲティには図書館もあったという。
モーリタニアのこれらの隊商都市から更にサハラ砂漠の奥に進むと、
サハラの目と呼ばれるエリアがある。
グーグルマップの衛星写真を見ると、渦巻き状の地形がはっきりと映る。
その場に行ってみても、地上目線からでは、単に荒れ果てた砂漠地帯が広がっているだけだが、
標高100~200mほどの高台の中に、同心円上に標高100mほどの山が幾重にも重なっている。
当初は隕石の衝突によるクレーターと思われていたが、調査の結果、長年の風化や浸食によるものとか。
イスタンブールで飛行機を乗り換えて、モーリタニアの首都ヌアクショットに向かう。
ところが、行先表示はセネガルの首都ダカール。
セネガルは、モーリタニアの南に位置するため、
一旦、通り過ぎてから、戻ってくる飛行ルート。
ダカールでは、一旦下ろされた。
席に戻ってきたら、先に、セネガル人のオジサンが座っていた。
搭乗券を見せてもらったが、何と、同じシート番号表示。
これは、ビジネス席にランクアップか?!と期待したが、
エコノミー席には十分余裕があって、ささやかな期待は、すぐに当てが外れた。
セネガル人の肌は、本当の黒色。
大きな目を白黒させる笑顔に、親しみと愛嬌を感じた。
首都ヌアクショットのホテルで一泊した翌日から砂漠地帯に入る。
内陸部は、宿泊施設は整っていないため、当然としてキャンプ泊の行程となる。
苦難の旅路かと言えば、そうではなく、砂丘地帯のキャンプは格別で、設備の良くない宿に比べたら遥かに居心地が良い。
自然の営みを肌で感ずることができ、人間自身もその中の一つの分子でしかないことを確認する。
日が昇り、日が沈み。
月もまた、毎日形を変えながら顔を出す。
砂漠の風紋は風まかせに変化し続け、美しく見せることを楽しんでいるようだ。
砂漠の灌木帯の日陰でランチをとっていると、村人たちがやってきた。
砂漠で拾った石ころを並べて、お店を開き始めた。
ガイドに聞くと、この辺りの遊牧民だという。
ただの石ころだと思われたものは、昔の石器や化石のようなものらしい。
近くの大岩には、北アフリカでよく見かける壁画が描かれていた。
昔は、この辺りも湿潤な気候であったかもしれない。
ガイトが、いらなくなった空のペットボトルを分けてあげていた。
貴重な水汲み用の入れ物になるのだという。
砂漠地帯に入って4日目。
ようやく今回の旅の目的地「サハラの目」に到達した。
サハラの目は、期待した通り?! 地上からは何も分からなかった。
帯状の丘陵帯は確認できるものの、ただただ岩石の多い砂漠が広がっていた。
カメラに収めたが、それがそれと分かるようなシロモノにはならなかった。
そこに、ロバに乗った遊牧民の親子がやってきた。
「こんな所にも、人が住んでいるか」と絶句した。
ガイドは、数日たったフランスパンを分けていた。
こちらのフランスパンは気候が乾燥しているので、
美味しさそのままで、何日も保存できる。
砂漠には、砂漠の良さがあるようだ。
キャンプ最終日は、ガイドが、ヤギの丸焼きを振舞ってくれた。
こちらではヤギは御馳走だ。
途中で寄り道して、生きたヤギを仕入れてきたらしい。
一頭3000円位だとか。
ご相伴に預かって、必死にかぶりついたが、
手がべとべとになるだけで、食べ所は殆ど見つけることが出来なかった。
少ししか手をつけられずに、申し訳なく思っていると、
本当の目的は、ドライバーさん達への労いだったようで、安堵した。
もちろん、彼らは完食した。
朝起きたら、カラスがたくさん飛んでいた。
砂漠の中に放置された個体が、真っ黒になっていた。
まだ、食べる所は残っていたようだ。
近くに、骨だけになった子供のラクダが横たわっていた。
はからずも最後の姿のあり様を確認することとなった。
街に戻る道すがら、ソドムのリンゴを見つけた。
ソドムのリンゴは毒を持つ果実がなる植物のことで、触ると手が被れてしまうという。
その由来は、旧約聖書に出てくる背徳の街ソドムと、
禁断の果実と称されることもあるリンゴの掛け合わせだとか。
これを見つけると、砂漠に来たことを実感する。
旅の終わりが近づくにつけ、次の砂漠の旅に思いを馳せる自分を見つけた。