山の奥
2012年05月24日 | 詩
山の奥
僕の胸の中にはもう一人の僕がゐます
彼の胸の中にも なほ 別の僕がゐます
山の奥には青い岩石の山がそびえ立ち
はるか彼方に滝が流れ 白いしぶきをあげてゐます
緑の葉の上を日がすべり落ちて
すべての木はがつちりと根をはつてゐます
風が吹くと木の葉がゆれてゐます
僕が滝に近づかうと思ひはじめた時
僕の中のもう一人の僕も同じ思ひだつたのです
僕の胸の中にゐる別の僕もさう思つたのか
もう ずつと先の道を行くのが見えます
しかも一人ではありません
無数の僕が いろいろな方面への道を行くのが見えます
誰が誰だかわからない たくさんの僕が現はれてゐるのです
強い風が吹き あつと思つた瞬間
土けむりがあがり すべての木が傾き
山の奥にそびえ立つてゐたあの青い岩石の山が裂けて
前に崩れはじめました
滝は白い細い乱れた糸のようになつて流れはじめました
僕が自分をたぐり寄せようとしても
無数の彼等は ある者は血まみれになり
ある者は 岩と岩とにはさまれて 手足をあげたままで ゐます
小さい口を天に向けてあいたままの者もゐます
困つたことになつたと 僕はもう一人の僕と顔を見合はせます
山の奥が ふたたび静けさをとりもどすのはいつのことだらう
無惨な自分について それまで
僕は考へつづけなければならないらしい