カウンターの中から客をのぞくといろんなことが見えてくる

日本人が日本食を知らないでいる。利口に見せない賢い人、利口に見せたい馬鹿な人。日本人が日本人らしく生きるための提言です。

誕生日を心から祝ってくれる人もいる。

2012-11-10 | 人間観察
アキちゃんが来た。

「何もできないけど、チーズケーキ作って来たの」

アキちゃんの手作りケーキは美味しい。

見た目は素人の作品だけど、味はプロ並みだ。

いや、プロ以上だ。

しっとりと舌にまとわりつくチーズの感触に、杏の香り。

おいしい。

ほかの客にも分けたが、みんなその美味しさに驚いてしまう。

ミユキちゃんからメールが入る。

「今日も仕事。誰かいる?」

「アキちゃん」

「わーっ、会いたい。アキちゃんは14日に来るのかどうか聞いてもらえる?」

「もちろん」

「よかった、じゃぁ会えるね」

こんなメールもうれしい。

昨夜は盛り上がったように思えるが、僕は冷めていた。

今夜は何となくうれしい。

僕の誕生日だからというわけではなく、いつものように、僕に配慮してくれる。

アキちゃんは、僕が動けないときに、ガジュマルの木や、起き上がり小坊師をプレゼントしてくれた人だ。

いつも気を使ってくれる。

素敵な人だ。

そしてアキちゃんが僕たち夫婦を誘ってくれた。

「もし、邪魔じゃなかったら、11日の誕生日に、イタリアンをごちそうさせてください」

うれしい。

本当にうれしい。

11日は、僕の誕生日でもあるが、結婚記念日でもある。

娘も嫁ぎ、女房もさみしいし、夫婦の会話もはずまない。

そんなときのアキちゃんの言葉と気持ちは本当にうれしい。

じつは、ミユキちゃんにも似たような誘いを受けていた。

ただ、11日ではないので、時間が合わなかった。

だから、12月に延期してもらった。

僕はこの二人と居る時が一番幸せだと感じる。

安心感と安堵感。

この二人にしかない優しさだ。

心から祝ってくれる人がいる。

昨夜の人たちが祝ってくれなかったということではないが、
この二人には心を感じる。

僕はアキちゃんによく似た人を知っていた。

もう20年以上も昔のことだ。

まだ、教壇に立っていたころだ。

小柄の素直な女の子だった。

僕が35歳で、彼女は22歳だった。

アキちゃんを見ると彼女を思い出す。

そして、アキちゃんには、彼女のような人生を送ってほしくないと心から思う時がある。

ボランティアのサークルで知り合った彼女は、純粋だった。

何をするにも一生懸命で、本当にアキちゃんに似ている。

そんな彼女を抱いた。

好きだと言われて、そのままホテルに行った。

躊躇の表情は演出だと思っていた。

拒否するでもないのに、体に力が入り、ぎこちない動きが気になった。

そして、抱いて初めてバージンだと知った。

僕も若かった。

教職の身で、狂ったように彼女を抱いた。

毎日毎日、彼女を抱いた。

そして2年ほどで、自然に離れて行った。

しかし、僕が40歳、発病の直後だったと思う。

偶然、病院で会った。

結婚していた。

そして再び、逢瀬が復活してしまった。

僕が入院しても、見舞いを装って、僕の息子を口で果てさせてくれた。

彼女は、離婚した。

ご主人とのセックスでは満足できないからと言った。

田舎に帰った彼女は今頃どうしているのだろう。

僕が彼女の人生を狂わせた。

アキちゃんには、そんな男とは付き合ってほしくない。

アキちゃんを見ると、僕はいつも、彼女のことを思い出すし、後悔してしまう。

情けない男だ。

最後までいたアキちゃんを見送って、幸せになってほしいと願う。

今日は、一人で寝よう。

僕の心は、それでも幸せを感じていた。

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