goo blog サービス終了のお知らせ 

知的財産研究室

弁護士高橋淳のブロクです。最高裁HPに掲載される最新判例等の知財に関する話題を取り上げます。

エレベータ審取

2012-02-12 17:38:56 | 最新知財裁判例

エレベータ審取

平成23年(行ケ)第10109号 審決取消請求事件

請求棄却

本件は拒絶査定不服審判不成立審決に対して取消を求めるものです。

争点は新規性・進歩性の有無です。

裁判所の判断は22ページ以下。

本判決は、まず、各種公報の記載から、「荷役機械等に使用されるワイヤロープにおいては, 強度が高くかつ細く軽量な性能を有するものが好ましいとされているところであり, 高強度のワイヤロープを得るための一手段として,ワイヤロープを構成するスチールワイヤ等の素線の強度を約200kgf/mm2(約2000N/mm2)以上にすることが好ましいことは,周知の技術事項(「周知の技術事項A」)であると認め」、かつ、JIS規格の記載等から、「一般に荷役機械用に用いられるロープとエレベータ用に用いられるロープとの間に格段の差異はないものと認められ, 甲16,17,乙2に記載されたワイヤロープの素線を荷役機械に用いられるのと同様にエレベータに用いることは排除されているとはいえないから,甲16,17, 乙2から認められる周知の技術事項Aは,エレベータにおいても適用されるものと認め」た上で、「先願発明における「支持ケーブル」を構成するスチールワイヤに関する強度について周知の技術事項Aを適用して本願発明の相違点1の構成を採用することは,設計上,当業者が必要に応じて適宜採用し得る設計的事項と解するのが相当」と判断しました。

本判決は、さらに、「機械装置においては,一般的に,小型化と軽量化は共に実現が期待されることが普遍的かつ継続的な課題であり,小型化と軽量化は相伴って希求されるのが通常であると解されるところ,エレベータの技術分野においても,国際公開WO99/43 589号公報(乙3)の翻訳文に相当する特表2002-504469号公報(乙4)の段落【0004】,【0008】,【0034】,乙5(ワイヤロープハンドブック編集委員会「ワイヤロープハンドブック」,日刊工業新聞社,1995年3月30 日発行)の記載(632頁10行~17行)からすれば,巻上機(駆動モータ)やシーブなどのエレベータ装置の部材を小型化や軽量化をすることは,エレベータの技術分野において一般的な技術課題であると認めることができ,また,エレベータにおいては,一般的に一定の「定格荷重」が定められているものであるから,先願発明においても,適宜定められた定格荷重との関係において駆動モータを軽量化するという課題が存在するものと認められる」ところ、「先願発明においては,本願発明における「巻上機」の重量がどの程度であるのかが具体的に示されていないものの,乙3(乙4)や乙5と同じエレベータの技術分野に属するものであるから,前記の一般的な技術的課題は,自明の課題として内在しており,かかる一般的な技術的課題に基づいて,定格荷重との関係において駆動モータを軽量化するという課題が存在するものと認められる」とした上で、「本願発明における「巻上機は,その重量は最高でもエレベータの定格荷重の重量の1/5である」とする構成は,その重量が低ければ低いほど好ましいという意味でしかなく,また,当該重量が1/5を超えてはならないというものでもないとみるのが自然であり,そこに格別技術的意義は見出せない。 そして,前記のとおり,先願発明においても,一般的な技術的課題に基づいて, 定格荷重との関係において駆動モータを軽量化するという課題が存在するものと認められるのであるから,本願発明のように格別技術的意義の存在しない「巻上機の

重量」を「定格荷重」の最高でも1/5とすることを選択することは,単なる設計

上の事項でしかないというべき」と判断しました。

本判決は、また、周知の技術事項Bの認定に関し、「甲19についていえば,シーブの溝もロープも共に金属である組み合わせを従来技術の問題点として記載した上で,特に,シーブの溝について柔軟性のある高摩擦材を取付けるものであるから,ロープについてはコーティングされていないものを用いていると解するのが自然である。 以上からすれば,甲18,19から,「エレベータにおいて,トラクションシーブやローププーリの綱溝を非金属材料でコーティングし,そして,巻上ロープとしてコーティングしない巻上ロープを採用すること」は周知の技術事項(「周知の技術事項B」)ということができる。 そうすると,本願発明における「トラクションシーブおよび/またはローププーリは,少なくともそれらの/その綱溝を非金属材料でコーティングされ」,そして, 「巻上ロープはコーティングされていない」という相違点1-3の構成は,先願発明における「駆動滑車」及び「偏向滑車」の綱溝に周知の技術事項Bを採用することで得られることになるので,当業者が適宜設計し得るものであり,新たな効果を奏するものではないから,課題解決のため具体的解決手段における微差というべきである」と判断しました。

本判決は、さらに、周知の技術事項Cに関する判断について、「甲20によれば,直径が8mm より小さいエレベータ用の巻上ロープは, 本件出願の優先権主張日前に周知の技術事項(「周知の技術事項C」であると認めることができる」とした上、「引用文献に記載の発明における「昇降ロープ」の太さについて,周知の技術事項Cを勘案して,本願発明のように「巻上ロープの太さを8mm より小さいもの」とすることは,当業者が必要に応じて適宜設定し得る程度のものであるというべきである」と述べ、また,「エレベータの技術分野における技術常識として,巻上ロープを駆動するトラクションシーブやローププーリ等の直径は,原則として,巻上ロープの直径の4 0倍以上とすることを要する」ことを認定した上,「巻上ロープとして直径6mm 程度のロープを使用した場合, 上記技術常識に照らせば,トラクションシーブやローププーリの直径は約240mm 程度のものを使用しうることになるのであるから,相違点2-1に係る本願発明のような構成とすることは,当業者が容易に想到することができたと認めることができる」と判断しました。また、本判決は、原告の「トラクションシーブの直径は巻上ロープの直径の40倍以上という技術常識にとらわれていたのであれば,直径8mm の巻上ロープを用いた場合のトラクションシーブの直径は少なくとも320mm 以上になるはずであり,「巻上ロープの太さが8mm より小さく」かつ「トラクションシーブの直径は最長で250 mm」という構成上の要件を両立させるエレベータには想到できない」との主張に対して、「本願発明の構成は,エレベータにおいて,「巻上ロープの太さが8mm より小さ」いものであって,かつ「該エレベータの巻上機によって運転される前記トラクションシーブの直径は最長で250mmであ」るというものであり,巻上ロープの太さとトラクションシーブの直径はそれぞれ独立してその数値範囲が定められているだけで,両者の関係を特定する構成要件は含まれていない」と述べた上で。「直径が8mmより小さいエレベータ用の巻上ロープが周知の技術事項(「周知の技術事項C」)であること,及び,巻上ロープを駆動するトラクションシーブやローププーリ等の直径は,原則として,巻上ロープの直径の40倍以上とすることを要することがエレベータの技術分野における技術常識であるから,巻上ロープとして,甲20に記載されているような例えば直径6mm程度のロープを使用すれば,その際のトラクションシーブやローププーリ等はその直径が約240m m程度となることは当然予測し得る事項であり,相違点2-1の構成は,当業者が容易に想到することができたことである」と判断しました。

本判決は、周知技術、技術常識、設計事項という概念を駆使して、進歩性を否定した例として参考になります。

 

コメントを投稿

サービス終了に伴い、10月1日にコメント投稿機能を終了させていただく予定です。