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企業再生請負人/技術戦略コンサルタント、田中 純の「経営・技術戦略実践講座」

イノベーションによる企業再生、経営・技術戦略、ドラッカー理論を一緒に考えていきましょう!

◆割れ窓理論と日本電産・永守会長~戦略具現化手法としての可能性は?

2010年10月02日 | 戦略請負人のつれづれ日記
※答えは足もとにある?ニューヨーク市の地下鉄犯罪・落書きの撲滅や、破たん寸前の企業の救済に劇的な効果を発揮したとされる割れ窓理論.


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 大阪地検前特捜部長らが逮捕されました(2010/10/2日経新聞)。大阪特捜部の組織ぐるみの証拠改ざん隠ぺい工作が疑われているようですね。本日のテーマは、こうした集団による犯罪行為に手を染めていく心理構造や悪循環に陥ってしまった組織を救済するための一つの考え方を提示している「割れ窓理論」です。


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さて、本題に入りましょう。

 割れ窓(ブロークン・ウインドウズ)理論という、都市環境改善のための考え方があります。

成功例に、ニューヨーク市の、地下鉄などの都市環境や犯罪率の劇的な改善例があることが知られています。その主な成果は、1990年を頂点として、同市における殺人事件が3分の2減少し、重罪事件は50%減、そのうち地下鉄での重罪事件の発生は75%も少なくなったというものです。

日本にも同様の事例があります。

2001年に北海道警の札幌中央署が、同じく割れ窓理論を採用し、「すすきの環境浄化総合対策」として犯罪対策を行いました。駐車違反を徹底的に取り締まる事で路上駐車が対策前に比べて3分の1以下に減少、2年間で犯罪を15%減少させることができた、という報告がなされています。

このような効力を持つ割れ窓理論アプローチですが、その内容は実にシンプルです。

たとえば、落書きや違法チラシなどの軽微な犯罪を徹底的に取り締る、といったアナログ的な対応を、とにかく粘り強く続けます。落書きが書かれてもすぐに消すことをひたすら繰り返し、軽微な犯罪にも妥協せず、それらが起こらなくなるまで断固とした姿勢で取り締まりを続けるのです。

このメカニズムを考えてみましょう。

落書きしたり犯罪を引き起こしてしまう人たちの多くは、生まれつきそのような資質を持っているというよりは、むしろ、周囲の環境に感化されて事におよんでしまう傾向が強いといいます。

これは、目に見える環境の悪さや規律のゆるさが「自分も同様のことをしてもよい」という暗黙のメッセージとなり人々の潜在意識に植え付けられ、集団への帰属意識や環境への適応本能と相まって、人々の悪しき行動を誘引する、という構造を持ってしまうと考えられています。

これを変えるためには、抽象論や精神論などではなく、同様のレベル、すなわち「具体的なかたちで、継続的に、断固とした意志を示す方法で“応戦”する」という方法が効果的とされており、前述の事例は、まさにこれを正面から実践した、ということになります。

 会社再建の名人で知られる、日本電産(※1)の永守会長も、同様の考えかたを実践して成果をあげています。

永守氏いわく、

「やることは二つしかない。一つは6S(整理・整頓・清潔・清掃・しつけ・作法)。職場をキレイにさせること。もう一つは出勤率。休まずに会社に来させること。これらを徹底してやらせることにより、会社は必ず改善する」

事実、このやり方を適用したコパル社(現日本電産コパル)やトーソク社(現日本電産トーソク)は、それまでの長期低迷がウソのように黒字化しています。両社は十数年ぶりに過去最高益を更新するなど、見事な再生を果たしているのです。

もちろん行動を律するだけでは業績の向上は望めません。しかし、一方で、いくら立派なビジョンや戦略を示しても、それを実行するための足まわりが伴わないかぎり「絵にかいたモチ」で終わってしまう可能性が高いことも事実なのです。

つまり永守会長は、戦略や利益計画を具現化するための足まわり(意識改革と行動)を徹底して再構築した、ということだと思います。
 
 ちなみに、「6S」や「行動を律する」というと、「なんだそんなことか」とナメてかかる人がいます。しかし、その習慣が、たとえば時間の使い方や顧客の情報の整理・整頓につながり、ひいては、業務全体の大きな改善へと波及してくることも忘れてはなりません。

 こうした類の手法は、最後までやり抜く覚悟さえあれば、ほぼ確実に一定の成果を得ることができるのです。少なくとも、戦略や経営計画の足まわり(具現化能力)を強化してくれるくらいの成果が得られることは覚えておきたいものです。




※1:弊社アドバイザー・協力者の京都大学経営管理大学院、末松千尋教授は、2010年6月より、日本電産の監査役を務められています。



※参照文献・情報:
   『壊れ窓理論の経営学』 マイケル・レヴィン 光文社 2006年
   『日経ビジネス 逆境を乗り越える経営』日経BP  2008年
    その他独自ルートによる情報、資料を分析


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