死神
汝よ、そなたは何故に美しい瞳で見る
澄んだ瞳 薄紅の唇 栗色の柔らかな髪
汝よ、そなたは何故に私の邪魔をする
ただ美しく 美しく いればいいものを
そう言って彼は 女性の腕を掴み
持っていた大鎌を彼女の首にかけた
小さな芝居小屋で 僕は彼を知った
死神が命を奪いに行った家で
娘に恋をしてしまうという話だ
汝よ、その罪深い男を庇うな
その唇で 慈悲を 私に求めるな
汝よ、そなたの父親は罪深い
彼のセリフが 僕の心を 掴んでしまった
艶めいた黒髪 青白い肌
僕は彼に殺されても良い
いや彼に殺されたいのだ
別に死にたい訳では無い
只、死ぬ時は彼の手で死にたいと
呆れた、一目で恋に陥るなんて
後輩に頼まれて買ったチケット
まさか、そこで恋に堕ちるなんて
舞台後、声を掛けたのは 彼の方だった
あれから僕の中に 彼が居る
死神を演じた彼がいる
普段では 虫も殺さぬ様な彼が
舞台では どんな狂人にもなれる
ああ、芝居とは恐ろしい
彼は今、僕の家に居候している
お金が無い訳じゃ無い
彼が、一緒に居たいだけなんだと
二人で暮らす 楽しい日々を
僕は楽しんでいる 彼もまた
あの日思った彼への想い
叶えてはいけない想い
でも僕は何故か願ってしまう
この人の手で殺されたいと
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