*** june typhoon tokyo ***

Mia Nascimento / ddm @mona records





 個性溢れるマッチングの妙で賑わせた、下北沢の愉楽なフライデーナイト。
 
 東京・下北沢にある“日々を小さなフェスティバルに”をコンセプトとしたライヴスペース「mona records」にてフリーライヴ〈Friday Night〉が開催。ミアナシメントがddmの美伎あおいの「mona recordsのステージに出たい」という意を汲んで、ミアナシメントとddmの対バンが実現した形となった。イヴェント・タイトルの〈Friday Night〉は、“朝までdancin'”“踊ろうぜFriday Night”と歌われるミアナシメントの楽曲「Shake」になぞらえて、“平日の金曜の夜だけれど(曲中に歌われているように“オールナイト”は出来ないが)最後まで踊って楽しめるイヴェントにしたい”という想いを込めて、ミアナシメントが名付けたとのこと。

 個人的にmona recordsでのミアナシメントのライヴを観るのは、今年の5月に行なわれたイヴェント〈LOLIPOP〉以来(→「〈LOLIPOP〉@mona records【Mia Nascimento】」)。この会場は着席形式の印象が強かったのだが、この日は椅子やテーブルを取っ払ってのスタンディング・スタイル。フリー・イヴェントということもあるだろうが、なかなか盛況な集客となった。

◇◇◇



 ミアナシメントについて、前回5月に観賞した渋谷La mamaでの〈SUNDAY GIRLS Presents“日曜の朝のイノセンス”〉後のレヴュー(→「Mia Nascimento @渋谷La mama」)で、「キャリアは若いが、高い吸収力で成長著しく、ポテンシャルの高さを垣間見せている」「ブラジリアンの遺伝子らしい自然体のリズムとグルーヴから導き出される、新たなテイストの楽曲にも期待出来そう」と記したが、その傾向はさらに加速度をつけているようだ。

 この日はギター弾き語りを2曲披露したのだが、弾き語り定番のしっとりとした「Miss you」に続いて演奏したのは、いつもなら音源をバックにパフォーマンスする「Forget」をセレクト。オリジナルは陰影がはっきりとしたコンテンポラリーなR&B調の楽曲だが、憂いも感じるギター・リフとともにテンポを落としてからクライマックスへと導く展開など、面影に引きずられながらもそれを振り切ろうとする葛藤や決意を吐露した……とでもいえるような情感を漂わせていた。オリジナルとは一味異なる、やや土の薫りがするソウルに寄せたアレンジとなった。


 その「Forget」から緩めのポエトリー・ラップを添えた「雲」へと一気に移ろうという振り幅もなかなかのものだが、続いてこの日のトピックといえる新曲に驚かされることに。「雲」同様にポエトリーなラップで展開するが、こちらは深海を漂うようなアンビエントなムードと冷温でソリッドなビートが特徴。前日に楽曲が完成し、翌日に実演するという身の軽さもあるが、ブラジリアンの彼女らしく、(以前本人も習っていたという)カポエラ(カポエイラ)の振り付けが印象的(当日の朝に仕上げたとのこと)。ダンスや音楽と格闘技の要素を合わせたカポエラは、トリッキーでアクロバティックというイメージなのだが、それとは対照的な、どちらかというと身を委ねながら緩やかに浮遊あるいは沈下していくような曲風にその振り付けを組み込むという発想は、彼女の着想の柔軟性を表わしているともいえるか。

 終盤はイヴェント・タイトルの元になった「Shake」と「Sweet Magic」というアップ・テンポな2曲でクライマックスへ。コズミックなミドル・トラックからリズミカルでクラップも飛び出すポップなフックへの展開がヴォルテージを高めてくれる「Shake」は、ミアナシメントを知らしめるためのポピュラーな楽曲としての機能を果たしそうだが、それに追従、あるいはそれにとって代わりそうなのが、ラストに披露した「Sweet Magic」。ブラック・コンテンポラリーでよく聴かれたようなグルーヴィなギター・リフとストリングスの音色を用いたハウス・ダンサー的なアプローチをアクセントに、中盤にクールなヒップホップ(ラップ)・パートを挟み込みながら、抑揚激しい展開で進むジェットコースターなファンキー・ダンサーに仕上がっている。フロアの熱量を一段上げたり、ラストへ向けてテンションを“着火”させたい時に有用なナンバーになりそうだ。

 楽曲やジャンルへの先入観があまりないのか、それが自由な発想となってさまざまなテイストへの着手やインスピレーションに繋がっているのだとしたら、世界観の拡がりが期待出来るし、今後もアッと言わせるような楽曲が生まれる可能性も高そう。彼女でしか生み出せない“雑種性”も一つの魅力となろう。
 もちろん、それだけではアピールにならないのも事実だが、大小のステージ経験を重ねながら、楽曲を深く咀嚼し表現していくことで、インパクトや訴求力も自ずと高まっていくはずだ。現時点ではまだ30分前後のアクトが大多数だと思うが、ワンマンライヴなど長尺のステージが可能となった際にどのような着想でステージ構成をするのかも待ち望みたい。そのためには曲数を順調に増やしながら、さらに描出力に磨きをかけ、オリジナリティに富むミアナシメント・ワールドを進化させたいところだ。
 
<SET LIST>
01 不透明
02 All Right
03 Miss you(sing with a guitar)
04 Forget(sing with a guitar)
05 雲
06 (New Song)
07 Shake
08 Sweet Magic

<MEMBER>
Mia Nascimento(vo,g)

◇◇◇


 トップバッターを飾ったのは(個人的に知らなかった)ddm。ddmはガーリーなエレクトロ・サウンドを特色とするセルフプロデュース・ユニット“エレクトリックリボン”のメンバー、美伎あおい(みき・あおい)を軸とした自由度の高いユニットで、実演はその時々でメンバーを入れ替えている模様。この日は美伎あおいのほか、凡やよい(美味しい曖昧)、かしょくの3名がステージに登場。ただし、序盤は3名で歌うも、その後は美伎あおいと凡やよい、美伎あおいとかしょくと楽曲によって編成を代えていく変則性も。楽曲性を考えてメンバーを代えているというよりも、その時に歌える人選でコンビを組むというような流動的なスタイルなのかもしれない。

 日常のシーンを呟くゆるふわラップなどのカテゴリーに入るのかもしれないが、ラップだけではなく歌モノもある。目がキリリとしているからか、銀狼のようなヘアカラーも手伝って一見やさぐれ感のある(ほんのり相川七瀬っぽさアリ)生意気ギャル系のあおいに対し、清純系のソフトなヴィジュアルのやよい、かしょくという、対照的なルックス同士でコンビを組んでいるところが印象的。とはいえ、MCで話していたが、“緊張しい”とのことで、本番前のあおいの極度の緊張がやよいに乗り移ってしまい、本番でやよいが4、5回ミスをしたこともあるとか。小心と大胆、臆病と豪放とは紙一重とも言うが、その意味ではあおいは(よく言えば)実践派なのかもしれない。

 中盤において、あおいとかしょくのコンビで披露したのが、chelmico(チェルミコ)の「ラビリンス '97」のカヴァー。もちろんスキルやフロウの安定性などの差こそあるが、このあたりが彼女たちが実演していきたいタイプ(目標)の一つなのだろうか。歌い終わった後に「やっぱいい曲だよね」「これからも歌っちゃいます」と語っていたことからも、chelmicoからの影響は少なくないはず。今後はそのカヴァーを基盤として、オリジナルの楽曲へどのように昇華していくかが大きな課題だろう。シャープな顔立ちのRachelと丸みあるソフトなそれのMamikoという組み合わせが、それぞれあおいとかしょく(の顔立ち)になぞらえてみると、chelmico風コンビのルックスにも思えてくるから面白い。ただ、歌割りのパートまで同じかどうかは分からないが(おそらくあおいがMamikoパートを歌っていたとは思う)。


 ddmファンにとってのトピックは、あおいとやよいでデュエットした新曲の「みらみら」だろうか。曲名を聴いた瞬間は「〈(私を)見て!見て!〉という曲かな」(ミラミラはスペイン語で「見て見て」の意)と思ったのだが、“マジックミラー、マジックミラミラー~”“マママママジで眩しくて夜まで~”という詞だったので、見当違いだった模様。こちらはラップ曲とは異なり、キラキラとしたポップ・ダンサー調のサウンドが特色で、あおいとやよいがフックで向き合う振りもあるなど、演者のテンションを上げてくれそうなナンバー。序盤で「私たちの曲はラップだけじゃない」とあおいが述べていたが、その印象を覆す一つの楽曲になりそうだ。心地よく歌う姿が印象的だった。

 ラストはミアナシメントが登壇して、あおいとのコンビで「愛っていうんだって」へ。歌唱前にあおいが「最後の曲はもう何か分かるよね?」と発したように、まだ楽曲数が少ないようだが、ほのかにラテン・ジャズなテイストを加味しながら展開する曲風は、ブラジリアンのミアナシメントにとって、ddm楽曲のなかでは最適解だったようだ。ファルセットやコーラスでは淀みないヴォーカルを繰り出すビタースウィートなあおいと、褐色の彩りがあるグルーヴィなミアナシメントのデュエットは、なかなかの好相性だった。

 初見ゆえddmの全貌は分からないが、あおいを中心に自らのキャラクターの強さを活かした楽曲にチャレンジしているといえるか。編成的に流動性があるユニットは、自由度が高い一方で、散漫になりがちなリスクもあるが、ddmとしていかなるアイデンティティを持たせていくかは、美伎あおいの裁量次第となろうか。所属するアイドル・グループ(エレクトリックリボン)の活動がメインとなるだろうが、そのなかでどのように成長し、個性を発揮していけるか。楽しみではある。


<SET LIST>(※順不同)

・11
・エブリデイチートデイ
・ラビリンス '97(あおい&かしょく)(Original by chelmico)
・みらみら(New Song)
・愛っていうんだって(あおい with Mia Nascimento)

<MEMBER>
ddm are:
美伎あおい(from エレクトリックリボン)
凡やよい(from 美味しい曖昧)
かしょく

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【Mia Nascimentoに関する記事】
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・2021/09/10 Mia Nascimento / ddm @mona records(本記事)

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