青空文庫

徒然なるまま自分の面白いと思う本の書評や感想を書き綴っていきたいです。最新の本だけではなく、古書にも興味を持っています。

太陽系の安定性の証明

2012-11-09 09:42:25 | 日々思うこと

太陽系の安定性の証明

以前から紹介しているが、山本義隆の著書の中でも「重力と力学的世界」はとりわけ面白い。17・18世紀の世界観がよく分かるし、具体的に当時行われてていた議論が現代風に記述されているため、当時の人たちが辿った足取りを追体験することができる。もちろん力学の勉強にもなるという不思議な本だ。で、個人的には「重力と力学的世界」の中でも第13章が最も好きだ。はじめの問題提起はこうだ

・・・つまりニュートンにとっては「この太陽・惑星・彗星の壮麗きわまりない体系」は「神の深慮と支配」によるものであり、それがいかにして形成されたのか、あるいはそれが安定であるかの否かは、力学が証明しうる範囲を越えた問題であった。この点である。・・・

つまり太陽系の安定の証明はニュートンにも乗り越えることができず、その点において形而上的・神学的解釈が入り込む余地があった。そこを乗り越えて神の所在を不要としたのがラプラスであり、それはまさに数学の勝利だった。ラプラスの足取りをたどると惑星軌道の長半径の時間微分が摂動の第一近似の範囲内で長時間平均すると0となる。つまり惑星軌道は収縮も拡張もいずれも片一方の方向には永遠に動かないため、安定性が保たれるというわけだ。ちなみに第二近似までの摂動計算はポアソンにより行われており、第二近似まで考慮しても惑星軌道の長半径の時間微分は長時間平均をとると0となることが証明されているようだ。

更にこの後、木星―土星の永年運動についてラプラスが証明したことが記載されている。この本を読むまで知らなかったのだが、当時は木星の軌道収縮と土星の軌道拡大が問題となっていたようだ。ラプラスの定理から太陽系の安定性が証明されたものの、当時木星と土星の軌道は一方的に収縮・拡大をしておりラプラスの定理に従わないように思われていた。この問題も結局木星と土星の質量が太陽系のなかでもとりわけ大きいために軌道の変動が長期変動になることが示される。このため100年、200年程度の観測では一方的に軌道が収縮・拡大するように観測される。ちなみにこの長期変動の周期は900年と計算される。ラプラスは1784年に木星―土星問題を解決したようだ。この章の最後は下記の文章で締めくくられている

・・・ニュートンにとって太陽系の秩序は「神の万能」の証拠であったが、ラプラスとその後の人々にとってそれは「力学と重力理論の万能」を証拠づけるものであった。もはや神を必要としなくなったのだ。

一般の物理書にはこのような歴史的議論は全く記述されていないし、ラプラスはナポレオンの前で「神の存在は必要としません」と言ったなどの逸話だけが載っているが、この手の話も結局ラプラスの足取りを追いかけないと本来の意味をとらえることはできない。具体的な議論の過程が載っており、追いかけることができるという点で画期的な本だ。

「あとがき」で山本義隆は次のように書いている。

要するに完成された体系としての力学理論ではなく、歴史形象としての、時代の世界観としての、古典力学を書きたかったということです。

歴史形象としての古典力学を学ぶことで、歴史観の変遷やパラダイムの転換を学ぶことができるのであり、将来研究者になった場合に自分の研究の枠組みや限界を見つめながら、パラダイムを打ち破る姿勢が養われるのだ。その点において学問の歴史的発展を求めることは非常に重要なことだと思います。

 

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