東京駅周辺で進むビルの超高層化に宮内庁が気をもんでいる。
今回、宮内庁は東京駅から約600メートル離れた大手町合同庁舎跡地
に建設が計画されている地上37階建てのビジネスビル(高さ約18
0メートル)について配慮を要請した。このビルは、三菱地所などが出
資して設立した「大手町開発」が建設するもので、来年4月の着工
予定となっている(読売新聞、2006.8.7夕)。
宮内庁がパソコンでシミュレーションしたところによると、御所ま
での距離は約1400メートルあるものの、窓などが見える可能性があ
るという。このため、合同庁舎跡地のビルについて三菱地所と協議
の場をもち、「お住まいの御所が見える場所では、不特定多数の人
が集まるレストランなどの設置は避けてもらえれば」と求めた。
いわれてみると、宮内庁の心配ももっともである。ビルの上層から
天皇・皇后様のお住まいの窓が見えるということは、ひょっとする
と天皇・皇后様が建物の外へ出ると、タイミング次第では見えると
いうこと。上から見られていては、ちょっと住まいの周りを散歩す
るにも落ち着かないのでは。
さて、こういう問題が起こる背景ですが、現在、皇居外郭一帯は「美
観地区」に指定されている(昭和8年(1933)に指定)。この指定
が効力を発揮し、丸の内などは長らく建物の高さとして最大31メー
トル(100尺)のルールが守られてきた。ところが、戦後「美観地
区」から適用除外となり、さらに「美観地区」には運用条例が別途
必要になった。
現在、皇居周辺では地権者らでつくる「大手町・丸の内・有楽町地
区まちづくり懇談会」がガイドラインを作成し、その中で高さ制限
を設けている。が、これが、次のように相当いい加減なものである。
「現況では、高さの制限は航空法以外は法的に定められていないが、
・・・既に、当地区において定着しつつある概ね100メートル程度の
高さも尊重しながら、・・・概ね150メートル程度の高さまでを可能
とする。
・・・大手町、丸の内、八重洲、有楽町の各拠点においては、その
拠点性や街並みの多様性の表象として、当地区全体のスカイライン
との調和に配慮しながら、概ね200メートル程度の高さまでを可能と
する」
100~200メートルと最高制限の幅が大きく、できるだけ高くした
いという経済界、産業界の本音がすけてみえるようなルールである。
すでに、02年にオープンした丸ビル(高さ約180メートル)の建設
時も、最上階レストランから皇居・宮殿が見えることが着工前後に
わかった。そこで、宮内庁は皇居内の石垣の土手に高さ20メートル近
い木を2本植えて見えないようにした。
戦前と違って宮内庁の力が弱いから、どうやら今回も同じように皇
居側で自衛することになるのでは。
ただ、この問題は今後も十分起こりえることである。個人的には皇
居周辺を「美観地区」に再指定し、運用条例で明確な高さ規制を盛
り込んだらどうか、と思う。