バニャーニャ物語

 日々虫目で歩く鈴木海花がときどき遊びに行く、風変わりな生きものの国バニャーニャのものがたり。

バニャーニャ物語 その9 モーデカイの卵とカイサの草テーブル

2011-10-01 15:29:37 | ものがたり





作・鈴木海花
挿絵・中山泰
 


国境の町のむこう、
<ナメナメクジの森>を越えると
そこには、
ちょっと風変わりな生きものたちの暮らす国がある



 バニャーニャ ミニガイド
 最初のほうの話を忘れてしまったとき、
また初めて読む方は、
このミニガイドを役立ててください。


バニャーニャ
ある大陸から突き出たタンコブのような形の半島。
潮が引くと大陸へ歩いて渡れる道があらわれるが、
潮が満ちると、大陸から切り離される。

ナメナメクジの森
大陸側にある国境の町とバニャーニャを隔てている深い森。
ここを通るものは(バニャーニャのモーデカイ以外は)ナメナメクジに
たかられる。

ナメナメクジ


深い森に大量にすんでいる。灰青色の体に緑色の長い舌をもつ3センチほどの生き物。
ナメナメクジになめられると、かさぶたになり、非常にかゆい。
さらに、しばらくは窓からナメナメクジが入ってくる悪夢に悩まされる後遺症も。


ジロのスープ屋
バニャーニャでいちばん長いマレー川のほとりにある
ジロがやっているスープの店。
おいしい手づくりのスープとスイーツが人気。
誰かに会いたいときはここにくればたいてい会える。

丘の上の石舞台
バニャーニャでいちばん高い丘の上にある石づくりの舞台。
舞台の背後は紺碧の海で、絶壁の上につくられている。
舞台のまわりには、同じく石から彫りだされた、
いまではコケむした客席がある。
風雨にさらされて、崩れかけているが、
数々の謎と歴史を秘めた場所。

貝殻島
バニャーニャの近海でおきた海底火山の噴火によって生まれた小さな島。
3つの海流が渦をまいていて、貝殻がたくさん打ちあがる。
まわりをあたたかい海水に囲まれているので、
生えている植物などもバニャーニャとは違う。

ポポタキス
バニャーニャ特産の果物。
他の土地ではなぜか育たない。
熟すと木から落ちて
スーパーボールのようにポンポンはねる。
実がなるのは春から夏。


バニャーニャの主な住人たち

ジロ


   マレー川のほとりでスープ屋をやっている。
   胸に秘めた冒険の旅を敢行して帰ってきたところ。
   そのおいしいスープと、おっとりしたあたたかい性格で
   バニャーニャのみんなによりどころとして愛されている。

  
フェイ


    世界中から集められた200種以上の砂を売る砂屋をやっている。
   砂はバニャーニャでは大切な薬などの材料で
   フェイは症状によって砂を配合して薬をつくることができるので、
   みんなにたよりにされている。
   趣味は魚釣り。


モーデカイ


   みんなが恐れているナメナメクジの森を通って
   その先の国境の町まで行ける特技と大きな体を活かして
   お使い屋をやっている。
   バニャーニャのみんなは、半島にはないものが欲しい場合、モーデカイに頼んで
   国境の町で買ってきてもらう。時には背負子に旅人を背負ってくることもある。
   タマゴが好きで、料理もとくい。


シンカ


   めまいの崖に住むギル族のひとり。
   ギル族は首の両側に小さいエラをもっており、
陸上でも海中でも息をすることができ、
泳ぐだけでなく、海底を歩くことができる。
真面目で誠実な性格で、博物学の研究に情熱をそそいでいる。



カイサ


   虫などの小さな生きものが大好きな元気な女の子。
   いつもなにか虫を連れている。
   甘いものが大好き。
   植物や動物など、自分以外の生き物の内部にはいることができる
特別な力をひいおばあさんから受け継いでいる。



バショー


  石舞台に立つ大きなカシの樹のうろに住んでいる。
  バニャーニャの長老的存在だが、けっこうおっちょこちょい。


 
コルネ


 大きな帆船で世界じゅうを航海した船長だったが
バニャーニャ沖で難破し、以来故郷の家に似たホテルを建てて
ここに住むことにした。
 半島で唯一のホテル、 ジャマイカ・インの主人。
細かなことにこだわらないおおらかな人柄。
ハーブとスパイスには造詣が深い。



アイソポッド


 めまいの崖からつづく深海にすみ
泥を食べて生きている大きくて象牙色をした海棲ダンゴムシ。
その頭脳は世界の知恵の宝庫で
海底火山の噴火も予知した。



ボデガ


  「大理石王」と呼ばれていたいまは亡き夫のヒッチが、
ボデガのために建てた石のお屋敷にひとりで屋敷に住むバニャーニャの富豪夫人。
黒い花々を集めた「黒の花園」が生きがい。ときどき壁の肖像画から
ヒッチが出てきて、黒の花園に水をまいている、というウワサがある。



アザミさん


  ブーランジェリー・アザミを営んでいるパン屋さん。
焼きたての美味しいパンと裏庭の巣箱でとれるハチミツ、
手作りの発酵バターを売っている。内気だがしっかりした性格の持ち主。
毎朝ジロはスープにそえるパンをここに仕入れに来る。



チクチク


  ジロが冒険の旅に出て留守にしていた間に食料庫に入り込み、
乾燥キノコを食べてしまった、トゲトゲのあるマイペースな生きもの。
ほんとうの好物はハエ。冬は冬眠する。
発する言葉は「タタタ・・・」だけだが、カイサにはその意味がわかるようだ。








 秋が、しとしとと降りつづく雨とともにやってきました。
ぶどう屋敷で夏を過ごしたイザベラさんも、ふたたびモーデカイの背負子にのって、
ナメナメクジの森を抜け、いそがしい街の生活に帰っていきました。
「また次の夏にお会いしましょう」とみんなに手を振って。
イザベラさんが行ってしまうと、みんなは今年も夏が終わったんだなあ、とためいきをつきました。
 
 そんなある雨の日のこと。
モーデカイはナメナメクジの森にいました。
降りつづいた雨でお使いがたまってしまったモーデカイは、
きょうは国境の街へ出かけることにしたのでした。
森のなかはしっとりと湿っていて、苔が強くにおいます。
モーデカイは、一歩一歩ゆっくりと歩いていきました。




 こんな雨の日には、森のナメナメクジはどこか活気づき、
いつもよりずっと数が多くなるのです。
うっそうと茂る樹々の下草のあたりが、
ナメナメクジの灰青色の体と緑色の舌でかすかに波打つように動き、
モーデカイが雨をふくんだ森の地面を踏みしめて行くと、
無数のナメナメクジたちが、
ザザーとぶきみな音をたてながら道をあけます。

 まったくなんで、オレにはナメナメクジのやつらが寄ってこないんだろうなあ?
モーデカイはいつも不思議に思いますが、理由はいまだにわかりません。
いつごろからこの森にナメナメクジが住みつくようのなったのか定かではありませんが、
ナメナメクジがふえるにつれ、国境の街とバニャーニャを行き来するものがほとんどいなくなり、
それにつれて森はぐんぐん豊かに、深くなったようです。

 国境の街に着くと、モーデカイはまず郵便局へ行き、
バニャーニャのみんなから預かってきた手紙やはがき、小包なんかを出して、
かわりにバニャーニャへの配達をまっている郵便物を受け取ります。

 それがすむと、いつもいく喫茶店の前に出ているテーブルでひと息いれながら、
頼まれた買い物や用事が書かれているメモの束を読んで、
道順を頭にいれます。
さまざまな店が軒をつらねる国境の街はとても広いので、
ちゃんと順番を決めておかないと、ひどく時間がかかるのです。
メモを見るときょうは、やることがたくさんありそうです。

ジロからは小麦胚芽入りの小麦粉と上等のナタネ油1缶、

アザミさんからは、ハチミツを入れる小さなガラスのビンを1ダース、

シンカからは、ワイヤー綴じのノート(できるだけ厚いもの)と青と赤のインキ、

フェイからは写真を貼るアルバム3冊(色ちがいで)、

カイサからは、何かの種とココアひと缶、

バショーからは、中ぐらいの太さのクギひと箱、

ボデガからは、鹿肉と馬肉を1キロずつ(ダイエット中なので少量)、

バニャーニャの西のはずれに建つバニャーニャ・アパートの一階に住む
101歳のダロウェイ夫人からはバラの精油(高くてもいいので極上品を)ひとビン。

同じアパートの二階の部屋のカパブランカさんからは、ハバナ葉巻ひと箱と
、すぐくっつくノリ(かつて伝説のチェスマスターと呼ばれたカパブランカさんは、
お気に入りの象牙のチェス駒を落として割ってしまったので修理したい)。

そうそうコルネからは、ホテルの壁に掛ける絵が骨董屋さんに届いているはずだから、
受けとってきてほしいと頼まれていたんでしたっけ。

 モーデカイがすべてのお使いを済ませたころには、もう午後になっていました。
ちょっと遅いお昼ご飯を食べると、
いつものように最後に、自分のための買い物に向かいました。

 モーデカイは卵が大好き。
国境の街には世界のあらゆるところから集めたさまざまな卵を扱っている「タマゴ・バザール」があります。
モーデカイはお使いの仕事の最後に、かならずここに立ち寄って、
大好物のダチョウの卵を買うのを楽しみにしているのです。

「すみませーん、きょうはどういうわけかダチョウの卵が大人気で、売り切れてしまいまして」
卵のようにころころと太った店主のジャバが、
体をくねらせながら近づいてきて
歌うようなソプラノの声でいいました。

 明日の朝は、ダチョウの卵の目玉焼きだー、
と楽しみにしていたモーデカイは、ひどくがっかり。
店を出ようとすると、「なにが生まれるか?賞味期限切れお楽しみワゴン」というのが目にはいりました。
ワゴンには大きいのや小さいのや、青いのやシマシマのや、
細長いのやら真ん丸のやら・・・・・・
とにかく雑多な卵が並んでいます。
どうやら卵として食べるには遅すぎる売れ残りが集められているみたいです。




「たまにはそういったものもいかがでしょう?お買い得ですよー」
とジャバがまた寄ってきて、
もみ手をしながらすすめます。
「これは何のたまご?」
こぶしぐらいの大きさのシマシマのタマゴを持ち上げてモーデカイが訊きました。
ジャバは両手を広げて肩をすくめると、
「コビトワニかなんかでしょう、その大きさだと」といいました。

「じゃあ、このやけにちっこいのは?」
モーデカイは葉っぱの上にびっしり並んでいる
黄緑色の卵を指して訊きました。
「それはたしか・・・・ザザカメムシじゃなかったでしょうかねぇ」
 
 世の中にはずいぶんいろんな卵があるもんだなあ、と見ていると、
ワゴンの中でカタカタ動くものがあります。
うすい空色をした、ニワトリの卵より、ひとまわりも大きいサイズです。
「それはなんの卵だか・・・・・・はて?
でもずっとそうやって動いている元気のいいタマゴでございますよ」
ジャバがいいました。
自分のための買い物がなにもないのはさびしいので、
モーデカイは何が生まれるかわからないけれど、
きょうはこの元気な卵を買って帰ることにしました。


 夕方、モーデカイがバニャーニャにもどったころには、
昼間の雨はすっかりあがり、ジロの店には、
お客さんたちが、川辺のテーブルにまであふれていました。
モーデカイはお使いから帰ると、まずジロの店に寄るので、
少しでも早く頼んだものを手にいれたいものたちが待ちきれずに、
夕食がてらここに集まってくるのです。

「わあ、なんだかおもしろい形の種だね」
「うん、なんの種だか、売っている人も名前がわからなかったんだけど」とモーデカイ。
「やっぱり国境の街には、珍しいものがあるんだねえ。
さっそく植えてみよおっと」
カイサはモーデカイが見つけてきてくれた5粒の種を、
だいじそうにハンカチに包みました。

「今年はヤグルマギクのハチミツがたくさんとれたの。
とてもきれいな琥珀色のハチミツだから、
きっとこのオシャレなビンにいれたら映えるわ」
ガラスビンを頼んだアザミさんもうれしそうです。

バショーも丘の上からやってきて、
クギひと箱をだいじそうに受け取りました。

「あんた、いったいクギなんか、何に使うのかね?」と
さっそくハバナ産の葉巻をふかしながらカパブランカさんが、
横目でバショーをじろっと見ていいました。
「なにね、ちょっとしたものをつくろうと思ってるんじゃよ」
バショーがもごもごいいました。

とにかく、みんなそれぞれに欲しかったものが手に入って、満足そうです。

 でもこの日、みんなの注目をいっしんに集めたのは、
なんといってもモーデカイが買ってきた、
あのうす青色のタマゴでした。
タマゴはゆらゆらふるえたかとおもうと、
ぴょこんと飛び上がったりして、
みんなをハラハラさせました。

「なかでなにやらピタピタ、あやしい音がしとるぞ」
バショーが殻に耳を近づけながらいいました。

「何が生まれるかわからないなんて・・・・きみわるいよねえ」
フェイはさっきから、あまりタマゴに近寄らないようにしています。

「あら、なにが生まれるかわからないなんて、スリルがあるわ」
家に帰るまで待ちきれなくて、
さっそくジロに焼いてもらった馬肉のステーキをほおばりながら、
ボデガがいいました。

「さあて、なにが生まれるのかなあ、楽しみだよ」
モーデカイは、カタカタと動くたまごを、両手でそっとなでました。

 
 翌日は、朝から久しぶりのいいお天気。
雨があがるのを待ちかねていたカイサは、シンカとジロに手伝ってもらって、
前庭と居間のテーブルを入れ替えました。




「これでこれから寒くなっても、家のなかで草が元気に育つと思うよ」
カイサが草テーブルと呼んでいるテーブルは、
長しかくの木でできており、
まんなかへんのくぼみに土がはいっていて、
そこからいろんな草が生えています。

 この春、庭に置いていたこのテーブルの真ん中にちょっとしたくぼみを見つけ、
それを少しずつ削って広げて、土を足しておいたところ、
いろいろな草の種が飛んできて、青々とした小さな茂みをつくり、
ハムシとかテントウムシとかアリマキなどの小さな虫が住みついて、
草の生えたすてきなテーブルができあがったのです。

「家のなかに置くと、庭にあるときとちょっと違ってみえて、面白いもんだね」
ジロがいいます。
「今年の冬は、家のなかで草と虫といっしょにいられるね」とシンカ。
「うん、きのうモーデカイが買ってきてくれた種もさっき植えたんだよ。
手伝ってくれてありがとう。
いまお茶いれるから、さっそくこのテーブルで飲もうよ」

 やかんのお湯がわくとカイサは草テーブルの上で、
ゆっくりとポットにお茶をいれて、
ちょうどいい具合に熟れている庭のイチジクの木の実を添えてだしました。

「朝晩は肌寒いくらいになったから、しみじみ紅茶がおいしいな」
ジロは鼻をうごめかしながら、目をつぶってふんわりと湯気のなかにたつお茶の香りを吸い込みました。
「うん、ここでこうやって、テーブルの上の小さな草原を見ながら飲むお茶は格別だなあ」
カイサがすごく幸せそうにいいました。

 そうして3日ほどたった朝のこと。
目玉焼きとサラダ、それにホットケーキを盛ったお皿と、
あたたかいココアのカップを草テーブルに運び、
カイサは朝ごはんを食べはじめました。
テーブルから生えている草の茎には、
オレンジ色や赤い地に黒いてんてんのあるテントウムシがいく匹か、
半透明の緑色の小さなアリマキを食べています。
テントウムシとこんな風にいっしょに食事ができるなんて、
なんて幸せなことでしょう。

 とそのとき、カイサは、草テーブルの土から、
新しい芽が出ているのに気がつきました。
「これ、もしかしたら、このあいだモーデカイが買ってきてくれた種の芽かな」
なんだか、見たこともない様子の芽でした。
茎には濃い緑色に黄色いすじがはいっていて、まるで竹のような節があります。
出たばかりのみずみずしい葉にも茎にもいちめんに細かい銀色の毛がはえていました。
そして、もっと驚いたことには、それはカイサの見ている前で、
目に見える速さで、
ぐんぐん伸びはじめたのです。
あっというまに、他の草より抜き出る大きさになりました。
カイサが口をぽかんとあけてみていると、
それは50センチほどになったところで伸びるのが止まり、
今度は茎から横に幾本も、まるで木のような細い枝をのばし、
その先にも小さくて丸っこい形の葉っぱが吹きだすように出てきました。

 カイサは朝ごはんもそこそこに、シンカの家へ走りました。
博物学にくわしいシンカなら、この摩訶不思議な植物について、
なにか知っているかもしれません。
シンカといっしょに息をきらせて家にもどったカイサがびっくりしたことに、
あの草はなんと、カイサがいないあいだにも成長し、
今では枝のあちらこちらには、
白いロウでできたように見えるツボミのようなものがたくさんついています。

「うーん、こういう植物のことをいぜんどっかの本で見たことがあるような、気がするんだけどなあ」
シンカは、草テーブルのまんなかに生えた不思議な植物をためつすがめつ眺めたり、
そっと触ったり、匂いを嗅いだりしてみました。
そうこうするうちに、見ているふたりの前で、
白いツボミはつぎつぎ花ひらきはじめました。
1センチほどもない花からは、甘いようなさわやかなような、
うっとりするようなネロリの花に似た芳香がただよってきます。

「うーん、うーん、どうしても名前をおもいだせないよ。うちに帰って調べてみるとしよう」
そういうと、シンカはいそいそと家に帰っていきました。
その日はもう、植物に変化は起こりませんでした。

 次の朝、カイサは目が覚めると、
草テーブルのところへ飛んでいきました。
「ひゃー!実がなってるよ~」
きのう咲いた花はすっかりしぼんでいました。
そのあとには、赤いすりガラスでできたような
5ミリくらいの実が、小さな灯りのように下を向いてなっています。




「なんてかわいくて、きれいな実なんだろう!」
そっと触れてみると、実はぽろり、と手の中に落ちてきました。
鼻を近づけてみると、上品な甘い香りがします。
「なんだか、食べられそうな実だな」

 カイサはなに気なしに手のひらの実を、ぽいと口にいれました。
そっと噛むと、まるでフルーツキャンディのような味の汁が、じゅわっとでてきました。
「おいしーい!シンカと、そうだモーデカイにも教えてあげなくちゃ」
出かけようとしたカイサはしかし、なんだか体をふわっと持ち上げられて、
やわらかい雲の上に置かれたような不思議な心持がしたかと思うと、
「あれえ・・・・・・気持ちよくて、うーん、ねむい・・・・」
つぶやくなり、床の上で眠り込んでしまいました。

 草テーブルのわきの床の上で気持ちよさそうに眠りこんで、
呼んでもゆすっても目を覚まさないカイサを見つけたのは、シンカでした。
カイサはそのまま、ひとばん目をさまさずに眠りつづけたので、
心配したシンカはもちろん、話をきいてやってきたジロやフェイも
一晩中起きていて、カイサのようすを見守ることになりました。

 そんなわけで、翌朝、カイサが目を開けると
みんなの心配そうにのぞきこむ顔が見えました。
「あー、気持ちよく眠ったー。
あれ、みんなどうしたの?」
「どうしたじゃないよ」
「きのうから眠りつづけていたんだぜ」
「もう目が覚めないんじゃないかって、心配しちゃったよ」

「うーん、なんだか頭のなかがもやっとしてるんだけど・・・・・・
あ、そうだ!
あのなんだかわからない赤い実を食べたら、急に眠くなっちゃって・・・・・」
「やっぱりそうか!」とシンカがいいました。
「きのう調べたら、あれはね、「ゆめみ草」っていう植物らしいんだ。
古代から怖い夢を見て困っている人にあの実を食べさせると、
不眠も解消されるし、いい夢を見られるようになるんだって」


「そうそう、すごく気持ちよく眠れたし、
見たこともない宝石みたいな珍しい虫がいっぱいでてくる、いい夢もみちゃった」
カイサがよく寝たあとのすっきりした顔でいいました。
「でも、食べつづけると眠ったまま起きなくなる危険もあるんだって」
シンカもジロもフェイも、あくびが出ました。
なにしろ、きのうの晩は一睡もしていませんでしたから。

 「ねえ、見て!草が枯れはじめてるよ!」カイサがいいました。
実だけが土の上に点々と落ちています。
「ねえ、この実さあ、ぼくもらっていっていいかな?」
「フェイも眠れないの?」
「いや、これを調合して、眠れない人が眠れるようになって、
いい夢を見られる砂薬をつくれないかな、と思ってさ」
「あたしはこれなくてもよく眠れるから、フェイにあげるよ」。

 フェイは「ゆめみ草」の実を干して粉々にしてから
ナミブ砂漠の赤い砂に混ぜ、新しい砂薬をつくりました。
きっと眠れなかったり怖い夢を見る悩みをもった人の役にたってくれるでしょう。

 きょうからはジロの店のメニューにも、秋の恵みがいっぱい。
新鮮なミルクとバターで仕上げたすばらしい香りの10種キノコのホワイトシチュー、
旨味が濃くて歯ごたえのある鹿肉のかたまりがはいったトマト味のスープ、
それにきれいな黄色が食欲をそそる、やさしい甘みのサツマイモと栗のポタージュ。

食後にはやっぱり甘いものが欲しい、というものには、
香ばしいコーヒーや、こっくりいれたミルクティに合う、
ちょっと苦いチョコレートをかけた、
揚げたてのドーナッツがでて、みんなを喜ばせました。




  モーデカイの卵は・・・・・・まだ孵らないようです。
なにが生まれるか、楽しみですね。




*************************************



 卵が大好きです。
朝ごはんはたいていどっさりの野菜料理(平日は夫が昼夜外食なので、一日分の野菜を朝食べさせちゃおうと)と卵料理。
なかがとろとろの目玉焼き。
ハムと玉ねぎのオムレツ。
バターとお醤油の風味のかき卵も。
残ったお味噌汁に卵をポトン、とか。
とにかく、卵を一日に2個以下(健康上)に抑えるのに苦労するほど好き。

ニワトリの卵ももちろんですが
食用以外の卵も好きで
鳥、爬虫類、そしてもちろん虫の卵を野外で見つけると
なんでなんだろう?「ラッキー!」という気持ちになります。
以前、南の島々の取材旅行中に、枯れたヤシの木の幹に
2センチくらいの白いかわいいタマゴを見つけ
旅行中持ち歩いていたら、途中で孵化してヤモリのあかちゃんが生まれたことがありました。
葉っぱをめくって、カメムシの卵を見つけたときも、その幸運に胸がはずみます。

ときどき見る「たまご図鑑」。
このなかでいちばんびっくりなのが、これ。

なんの卵かというと・・・・なんとヤマビル!というのだから、世界は不思議に満ちている。
大きさは1センチくらいで硬くてキラキラしているそう。


モーデカイがいつも朝ごはんに食べるのは、このくらいおっきなダチョウの卵。



ダチョウの卵は味はけっこういいそうで、20人分のオムレツができるくらい
たくさん卵液がはいっているそうです



 夏に高尾に虫さがしに行ったとき、駅前に置いてあったこのテーブルに目をうばわれました。
いろんな草が生えてるテーブル!




こんなのほしーい!
このテーブルでごはんを食べたり、おやつを食べたりしたらどんなにステキだろう。
カイサのように、虫の少ない冬に、家のなかでテントウムシやハムシを飼えそうだし。

 きっとこんなテーブルがあったら、何かおもしろい植物を植えてみたくなるでしょう。
「ゆめみ草」は、節でつながっているような多肉っぽい茎と葉、
そして実はイチイの実を思い浮かべてつくった架空の植物。
イチイの実は、すりガラスでできたように赤くてグミキャンディーみたい。
カイサがつい、食べてみた気持ちはわかりますが、
実の一部に穴があいていて、そこからちらっとのぞいて見える種は猛毒。
欧米では毎年子どもの中毒死原因の上位にくるそうです。

 年に数回、すごくいい夢を見ます。
決まってどこか青い海のそばに突き出ている岩の上に
珍しい虫がたくさん、うじゃうじゃいる夢。
どうして虫がいるのが海辺なのか不思議ですが。
目が覚めてから思い出して、夢の虫を絵に描いてみようとするけれど
やっぱり無理。
ああ、夢の中を撮れるカメラがあったら、とこんなときな思いますが、
いっぽう、
今年の春、しばらくの間、毎晩こわい夢がつづいたことがありました。
ああ、きょうも怖い夢をみるんだろうか、と、寝るのがゆううつに。
眠れないときに飲む薬というのはあるけれど
悪い夢を見なくする薬というのはないようで、
そんなときフェイの「ゆめみ草」配合の砂薬があったらいいなあ。
 

 ときどき、すごーく油菓子が食べたくなることって、ありませんか?
特に空気が乾いて快適な秋には、
カリントウとかドーナツとか沖縄のサーターアンダギーとか、
夏の間には見るのも暑苦しかったお菓子を
舌が求めてくるような気がします。
どれもカロリーの高さは半端じゃないので、ごくごくたまにしか食べませんが、
でも・・・・・このごろすごく気に入ったドーナツを見つけてしまい、
食べる頻度が上がってしまった。

 そのドーナツとは、


Florestaというドーナツ屋さんの
「ネイチャー」といういちばんシンプルなやつ




ひとかじりごとに、いい小麦粉、いい卵、いいバター、いい砂糖、いい油といった
素材の良さがつくりだすハーモニーがしっかりと舌に感じられて、
こういう「ちゃんとつくったもの」を食べると、心まで落ち着く。
油菓子の美味しさの原点といいたいような禁断の味を,
このドーナツで知ってしまいました。
なので、ジロの店でも、さっそくドーナツ。

 バニャーニャの近くの海に海底火山の噴火でできた貝殻島。
まわりの海は火山の熱で水温が高く、バニャーニャとは違う植物や生き物がいる島です。
この島には、いままで何度も行ったことのある南太平洋の島々で見たもの、体験したものがたくさん反映されているのですが、
そのひとつの島がフレンチ・ポリネシアのランギロア島。

 地球上の青という色のすべてを集めたような海に浮かぶこの島に
20年前、西村雅春、直子さんという日本人夫婦が移住しました。
島に移住するって、憧れて想像するけれど、なかなかできることじゃない。
私は島の取材旅行でお世話になり、すっかり仲良しに。

 ちゃくちゃくと夢を実現させ、島の暮らしに根をおろしたお二人の移住記の連載が、
はじまりました。
バニャーニャと同じように、毎月1回更新ペースの連載。
島に移住する、ってどういうこと?と興味のある方は
ぜひ!
『南の島 移住記』

バニャーニャの貝殻島も、これからますます南の島っぽくなっていきそうです。

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2 コメント

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3回読みました (y/Y)
2011-10-15 17:16:38
今月のお話、3回読みました!
モーデカイの卵が、楽しみデス/
いろんな形やいろんな柄、大きさも様々で、
卵っておもしろいです。
植物の種と同じですね。

植物テーブルもいいなー。
yさんが、「作ろうかな」と言ってマス。

今日、マダガスカルのテレビを見ていたら、
チクチクそっくりの動物がいました。
「テンレック」という動物で、すごくかわいかったです。
すごく子だくさんで住んでいて、
赤ちゃんが20~30匹いました。

チクチクにも兄弟とかいるのかなー?



返信する
テンレックかわいいですね (kaika)
2011-10-18 18:03:56
 y/Yさん、今月も読んでくださって
ありがとうございます。
長いのに3回も!

 草テーブル、欲しいですねー。
特にカイサのように家のなかに置きたいものです。

 チクチクはひとりぼっちで生きている生きものなので、兄弟はいないのですが、やんちゃをしながらも、ジロやみんながいっしょにいるので
たぶんさびしくはないと思うんですが。
 テンレック、かわいいですね!
チクチクももうすぐ冬眠しますが、テンレックも冬眠する動物らしいですね。
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