メシア──世界唯一のスケプティックハンター。懐疑論者の嘘を暴く達人。
クラウディア──陰謀論好きのハーフの美女。
クラウディア 原田実さんはASIOSの『検証 陰謀論はどこまで真実か』の中で、下山事件の伝説を次のように紹介している。
朝日新聞記者(当時)の矢田喜美雄はルミノール反応(血液を検出するのに用いられる化学反応)の試薬を深夜の事件現場に撒いてみた。その結果、線路上にはルミノール反応の発光現象による光の道が現れたという。その光は汽車の進行方向から見て、遺体が轢断された位置よりも手前に長々と続いていた。ルミノール反応が起きた場所から採取された標本は東大法医学研究室で鑑定され、下山の血液型と一致することが確認された。
クラウディア これに対して原田さんは次のように反論しているわ。
では、線路上の血痕は何だったのか。ルミノール反応は人間の血液だけでなく、無脊椎動物を含む他の動物の血液や、金属イオン、植物の酵素などによっても引き起こされる。つまりルミノール反応があったというだけでは、そこに人間の血痕があったとは断定できない。さらに事件直後、現場は雨にさらされていた。このような状況だと、たとえ実際に血がこぼれていたとしても赤血球の細胞が壊れ、血液型判定に必要な成分が失われているのがふつうだ。ところが東大法医学部の古畑種基はその不確かなはずのサンプルからその「血痕」が下山のものであることをほぼ特定したわけである。サンプルは古畑らが使いきってしまったため、他の研究機関でのクロスチェックがなされることもなかった。
現時点からすれば、古畑らの鑑定は大いに疑わしいということになるだろう。
メシア まず原田さんは、まるで矢田さんがたった1人でルミノール反応の実験をやったように書いているけど、実際には以下のような多くの専門家が立ち会っていたんだ。
●東京地検の山内刑事部長以下6名
●警視庁の塚本鑑識課長ら3名
●東大法医学部の古畑教授、野田博士、中野助手、黒田助手
●東大裁判化学教室の秋谷教授、本橋助手
●朝日新聞の栗田記者、酒井操車係
クラウディア すごい面々ね……。
メシア さて、本題に入る。
原田さんは「ルミノール反応があったというだけでは、人間の血痕とは断定できない」なんて言ってるけど、ルミノール反応で引き起こされた血液が人間のものか動物のものかを判別するべく、《抗人血色素血清2万4000倍のヘモグロプレスチンのよる沈降反応》というものが試されたんだ。
結果、29検体が人間の血液であることがわかったんだ。
クラウディア なんかよくわからないけど、やっぱり人間の血だったのね。
メシア また原田さんは「ほかの研究機関でのクロスチェックがなされていない」なんて言ってるけど、これも事実に反している。
古畑教授の東大と国警科学捜査研究所血液課が、双方の検査が公平なものであるかどうかを、互いに第三者として確認し合っている。
クラウディア そうなんだ。原田さん、そんなこと全然言ってないけど……。
メシア 最後に「雨にさらされたら、血液型判定に必要な成分が失われる」という主張。
これはネタ元が不明で、なんという専門家の知見を参考にしたものなのかがわからない。
以前紹介した古畑教授vs中館教授の論争などでわかるように、科学の論争というのは非常に奥が深いんだ。
よって原田さんの主張に説得力はないと言っていいだろうね。
クラウディア なるほどね。
メシア しかし、これだけで終わったらこちらの主張にもあまり説得力がないので、原田さんが無視している決定的な事実を紹介したいと思う。
クラウディア まだなにかあるの?
メシア まず1つ目。
上下線にまたがる血痕とロープ小屋の血痕判定の結果、15ヶ所すべてが下山総裁と同じA型だったんだ。
それもA型と判定された血痕検査は、血清凝集反応が特にはっきりしたプラス3以上の間違いない反応のあったものしかとりあげていない。
クラウディア よくわからないけど、とにかく下山総裁と同じA型だったのね!
メシア では、最後の事実……。
今、《ロープ小屋》という言葉が出たけど、実は事故現場近くのロープ小屋の中でもルミノール反応の実験が行われていたんだ。
その結果、床から1.7メートルあたりの扉の上部に、人間の4本の指のA型の血痕が見つかったんだ。
クラウディア それがなぜ決定的な事実なの?
メシア わからないかい?
ロープ小屋なわけなんだから、雨の影響なんか受けないよね?
クラウディア ああ、そういうこと!
メシア ダメ押しにもう1つ。
東大の野田博士の実験で、枕木で検出されたAMQ型血液と下山総裁の血液が一致したんだ。
ちなみにAMQ型というのは、100人中3.5人しかいない珍しい血液型だ。
これでルミノール反応で引き起こされたA型の人間の血液が、下山総裁のもので間違いないことがわかってもらえたと思う。
クラウディア メシアさんが敵でなくてよかった……。
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