バニャーニャ物語

 日々虫目で歩く鈴木海花がときどき遊びに行く、風変わりな生きものの国バニャーニャのものがたり。

バニャーニャ物語 その11 フェイの錬金術

2011-12-14 20:19:42 | ものがたり



作・鈴木海花
挿絵・中山泰
 


国境の町のむこう、
<ナメナメクジの森>を越えると
そこには、
ちょっと風変わりな生きものたちの暮らす国がある


*はじめてお読みの方は、「その7」にあるバニャーニャ・ミニガイドを
 ご覧ください。
 



  ①


 3月になりました。
ジロはカレンダーをめくりながら、
「うーん、なんか春だー、って感じられるような
みんながウキウキするようなメニューを考えたいなあ」
とつぶやきました。

 春、といってもまだ風は冷たく、日影にはところどころ溶けかかった雪が残っています。
でも、日差しははっきり冬とは違ってきましたし、
土の中で何かが、外に出ようとしているのが、感じられます。
そして何よりも、自分のなかで気持ちが弾んでくるのを、
なんとかスープにこめたいなあ、とジロは思うのでした。

 ところで、この冬、バニャーニャでいちばん春を待ち焦がれていたのは
フェイだったかもしれません。
冬の間、フェイはずっと、
あめふり図書館で見つけた『錬金術大全 全7巻』という本に夢中でよみふけっていました。
それは、不可思議な図や、怪しげな記号や呪文などが、ぎっしりと書きこまれた本でした。
マジックグラス、震える石、夜の貴婦人、フウセン魚、といった
きいたこともない不思議な生物、鉱物、植物などの名前もでていて、
いたく心惹く分厚い本でした。



 フェイは世界中のいろいろな場所の砂を集めて
砂薬をつくったりする砂屋をやっているので
いろいろな材料を混ぜて、
薬をつくるのはお手のものです。
でも、このところ、砂だけではちょっと物足りないなあ、
という気持ちになっていたのです。

 そんなとき、出会ったのがこの本でした。
自然界のいろいろな素材を集めて、それらを
組み合わせて調合すると・・・・・思いがけないものが生み出せる―
という錬金術は、もともと「集めて」「調合する」ということが
しょうに合っているフェイを夢中にさせました。

 まずは本に出ている初歩的な調合から試してみたくてたまらないのですが、
地面のほとんどが雪に覆われていた冬の間は、なかなか外に出て材料を集めるというわけにはいきません。
ああそれに、まず錬金術にとりくむのに、絶対必要な錬金釜がありません。

 フェイはモーデカイに頼んで
国境の街でさがしてもらいましたが、
金物屋でも骨董屋でも売り切れで、
次はいつ入るかわからない、といわれてしまいました。

 「うーん、釜がほしいよう~」
フェイがうめくように毎日いうのをきいて、
ジロが
「これでためしてみる?」と
店でいちばん大きな釜をかしてくれたのですが、
どうも本に出ているような錬金術の釜とうい雰囲気ではありません。

 「とりあえず、外を歩き回ってみようかな」
破裂すんぜんの風船のように、
心の中が期待でふくれあがったフェイは、
葡萄のツルで編んだカゴをさげて出かけました。

 森のほうへいくと、
日当たりのいい地面に、
あ、気の早いツクシが一本だけ顔を出しています。
「うーん、ツクシが錬金術に役に立つかどうかわからないけど
とりあえず採っておこう。
錬金術に使えなくてもツクシなら油いためにするとおいしいから
無駄にはならないよな」
 
 「万年ゴケ」とか「ふるえる石」とか「泣き叫ぶ貝殻」とか・・・・
もっと錬金術にふさわしい素材がないかなあ、と
地面にはいつくばるようにしてさがしているフェイの頭の上で
「まいどぉっ!」と声がしました。

 顔をあげると、あの、いつかフェイに「幸運のオニギリ石」を売った
行商人が立っていました。
行商人は、きょうも背中に大きな大きな荷物をしょっています。

 「だんな、きょうも掘りだしもんがたんとありますぜ。
見るだけは、タダ!」
そういって、手早く風呂敷や籠を開けて
地面にいろいろなものを並べ始めました。

 「あのさあ、錬金術の釜って、ない?」
フェイは今いちばん欲しいものがないか、聞いてみました。
「だんなぁ、だんなは運がいいですぜ。
由緒正しい掘りだしものの、錬金術の釜、あります」
行商人はもったいぶってそういうと、
背中にしょっていた大きなかごの底のほうから
不思議な記号模様と、装飾的すぎて読めない文字のようなものが彫りこまれた
黒ずんだ釜を、よいしょ、と取り出してフェイの前に置きました。

 それは、『錬金術大全』に出ていた古びた釜ととてもよく似た雰囲気をもっていたのですから、
フェイはのどから手が出そうになりました。
 「こ、こ、これだよ!ぼくが欲しかったのは」と叫びたい気持ちを抑えて
フェイは「これ、いくら?」ときいてみました。

 釜をみたフェイの目の色が変わったのを盗み見ながら、行商人はいいました。
「これは16世紀に、ツェコという国の王様が
錬金術師を集めて、錬金術を行わしたという歴史ある館から出たもんでしてね、
ちょっとやそっとでは、手に入らないものでござんす」
「この前のオニギリ石は、たしか腕に生えた紫色のキノコと交換してくれたよね」
フェイが興奮をおさえていいました。
もうどうしても、この釜が欲しくてたまりません。
  
 「ああ、あのキノコはけっこうなモノでやんした。
でもきょうは、だんなの腕にキノコはないようで。
うちはお金で商売はやっておりやせんから、
そうですねえ・・・・」
行商人はそういいながら、
フェイのことを頭から足の先までじろじろ眺めまわしました。

「だんな、そのなんだかうっとりするようないい匂いのするカゴの中身は
なんでやんしょう?」
「これ?ぼくのおべんとう。
ブーランジェリー・アザミの発酵バターをたっぷりぬった
特製のサンドイッチだよ」

 「ようがす!この前はいい商いさせてもらいましたしね、
きょうは大まけにまけて、その特製サンドイッチと、
このとっておきの錬金釜を交換いたしましょう!
(このクソ重くて、こきたない釜を早く売っちまいたいからな)」

 「ええーっ!?」
フェイはあまりの思いがけない行商人の言葉に、いっしゅんあっけにとられましたが、
お昼ごはんをがまんすれば、
ずっと欲しかった錬金釜が手に入るというのですから、
文句はありません。
行商人の気が変わらないうちに、と
フェイはいそいで籠からサンドイッチの包みを
行商人に渡しました。
行商人はサンドイッチを受け取ると、
「まいど!」といいながら、あっという間に荷物をまとめて
森のなかへ消えていきました。

 憧れの錬金釜をついに手に入れたフェイは、
うんしょ、うんしょ、と掛け声をかけながら、顔を真っ赤にして
重い釜を運んで家に向かいました。



 ② 
 そのころ―
ホテル ジャマイカインでは、
コルネが春いちばんのお客さんを迎える準備におおわらわでした。
毎年、雪が降り始めるころ、
コルネはホテルをお休みにします。
そして春いちばんの風が吹くころ、
その年最初のお客さんがやってきます。


 ホテル・ジャマイカインには7つの部屋があります。
どの部屋にも、小さなバルコニーがついていて、
1号室から5号室までは海が、
6号室と7号室からは、いちめんに広がるアーモンドの果樹園が見渡せます。



 窓という窓を開け放ち、
まだ冷たく感じられる澄み切った外気をいれて、
壁に掛けた絵が曲がっているのをなおして、
シーツをパシっと敷いて
羽根枕をぱんぱんたたいてふくらませ
最後にのりのきいた白いカバーをかけた羽根布団をふたつにたたんで
ようやくベッドメーキングが終わりました。
きょうはお天気がいいので、
部屋にあるタンスの引き出しやクローゼットの扉もあけて風を通しましょう。

 「ひえー、くたびれたー」
朝とったばかりの、紅コンブをおみやげ(コルネは紅コンブのサラダが大好物)に
お茶を飲みに寄ったシンカにコルネがいいました。
「これでもういつお客さんがきていもいいし、
午後はちょっと骨やすめするかな」

 「じゃ、貝殻島に行こうよ。
バニャーニャの海はまだ冷たいけど
貝殻島の周りの海は、あったかくて
海に浮かんでると温泉気分で骨休めにはもってこいだよ」
「ほんとか?
よおし、これから行ってみようじゃないか」

 というわけで、コルネとシンカは
ホテルの前の桟橋からボートで
貝殻島へ向かいました。

 なるほど、島に近づくにつれて、
バニャーニャの海岸ではまだ身を切られるような冷たさだった海水が
あたたかくなってきました。

 島に着いて、ボートを砂浜に引き上げると
ふたりは、のんびりと春の海に横たわって浮かび、
しばし空を見上げました。
「うーん、極楽だぁー」コルネはあたたかい海水に身をまかせながら
思いっきりのびをしました。
たまった疲れが海に溶けだしていくようないい心持です。

 体があたたまってきたので
シンカは海からでると、
浜辺を見渡しました。
その時、砂浜で何かが、ぴちぴちと跳ねているのに気がつきました。

 「なんだろう?」
そばに寄ってよく見ると、
それは、骨ばった体をして
突き出た長い鼻をもった
馬のような顔をした・・・
見たことのない生きものでした。

 「きっとこれは海のなかの生きものなんだろう。
波でここまで押し上げられて、水に帰れなくなって困っているに違いない」
シンカはそっと手に載せて、
コルネのところにいきました。

 「ねえ、コルネ、これなんだと思う?」
「ん?」
いい気持で居眠りしていたコルネはめんどうくさそうに首をまげて
シンカの手のなかの生き物を見るといいました。
「あ、これは海馬(かいば)ってもんだよ。
ずっと前に、南のほうへ航海したときに
見たことがあったっけ」

 「海馬?そういえば、ほんとに馬そっくりの顔をしてるなあ。
貝殻島のまわりはあたたかいから、
きっと南の島の生き物が住みつくようになったんだな」
シンカはこのはじめてみる生き物をもっと見ていたい気持ちでしたが、
ぐったりしているので、
そっと水のなかにいれてやりました。

 しかし海馬は、水のなかでも苦しそうに身をくねらせて
あえいでいます。
「どうしちゃったんだろう、怪我してるのかな」
シンカがいいました。
「怪我してるんだったら、このまま海に帰すのは心配だな」
シンカは、いそいでポポタキスのジュースをいれてきた
広口ビンを海で洗って、海水で満たすと
近くに浮かんでいたホンダワラやコンブなんかの海藻を浮かべ
そのなかに海馬をそっと入れました






 ③ 
 夕暮れ時、シンカとコルネは貝殻島からもどると
ジロのスープ屋に向かいました。
シンカはジロたちに、きょう見つけためずらしい生き物を見せたくてたまりません。

 店には早い夕食をとろうとやってきた
モーデカイやカイサがいました。
「わっ、なにそれ?」
カイサが、
シンカがささげるように持っているビンをみていいました。
 
「さっきね、貝殻島で見つけたんだぁ!」
シンカはちょっと得意そうにいい、
ビンをテーブルの上おきました。
みんなはさっそく寄ってきて、
ビンのなかのものを、興味津々で見つめました。


 
 「海馬っていうんだって、コルネが教えてくれたんだ。
南の方の生きものらしいよ」
「顔がまるで馬だね」
とカイサが目を丸くしていいました。
「骨ばってて、骸骨みたいだ」とモーデカイ。
「これ、おサカナなの?」ジロがコルネにききました。
「うん?たぶんそうなんじゃないかな。
世界の海には、魚とはとても見えないような変なやつがたくさんいるからな」
コルネがいいました。

 「でもこの海馬、なんだか苦しそうだよ」
ジロがいいました。
「そうなんだよ、水にいれてやっても、さっきから
こんな調子なんだ」とシンカが
海藻にしっぽをくるりと巻きつけて
身をよじっている海馬を見ていいました。

 「きゃー、みてみて!
なんかふくらんだおなかから、ちっちゃいものが
噴き出してきたよ!」カイサがいいました。
「もしかして、これいま子どもを産んでるんじゃないの?」
ジロがいいました。
海馬が体をくねらせるたびに、おなかの袋のような部分から
小さい小さい、でもちゃんと親と同じかたちの
海馬の赤んぼが、次々と出てきました。
「わーい、すごいぞすごいぞ」シンカは目を輝かせています。
「かっわいい~」
「小さいのにもうちゃんと海藻に尻尾を巻きつけようとしてるぜ」
みんながビンのまわりで、口々にそんな風にいっていると、
「ねえねえ、きいてー、ぼく、ついに錬金術をはじめたんだよ!」
と大きな声でいいながらフェイが元気よくはいってきました。

 「あれ、みんな集まって、なにみてんの?」フェイは自分の大ニュースに
みんながぜんぜん反応してくれないのをものたりなく思いながら、
シンカの後ろから、テーブルの上のビンをのぞきこみました。

 「これって、なに?」
「海馬っていう魚みたいなものなんだ。
さっき貝殻島で見つけて
今見てたら
子どもを産んだんだよ!」シンカがいいました。

 「海馬だって!」フェイが叫びました。
「あのさ、そのちっこいのでいいから、ぼくに1匹くれない?」
フェイがシンカにいいました。
「錬金術の本に出ていたんだ、海馬を干して
粉にして素材にしてつくる「レフロン」っていう薬のレシピが。
滋養強壮の特効薬なんだぜ。
ほしいなあ、それ」
 
 「干してって・・・・・ダメ、ダメ、ダメェ!」
シンカが断固とした調子でいいました。
「これは大事に育てて、
貝殻島のまわりの海に、海馬がたくさん住むようにするんだから。
干しちゃうなんて、とんでもないよ」
そういうシンカの後ろから、フェイはなおも、じいっと
ビンのなかで、ついついと立ち泳ぎをしている
海馬の赤ちゃんたちを
モノ欲しそうに見つめました。

 「おっと、スープが吹きこぼれちゃうぞ」
ジロは急いで調理場へ行き、
カイサに手伝ってもらって
いい匂いで湯気をあげている
白いスープを運んできました。

 「いいねえ、チャウダーじゃないか」
コルネが鼻をうごめかせていいました。
「うん、きょうはいいカキがたくさん採れたんで
濃厚な味のチャウダーにしたんだ。春先のカキは格別だからね」
そういうと、ジロは、さっきからしょんぼりしているフェイにもいいました。
「欲しがってた釜が手に入って、よかったね」。

 「う、うん。さっそくね、有り合わせの素材を調合して、釜で煮てるんだよ。
錬金術っていうのはね、とにかく材料を混ぜて、かきまわして、
何日も火にかけながら、えらく長い時間がかかるもんなんだよ」
ジロが興味を示してくれたので
フェイが元気をとりもどしていいました。

 「あ、そうだ、海馬はあげられないけど
かわりにこれあげる。錬金術に役立つかもしれないよ」
チャウダーをたいらげたシンカが、
腰につけたポケットから、丸い形のものを取り出して
フェイに差し出しました。

 「これ、なに?」フェイがききました。
「ダイオウウニの殻だよ。ウニはトゲがとれると、
なかにこういうものがはいってるんだ。
こわれやすいから気をつけてね」
それは、押しつぶされたおまんじゅうみたいな形をしていて、
よく見ると、表面にはトゲがついていたあとらしい
穴が無数にあいていています。



 「うわー、ありがとう!」
フェイはすっかりご機嫌をなおして、
「これ、神秘的で、いかにも錬金術にぴったりだねえ」と
両手で包むようにもって、しげしげと眺めています。

 「デザートが欲しい人は?」
ジロがきくと、一人残らずみんなが手をあげました。
「今年はじめての三月イチゴのクリームがけだよ」というと、
歓声があがりました。


 春のおぼろ月がうかぶ空の下、
おなかがいっぱいになったみんなは
散歩しながらそれぞれの家に向かいました。

 そのころ、フェイの家の錬金釜のなかでは、
なにかがケムリをあげながら、
怪しく、ぐつぐつと煮え立っていました。





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 旅の宿は、ホテルが好きです。
部屋の中に布団の上げ下ろしで人がはいってくるとか、
夕食が多すぎるとか、
雰囲気は好きだけれど旅館はちょっと苦手。

 コルネがやっているホテル・ジャマイカ・イン。
私がぜひ泊まってみたい、
いままで泊まったいろいろなホテルの印象に残った部分を
全部集めたようなホテルです。

 こじんまりしていて、さりげなくサービスが行き届いていて、
センスのある調度、美味しくてバラエティに富んだ朝食ブッフェ、
バルコニーからの眺めがすてきで・・・・・・。

 たとえば、バルコニーから見える風景はこんな風であってほしい。

 チェコの温泉地カルロヴィヴァリのホテル・プップのバルコニーからは、
川に沿って色とりどりの建物が並ぶ風景が見渡せる。

 
 そんなわけで、ホテルが大好きだけれど、
これだけはイヤ、と思っているのが
欧米風のベッド・メイキング。
これでもか、というほどきっちりと敷かれたシーツとか、
上下2枚のシーツの間で寝る、という考え方とか、
どのくらいの頻度でクリーニングされているのかわからない
不気味な清潔度のベッドカバーとか・・・・。

 だからドイツではじめて、ベッドの足の方に、
二つ折りになった羽根布団がふわりと置いてあるホテルに泊まったときは、
「これだよねー!!!」と感激しました。
ベッドカヴァーなしで、掛布団をふわっと置いてあるこの方式、
デュベ・スタイルというのだそうです。
日本でも徐々にこのスタイルを取り入れるホテルが増えているのがうれしい。
ジャマイカインのベッドも、もちろんこのスタイルです。

 そして、もうひとつ、ホテル選びの決め手になるのが、
そこに物語があるかどうか、ということ。
 
『チェコA to Z』という本をつくった時、
ぜひチェコならではの物語のあるホテルに泊まりたいと、
いろいろ調べてみて、これだ!と決めたのが、
プラハにあるウ・ズラテ・ストドニェというホテルでした。

 歴史ある建物が目白押しのプラハでは、
古い建物をホテルとして再生するリノベーションが盛んにおこなわれていて、
(といってもリニューアルに10年くらいかけたりするのがチェコらしい)
ここも、そういったホテルのひとつ。
でも選ぶ決め手となったのは、狂王ルートヴィヒ2世と錬金術。

 
 

ウ・ズラテ・ストドニェの入り口は、秘密めいた小道の奥にある。

 16世紀、国政を顧みず、国のお金を湯水のように使い、
城のなかに幻想的な洞窟をつくったり、自分ひとりのためにオペラを上演させたり・・・といった奇行で、
「狂王」と呼ばれた美貌のバイエルン王ルートヴィ日2世。
最後は精神病者と宣告され、湖で謎の死をとげた・・・・。

 そんなルートヴィヒ2世が凝ったことのひとつが錬金術で、
各国から呼んだ著名な錬金術師を集めて日夜錬金術の研究が行われた館が、
このホテルの建物たったのだそうです。

 そんな過去の物語を秘めたこのホテル。
窓外にプラハの美しい赤屋根の建物を見わたしながらの美味しい朝食、




 雰囲気を残しながらも現代的にリノベーションされた快適なバスルーム、


 部屋の調度は骨董品級

ふっと振り返るとそこに時空を乗り越えた錬金術師が立っていそう。

 美青年を愛した狂王にちなんででしょうか、
滞在中に見た女性スタッフはひとりだけでした。
他は男性ばかりで、しかもかなりのイケメン度。
忘れられないホテルでした。



 春は貝類の季節。
カキは生より火を通したものが好きです。
特にカキの旨味がたっぷり染みだしているグラタンとかチャウダーとか。
今月のジロのメニューはカキのチャウダーと
ジロが裏庭の畑でだいじに育てているバニャーニャ特産の「三月イチゴ」。
小粒で色は真っ赤。これもクリームとの相性が抜群の3月限定のメニューです。




 生き物のなかで何がいちばん好き?というと、タツノオトシゴ。

名刺にもタツノオトシゴのマークを入れている。

最近はすっかり虫さがしに夢中で、陸上派になったけれど、
その前はずっと海の生きものを見に潜ったりしていました。

 今年は秋ごろからやけにタツノオトシゴをモチーフにしたものを見かけるなあと思ったら、
来年の干支がタツなんですね。

 タツノオトシゴの何が好きかっていうと、
まず骨の彫り物のような優美な形態、
エラを細かく動かして、水中をヒョイヒョイと移動するような動き方、
そして、オスが出産する!こと。

 タツノオトシゴはヨウジウオという魚の仲間で、海藻などが繁る場所で
オキアミなどの微小なエビのようなものを食べて生きています。
視力がすごくいいそうで、水族館では生きているオキアミ(タツノオトシゴは、
エサをやるとすぐに飛びつかないで、
まずエサの目をみて生きているかどうか判断してから食べるらしい)
じゃないと食べないので、苦労するとか。


アメリカで見つけた貝殻でつくられたタツノオトシゴの額を中心に
我が家のタツノオトシゴコーナー。

 
ほんとうは飼育したいけど、
東京の夏には冷却装置が必要だと分かりあきらめた。
グッズ集めでガマン。


 タツノオトシゴは、オスの腹部に袋状のものがあって、
メスから渡されたタマゴは
このオスのオナカ袋の中で育ち、孵化し、
オスが体を思いっきり反らせて(見ていると苦しそう)
プっ、プっ、という感じで出産する。
出産シーンをみていると、ほんとにたいへんそうで、
私はこのことをちょうど自分が妊娠中に知ったので、
オスが出産する生きものなんて、うらやましいなあ、と、
ますますタツノオトシゴのファンになったのでした。

 バニャーニャにも、いつかタツノオトシゴを出現させたい、とずっと考えていたので
来年の干支にちなんで、このタイミングで登場してもらいました。
書いていたら、ひさしぶりにタツノオトシゴがヒョイ、ヒョイと泳ぐ海に
また潜ってみたくなりました。



2011年2月からはじめた『バニャーニャ物語』。
月1回の更新はたいへんだけれど、
バニャーニャという世界が、
少しずつできあがっていくのが
楽しくて。

 今年はもうこれで最後。
ご愛読、ほんとうにありがとうございました。
次回は、来年1月15日にお会いしましょう!