*** june typhoon tokyo ***

〈LOLIPOP〉@mona records【Mia Nascimento】


 天性のグルーヴネスで導く、珠玉のポップ・ステージ。
 
 ガールズ・グループEspeciaの“第2章”より加入し、解散後はポップ・バンドのMILLI MILLI BARやエレクトロ・ポップ・グループのかんたんふに参加、ラップ・グループ“絶対忘れるな”の「引力」に客演するなどさまざまな活動を展開してきたミア・ナシメントが、フリーとなり、2021年2月より弾き語りも含む新たな体制で始動。その“新生ミアナシメント”を確認すべく、ライヴ・イヴェント〈LOLIPOP〉に足を運んだ。会場は東京・下北沢のモナレコード。ゆるふわラップが特色のみつはしあきのラッパー名義MCあんにゅと刹那に感情を凝縮させるシンガー・ソングライターのおかありなとの共演ステージで“トリ”を飾った。
 ミア・ナシメントのライヴ観賞は、2019年3月の矢舟テツローとmanaka(真成香)を従えた北参道ストロボカフェでのイヴェント〈LOOKS GOOD! SOUNDS GOOD!〉(記事→「LOOKS GOOD! SOUNDS GOOD! @北参道ストロボカフェ」)以来だから、2年ぶりとなるか。

 以前と大きく異なるのは、グループの一人として演じるのではなく、作詞や作曲などの制作に携わる比率が格段に増したということだろう。それにより、自らが表現したい音楽性に寄り添い、彼女が持つ資質やセンスを発揮しやすい環境となった。もちろん、自ら制作することが全て正解という訳ではないが、これまで重ねてきたキャリアでの時間や経験を踏まえ、自身の表現を発露させるには適したタイミングだといえようか。


 Especia時代には既に醸し出していたが、何よりも意識せずともほとばしってしまう独特のグルーヴネスが魅力。トランジスターグラマーな肢体から溢れ出るそれは、ブラジリアンならではのDNAなのだろう。際立ってノリがある楽曲でなくともメロディやリズムに泳ぐように乗れるのは、なかなか学んでも身に付かない特出すべき資質だ。

 ブラジルの陽気なナショナルメンタリティもしっかりと宿しているのか、明るい笑顔の印象が強い彼女。そのキャラクターイメージをキュートなアプローチで描いた「All right」や、そよ風の薫りが漂うような洋楽の要素を採り入れた80sガール・ポップ作「Summer Me」にもそれは表われているが(“Summer Me, Winter Me”のフレーズはミシェル・ルグラン作曲のフランク・シナトラ歌唱で著名な曲を意識しているのだろうか)、一方で翳りのあるコンテンポラリーR&Bマナーの「forget」や、ミディアムなドラムビートを下地に音数の多くない浮遊感ある鍵盤を上モノにし、ほのかにトラップやアンビエントの要素を加えたアプローチとともに展開するR&Bマナーの「不透明」、豪・シドニー在住のHoofulによる宇多田ヒカル以降の2000年代R&Bを意識したようなミディアム・スロー・ジャム「JASMINE NO KAORI」など、陰影の濃い楽曲もある。

 そればかりでなく、ほのかな気怠さも帯びたソフトタッチのポエトリーラップも駆使したオルタナティヴなポップ「雲」のような表現力が問われる楽曲にもチャレンジ。この日は冒頭の「All right」から3曲を弾き語りしたが、オノマトペ大臣や仮谷せいら、DAOKOの歌唱でも知られるtofubeatsの「水星」のカヴァーもしっとりとした形で披露してくれた。
 後半には初披露となる新曲「Shake」を。文字通り身体をシェイクさせたくなるリズミカルなフックが耳を惹く楽曲だが、ヴァースからダンサブルなモードで突っ走る訳ではなく、2010年代以降のアブストラクトな空間を包含した、コズミックな彩色も感じるトラックから展開していく緩急が妙。それゆえ、熱を帯びた歌唱でなくともヴァースとのギャップでギアが上がり、ヴォルテージを高める要因にもなっている。現に、当日のフロアにはミア・ナシメントを初めて聴くという観客も少なくなかったが、この「Shake」でよりグッと彼女を注視するようなムードが生まれたのを実感した。

 今年2月からのスタートゆえ、現時点でワンマンライヴをこなせるだけの楽曲数はないが、イヴェントごとに新曲を披露していることもあって、近いうちにミア・ナシメント・サウンドのおおまかな全容が整うはず。音楽的な吸収力の速さや柔軟性と天性のセンスに良質の楽曲が揃えば、大きく化けることも期待出来そうだ。シティポップが潮流となり、やや軽薄なポップが跋扈しかけているシーンだが、“褐色”を帯びたポップスにもそろそろ光が当たってもいいのではないか。その嚆矢のひとつにミア・ナシメントが並んでも不思議はない……そのポテンシャルを秘めているのは確かだ。


◇◇◇

<SET LIST>
≪Mia Nascimento≫
01 All right
02 水星(Original by tofubeats feat.オノマトペ大臣)
03 Unknown Title(*)
04 雲
05 不透明
06 JASMINE NO KAORI
07 Shake (New Song)
08 forget
09 Summer Me, Winter Me

(*): Personally named "Morning Comes"

<MEMBER>
Mia Nascimento(vo,g)

◇◇◇






◇◇◇

【Mia Nascimentoに関する記事】
・2017/11/15 MILLI MILLI BAR@代官山WEEKEND GARAGE TOKYO
・2018/01/25 MILLI MILLI BAR@北参道STROBE CAFE
・2018/05/30 MILLI MILLI BAR@六本木VARIT.
・2018/09/05 MILLI MILLI BAR@北参道ストロボカフェ
・2018/10/14 Mia Nascimento with 田辺真成香@星空カフェgift
・2019/01/24 Mia Nascimento@下北沢BAR?CCO
・2019/03/01 LOOKS GOOD! SOUNDS GOOD! @北参道ストロボカフェ
・2021/05/08 〈LOLIPOP〉@mona records【Mia Nascimento】(本記事)



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