『中国大恐慌以後の世界と日本』
各国に広まるチャイナショックの現実と今後
宮崎正弘 徳間書店 2016/3/30
<天変地異を前に逃げ出すネズミ>
・経済が失速し、不動産価格が暴落し、失業者が町に溢れ、社債デフォルト、株式大暴落の中国。人民元はさらなる崩落の危機を迎えている。
社会科学院の報告は「春はもう来ない」。にもかかわらず中国でレクサスなどの高級自動車が売れるのは不思議、まさに面妖な現象である。
ソ連崩壊の頃の情景を思い出す。
モスクワ市内ではタクシーがルーブルで支払えず、マルボロだった。つまり米国製のタバコ「マルボロ」が通貨代わりだった。
当時、筆者は6回ほどモスクワに通ったが、行くたびにルーブルの価値は1ルーブル=240円、80円、50円、1円、そして最後に0.12円となった。実に2000分の1に減価したのである(その後、ロシアは新ルーブル札を発行した)。
<いよいよ始まった金融崩壊>
・「おそらく中国の不良債権は米国のサブプライム危機の4倍に達する。中国の不良債権危機はこれから表面化するだろう」「なぜなら中国の国有銀行はゾンビ企業に巨額を次々と貸し込んできたからである」「3年以内に人民元は60%下がる」
・中国当局の金融緩和、市場へじゃかすかと資金供給を続ければ、人民元暴落に直面するという二律背反は明らかである。
<2016年にやってくる債務償還危機>
・もし債務のうちの半分が不良債権化すると想定すると、リーマンショックの2倍以上の規模となる。史上空前の借金を中国はいかなる勝算があって続けてきたのだろうか。
前述したように、2016年末までに債務残高の半分の償還時期がくる。返済は明らかに無理だから借り換えをしなければならない。アルゼンチンやブラジルのように借金のための借金を重ねる自転車操業国家に陥るか、あるいはロシアのように一度倒産させて新貨幣発行に踏み切るか。
<日本への悪影響は甚大かつ深刻>
・「その後」を予測するには現状に立脚して次に何が起きるかを予測する作業が必要であり、それから展望できる近未来、その対応策の準備である。
・日本はまず人民元の暴落に備える必要がある。
中国としては人民元安になれば、輸出企業は競争力を回復できると見積もられるが、それは甘い憶測である。「切り下げになった分だけ値下げせよ」とバイヤーに言われ、輸出企業は工場の規模を縮小させ、海外へ移転するしかないだろう。人件費の高騰で中国が「世界の工場」と言われた日々は遠い昔のことになりつつあるからだ。
15年前、中国の縫製工場での女性労働者は月給が600元(当時の相場で8000円ほど)だった。いまや4万円前後、マネジャー級は8万円でも人材がいない。だから繊維産業ばかりか、スポーツシューズ、家庭用品、白物家電などが中国からベトナム、ラオス、カンボジア、ミャンマーへ、繊維産業はバングラデシュ、スリランカへと移転を続ける。
・一方で人民元高は原油・ガス・鉄鉱石などの原材料の輸入に有利だったが、すでに生産の低迷と在庫の積み上げで意味がない。逆に人民元安はインフレを招く可能性が高い。インフレは庶民の最大の懸念、政府への不信が増大せざるをえなくなる。
最も懸念されている事態とは、すでに中国に見切りを付けた外国資本の逃避であり、しかも加速度をつけて中国から大量の資金が逃げ去ったことである。
ついに有力企業の倒産も顕著となった。
・このほどさように中国の経済破綻は日本経済に直截な破壊力を伴っており、日本株の上昇の可能性は当面、遠のいた。
いずれにせよ中国経済破滅は日本経済にとっても深刻な問題なのである。
・人民元がSDR構成通貨に入ったという口実で、AIIBの資本金も突如、人民元建てに切り替え、貸し出しも人民元にするという手段に出ることも考えられるだろう。
するとどうなるか。紙屑同然の人民元が世界にあふれ出すのである。
<中国の死にものぐるいの巻き返しに警戒せよ>
・ならば中国経済の崩壊以後、世界経済はTPPが牽引するのか?
日本では「TPPに活路あり」などと獅子吼し、これは日本経済の活性化に繋がり、しかも「中国抜き」だから日本は安心と楽観論を述べる人がいるが、基本的錯誤である。
第1に米国議会が批准するのはかなり先になり、即効は望めないからである。大統領予備選のトップを走るヒラリー、トランプともTPPには反対の立場であり、サンダースやクルーズといった他の候補も同様である。
第2にTPPは95%の関税自由化により、オレンジ、葡萄などが壊滅的打撃を受けるとされるが問題は農産物だけではなく、すでに導入が始まった社外取締役の設置のように、企業ガバナンスがアメリカのルールに変更される恐れがあり、日本の企業伝統にとっては一大事件なのである。
平和憲法がアメリカ製であることは誰もが知っているが、実は憲法の根幹から枝分かれする刑法、民法、商法についても、すでに日本はアメリカ法の植民地と化している。しかもアメリカからは対日年次改革要望書が毎年出され、そこに盛られた「諸改革」(郵政民営化など)を日本は呑み続けてきた。日本の金融市場はウォール街の論理とルールが支配し、東京の株価はウォール街が決めることとなった。
・第3は中国の死にものぐるいの巻き返しがかえって世界経済に害悪を及ぼすと予想されることだ。追い詰められ崖っぷちに立った中国は、SDR入り、AIIB、BRICS銀行、そして新シルクロード構想(一帯一路)という空前の大風呂敷を広げた。
・軍事方面で最大の懸念は中国は経済を失速させて、いつまで軍拡に耐えられるかという問題と、切羽詰まれば二流の指導者は国内矛盾を逸らすために戦争に打って出やすいという歴史の教訓である。
<日本の反撃は可能なのか?>
・人民元のさらなる暴落の予兆と中国からの資金流失、景気の低迷はさらに悪化する方向にあり、欧州にまで飛び火している。
・しかし本書でも述べてきたように、現実の問題としてすでに中国の過剰在庫、過剰設備投資はアジアで鉄鋼不況などの深刻な悪影響をもたらしており、FRB議長の現実認識にややタイムラグを感じた発言だった。
<世界を覆う4つの危機>
・いま、世界を不安に陥れている危機感は4つある。
「中国経済の陥没」「原油価格下落による新興国の沈没」「第3次世界大戦に繋がりかねない中東紛争」。そしてVW(フォルクスワーゲン)とドイツ銀行の経営危機に加えて難民問題を抱えるドイツ経済の頓挫がもたらすであろう「ユーロ危機」だ。
<日本が築く新たな世界秩序>
・ことほど左様に新興投資対象国もリスクが一杯である。となると残る可能性を秘めるのはどこか?
実は日本なのだ。先進国で一番失業率が少なく、若者の就労機会は山のようにあり、福祉厚生介護などは至れり尽くせりの長寿国家は、世界一のものづくりを誇る国でもあり、経済が再離陸する展望は明るい。
もし日本政府からの情報発信がもっと適切に行われ、日本の魅力の宣伝に成功すれば、外国企業は日本を投資対象として見直すだろう。積極的に海外のプロジェクトを主導するのも大いに結構だが、もっと私たちの足元をよくするプロジェクトを考えたいものである。
国土強靭化、一億総活性化などを、スローガン倒れとしないためにも、官も民も、もっと足下を照らすべきだ。日本国民の精神の復興が明日の繁栄と平和の礎に繋がる。
<「中国のハードランディングは不可避」>
・中国経済はハードランディング中だ。
2015年秋に中国政府のシンクタンク「中国社会科学院」が公表した『メイド・イン・チャイナの新常態』という報告書はまさに衝撃的だった。
同報告書は中国経済の深刻な状況を解析しながら、「過去の強気一辺倒の姿勢は影を潜め、『春は二度と来ない』」と書いたのだ。
・同じ頃、ダボス会議でジョージ・ソロスは「中国経済のハードランディングは不可避的である」と爆弾発言をした。
・北京の空を覆うPM2.5のように、中国の未来は真っ暗になった。
<台湾・香港で見てきた「爆買い」の終焉>
・加えて石炭、製鉄、セメント業界は1000万人の雇用があったが300万人の労働者が明らかに不要となり、工場閉鎖、倒産が続いて、解雇どころか給料未払いという最悪の状況に陥っている。
株安、人民元安、輸出急減、外貨準備枯渇、銀行の不良債権が表面化するのは時間の問題となった。
<中国の外貨準備は枯渇している>
・中国の債務はGDPの290%。そして企業債務は160%。プラウダは「対GDP比でまもなく310%を超える」と書いた。債務残高の巨額は日本や米国より遥かに悪い。
加えて不動産バブルと国有企業の過剰投資、在庫処分などから債務合計の半分が不良債権と計算すれば、おそらく中国の負債、つまり不良債権の総額は2000兆円を超えると想定される。この金額はリーマンショックを超える。
『ロシア転覆、中国破綻、隆盛日本』
長谷川慶太郎 実業之日本社 2015/7/30
<そのトヨタの幹部は「中国はダメだ」といっていました>
・「本当は(中国から)撤退したいと思っている」というのです。今、中国では醜いダンピング状態が続いているといいます。一般紙など日本のマスコミは報道していませんが北京、上海など大都市郊外に廃車の山ができているのです。トヨタには中国で新工場を建設するという話がつい最近までありましたが、それも見直すといっていました。本文でも触れていますが、先日、日本経済新聞が中国では5000万台生産して2500万台供給過剰だという記事を掲載しましたが「あれは甘い」というのです。「売れるのは2000万台で供給過剰は3000万台を超える」と予想しておりました。中国ではクルマを生産して販売するような状況ではないのです。ですから、日本企業は中国から撤退しています。
・こうしたなか、習近平は汚職の摘発に積極的です。2015年1月に中国の人民解放軍の全部隊に対して「1万元以上の支出に関して全部、領収書を出せ」という命令を出しました。しかし、「そんなものはない」と現場では混乱しています。そこで中国政府は「1年間猶予を与える。それでもだせなかったら担当者の責任を追及する」という決定を下しました。この決定で、軍幹部ほとんどの首をすげ替えようとしています。習近平にとってもまさに正念場なのです。
・本書では中国の破滅と同時にロシアの破綻にも迫りました。今や共産主義、社会主義国家の存立は風前の灯火となっています。日本をはじめ、全世界はこうした情勢を認識して行動しなければならないのです。
<タンクローリーで「水」を供給>
・中国では公害問題が深刻です。今でもPM2.5による大気汚染が一向に改善されませんが、それ以上に深刻なのが「水の汚染」です。
現在、人民解放軍のタンクローリーで毎日、給水をしている農村が約3万か所もあります。農民は毎日飲む水が確保できない状況です。まして、畑に供給する水はありません。作物は育てられず、人間が生きていくための最低限度の水しか供給を受けられないという厳しい生活を強いられているのです。
井戸を掘っても出てくる水がドロ水で汚染されていて飲めません。
<一夜にして廃車の山>
・習近平は変わらざるを得ないのです。このままでは中国はつぶれるからです。その証左のひとつはクルマの売れ行きがあまりにも酷いことです。面白いのは、中国の大都市である上海でも北京でもそうですが、郊外の空き地に一夜にして廃車の山ができます。警察官が走っているクルマを任意に選んで、排気ガスを調べます。そして排ガス規制の基準を満たしてしないクルマは、即刻、強制的に廃車にさせられるのです。結果、昨日まで何もなかった土地に、突然、何十台もの廃車の山が出現します。
<赤字路線がほとんどの中国高速鉄道>
・中国に高速鉄道があります。現在、その距離は中国全土で2万1000キロメートルになりました。そのうち、黒字路線は400キロメートルしかありません。具体的には上海と南京まで区間を走っている高速鉄道だけが黒字で、残りの2万600キロメートルは赤字路線です。
<完全に行き詰ったロシア>
・一方、ロシアも厳しい状態にあります。その理由については後ほど、詳しく述べますが、共産主義、社会主義は消滅する運命にあるということです。かつて国立大学の経済学部でマルクス経済学を教えていた学者は今どうなりましたか。マスコミで登場する人はほとんどいなくなりました。また、こうした学者の目新しい出版物もありません。共産主義や社会主義に対する関心が薄れているんです。
・ロシアの蹉跌は深刻で、破綻の道をたどり始めています。外貨準備高が大きく減少し経済的に大きなダメージを受けて沈みつつあります。ただ、日本への影響は軽微に済むとみられます。日ロ貿易額はそれほど大きくないからです。
ロシア、中国という2つの大国が破綻に向かっていることは事実です。その点は日本も覚悟しておく必要があると思います。
<ソ連崩壊と同じ道をたどる中国>
・ロシアや中国の現状には、痛感することがあります。1985年にはゴルバチョフがソ連の政権を握りました。その当時、ソ連が大変な危機で、その対策として実施したのがペレストロイカ(改革)とグラスノスティ(情報公開)でした。
1986年4月に起きたチェルノブイリ原発事故で、当時、書記長だったゴルバチョフの下になかなか情報が伝達されなかったことがありました。
ソ連の秘密主義が最高指導者の政策に深刻なダメージを与えたとして、ゴルバチョフは言論・思想・出版・報道の自由化と民主化を実施したのです。ただ、これにより徐々にソ連共産党幹部の豪華な生活ぶりや汚職、不正が、生活で困窮している国民に知れ渡り、国民に反共産党感情を引き起こしてしまいました。
さらに計画経済・統制経済の行き詰まりを打開するために、個人営業や協同組合(コーポラティブ)を公認したことがキッカケとなり、ソ連体制の抜本的改革が進行するに伴ってソ連自体が解体への道をたどったのです。
それと同じことを現在の中国国家主席・習近平が行なっています。中国はソ連と同様に解体への道を突き進んでいるのです。習近平は、中国が困窮している今の事態を何とか打開するために、日本に近寄ってきます。だから、日本と中国の関係は目にみえて良くなります。
<目前に迫ったロシア崩壊>
・私たちは最悪、ロシアが分裂する事態に陥ることも念頭に置いておかなければならないでしょう。実際どのように分裂するかは現時点では分かりません。シベリア地域と、ヨーロッパロシア地域とに分裂することがあるかもしれません。
中国の場合には、7つの軍区があり、その軍区ごとにゆくゆくは分裂することになると、私は指摘してきました。ロシアの場合も中国同様に軍区はありますが、中国の軍区とは違います。中国の軍区はその地域をコントロールする「力」を持っていますが、ロシアの軍区にはそのような「力」はありません。
<日本への影響は>
・日本への影響はプーチン氏が大統領を辞めたとしても、たいしたことはありません。現状から大きな変動はないでしょう。日本企業はすでにおおかたロシアから手を引いています。ロシア西部の都市サンクトペテルブルクの周りには日本企業は工場を展開していました。自動車工場が中心でしたが今、フル操業のところはひとつもありません。
・ロシアでクルマが売れなくなってきたからです。このため各社は操業率を落として対処していますが、操業停止に追い込まれた工場もあります。ある日系企業では操業したら赤字になる厳しい状況が続いているようです。まさに開店休業状態にあるといいます。ですからロシアに進出した日本企業は大変でしょうが、ロシアの動きに対して日本は基本的に高みの見物をしていればいいのです。
<息の根を止められるロシア経済>
<石油輸出で経済拡大を図ってきたロシア>
<原油安とルーブル安のダブルパンチで窮地に>
・プーチン政権は窮地に立たされているのです。繰り返しになりますが、ルーブル安と原油価格の下落、つまり「逆オイルショック」という内憂外患により今まさにロシア経済は「息の根を止められる」ところに来ているといえます。
・ロシア経済がマイナスに陥った証拠にロシアの乗用車生産高が急速に減少しています。2014年における乗用車生産台数は169万2505台(前年比12.2%減)と落ち込みました。
・続く2015年はロシア工業商務省の発表によると前年比10%減とさらに減少すると予想しています。
<20年間続いた政権は失策だった>
・プーチン大統領は20年間、ロシアを支えてきましたが、結局は失敗だったのです。最大の失政はロシアという大国をしっかりと国際社会に組み入れることができなかったことです。それが基本路線でなければならないのに、基本路線から外れてしまった。とくにクリミア問題で、国際社会のルールから完全に逸脱した行為をしてしまった。
<「冷たい戦争」に負けたことを隠す>
<反プーチンが膨れ上がる>
・ロシアでは原油と天然ガスにかけている税金が、国家税収全体の40%になります。それが、市況の低下で大きく減少し、税収が落ち込んでいます。40%を占めていた税収が半分以下になるという見方も出ているほどです。
そこで、輸入消費財に関税をかけて、税収の不足をカバーしようとしますが、国民の生活物質の価格はますます上がることになります。すると国民の間で、生活が苦しくなり不満がたまります。
・東側陣営の指導者や経営者たち、労働者たちも経済原則を知らないのです。効率を求めてはいけないと思っているのです。「変わらないことがいいことだ」と信じています。このような価値観で技術革新が起こるわけがないのです。一定の型を作っていれば、それでいいというのが、社会主義の原則でした。ですから技術革新が入る余地はそこにはありません。そもそも発想として新技術とか効率化向上という発想が生まれてこないのです。共産主義、社会主義は人類にとって失敗の実験だったといえるでしょう。
<廃れるマルクス経済学>
・人間というのは欲望があります。その欲望を否定するマルクスの考え方が間違っていたのでしょう。共産主義、社会主義が消滅に向かうという人類の大きな流れがロシア、中国にも押し寄せているのです。私が30年前に書いた通りのことが起きるのです。事実そうなります。若干の時間のずれがあるのは仕方のないことです。しかし、方向性ははっきりしています。統制国家というのは、成り立っていかないのです。
<窮地に陥る韓国>
<韓国企業が厳しい状況に>
<北朝鮮が潰れたら韓国も危機的な状態に>
・ギリシャはデフォルトに陥りましたが、そうなる国はほかにもあります。ロシアがそうです。韓国も危ないのです。この2ヵ国がギリシャに続いてデフォルト状態に陥る危険性が非常に高いと私はみています。韓国は表向き反日なのですが、それを修正しないと韓国は救えません。
繰り返しになりますが、北朝鮮が潰れたらどうするのでしょうか。北朝鮮が潰れたら韓国経済は間違いなく崩壊します。
『エコノミスト 2016.2.2』
特集:丸わかり 激震!中国
◇失速する経済、資源暴落 ◇世界に広がる負の連鎖
『崩壊防ぐのに必死の習政権 経済成長は鈍化する (遠藤誉)』
<共産党支配の限界>
・習近平主席は共産党の一党支配を維持するのに懸命だ。さまざまな手を打とうとしているが、行く手には困難が待ち受ける。
・中国には、共産党が支配する社会主義国家として、あってはならない激しい貧富の格差と、党幹部が利権集団として暴利をむさぼり人民を苦しめている、という現実がある。党幹部の周りには、コネと賄賂による腐敗天国が出来上がっている。
・この処分には、死刑、無期懲役から数年間の懲役、財産没収など、さまざまな種類と程度がある。習近平政権になってから、合計50万人ほどが何らかの形で腐敗分子として処分されたことになる。
<農民工の不満>
・中国には、14年の時点で2億6700万人に上る農民工(田舎から都会に出稼ぎに来た元農民)がいる。この人たちの多くは戸籍も住民票も持っていないので、教育や医療福祉の恩恵にあずかることができず、年金など望むべくもない。
第1世代の農民工たちは、「世界の工場」の中国を支えるべく、厳しい労働条件に耐えて中国経済を押し上げてきた。だが、今や年老いて社会から切り捨てられようとしている。
第2世代の農民工(第1世代農民工同士が結婚して、都会で生んだ農民工)たちも含めて、中国全土で起きている大小さまざまな暴動の数は、毎年18万件に達しているという。
・これらが政府転覆につながらないように、習近平政権は14年3月から20年までの国家戦略として、「国家新型城鎮化計画」(城鎮化=都市化)を実行している。これは、農民工を田舎に戻して、田舎を都市化し、そこに雇用を創出する計画だ。彼らには新しい戸籍や住民票などを与え、健康保険の加入や年金の積み立てなどをさせる。福利厚生戦略は、農民工のためでもあるが、国家のためでもある。そして、どの国でも福利厚生に重点を置けば、経済成長はその期間、鈍化する。
・こうして、印鑑を押す党幹部の周りに腐敗の温床が出来上がっていく。しかもこの時、環境汚染を防ぐための設備投資などで「目こぼし」をしてくれる。互いに利益だけを重視して、環境汚染に関しては「きちんとやっていることにする」のである。
その結果、中国は空気を吸うこともできない、汚染物質で充満する国になってしまった。このままでは、中間層や富裕層までが政府転覆に向かいかねない。
・習近平は自分を「延安の人」と名付け、「第二の毛沢東」と位置付けている。
<AIIBで金融を制する>
・中国は、人民元の国際化とドルとの対等化を狙い、世界一の経済大国にのし上がることを目指している。
また、「一帯一路(陸と海のシルクロード経済圏)」構想により、中国は自国から西側、地球の半分を掌握しようと策を練ってきた。
・習近平はこうして、国内に不満を持つ人民の目を外に向け、自分の政権で一党支配体制が崩壊しないよう必死になっている。22年までの任期中にこれらの国家戦略を完遂し、自分が「ラストエンペラー」にならないことを目指しているのである。
『Will 2015年11月号』
総力大特集 中国の自壊が始まった!
『中国は今も昔も「パンツ製造所」 石平』
<経済失速の連鎖>
・私が本誌で「中国経済はいずれ崩壊する」と主張し始めたのは、いまからおよそ5、6年前のことである。そしていま、それは目の前の現実となりつつある。
今年8月と9月に公表された中国経済関連のさまざまな統計数字を一度に並べてみれば、この国の実態経済が一体どこまで沈没しているかがわかる。
たとえば中国自動車工業協会が8月11日に発表した数字によると、7月における全国の自動車生産台数は151.8万台で、前年同期比では、11.76%の減少となり、前月比では何と17.99%も減った。僅か1月で自動車の生産台数が約18%も激減したとは、自動車産業にとってまさに地滑り的な凋落であろう。
・そして今年4月から7月まで、中国の自動車生産台数と販売台数の両方はすでに連続4ヵ月間、減り続けていたから、消費の激減が生産の激減をもたらすという、典型的な経済失速の連鎖がすでに始まっている。
<経済の「支柱」が崩れる>
・このように、ビールの消費量からスマートフォンや自動車の販売台数まで、中国の消費市場は急速に縮まっている。そして、自動車販売台数の激減が直ちに生産台数の激減に繋がったのと同じように、消費の冷え込みは当然、製造業全体の不況をもたらしている。
・英調査会社マークイットが、8月21日に発表した今年8月の中国製造業購買担当者景気指数(PMI)速報値は47.1。PMIというのは好不況の分かれ目の数値で、50以下であれば不況となる。中国のPMIはこれで6カ月連続で50を割り、8月の47.1はリーマン・ショック後の2009年3月以来、約6年半ぶりの低水準、まさに大不況の到来を示す数値である。
・中国国家統計局が9月10日に発表した産業界の取引動向を示す8月の卸売物価指数も、前年同月比5.9%の下落となった。同指数の下落はすでに42カ月(3年6カ月)連続しており、8月の下落幅は7月の5.4%からさらに広がった。中国の産業全体は沈没している最中であることがよく分かる。
・産業が沈没すれば、それと一連托生の金融業も大変な苦境に立たされる。
・こうしたなかで、いままでは「中国経済の支柱」の一つとして高度成長を支えてきた不動産開発業も深刻な不況に陥っている。今年上半期、中国全国の「不動産開発用地」の供給面積が同期比で38.2%も激減したことは、現在の「不動産不況」の深刻さを如実に示している。
・また、詳しいことは後述するが、今年6月中旬からこの原稿を書いている9月まで、上海株が連続的な大暴落を続けていることは周知のとおりである。
・以上のように、いまの中国では消費・生産・金融、あるいは不動産や株市場、経済のありとあらゆる領域で大不況の冷たい風が吹き荒れ、中国経済を支えてきた「支柱」の一つひとつが傾いたり崩れかけたりするような無惨な光景が見られている。中国経済は現在ただいま、壮大なる崩壊へ向かっている。
<「李克強指数」の誕生>
・実はいまの中国で、政府が発表したこの7%の成長率を額面どおりに信じている者はほとんどいない。
<生産自体も落ち込んでいる>
・以上のように、いわゆる「李克強指数」から見ると、2015年上半期の成長率は、0%かあるいはマイナス成長に陥っている可能性すらある。
もう一つ、衝撃的な数字がある。中国税関総署が発表した2015年1~7月の貿易統計によれば、輸入が前年同期比の14.6%減だった。中国の場合、輸入は消費財よりも生産財のほうが多い。要するに、海外から部品などを調達してそれで生産活動を行っているわけである。
・つまり、輸入がそれほど減ったということは消費が落ち込んでいるだけではなく、生産自体も大幅に落ち込んでいることを意味している。
このように、電力消費量と鉄道貨物運送量と輸入の大幅減とをあわせてみれば、今年上半期の中国経済は0%成長、あるいはマイナス成長であったことは明々白々である。鳴り物入りの「中国高度成長」の神話は、これで完全に崩れているのである。
<「パンツ」で経済成長>
・たとえば日本の場合、高度成長の最初の段階では、輸出品はせいぜいおもちゃぐらいであった。しかしその後、あっという間に日本の自動車が世界中を席巻し、1970年代には日本車の輸出台数は世界一となった。こうしたなかで、日本は継続的な高度成長を成し遂げることができたのである。
・一方、中国はどうか。一応は輸出大国である。だからこそ、世界一の外貨準備高を持っている。しかし、この20~30年間で中国の輸出品が大きく変わったかというと、ほとんど変わっていないのである。
・1980年代、中国の主要輸出品は安物の靴下やパンツであったが、現在でも我々は中国製の靴下やパンツを履いている。数十年間で中国の輸出がパンツから自動車に変わったかといえば、全く変わっていない。外国では、誰も中国製の自動車などを買おうとはしない。要するに、中国は今も昔も世界一の「パンツ製造所」というわけである。
<経済成長における悪循環>
・しかし、労働者に安い賃金しか与えず、儲けは経営者に集中するという貧富の格差が拡大することで、長期的には国内消費が落ち込む。
結果的に、中国自身が安価な製品を作りながらも、国内の慢性的な内需不足に悩まされるようになった。
・それではどうやって経済成長させてきたかといえば、結局、輸出頼りとなるが、輸出を伸ばすためにはさらに賃金を安く抑える必要がある。それがまた国内の消費不足を招くという悪循環となる。
・もう一つ、中国が高度成長を支えてきたやり方とは、要するに過剰投資である。国民が消費しないなら政府が投資すればいいとばかり、公共投資によって道路や橋をつくって需要を創出してきた。それに伴い、セメントや鉄鋼など、いろいろな需要も増えてくる。
そこで、中国は全土で投資中毒になってしまった。中央政府も地方政府も、公共投資や土地開発をバンバン行った。その資金のためにお礼を刷り、さらに投資を増やして経済成長を加速させていった。
・そんな政策を長くやってきたことで、過剰生産が深刻化してしまった。人の住まないゴーストタウン「鬼城」が大量にできあがり、生産設備も全部が余るようになった。
健全な経済なら、民間の給料が上がって国内消費が拡大することで、そうした過剰生産も吸収されていくわけだが、前述のように国内消費の割合はむしろ落ち込む一方である。また、中国では高付加価値を生む産業も育成されていないから、相変わらずパンツしか作れない。だから給料も低水準のままになる。その点も、国内消費が伸びない一因である。
しかも、大量にお札を刷ったために流動性過剰が発生して、インフレになってしまった。
<過剰投資が持続できない>
・2010年までは中国の対外輸出の毎年の伸び率は驚異的な25%前後であったが、2015年に入って1~7月で0.8%減と、ついにマイナス成長へと転落した。
・しかしはっきりいって、中国という人口13億人の国が輸出で経済を支えるというのは、最初から無理である。
・同時に、いまの中国経済は「不動産バブル崩壊」と「シャドーバンキングの破綻」、そして「地方財政の破綻」などのいくつかの「時限爆弾」を抱えているが、0%成長かマイナス成長の状況下でそれらの「爆弾」が一つでも爆発すれば、あるいは同時に爆発すれば、中国経済は確実に死期を迎える。
<株価バブルは花火>
・最後に、上海株暴落の経緯とその理由について触れておこう。
上海総合株価指数が5166ポイントという7年ぶりの高値をつけたのは今年6月12日のことだが、その直後から暴落が始まり、7月3日までの3営業日で約30%近い暴落が起こった。
・6月末から7月初旬の暴落時に異常だったのは、過半数の1千4百銘柄が売買停止となったことである。要するに、1千4百社もの上場企業が、自社株の暴落を防ぐために自ら売買停止にしたわけで、世界の経済史上では、前代未聞の話である。
その時点で、上海の株式市場は半ば死んだのも同然である。
<延命策が命取りに>
・しかも政府が株式投資を煽ったせいで、この半年で株式市場に新規参入者がどっと増えた。2014年末に1億8千万だった個人の口座数は、2015年6月には2億2千5百万と実に半年で4千5百万件、割合にして20%も増加している。
・こういった新規参入者が信用取引に手を染めると、どうせ借金して買ったものだから、儲かったところで一斉に売る動きに出るようになる。
そして、ひとたび株価が下がるとそれを見てさらに売りが加速するという、パニック売りが起こりやすくなる。
・しかし、外国投資家は中国経済の実態をよくわかっているから、利益を確保したところで売る。
そうなると、中国国内の信用取引をしている投資家も慌てて一斉に持ち株を処分し、恐慌売りが始まる。そうした仕組みによって、大暴落が起こりやすくなっていたわけである。
・このように見てくると、習近平政権は株バブルを煽って中国経済の延命を図ったが、結果的にそれが中国経済の命を縮めることになった。
そして、実体経済がすでに沈没しているなかで、「株バブル」という最後の延命策が失敗に終われば、今後の中国経済を待っているのは崩壊という結末しかない。われわれはいま、今世紀最大の経済崩壊劇を目撃している最中である。