人間の質が落ちている。悪意を持った客も増えている。出入り禁止の対象だ。

相変わらず、右腕は動かし辛い。

昨夜、途中で店を閉めた影響があるせいか、客足が伸びない。

雨も降って来たし、状況は決して良くはないようだ。

その反面、こんな状態では多くの客をさばききれない。

何といっても、包丁も満足に持てないのだから。

そしてそんな時こそ、嫌なことが起こってしまう。

ある若い女性客が、半ベソで店に入って来た。

お酒と料理を注文してくれたが、元気がない。

「元気ないぞ、どうかしたの？」

彼女はまた泣きそうな表情を見せた。

「Ｈさんに襲われそうになったの、怖かった。必死で逃げてきた」

客同士のトラブルのようだが、どうしてこの二人がつながっているのか
僕には理解できなかった。

彼女の話によると、店からの帰りに地下鉄が一緒で
会話を交わし、アドレスを教えたそうだ。

それからメール交換が始まり、
女性がたくさん参加する食事会に誘われ、出かけて行った。

そこで一人の女性と仲良くなり、帰りは３人で帰って行った。

今度はその女性と３人でＨさんのマンションで食事を作って食べようということになり、
３人が集まった。

仲良くなった女性が電話をかけに外に出た時、Ｈさんに押し倒され、襲われかかったということらしい。

必死で抵抗して、逃げ出したということなのだが、
その女性は戻ってこなかったということらしい。

最初から、Ｈさんが彼女に頼んで、途中で帰るように仕向けていたのだろう。

僕にとってはつまらない話だ。

最初から下心で店にやってくる男性が増えてきたということも嘆かわしいが、
どこの誰だかわからない男のマンションにノコノコついて行く女も女だ。

人間の質が落ちてきた。

こういう客は、出入り禁止にしなくてはならない。

特に女性の多い僕の店ではなおさらだ。

僕は彼女に「お前も軽率すぎる。自分が大事なら、慎重に行動しろ」

それだけ言って無視した。

不満そうではあったが、僕にそれらの行動を監視しろと言われてもどうにもならない。

楽しい店、美味しい店、憩いのある店、わがままの言える店。

そんな店にしていきたいと思う。