*** june typhoon tokyo ***

Mia Nascimento / 桐原ユリ @mona records


 “January Birthday Girls”によるアットホームでハッピーな祝宴。

 ブラジリアン・シンガー・ソングライターのミア・ナシメントが、自身の生誕とソロ活動1周年を記念したフリーライヴ〈ミアナシメント生誕&1周年フリーパーティー!!!〉を開催。会場となったのは、ミア・ナシメント主催のフリーライヴ・イヴェント〈Friday Night〉にもなっている“日々を小さなフェスティバルに”をコンセプトとした東京・下北沢のライヴハウス/音楽レーベル「モナ・レコード」。ホームともいえるステージで、1月25日が誕生日のミア・ナシメント、当日1月28日が誕生日の桐原ユリ、1月20日が誕生日の幸せはとねと、“1月が誕生日の女たち”が肩を並べて、ハッピーでメモリアルなステージを展開した。

 オープニングアクトは、金髪ショートにオーバーオール姿で登場した、沖縄出身のシンガー・ソングライターの幸せはとね。名前が示すとおり、ほんわかしたハッピーなテイストのギター・ポップや、棘のないそっと肌を撫でるような優しい歌声が特色。上京後、1月9日にデビューしたという新人で、YUIやmiwaあたりをさらに初々しくしたようなピュアなイメージは、同性にもウケそう。ギター弾き語りでのステージだったが、キーボードのほか沖縄出身らしく三線も弾くそうだ。MCでの沖縄訛りもキュート。



 続いて登場したのは、“まんぼう”の愛称で知られる桐原ユリ。相変わらずのハイテンションで、自身とミア・ナシメント、幸せはとねの誕生日を祝福。“突拍子もない”“自由奔放”という言葉で語られそうなパフォーマンスを十二分に展開しているが、それは“歌うこと、音楽を奏でることが楽しい”ということを最優先した結果で、まずは自身が楽しむということを衒いなく発露している。その意味では、自身に素直な感情をそのまま届けるという、裏表のないステージともいえる。

 キーボード弾き語りでミア、幸せはとね、自身の名を一気に詰め込んで祝った「ハッピーバースデー・トゥ・ユー」を、ミア・ナシメントを迎え入れ、ケーキ贈呈の後に再度披露した後、はしゃぎ過ぎ、テンションが高まり過ぎたのか「頭が真っ白に」という場面もあるなど、自らハプニングを生み出していくスタイルも、彼女のステージの醍醐味でもあるか。

 冒頭の「Lady,Girl,Baby」をはじめ、「甘くしょっぱい恋のうた」「君は虹ガール」「Surprise you」といった、近年は小西康陽や野宮真貴など“ピチカート”界隈でも活躍しているジャズ・ピアニスト/シンガー・ソングライターの矢舟テツロー・プロデュース曲を中心に、自己紹介ソングとなる「まんぼう3」まで、賑やかで朗らかなパフォーマンスを一気に。矢舟プロデュース曲は、小気味よく弾けるジャズ・テイストを下敷きにし、桐原の奔放なパフォーマンスを“散らかさず”に伸びやかな歌唱へとまとめる力を帯びていて、改めて相性の良さも感じた。




 そして、本日の主役のミア・ナシメント。Especia、かんたんふといったグループ活動など音楽キャリアは5年以上だが、本格的にミア・ナシメントのソロとしては1周年となる。ソロ始動後は、グループ時代にはなかったソングライターの資質を窺わせており、ギターでゲスト参加した関美彦らの助力もありながら、良質な楽曲を生み出している。

 この日もタイトル未定の新曲2曲を披露。冒頭曲はチキチキというビートを組み込んだクールな温感のアーバン・オルタナティヴR&Bマナーのバラード、4曲目はティナーシェあたりのモードも感じるアブストラクトなアーバン・ダンサー。どちらも夜の海や街をすり抜けていくようなクールネスを帯びながらも、ところどころに情熱がチラつくアンビエント&チルな雰囲気が絶妙だ。資質としてもつラテンのグルーヴを惜しみなく放つ「Sweet Magic」のようなタイプや、フレッシュな感性と持ち前のポジティヴな明るさが出る「All Right」「Summer Me, Winter Me」なども彼女の特色を表わす楽曲だが、この新曲2曲のようなアダルト&クールなテイストでさらに彼女の音楽性の振幅が拡大。「KUMO」に窺えるポエトリー・ラップ調の楽曲もあり、それらの音楽的センスは大きな期待を抱かせてくれる。

 ゲストとして登場した関美彦のギターもミア・ナシメントのポテンシャルの高さを引き出しながら、ステージに華を添えてくれた。「リハーサルでやる演奏と本番でやる演奏が全然違う」とミア・ナシメントが話していたが、その場の雰囲気を肌で感じながら、いつの間にかフロアを心地よいグルーヴで包んでしまうリズムを爪弾いていく。特に「Forget」は、オリジナルでは空間を意識したチルウェイヴなアンビエントR&B作風だが、この日は推進力あるグルーヴィなギターを奏でて、異なる世界観を提示してくれた。

 桐原ユリへの“ハッピーバースデー”返しをするなど(関いわく)“ハッピー・ゴーラウンド”でアットホームに展開しながら本編を終えると、アンコールには“1月が誕生日の女たち”3名が登壇。ミアと桐原いわく“やだなーやだなーやだやだなー”というフレーズがクセになったという幸せはとねの「やだやだ」を破顔で披露すると、ラストは幸せはとねをステージ横に座らせたまま、「次の曲は……歴史的な瞬間です。分かる人には分かります」とのフリからミア&桐原で「Surprise you」を。

 この「Surprise you」は桐原のステージで先に披露した、桐原ユリ with 矢舟テツロー・トリオ名義の楽曲ではあるが、実は以前、矢舟による“アイドルポップス”をテーマに掲げるポップ・バンドのMILLI MILLI BAR(ミリミリバール)で披露していたもの。その時の(2代目)ヴォーカリストがミア・ナシメントで、その後にMILLI MILLI BARが歌っていたことを知らず、矢舟から提供を受けて桐原が歌い始めたという経緯がある。矢舟はプロデューサーとして、自身が歌っていた楽曲や提供曲を異なるシンガーに歌わせることも少なくないのだが、この日の「Surprise you」は、MILLI MILLI BAR時代にミアに歌わせ、その後桐原に歌わせるという、悪い言い方をすると、以前元カノに送った歌を、今カノと元カノが同じステージで歌うという状況(笑)に。それゆえ上述の「歴史的な瞬間」という発言に繋がったという訳だ。

 そんな文字どおりの“サプライズ”もありながら、終始微笑ましい空気に包まれながらエンディング。満面の笑みを振り撒いた“1月が誕生日の女たち”にとっては、それぞれのバースデーと共に歌える喜びを感じたメモリアルな一夜となったはずだ。



◇◇◇

<SET LIST>
≪幸せはとね:Opening Act≫

≪桐原ユリ≫
01 Lady,Girl,Baby
02 Happy Birthday To You(song for Mia, Hatone, and Yuri)(with Mia Nascimento)  
03 湯・湯・湯
04 甘くしょっぱい恋のうた
05 君は虹ガール(include phrase of “Over the Rainbow” by Judy Garland from musical fantasy film “The Wizard of Oz”)(Original by Tetsuro Yafune)
06 Surprise you
07 まんぼう3

≪Mia Nascimento≫
01 (Title TBD〈2022.1.8〉/ New Song)→ Rainy Day
02 All Right
03 KUMO
04 (Title TBD〈2022.1.2〉/ New Song) → Night
05 Forget(with Yoshihiko Seki)
06 Happy Birthday To You(song for Manbo)(with Yoshihiko Seki)
07 Summer Me, Winter Me(with Yoshihiko Seki)  
08 Sweet Magic
09 Shake
≪ENCORE≫
10 やだやだ(with Manbo & Hatone)(Original by Hatone Shiawase)
11 Surprise you(with Manbo)(as well known as Manbo's Song, and MILLI MILLI BAR used to sing) 


<MEMBERS>
Mia Nascimento / ミア・ナシメント(vo)

Yuri Kirihara a.k.a. Manbo / 桐原ユリ(vo,key)
Hatone Shiawase / 幸せはとね(vo)

Special guest:
Yoshihiko Seki / 関美彦(g)

◇◇◇

【Mia Nascimentoに関する記事】
2017/11/15 MILLI MILLI BAR@代官山WEEKEND GARAGE TOKYO
2018/01/25 MILLI MILLI BAR@北参道STROBE CAFE
2018/05/30 MILLI MILLI BAR@六本木VARIT.
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【桐原ユリに関する記事】
2020/01/08 〈まんぼうmeeting〉vol.5 @下北沢BAR?CCO
2020/10/12 桐原ユリ @渋谷WWW
2021/11/19 Mia Nascimento / 桐原ユリ @mona records
2022/01/28 Mia Nascimento / 桐原ユリ @mona records(本記事)

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