※力強く、かつ機動的な軍隊の作戦においては、常に「戦略」と「戦場における実戦の成果」の照合を通じて、戦略をスピーディに修正・高度化させるための作業が行われている.
◆ニュース雑感:
『ANAがJAL上回る、10か月累計旅客実績』
(2011年3月10日(木)読売新聞)
ANAがJALを10か月間の顧客累積実績で上回ったようです。2010年通期でも上回る可能性が大きくなり、もし実現すると、2002年度以降初めてとなるそうです。
ANAとJALは、日本の代表的な航空会社としてよく引き合いに出されます。しかし、その組織体質や企業カルチャはかなり異なります。JALはまさに官僚体質が蔓延しており、意志決定も遅く、今回の経営破たんにおいても、いまだに懲りていない幹部クラスの社員が大勢いるといわれています。
一方のANAは、10年余りにわたって改革をリードしてきた大橋現会長のスタイルからもうかがえるように、“暴れん坊”といってもいいような人材が幹部クラスにも結構いるなど、さまざまなチャレンジをする体質があります。
あまり知られていませんが、ANAは、2000年頃から、継続して、内部の業務改革やコストダウン(空港業務の改善や無駄な宣伝材料費の削減、空港物流の統合による効率化など)、グローバルネットワーク(スターアライアンス)に焦点を当てた運航体制の整備、人材教育への積極投資なども地道に続けてきているのです。
今回の逆転劇は、ライバルのJALの失速という理由だけではなく、世界を睨んで組織の内外でさまざまな努力を続けてきたANAの成果が表れ始めている証左だと思います。
○ANAがJAL上回る、10か月累計旅客実績(読売新聞3月10日)
● ● ●
◆本日のコラム:
さて、本日のコラムにまいりましょう。
会合などで知り合った経営者に「事業計画を作っているか」ときくと、みなさん、自信満々に「作っている」と答えます。しかし、その中身を見せてもらうと、たとえば「製品の売上高が毎月10%ずつ増加していく」「コストが毎月数%ずつ下がる」「原価構成が年間を通して安定している」等々、あまり根拠のない数字が並べられていたりします。
また、ファクトと希望的観測が混在していたり、現場がどこに努力を集中するかといった「勘どころ」が不明瞭だったり、肝心の、計画を具現化するための実行計画が欠落していたり、といったものも目立ちます。
要するに、単なる数字合わせや過去の延長線上の経験則を整理し、そこに少し願望を加えただけのようなものが実に多いのです。
こうした計画は、いわば事業計画の皮をかぶった「経験則整理書」「銀行向け説明書」(アスキー創業者・西和彦氏のことば)、あるいは「よき意図の表明」(P.F.ドラッカーのことば)に過ぎないといわねばなりません。すなわち、こうしたものには、事業の可能性をどう掘り起こしていくか、勝ちパターンをどう組織で共有し、利益を積み上げていくか、といった一番肝心な考察が抜け落ちているのです。
(銀行を説得できたとしても、肝心の社員有志に響かない計画書では、本末転倒といわれても仕方ありませんよね)
たしかに、全体の経営数値やタスクを体系的にレビューしたり、過去の経験則を整理したり、という意味においては、項目や数字をズラっと並べた計画書を作ることは必要です。小規模な企業であれば、こうしたものさえ作れば、あとは社長の掛け声ひとつで何とかなるかもしれません。しかし、少なくとも複数の製品系列や事業部を持ち、ある程度の規模を持つ企業は、これを事業計画のすべてとしてはいけません。
戦略的ポイントや勘どころを事業ごと、あるいは各部隊ごとにしっかりと明示し、「どこに活動努力を集中すればよいかが直感的にわかるレベル」「これらを積み重ねると、事業戦略にどう貢献するかが瞬時にわかるレベル」にまでこなれた形で、事業計画書の中に明記することが重要です。
ちなみに、こうした議論をすると、実務経験に乏しい人に限って「戦略と戦術は分けるべきだ」などと言い始めます。しかし、事前に立てた予測や計画が昔ほどには機能しなくなり、戦略そのものを進化・高度化させながら前進していかなければならない昨今において、それら(戦略と戦術または計画と実行)は、頭で考えるほど明瞭に区分できるものではありません。
つまり、戦略と戦術は常にリンクし同期しながら進めなければならないものとなったのです。具体的に言うと、実行活動は、成果をあげるのはもちろんのこと、戦略をさらに進化・高度化させるための情報収集機能やセンサー、実験的行動の場の役割をも担わなければならなくなったということです。
(★私は、もともと昔から、優れた企業ほど戦略と戦術は、一体のものとして運用されていたと考えていますが、これはまた機会を改めて論じたいと思います)
機能分担に基づく経営・事業計画や戦略立案手法のほとんどは、過去の右肩上がりの経済環境を背景に考案されたもので、これらは、すでに過去のものになりつつあるのです。
われわれ実務家は、戦略と戦術、あるいは計画と実行は表裏一体のものであり、常に両者が相互作用し、高め合いながら進めるべきものになってきたことを改めて認識しておくべきです。
惰性や経験則のみで従来スタイルの計画作りに取り組んでいないか、実際に計画と活動実態がかい離していないか、計画はどの程度成果をあげているか、あるいは、経営や実戦の経験がない“専門家”に勧められた方法を妄信していないか等々、経営・事業計画についての考え方をゼロベースで見直してみることを、ぜひともお勧めしたいと思います。
◆PRです!:
2011年5月、淑徳大学サテライトキャンパスにて、ドラッカーを学ぶ講座『第一線の実務家と考えよう!ドラッカーに学ぶ新型知識労働者の姿』を開催します。詳しくは下記をご覧ください。
○「講座PRチラシ ダウンロードのページ」
http://jtmt-office.jimdo.com/資料のダウンロード/
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〒105-0003
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◆ニュース雑感:
『ANAがJAL上回る、10か月累計旅客実績』
(2011年3月10日(木)読売新聞)
ANAがJALを10か月間の顧客累積実績で上回ったようです。2010年通期でも上回る可能性が大きくなり、もし実現すると、2002年度以降初めてとなるそうです。
ANAとJALは、日本の代表的な航空会社としてよく引き合いに出されます。しかし、その組織体質や企業カルチャはかなり異なります。JALはまさに官僚体質が蔓延しており、意志決定も遅く、今回の経営破たんにおいても、いまだに懲りていない幹部クラスの社員が大勢いるといわれています。
一方のANAは、10年余りにわたって改革をリードしてきた大橋現会長のスタイルからもうかがえるように、“暴れん坊”といってもいいような人材が幹部クラスにも結構いるなど、さまざまなチャレンジをする体質があります。
あまり知られていませんが、ANAは、2000年頃から、継続して、内部の業務改革やコストダウン(空港業務の改善や無駄な宣伝材料費の削減、空港物流の統合による効率化など)、グローバルネットワーク(スターアライアンス)に焦点を当てた運航体制の整備、人材教育への積極投資なども地道に続けてきているのです。
今回の逆転劇は、ライバルのJALの失速という理由だけではなく、世界を睨んで組織の内外でさまざまな努力を続けてきたANAの成果が表れ始めている証左だと思います。
○ANAがJAL上回る、10か月累計旅客実績(読売新聞3月10日)
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◆本日のコラム:
さて、本日のコラムにまいりましょう。
会合などで知り合った経営者に「事業計画を作っているか」ときくと、みなさん、自信満々に「作っている」と答えます。しかし、その中身を見せてもらうと、たとえば「製品の売上高が毎月10%ずつ増加していく」「コストが毎月数%ずつ下がる」「原価構成が年間を通して安定している」等々、あまり根拠のない数字が並べられていたりします。
また、ファクトと希望的観測が混在していたり、現場がどこに努力を集中するかといった「勘どころ」が不明瞭だったり、肝心の、計画を具現化するための実行計画が欠落していたり、といったものも目立ちます。
要するに、単なる数字合わせや過去の延長線上の経験則を整理し、そこに少し願望を加えただけのようなものが実に多いのです。
こうした計画は、いわば事業計画の皮をかぶった「経験則整理書」「銀行向け説明書」(アスキー創業者・西和彦氏のことば)、あるいは「よき意図の表明」(P.F.ドラッカーのことば)に過ぎないといわねばなりません。すなわち、こうしたものには、事業の可能性をどう掘り起こしていくか、勝ちパターンをどう組織で共有し、利益を積み上げていくか、といった一番肝心な考察が抜け落ちているのです。
(銀行を説得できたとしても、肝心の社員有志に響かない計画書では、本末転倒といわれても仕方ありませんよね)
たしかに、全体の経営数値やタスクを体系的にレビューしたり、過去の経験則を整理したり、という意味においては、項目や数字をズラっと並べた計画書を作ることは必要です。小規模な企業であれば、こうしたものさえ作れば、あとは社長の掛け声ひとつで何とかなるかもしれません。しかし、少なくとも複数の製品系列や事業部を持ち、ある程度の規模を持つ企業は、これを事業計画のすべてとしてはいけません。
戦略的ポイントや勘どころを事業ごと、あるいは各部隊ごとにしっかりと明示し、「どこに活動努力を集中すればよいかが直感的にわかるレベル」「これらを積み重ねると、事業戦略にどう貢献するかが瞬時にわかるレベル」にまでこなれた形で、事業計画書の中に明記することが重要です。
ちなみに、こうした議論をすると、実務経験に乏しい人に限って「戦略と戦術は分けるべきだ」などと言い始めます。しかし、事前に立てた予測や計画が昔ほどには機能しなくなり、戦略そのものを進化・高度化させながら前進していかなければならない昨今において、それら(戦略と戦術または計画と実行)は、頭で考えるほど明瞭に区分できるものではありません。
つまり、戦略と戦術は常にリンクし同期しながら進めなければならないものとなったのです。具体的に言うと、実行活動は、成果をあげるのはもちろんのこと、戦略をさらに進化・高度化させるための情報収集機能やセンサー、実験的行動の場の役割をも担わなければならなくなったということです。
(★私は、もともと昔から、優れた企業ほど戦略と戦術は、一体のものとして運用されていたと考えていますが、これはまた機会を改めて論じたいと思います)
機能分担に基づく経営・事業計画や戦略立案手法のほとんどは、過去の右肩上がりの経済環境を背景に考案されたもので、これらは、すでに過去のものになりつつあるのです。
われわれ実務家は、戦略と戦術、あるいは計画と実行は表裏一体のものであり、常に両者が相互作用し、高め合いながら進めるべきものになってきたことを改めて認識しておくべきです。
惰性や経験則のみで従来スタイルの計画作りに取り組んでいないか、実際に計画と活動実態がかい離していないか、計画はどの程度成果をあげているか、あるいは、経営や実戦の経験がない“専門家”に勧められた方法を妄信していないか等々、経営・事業計画についての考え方をゼロベースで見直してみることを、ぜひともお勧めしたいと思います。
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○「講座PRチラシ ダウンロードのページ」
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