亀の啓示

18禁漫画イラスト小説多数、大人のラブコメです。

とにかくイチャイチャハロウィン小説版(98)

2018-04-23 00:26:01 | とにかくイチャイチャハロウィン小説版
樋口の父が警察から帰ってきたのは
翌日のことだった。

結局不起訴で前科はつかなかった。
美月が外した肩関節が全治一週間で
罰は十分に受けたようにも見えた。

「ただいま。」

父は玄関の扉を開けるのを、しばらく躊躇った。
大変なことをしてしまった。
そんな自覚はあったのだが、かといって素直に
認めて謝る気にもなれなかった。
息子は自分を迎えてくれるのだろうか。
反抗期の激しくなる年頃だ、反発して
家を出ていくなどと言い出したら
どうしたらいいのだろう。

「おかえり。父さん。」

光紀はリビングでテレビを見ている。
いや、テレビゲームだった。
手元でリモコンを色々な角度に
捏ね回すようにして操っていた。

父はあの話をするのが怖かった。
話さないままで済むはずもないが
なるべく後回しにしたかった。

ゲームに夢中になっている息子の邪魔を
するまでもないことだ。
父はリビングから寝室に入ろうと
引き戸を開けて暗闇に滑り込んだ。
押し入れの中で布団に顔を埋めた。

「こんなささやかな暮らしを。
壊されたら、たまったものじゃない。」

「二度と私たちに関わらないでくれ。」

「あれで懲りただろう。」

だが、気持ちは晴れるはずもない。

息子に対して、堂々と出来ない自分がいる。

どうしてこんなことになってしまったんだろう。







あの日、息子の学校を訪ねた。

学園長と会うため、さんざん学園側を持ち上げ
息子がすっかり変わり、見違えるようにしっかり
したのは学校のご指導あってこそと
ひれ伏すように有り難がってみせた。

学園長は大層上機嫌になり、あのヴァンパイア夫妻の
住所を快く教えてくれた。
すぐに学園を出て、タクシーを拾う。
運転手にここに急いでくれ、と先ほど手に入れた
住所のメモを無造作に渡したのだ。

バッグの中では、ペットボトルに入れた
ガソリンがチャプチャプと揺れて音をたてた。

誰もいないだろう。
いない間に火を放ち、思い知らせてやる。

やつらも不幸になればいい。
その一心だった。
不幸になれば他人を思いやる余裕などなくなる。
人の息子をたぶらかそうとしやがって。

呼び鈴を何度か鳴らして、誰もいないのを確かめた。

家にガソリンを撒く。
ざまあみろ。
安穏な生活をのうのうと送りやがって。
目にもの見せてやる。

それにしても、あの女教師は乱暴な女だった。
利き手の右腕を攻撃してきて、肩を脱臼させられた。
腹を何回も蹴られたようだが、苦しくて
記憶が曖昧になっている。

火を着けられなかったのはつくづく残念だ。
大きな炎があの家を飲み込んで空まで焦がす様が
見られたなら、自分の気持ちは晴れ晴れと
しただろうに。

布団を敷くと、横になった。
右肩が痛む。
舌打ちをしながら、何度も寝返りを打った。



朝が来た。
小鳥は呑気にさえずり、朝露が眩しく光る。
なんて爽やかなんだ。

逆にどんどん気持ちが重くなる。

「父さん。会社は?俺もう学校行くよ。」

昨日は学校を休んだようだが、息子はいつもと
同じ生活に戻ろうと努力するようにして
平静を装う。学校に行けば責められたり
虐められたりしないのだろうか。

「お前はまだ学校に行かない方がいい。」

光紀は制服に着替えて鞄を手にした。

「逃げて済む問題じゃないから。」

台所にはサラダボウルにレタスとトマト、生ハムの
マリネサラダが半分残っていた。

「食わないなら冷蔵庫入れといて。」

朝、自分で起きて朝食を作って食べていたのだ。
あの幼かった光紀が。
成長したものだ。

光紀が学校へ出掛けていくと
少し怖かったが会社へ電話をした。

とにかく出社しろと言われ、もたもたと
スーツに着替え始めた。

クビになるのだろうか。
そんなことになれば、光紀を手離す羽目になる。
そう思ったら脳細胞がとたんに活性化し始めた。









「長内先生。親父がとんでもないことしでかして。
すみませんでした!」

樋口は教室に入る前に職員室に行き、美月に謝った。

その時、美月は教師を辞める決心を固めながらも
揺らいでいる状態で、自信を取り戻す術も
思い付かない中途半端な気持ちだった。

「誰か怪我とかしてないの?」

まだ中学生になったばかりの少年が
父親のやったことを受け止めて
ちゃんと謝罪をしてきているのだ。
この子の方が自分より余程大人だなと思う。

「お父さんの怪我。先生がやったんだ。」

「あ。」

細かい事情は知らないが、そういえば警察の人に
被害者の過剰防衛という説明をされた。
まさか美月がやったとは。
樋口は絶句した。
右肩が脱臼したとか、言ってたな。

「あれ、先生がやったの?どうやって?!」

「とにかく、火を着けるのは止めなきゃって
右手を取って。逆に捻って動けなくするために
関節を外した。」

美月は錯乱したとかではなく、すべて考えて
攻撃していたのだ。自分で自分が怖かった。

この子は自分が教わる教師から、父親に暴力を
振るわれたと分かってどんな気持ちなのだろう。
もう、信用できないと思うだろう。
生徒をそんな気持ちにさせた自分は、やはり教師を
続ける資格はないと思う。

「ありがとう。もし、火を着けてたら放火犯だ。
親父はしばらく帰って来られなかった。」

美月はキョトンとした。
ありがとう?
そんな風に言われると思わなかったから
もしかして聞き間違いかとも思った。
他の誰かに言っているのだろうかと
左右を見回した。

「先生。大丈夫?」

「ほぁ?あ、ああ。」

「とにかく、そのうち親父にも謝罪させるから。
今は多分無理だけど、しばらくしたら絶対に!」

樋口は手を振って職員室を出ていった。

美月は机に突っ伏して泣き出し、何人かの職員が
肩や背をさすって慰めた。














                   










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