
メシア──世界唯一のスケプティックハンター。懐疑論者の嘘を暴く達人。
リネンちゃん──メシアの弟子。
リネンちゃん 下山事件他殺派の主張に「下山総裁は真の殺害現場で血抜きがされていた」というものがあります。
メシア うむ。
リネンちゃん それに対して原田実さんはASIOSの『検証 陰謀論はどこまで真実か』の中で次のような反論をしています。
第一、矢田喜美雄が想定するように下山が真の殺人現場で血抜きされていたなら、犯人が遺体の周辺に大量の血痕を残すということ自体おかしいではないか。
メシア 原田さんは事故現場に大量の血痕が残っていたと思っているようだけど、これは事実に反する。
東大法医の司法解剖の際、大理石の手術台に血があまり出なかったそうなんだ。
これは下山総裁が機関車に轢かれたとき、すでに身体の中の血が非常に少なかったことを意味する。
リネンちゃん なるほど。
メシア さらに東大の古畑教授は、下山総裁の遺体があった下のほうの土砂を何層にも分けて採取し、土砂に染み込んでいるはずの血液量を調べたそうなんだ。
しかし、その検査でも土砂に血液の反応がなかったんだ。
リネンちゃん うわぁ……。
メシア これらの結果をふまえて矢田喜美雄さんは『謀殺 下山事件』の中で次のように結論づけている。
(前略)轢断されたとき血液の飛散が少なかったことは、轢かれる前、死体自身に血がなかった──つまり死因は体の血を抜き取って殺した〝失血死〟だったかもしれないと考えられたのである。
リネンちゃん それじゃあ、原田さんの言う《大量の血痕》ってなんなんでしょうか?
メシア おそらく下山総裁の遺体の半径数メートル以内の血痕というわけではなく、事故現場周辺の下山総裁の血痕とされるものを指していると思われる。
リネンちゃん 真の殺害現場で血抜きがされているのなら、たしかにそれはちょっとミステリーですよね……。
メシア 実はこれにもちゃんと回答があるんだ。
リネンちゃん ホントですか?
メシア 『下山事件 最後の証言』の著者である柴田哲孝さんは、元731部隊のA氏という方に取材をしたことがあるんだ。
A氏の言葉を引用する。
「これは森村誠一の本にも書いていなかったから、一般の方はご存知ないと思うんですがね。731部隊では細菌兵器の研究の他にもいろいろな人体実験をやっとったんですよ。例えば断水。人間は何日水を飲まなかったら死ぬかとかね。ほかには断食。耐寒。これは零下10度の戸外に裸で放置したら何時間で死ぬかとか。感電実験とか高温実験とか、よくあれだけ残酷なことを考えついたものです。その中に、抜血という実験があったんですよ……」(中略)
「私は担当者じゃなかったから詳しくは知りませんけど、人間は体重の何パーセントの血を抜いたら体温がどのくらい下がるとか、意識を失うとか、死んでしまうとか……。そういうデータを取るわけですよ。拷問とかには、一番効果的だとは聞いています。なにしろ自分の命の時間が見えるわけですから、死ぬ覚悟がなければ話してしまいますね」(中略)
「しかし、下山さんの件ではもうひとつ目的があったと思いますよ。人間は、三分の一ほど血を抜くと意識を失うんです。そうしておいて、犯人は汽車に轢かせようとしたんじゃないですかね。薬で眠らせるのと違って、バラバラになってしまえば証拠は残りませんから。ところが何か手違いがあって、血を抜きすぎてしまった……」
リネンちゃん つまり、事故現場周辺の下山総裁の血痕は、その《手違い》のために流れ落ちてしまったもの、ということですか?
メシア たぶんそうなんだろうね。
ちなみに柴田さんの「殺害現場に731部隊の人間がいたとお考えですか?」という質問に、A氏はこう答えたそうだ。
「そうなんでしょうな。悲しいことですが。私は、いつか、誰かに、このことを話そうと思っていたんですよ。人間とは、なかなかこういうことを墓場までは持っていけないものです。おかげ様で、気分が少し楽になりました……」(中略)
「私にも、もうじきお迎えが来るんでしょう。でも……私は、この歳になってもまだ死ぬのが怖いんですよ。きっと、地獄に堕ちるんでしょうな」
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