*** june typhoon tokyo ***

MILLI MILLI BAR@代官山WEEKEND GARAGE TOKYO




 新鮮とサウダージな薫りで包まれた、視界良好の初ライヴ。
 
 情報が溢れ、玉石混交が飽和する現代。コンビニエンスなものについ食指が動くことが多いなかで、一過性に終わらない音に出逢うことがなかなか容易ではないのも事実。その判断にすら戸惑いを感じたりすることも少なくないかもしれない。そんな今において、ライフスタイルや心を豊かにさせるかもしれないグッド・ミュージック足り得るバンドが登場してきた。
 “座って聴ける、オトナのアイドルポップス”をテーマに掲げて2017年に結成された、シンガー・ソングライター&ジャズ・ピアニストの矢舟テツローが率いるMILLI MILLI BAR(ミリミリバール)がそれ。矢舟がキーボードを担当し、カンバスの菱川浩太郎がベースを、土屋礼央(RAG FAIR)を擁したズボンドズボンの元メンバーの菅田直人がドラムを担う。当初は大野真緒をヴォーカルとして始動したが、大野が女優業に専念するため脱退。矢舟が新たなヴォーカルを探していたところで抜擢されたのが、ガールズ・グループ“Especia”(第2章)のメンバーだったミア・ナシメント。新体制として本格始動しての初ライヴ〈MILLI MILLI BAR × ユメトコスメ 〜swing Avenue autumn 2017〜〉が11月15日に東京・代官山にあるWEEKEND GARAGE TOKYO CAFE&DININGで開催されると聞きつけ、秋深く冬の始まりを感じはじめる東京の夜の街を急いだ。



 Especia解散後にミア・ナシメントのライヴを観るのは初となる(先日、ソロで弾き語りライヴを行なったが未見)。矢舟テツローのライヴも初めてになるが、同じく元Especiaの脇田もなりのソロ曲のうち、今のところ自分が最も気に入っている楽曲の一つの「Est! Est!! Est!!!」を提供しているということで、矢舟が提唱する“オトナのアイドルポップス”とミア・ナシメントのヴォーカルがどのようなケミストリーを起こすのかに興味を惹かれたのが、このライヴに足を運んだ最大の理由だ。個人的には“Especiaメンバーゆえに追いかける”という欲が良くも悪くもないため、期待半分・不安半分の心持ちで開演を待っていた。



 事前にツイッター上でリハーサルの様子が投稿されていたのが、現在17歳の女子高生であるミアをテーマに矢舟が書き下ろした甘酸っぱいポップ・バラード「My Sweet Seventeen」のみ。それ以外は初披露の全9曲。「My Sweet Seventeen」を聴いた時は、この手のしっとりとしたバラードが多いのかと思ったのだが、蓋を開けてみれば、ジャズ、ソウル、ファンク、ボッサなどが有機的に溶け込んだヴァラエティに富んだ上質なポップス群を披露。フレンチポップやソウル・ボッサ的なアプローチで可憐な音を響かせる「ねてもさめても」、アトランタ出身のジャズ・ピアニストのデューク・ピアソンが1969年に発表したアルバム『ハウ・インセンシティヴ』に収録され、クレモンティーヌのカヴァーでも知られる曲を新生MILLI MILLI BAR用に日本語詞でリアレンジした「Sandalia Dela」、スティールパンの音色で飾りトロピカルなムードを漂わせる「満月のDANCE」、ワールドミュージックをスタイリッシュなポップスに纏わせたようなピチカートマナーの「会えない時はいつだって」、アンコールで披露したスウィングするシャッフルビートとカラフルなポップネスが弾ける「Surprise You」など、正直なところ予想を覆すといっては失礼だが、思っていた以上のゴキゲンな気品とグルーヴに溢れたポップスを展開。特に本編ラストで披露した「遊び半分」は白眉で、ジャズ・ファンクのフォーマットを用いながらもソウル・ポップスとしても有効なサウンドメイクでナイスなグルーヴを構築。そこへビター&スウィートなミアのヴォーカルが溶け合い、“珠玉のセンチメンタル”をフロアに降り注いでいた。



 ところで、「Sandalia Dela」でも感じたのだが、ボッサ的なポップスを歌うシンガーは少なくないが、ミアはそれほどクセのあるヴォーカルワークでもないのにこの手の楽曲に過不足なく寄り添って耳を惹くのは、彼女が持つ“サウダージ”感にあるのかもしれない。サウダージは憧憬や思慕、切なさ、郷愁などがまとまった日本語では表現の難しいニュアンスの言葉だが、ブラジル人である彼女が遺伝子レヴェルで持っているその資質が、無意識のうちに矢舟らが奏でる心地良いリズムや音鳴りに滑らかなコーティングをそこはかとなく施しているのだと考えると、彼女ならではのスパイスが発露されていたと感じるのも合点がいく。
 「Sandalia Dela」はFantastic Plastic Machineがリミックスしたヴァージョンもあったかと思うが、ボッサをハウス的なアプローチでソフィスティケイトした楽曲などにトライしてみても、このバンドに有効かもしれない。前述の矢舟が脇田もなりに提供した「Est! Est!! Est!!!」はどことなくParis Match感があるが、そのあたりのシティ・ポップのなかでもアーバンな洗練性を携えた曲や、ピチカートマナーはもちろん、ボッサ・ハウス作風などは、彼女の声質やフィーリングにも合うと感じるからだ。



 ミア・ナシメントの初々しさもあって、当初は多少の“よそ行き”感もあったが、曲を重ねるごとにそのポテンシャルが発揮され、瑞々しく清々しい、時に甘酸っぱさも垣間見せた今回のステージ。バンドのコンセプトは“座って聴ける、オトナのアイドルポップス”というが、寧ろスタンディングで身体を揺らしていたかったと思わせるほど。心地良いグルーヴを生み出すためのヴォーカルとバンドとの連動性はこれから詰めていくところもあるが、初ステージと考えれば“上々”以上の滑り出し。楽曲数が増えた長尺のステージでのパフォーマンスにも期待したいところだ。MILLI MILLI BAR、まずは高気圧で視界良好のスタートを切ったといえるのではないだろうか。


◇◇◇

<SET LIST>
01 みゆき通り
02 ねてもさめても
03 運命論
04 Sandalia Dela(Japanese Ver.)(Original by Duke Pearson)
05 満月のDANCE
06 会えない時はいつだって
07 My Sweet Seventeen
08 遊び半分
≪ENCORE≫
09 Surprise You

<MEMBER>
MILLI MILLI BAR are:
Mia Nascimento / ミア・ナシメント(vo)
Tetsuro Yafune / 矢舟テツロー(key)
Kotaro Hishikawa / 菱川浩太郎(b)
Naoto Sugata / 菅田直人(ds)


◇◇◇




 オープニングはヴォーカルのユミとピアノの長谷泰宏によるユニット、ユメトコスメ。田中雄一を迎えてのトリオ編成。こちらも脇田もなりに「祈りの言葉」を提供している。同曲やNegiccoへ提供した「カナールの窓辺」のセルフ・カヴァーを含め、ユニット名どおりのファンタジックな、ファンシーな煌めきポップスを披露していた。今回は演奏曲にはなかったが、こちらもソフトポップスながらボッサやフレンチポップスに合いそうなムードを醸し出していた。トキメキやしがらみにまみれて潤いを失いかけた人たちの特効薬として機能しそうな、ドリーミーな感覚が優しく伝わってくるステージだった。

<MEMBER>
ユメトコスメ are:
ユミ(vo)
長谷泰宏(p)
田中雄一(vn)

臼山田洋オーケストラ(DJ)

◇◇◇





















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