バニャーニャ物語

 日々虫目で歩く鈴木海花がときどき遊びに行く、風変わりな生きものの国バニャーニャのものがたり。

バニャーニャ物語 その10 バショーの落としもの

2011-11-15 09:06:03 | ものがたり



作・鈴木海花
挿絵・中山泰
 


国境の町のむこう、
<ナメナメクジの森>を越えると
そこには、
ちょっと風変わりな生きものたちの暮らす国がある





  秋もすっかり深まり、空気が乾いて澄みきってきました。
ジロのスープ屋前の川辺のヤナギも、
葉っぱを落としはじめました。
「そろそろ、外のテーブルとイスを片付けなくちゃな」
午前中のお客さんたちが帰ったあと、
ジロは店の戸口に寄りかかって、
これからくる季節のことに思いを巡らしていました。

「ジロー、ねえきょうもタキギ拾いに行くー?」
川の向こうからフェイがやってきました。
両手には赤いのや黄色いのや、落ち葉をたくさんかかえています。

「うん、お天気もいいし、まだまだ暖炉のタキギが足りないし、
それにタキギ祭りの分も集めないといけないからね。
いっしょに行こうよ」
「モーデカイもさそってみよう。
モーデカイがいると、たくさん持てるしね」
フェイが拾い集めた色とりどりの落ち葉を、
背中の布袋にいれながら言いました。
フェイはきれいな落ち葉を見ると、拾わないではいられないので、
この季節にはいつも落ち葉をいっぱい抱えています。



「そんなに拾って、どうするの?」とジロ。
「ん、いろいろ。押し葉にしたりさ。
あまったのはカイサのところにもっていくんだ。
落ち葉って冬、虫が眠るときの布団になるんだって、カイサが喜ぶんだ」

 ふたりはのんびりとモーデカイの家に向かう道を歩いていきました。
「モーデカーイ、いる?」
フェイが声をかけると、ドアがぱっとあいて、
モーデカイが顔を出しました。
「いいとこにきてくれたよ、
いまね、例の卵がいままでになくカタカタ動いて、
孵りそうなんだ。朝から気が気じゃなくてさ」
いつに似合わずちょっと興奮気味のモーデカイがいいました。

「うわあぁ、嫌なとこに来ちゃったなあ。
いよいよ何かが生まれてくるなんて
ぼく、帰ろうっと」フェイがあとずさりしていいました。
「だいじょうぶだってば、いっしょに見ていようよ。
きっといいものが生まれてくるさ」
そういうと、ジロはずんずんモーデカイの家に入っていきました。

なるほど、台所の調理台の上のホウロウのボールの中に置かれた卵が、
いまにも飛び上がらんばかりに激しく動いて
ひときわカタカタと大きな音をたてています。

 息をつめるように見つめていると、そのとき・・・・・
「わあぁぁぁぁー」
卵の上の部分に大きな穴があいて・・・・・・
出てきたのはなんと小さくてしわくちゃな、
おばあさんでした。
3人が言葉もなくおどろいてみている前で、
おばあさんはちょっとふくらんで大きくなったようです。

「ふわあ~。まぁた生まれちまったんかい」
おばあさんはそういっておおきなあくびをすると、
ギョロとした目で、びっくり顔で自分を見ている3人のほうを見ました。

「あ、あ、あ、あのさ、このおばあさん、
あの何でも編める編み棒をくれたおばあさんに似てない?」
フェイが声をふるわせながら、いいました。
「ほんとだ!雪の降る晩、ぼくの店にきて、
スープのお礼にって編み棒をくれたおばあさんだよ!」ジロもいいました。
みんなが口々にいっているそばで
おばあさんは、ボールのなかに座って、
今まで入っていた卵の殻を折り取って、
ボリボリと食べはじめました。



「ねえおばあさん、覚えていますか?
ぼく、いただいた編み棒で舟を編んで、
ずっと夢だった冒険の旅にいくことができたんですよ!」
ジロがいいました。

「はぁて、前のことは、よく覚えとらんのさ」
卵の殻のかけらを口いっぱいほおばって、
もぐもぐしながらおばあさんはいいました。

「なんせ百年生きて、また生まれちまったんだから。
やれやれ、めんどくさいねえ、
また100年生きなくちゃならないなんて。
でも卵のからっていうのは、
硬くて、ちっともおなかの足しになりゃしない・・・・
そのスープとやらを飲めば、昔のことも思い出すかもしれんよ」
おばあさんはボールのふちをまたいで外に出ると、
何枚も重ねたスカートを勢いよくぱんぱんとたたきながら
3人をぐるっと見渡していいました。

「午前中、店でだしたキノコのシチューとサツマイモのポタージュが
まだ残っていたっけな」ジロがいいました。
「行こう、行こう!スープじゃぁ~」
おばあさんは目を輝かせて急に元気になったようにいいました。
 生まれたばかりでおなかも空いているし、まだ調子が出ない、
というおばあさんをモーデカイの背負子に乗せて、
みんなはジロの店へ向かいました。

 店に着くと、ジロは物置にとってある毛糸の舟をおばあさんに見せました。
「これで冒険したのかい?」
「おばあさんはあの時、
小さな家まで毛糸で編んじゃったんですよ、
覚えていませんか?」

ジロがきくと、おばあさんは、
「あたしは昔のことは忘れることにしてるのさ。
いいことはちょびっと覚えてはいるけどね。
そういえば、来る日も来る日も毛糸を編んでたような気もするね。
でももう生まれ変わったんだから、違う人生を生きたいもんだよ。
おんなじなんて退屈じゃないか。
ところで、スープはどこじゃい?」

 クッションを2枚重ねたイスに座って、
おばあさんはジロがあたためてくれた
キノコのシチューとサツマイモのポタージュをスープカップに2杯ずつ、
ぐいぐいとたいらげました。

「あー、やっと人心地ついたよ。
さて、こんどは何をして生きようかねえ・・・・・・考えなくっちゃ」
おばあさんがそういったときでした。
戸口をコツコツ、たたく小さな音がしました。
お客さんかな、と思ったジロが
「はーい、あいてますよ。
スープは売り切れちゃいましたけど」といいながら
ドアを開けると、
そこにいたのはしょんぼりと肩を落としたバショーでした。



いつもはバタバタと羽ばたきながら、
窓から元気よく飛びこんでくるバショーが、
きょうは両方の翼をたたんで、しおれかえっています。

「バショー、どうしたの?」
ジロがバショーの肩をだいて店のなかへ入りながら心配そうにききました。
「なんだか、すごく疲れているみたいだね」とモーデカイ。
「どっか具合が悪いんだったら砂薬つくろうか」とフェイもいいます。

「はあ・・・・」と大きなためいきをひとつつくと
「石舞台の丘の上からここまで、歩いてきたんじゃよ」
バショーは疲れ果てたかすれた声でいいました。
「歩いてきたって?!バショーが?」
「うそ!飛んでじゃなくて?」

「落としてしまったんじゃヮィ・・・・・・・
だいじなだいじな先祖伝来の「風読みのメダル」を。
あれをなくすと、わしは飛べないんじゃワイ」
そういうとバショーはまたしょんぼりと下を向いてしまいました。

「風読みのメダルって、それなあに?」とフェイがききました。
「みんなには内緒にしてたんじゃが・・・・・
実はワシは小さいころからひどい方向音痴でな」
バショーが消え入りそうな声でいいました。

「そこでじいさんが心配して、
子供のころワシの首にバショー家に代々伝わる
「風読みのメダル」をかけてくれたんじゃ。
これがあると、風を読んで、飛ぶ方向がわかるんじゃよ。
ワシはずっとそのメダルをここにかけていたんだが」
バショーは、薄茶色と白の混じったふさふさした胸の羽毛を指さしていいました。

「ふーん、知らなかったなあ」とジロがいいました。
「いやはや、歩くっていうのが、
こんなにたいへんなことだとは思わなかったワイ。
きのうは一日中、タキギ祭に切る木をさがして
バニャーニャ中を飛びまわっていたんじゃ」
毎年石舞台で行われるタキギ祭のために切る木を選ぶのは
バショーの役目です。
その年バニャーニャでいちばん育って、
枝が伸びすぎて、切ってもいいと思われる木を探して決めるのです。

「そしたらいきなり、目がぐるぐるして、
どっちへ飛んだらいいのか、分らなくなってしまったんじゃ。
胸のあたりをみると、ない!ない!
ずっと肌身はなさずかけておいたメダルがなくなっていたんじゃ。
仕方がないので地上に降りて歩いて家に帰ったんじゃが、
ひと晩中歩くはめになった」

そういってさらにしょんぼりしてしまったバショーに、
ジロはあついココアのはいったカップをわたすと、
肩に手を置いて元気づけるようにいいました。
「バショー、だいじょうぶだよ、みんなでさがせば、
そのなんとかってメダル、きっと見つかるよ」
「うん、みんなで手分けしてさがそう」
とモーデカイも、力づよくいいました。
 
 そのときでした。
「やみくもにさがしたって、見つかるもんかい。
その落しものは、西のモミノキ林のなかにある!」
かん高い声が、いきなりそういったので、
みんなはびっくりして声のほうを見ました。

「それは銀色をしていて、
赤と青と黄色のぴかぴかする石のついたもんじゃろ?」
そういったのは、おばあさんでした。

「そうじゃ!!!あんたはなんで
ワシのないしょのメダルを知っているんじゃ」
バショーははじめておばあさんに気がついて、
びっくりしていいました。
「はて、なんだかわからないけどさ、
いまあんたが話したときに、
はっきりとあたしの目にそれが樹の枝でぶらぶら揺れながら、
光っているのが見えたのさ。
自分でも不思議なくらいくっきりとね」

 ジロは、さっきモーデカイの卵のなかから生まれてきたおばあさんのことを
バショーに話しました。
「なんと、あのカタカタ動く落ち着かない卵のなかには、
あんたが入っていたんじゃな」
バショーが少し冷静さをとりもどしていいました。

「ほんとかなぁ・・・・・」
フェイがモーデカイに小さい声でいいました。
「遠くにある落としものが見えたなんて、
なんだかあてずっぽうっぽくない?」
「あてずっぽうだと!!!ふん、いいさ、
信じるか信じないか、あんたたちの勝手におし」

「ねえ、たしかにバニャーニャ中をさがすったってたいへんだから、
まずはおばあさんのいう西のモミノキ林にいってみようよ」
ジロがいいました。
「うん、それがいい。あそこからはじめよう」
とモーデカイもいいます。

 そのとき、戸口の鈴がなって、
「ああ、貝殻島まで行ってきて、おなかすいたー」
とカイサが、シンカとチクチクといっしょに入ってきました。
「チクちゃんがね、もうすぐ冬眠するから、
ママンゴーにたかってるハエをおなか一杯食べたいっていうんで、
シンカもいっしょに島まで行ってきたんだよ。
あれ?みんな集まって何してるの?」
ジロはモーデカイの卵から生まれたおばあさんのこと、
バショーの落とし物のことを話しました。

「モーデカイのあの卵にはこのおばあちゃんがはいっていたんだね!
落としモノの在り処が見えるなんて!すごいよ」カイサがいいました。
「バショー、たいへんだったねえ・・・・・・
ぼくもその大事なものさがし、手伝うよ」とシンカもいいます。
「ついでにタキギ祭りの枯れ枝集めもしよう!」
とモーデカイがいいました。


「でもきょうはもうすぐ日が暮れちゃうからさ、
明日の朝いちばんにみんなで探しにいくことにしようよ」フェイがいい、
今夜は、おばあさんはモーデカイの家のソファで、
バショーはジロの寝室のカーテンレールの上
(バショーにはそこがいちばん居心地がいいらしい)
に止まって眠ることにしました。

 翌日は秋晴れでした。
真っ青に澄み切った空に、赤や黄色、ピンクや青色の木々の実が映えて、
秋らしい美しい一日になりそうです。

みんなは西のモミノキ林の入口に勢ぞろいしました。
林のなかは、丈高く育ったモミノキがみっしりと茂り、
針葉樹の清浄な香りが満ちて、
深呼吸すると身も心もいやされてスッキリします。

「おお、そうじゃ、思い出したワイ」
モーデカイの肩に止まって運んでもらっているバショーがいいました。
「この上空あたりで、
今年みんなが薪にするために切ってもいい木をさがしていたんじゃった」

毎年、この時期になると、
冬の暖炉や薪ストーブのための木を決めるのは、
空から見ることができるバショーの役目でした。
みんなが勝手にあちこちの木を切らないように、
バショーが森や林の木の繁り具合を見て
切っていい木を決めるのです。

みんなは上のほうの木の枝に、
メダルがひっかかっていないか見上げたり、
タキギを拾ったりしながら、林のなかを進みました。

「でも、このへんは木がくっつきそうに繁っているね」
とフェイがちょっと息を切らせながらいいます。
「そうなんじゃ、枝が繁りすぎて、下の方まで陽が届かないから
このあたりの木を今年は薪にするのがいいと思うんじゃよ」
とバショーがいったとき、
シンカが「あっ、あそこでいま何か光ったぞ!」
一本のモミノキの枝を指して叫びました。

みんなはその木の下に集まって、
シンカが指さす枝を見上げました。

さきっちょがちょっと上を向いたモミノキの枝先に、
秋の陽を反射してきらっと光るものがありました。
「ああーっ!あった。ほんとにあったワイ!!!」
バショーはそう喜びの声をあげると、
止まっていたモーデカイの背中から、
一気に枝をめがけて飛び立ちました。



バショーは枝から大事なメダルをはずすと
急いで自分の胸にかけました。
そして、うれしさになんどもモミノキの上を
まるく弧を描くように飛びまわりました。

「ほんとに、おばあさんのいった通りだったね」
とジロがちょっと興奮ぎみにいいました。
「ぼく信じてなかったんだけど、びっくりだなあ」とフェイ。
「あのおばあちゃんは、きっと千里眼なんだよ」とカイサもいいます。
「とにかくバショーがまた飛べるようになって、よかったよかった」
とシンカも自分のことのようにいいました。

それから、みんなは枯れ枝をたくさん拾い集め、
林を出たところにある草原でおべんとうにしました。

「さあ、ついでに拾ったタキギを石舞台まで運んでしまおうよ」。
おべんとうを食べ終わるとシンカがいいました。


 さて、三日後。
あたりが秋の早い夕暮れに包まれるころ、
バニャーニャのあちこちから、タキギ祭りを祝おうと
みんながぞくぞくと石舞台に集まってきました。

 海を背にした石舞台のまんなかには、
集められたタキギが積み上げられています。
バショーが細い枯れ枝に灯した火を近づけると
タキギはケムリをあげはじめ、やがて火が燃え上がると
みんなから歓声がおこりました。

「タキギ祭りの火をみると、今年ももう終わりなんだなあ、
って思うよね」とフェイがいつになくしんみりした調子でいいました。

「今年もいろんなことがあったなあ」
シンカも勢いを増していく火を見つめながらいいました。

「いつものことが、いつものようにできるって、幸せなことよね」
とアザミさんが小さな声でいいました。

カイサは長い金串に刺したマシュマロをさっそく火にかざしてから、
あのモーデカイの卵から生まれたおばあさんに渡していいました。
「おばあちゃんって、ほんとに落としモノが見えちゃうんだね」。
「はて、自分でもどうして見えるのか、わからないのさ。
そうだ!こんどの100年は、さがしモノ名人として生きようかな」

「もう、編み物はしないんですか?」ジロがききました。
「編み物なんて、もうあきあきさ。
また生まれてきたんだから、
今度は違うことをして生きたいよ」
タキギの火に顔をほてらせて、
おばあさんは目をきらきらさせていいました。

夜も更けてきて、タキギ祭りもいよいよ佳境にはいってきました。
ヤシノミ族のウルも今夜はやってきて、さっき海で獲ってきた
小さなイカを火であぶっています。
コルネはホテルの食料庫からたくさんもってきたチーズを、
これも火にかざしてとろかしてみんなにふるまっています。



いつもはこの石舞台にひとりで住んでいるバショーは、
めっきり冷たくなった秋の夜長の空気のなかを
にぎやかな今夜ばかりはちょっと浮かれた気分で飛びまわっています。

あたりは、ぱちぱちといい音をたてて燃える火と、
火に焼かれた食べ物のいい匂いでいっぱい。
みんなの思いと美味しそうな匂いをのせた煙が、
暗い海に、帯のように流れていきました。


 翌朝、さがしモノ名人として生きていこうと決めたおばあさんは、
広い世間に出ていくために、バニャーニャを出発することになりました。
おばあさんは、モーデカイにいいました。
「あんたが私の卵を買ってくれて、よかったよ。
バニャーニャのみんなのおかげで次の100年をはじめられるってもんだ」

「いえいえ、毎日動く卵を見ているのは
ドキドキして楽しかったですよ」

「オホン」
と小さな咳払いをしてから、バショーがいいました。
「おかげで、『風読みのメダル』をなくさないで、
すみましたワイ。ほんとうに感謝ですワイ」といって
クサギの実の飾りのついた、木の枝をまげてつくったカンムリを
おばあさんの頭にそっとのせました。

「おやまあ、こんなシャレたもの。
生まれ変わった気分にピッタリだよ」
おばあさんは心からうれしそうに、
歯のない口で、ひゃひゃひゃ、と声をあげて笑いました。

「ときどきはバニャーニャにも来て、
探しモノを手伝ってくださいね」
ジロは魔法瓶にいれたスープを、
きのうモーデカイが夜なべして縫った
小さなリュックサックに入れてやりながらいいました。

「でも心配だなあ。
やっぱりナメナメクジの森を出るまでおくっていきますよ」
モーデカイがいいました。
「だいじょうぶ、だいじょうぶ。
ナメクジなんぞ、蹴っ飛ばしてやるからさ」
そういうと、おばあさんはみんなに手を振りながら、
国境のむこう―広い世間を目指して、出発しました。
ちょっとガニマタぎみの足を、
右、左、右、左と一歩一歩しっかり前に出しながら。


 「あのおばあさん、バニャーニャに住んでくれればよかったのにな。
そうすれば、さがしものがあるときに、すごく助かったのに」
フェイがいいます。
「いつか気が向いたら、またバニャーニャにもどってくるっていってたよ
ジロのスープも飲みたいからって」
カイサも名残惜しそうに、
どんどん小さくなるおばあさんの後姿を見送りながらいいました。

みんなの頭上を、
ひゅうっと風が通り抜け、
枯葉が舞いました。
そろそろバニャーニャにも雪の季節が訪れようとしています。



 
*****************************

 モーデカイがだいじにしていた卵から、
あのおばあさんが生まれるなんて、
びっくり仰天。
どうりで、ふつうの卵と違って、
カタカタ動いたりしたわけですね。
このおばあさんについては、
バニャーニャ物語第一話「雪の夜のできごと」をぜひご覧ください。

 卵ではないけれど、
「メキシコトビマメ」というコトコト動く豆をもらったことがあります。
モーデカイが買った動く卵は、この「メキシコトビマメ」がヒント。



Wikiによると、この豆はメキシコのソノラ州、シナロア州、チワワ州原産の
トウダイグサ科の灌木の種子で、この豆に寄生する
ハマキガの一種であるガが、なかで育つのだそう。


7,8ミリの大きさの薄茶色の豆は、
ときどきピョン、と飛び上がるくらいの元気さで跳ねる!
陶器のお皿に載せておくと、
部屋の中で、チリン、チリンという音を響かせました。



このガは、春から夏にかけて雌花の子房に産卵し、
卵が孵化すると、幼虫は内部の種子を食べて、
空洞になった豆のなかに糸をはり、
そのまま数年間も生存することができるのだそうです。

なぜこのように飛び跳ねるのかというと、
内部の空気を乾燥させないために動きまわるのだといわれています。

温度や湿度などの環境がよいと、その後サナギになり、
羽化します。

好奇心に負けて、一個豆を割ってみると、

いました、幼虫が、ゴロンと。

 さて、私は冬にいただいたこのトビマメをしばらく
お皿に載せて観察していたのですが、
3か月くらいすると、動かなくなりました。
やっぱり羽化までは無理かな、と思い、
でも捨てるのももったいなくて
デスクの引き出しにお皿ごと入れて忘れていました。

 ところが、
今年の春。
封筒を出そうとして引き出しを開けると、
「あっ!!!」
豆に1ミリ半ほどの丸い穴があいていて、
そばには透明の飴色をしたサナギの殻、
そして、羽化した1センチほどの薄茶色のガが
息も絶え絶えになっていたのです。



不思議だったのは、
サナギの殻の大きさに比べ、
豆に開いていた穴がごく小さかったことです。
そしてサナギの殻が外にあるということは
サナギのまま豆から脱出したということなので、
サナギ状態のガが、どうやって殻に穴を開けたのか
これも不思議でした。

成虫はこんな地味ぃなガ。



 4粒の豆のうち、羽化したのはこのひとつだけでしたが、
特に温度湿度管理もしなかったのに、
原産地とはかなり違う環境のなかで羽化したのは驚きでした。
それにしても、豆を跳びあがらせるほど内部で動くとは、
小さな幼虫にとっては、たいへんなエネルギー。

この跳びはねるガは、かつて漫画などのギャグとして人気があったそうで、
日本の人形劇『ひょっこりひょうたん島』に
登場したこともあるそうです。



 バショーのだいじなモノが見つかってよかったですね。
針葉樹にはなぜか、きらきらしたものが似合うと思います。
クリスマス・ツリーにモミノキが選ばれたのも、わかる気がします。
今ではもう、家でクリスマス・ツリーを飾ることはありませんが、
かつて生のモミノキでツリーをつくったとき、
いちばん心に残ったのは、
あのきりっとした針葉樹独特の香りです。

秋のはじめに虫さがしに行った高尾の森でも、
道に落ちていたたくさんの針葉樹の枝が
踏みしめるたびに、いい香りを放っていました。
 
  先日、NHKで、ブータンで採集されたブータンシボリアゲハという
幻といわれていたチョウの話題が放送されました。
ブータンシボリアゲハがわずかながら生きている森は
町から7日間も奥地にいったところにあるそうですが、
この付近にはわずかだけれど、人も住んでおり、
まったくの前人未到の地ではないのでした。

 貴婦人のような気品ある幻のチョウ発見もすごいけれど、
私がこの番組でいちばん「へ~」と思ったのは、
このチョウのいる付近に住んでいる人たちが、
生活に必要な木を、数を決めて切ることにしている、
ということでした。
人間がこういう自然との付き合い方をしている場所だからこそ、
幻のチョウも生息できるのでしょう。
そこでバニャーニャでも、
ひと冬に切る木の数をバショーが決めることにしたのでした。

更新日変更のお知らせ

2011-11-01 08:08:24 | ものがたり
 



 2011年の2月から、毎月1日に更新してきた『バニャーニャ物語』も
今月で10回目になります。
いつも読んでくださって、ほんとうにありがとうございます。

さて、お詫びとお知らせです。
11月から毎月15日更新に変更いたします。
 挿絵を描いてくれている中山泰が、
ちょうどバニャーニャの挿絵を描く毎月後半に
レギュラー仕事で多忙なため
この時期をずらすためです。
 
 きょうきてくださった方、もうしわけありません!
『バニャーニャ物語』その10は・・・・「バショーの落としモノ」。

じつはバショーにはみんなにナイショにしてきた
とてもたいせつなモノがあったらしい・・・・。
 モーデカイの卵からも
びっくりぎょうてんなものが生まれたようです。

 『バニャーニャ物語』、来年もまだまだつづきます。


 では、11月15日に!