知的財産研究室

弁護士高橋淳のブロクです。最高裁HPに掲載される最新判例等の知財に関する話題を取り上げます。

引き戸装置改修方法事件判決

2015-01-08 17:56:28 | 最新知財裁判例

1 事件番号等

平成25年(行ケ)第10321号

平成26年09月11日

 

2 本件は、無効審判請求不成立審決の取り消しを求めるものです。主たる争点はサポート要件の有無です。

 

3 特許請求の範囲

  特許請求の範囲の記載は以下のとおりです。

  【請求項1】

  建物の開口部に取付けてあるアルミニウム合金の押出し形材から成る既設上枠、アルミニウム合金の押出し形材から成り室内側案内レールと室外側案内レールを備えた既設下枠、アルミニウム合金の押出し形材から成る既設竪枠を有する既設引戸枠を残存し、前記既設下枠の室外側案内レールを付け根付近から切断して撤去し、前記既設下枠の室内寄りに取付け補助部材を設け、この取付け補助部材を既設下枠の底壁の最も室内側の端部に連なる背後壁の立面にビスで固着して取付け、この後に、アルミニウム合金の押出し形材から成る改修用上枠、アルミニウム合金の押出し形材から成る改修用竪枠、アルミニウム合金の押出し形材から成り室外から室内に向かって上方へ段差を成して傾斜し、室外寄りが低く、室内寄りが室外寄りよりも高い底壁を備えた改修用下枠を有する改修用引戸枠を、前記既設引戸枠内に室外側から挿入し、その改修用下枠の室外寄りを、スペーサを介して既設下枠の室外寄りに接して支持すると共に、前記改修用下枠の室内寄りを前記取付け補助部材で支持し、前記背後壁の上端と改修用下枠の上端がほぼ同じ高さであり、前記改修用下枠の前壁を、ビスによって既設下枠の前壁に固定することで、改修用引戸枠を取付け補助部材を基準として取付けることを特徴とする引戸装置の改修方法。

 

4 裁判所の判断

本判決は、本件明細書の記載を引用の上、一般論として、「特許制度は、明細書に開示された発明を特許として保護するものであり、明細書に開示されていない発明までも特許として保護することは特許制度の趣旨に反することから、特許法36条6項1号のいわゆるサポート要件が定められたものである。したがって、同号の要件については、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明の欄の記載によって十分に裏付けられ、開示されていることが求められるものであり、同要件に適合するものであるかどうかは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が発明の詳細な説明に記載された発明であるか、すなわち、発明の詳細な説明の記載と当業者の出願時の技術常識に照らし、当該発明における課題とその解決手段その他当業者が当該発明を理解するために必要な技術的事項が発明の詳細な説明に記載されているか否かを検討して判断すべきものと解される」と述べました。

そして、当てはめにおいては、概要、「本件明細書の記載によれば、本件発明は、従来技術において、(ア) 改修用下枠が既設下枠に載置された状態で既設下枠に固定されるので、改修用下枠と改修用上枠との間の空間の高さ方向の幅が小さくなり、有効開口面積が減少してしまうという問題と、(イ) 改修用下枠の下枠下地材は既設下枠の案内レール上に直接乗載され、その案内レールを基準として固定されているから改修用下枠と改修用上枠との間の空間の高さ方向の幅がより小さくなり、有効開口面積が減少してしまうという問題(課題)があったため、これらの問題(課題)を、〈1〉既設下枠の室外側案内レールを切断して撤去する(構成1)、〈2〉既設下枠の室内寄りに取付け補助部材を設けるとともに、この取付け補助部材を既設下枠の底壁の最も室内側の端部に連なる背後壁の立面にビスで固着して取付け、改修用下枠の室内寄りを取付け補助部材で支持し、取付け補助部材を基準として改修用引戸枠を既設引戸枠に取付ける(構成2)ことにより解決したものであり、構成1及び2を採ることにより、改修用下枠と改修用上枠との間の空間の高さ方向の幅が大きく、広い開口面積を確保でき、構成2とすることにより、既設引戸枠の形状、寸法に応じた形状、寸法の取付け補助部材を用いることで、形状、寸法が異なる既設引戸枠に同一の改修用引戸枠を取付けできるという効果(本件効果)を奏するものであると認められる。そして、本件発明の「改修用下枠の室内寄りを取付け補助部材で支持」(請求項1ないし3)する、又は「改修用下枠の室内寄りが、取付け補助部材で支持され」(請求項4ないし6)る具体的な構成として、取付け補助部材106の上壁部109において改修用下枠69の室内側脚部分91及び支持壁89とを支持する場合における構成1及び2の具体的な構成(実施形態)は、本件明細書の段落【0070】(ただし、構成2のうち、取付け補助部材を既設下枠の室内側端部に連なる背後壁の立面にビスで固着する構成部分については、【0100】)に記載されている」ことを認定し、従って、「本件明細書の発明の詳細な説明には、当業者において、特許請求の範囲に記載された本件発明の課題とその解決手段その他当業者が本件発明を理解するために必要な技術的事項が記載されている」と結論づけました。

 

5 コメント

サポート要件違反の判断基準については、フリバンセリン事件判決の示した基準(拙著)「裁判例から見る進歩性判断」98ページ)とパラメータ事件大合議判決が示した基準が表面上は対立していますが、本判決は、時期的に新しいではなく後者の大合議判決の示した基準を採用しています。

容易想到性の判断基準が精緻化して容易想到性を肯定することの困難性が上昇したと体感される今日の状況を踏まえれば、サポート要件の問題は、防御側には有力な武器となり得るものであり、今後の裁判例の動向が注目されます。

 

以上

 


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