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第1話(3)

 海防艦第69号(3)

 海面には多くの浮遊物が浮いており、その間にいくつもの人の頭が見える。
今まで乗っていた艦は消えてしまった。
味方の駆潜艇の姿は見えない。

 2人の水兵が掴まっている板きれに向かって泳ぐ。
「頼む、掴まらせてくれ。」
1人はひげ面の三曹で、もう1人は少年の二水だ。

 「やられましたね、候補生殿。」
はっと気がつくと、頭からの出血で白いシャツが真っ赤になっている。
手ぬぐいで止血してもらった。

 潮の流れがあり、浮遊物がばらけだした。
南の海とはいえ、30分もすると身体が冷えてくる。
“海の藻屑”という歌の一節が浮かんできた。

 何人かの漂流者が岸に向かって泳ぎだした。
濃い緑の陸地はすぐ側に見えるが、3キロはあるだろう。
「このまま沖に流されたら、助からない。」

 「よし、行こう!」
板きれに掴まりながら、片手、両足を使い、岸を目指す。
遅々として進まない。
のどが渇き、身体が重くなる。

 波がきた時、したたか海水を飲み込んでしまった。
「少しは進んでいるぞ、ソーレ、ソーレ」

 4時間もかかったろうか、日が傾きだした頃、3人は狭い砂浜にたどり着いた。
精も根も尽き果て、しばらく浜辺でのびていた。

 「暗くならないうちに、味方を捜しましょう。」
三曹の言葉で我に返り、とぼとぼと歩き出した。
30分ほど歩いたところで、数人の漂流者に出会った。

 陸軍の兵隊も居る。
“助かった!”

 顔がくしゃくしゃになり、涙がこぼれ落ちた。
兵隊がナタで椰子の実を割って、配ってくれる。
甘い果液が空っぽの胃に染み渡り、天国に上ったような気分になった。

 沈没した海防艦の乗務員125名中、味方の大発に救助されたもの10名、陸にたどり着いたのは21名だった。

     
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