青空文庫

徒然なるまま自分の面白いと思う本の書評や感想を書き綴っていきたいです。最新の本だけではなく、古書にも興味を持っています。

梅原猛「縄文の神秘」

2013-08-31 11:48:29 | 日々思うこと

梅原猛「縄文の神秘」

上野の国立博物館常設展のトップバッターとして「火焔土器」が展示されている。数年前に初めて見たときのこいつとの出会いは衝撃的だった。というのも私が子供のころは縄文式というのは「土器の表面に縄を押し付けて転がしたような跡があるから縄文土器」という面白くとも何ともない説明しか載っていなかったからだ。どちらかというと、黒曜石を加工して作った矢じりとか斧がキラキラとしていてまぶしかった。残念なことに当時は本物を見るチャンスもそもそも黒曜石自体見る機会もなく、教科書の写真をぼけっと眺めていたような気がする。黒曜石の矢じりの先端や稜線部の透き通った感じがなんとも言えない。あれだけで芸術品だ。できればどこかの美術館などで展示してほしいが、なかなか見当たらない。

立花隆が『「旧石器発掘ねつ造」事件を追う』の中で、旧石器時代の加工技術を学ぶ話を書いているが、肉などは包丁よりもはるかに切れ味が良いそうだ。以下感想を述べている部分を抜粋する。

・・・野菜は切れるには切れるが、肉厚なので包丁のようにきれいにはきれない。しかし、驚いたのは、トリの皮つきモモ肉である。スッと切れる。皮と肉がズレたりせず、包丁よりははるかによく切れるのである。気味が悪いくらいだ。包丁だと刃に残ってしまう脂肪分や肉の残が刃にまとわりついて動きをおさえるという作用がないかららしい。・・・

今の子供たちの教科書はわからないが、私たちが子供のころに学んだ(20年ほど前)縄文のイメージは実は全く違うのでは?と感じることが多々ある。今回紹介する梅原猛「縄文の神秘」はさまざまな形の縄文土器や土偶を紹介しながら、当時の人々がどのような世界観を持っていたのかを解き明かそうとする。

土偶のイメージは「ドラえもんのび太と日本誕生」のギガゾンビの手下の敵役イメージしかないが、そもそもは女性をかたどったものらしい。ドラえもんで出てくるのは典型的な「遮光器土偶」である。それ以外にもピカソを連想させるような特異な形状をした土偶などもあるが、やはり共通しているのは女性としての特徴がみられることのようだ。

                             

各地で発見されているこの土偶について著者の梅原は5つの謎があると指摘する。

①土偶は女性である

②土偶は子供を孕んだ像である

③土偶は腹に線がある

④土偶には埋葬されたものがある

⑤土偶はこわされている

この謎に対してなかなか大胆な仮説を提唱する。それは妊娠した女性が亡くなったとき、腹を切って胎児をとり出し、その女性を胎児とともに土偶をつけて葬ったというのである。その根拠としているのが、アイヌの社会の風習として伝わる妊婦埋葬の風習である。昔のアイヌ社会では子供を孕んだ女性が亡くなった場合、いったんその女性を墓へ埋めたのちにシャーマンの老婆が墓の中へ入り、その女性の腹を裂いて胎児を取り出したのち、その母親にだかせたそうだ。なぜそのようなことをしたのか?梅原はこう解説する

・・・すでに腹の中の胎児には祖先の霊が宿っているはずである。死んだ母親はふつうの埋葬によって無事あの世へ送り届けることはできる。しかし、腹の中にある霊はどうするか。母親の霊と同じく、腹の中にある子供の霊も無事あの世へ送り届けねばならない。それにはどうしたらいいか。それにはやはり腹の中にある子供の霊を母体からとり出さなければならない。そしてあらためてその子を埋葬し、その霊をあの世へ送り届けねばならない。・・・胎児の霊はただの胎児の霊ではない。それは祖先の霊が再生した姿なのである。祖先の霊を母親の胎内に閉じこめてむなしくさせたら、それはたいへん恐ろしいことになる。おそらくそれは多くのたたりを生ずるにちがいない。とすればどうすればよいか。それには母親の腹を裂き、その胎児をとり出し、それを葬って、その霊をあの世へ送る必要がある。・・・

ずいぶん大胆だなと思う反面、もしそうだとするのであれば面白いとも思う。もしこれが正解でなかったとしても、縄文に生きた人々の世界観というのはとてつもなく豊かであったと感じさせる。土偶に限らず、土器もこんなにユニークなものがあったのか!と感じさせてくれる写真も多いので、一度気軽に手に取ってほしい本である。

 

 

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