タイのカヌー旅を始めようと考えたとき、地図の入手に苦労した。探し始めて、実際手にできるまで2年かかった。たまたまあるルートでタイの5万分の一地形図を手に入れた。その地図には発行者として「国軍地理調査庁」の名称が記されていた。
一本の暗い闇の中に伸びるロープを一手、一手、繰り寄せる感じで、調べていくと、タイ国防省に設置されいる、一セクションということが分かった。軍が地形図の作成と販売を管理しているのだ。
日本は本屋で容易に地形図が手に入る。しかし国境に隣国を抱え、時に緊張の高まる国はそう簡単に地図を売ってくれない。特に国境や紛争地区の地図は売ってくれないことが多い。
ずっとタイとマレーシアの国境付近の地図を欲しかった。しかし2001年の9・11以降、この地域の地図が手に入らない。マレーシアからタイにイスラムゲリラが入り込み、爆弾をテロを繰り返しているからだ。実は9・11以降、1年くらいは東南アジアのゲリラ活動は穏やかで、あま
り問題にならなかった。しかし2002年の夏ごろから雲行きが怪しくなってきた。
僕は2003年1月にマレーシアからタイのプーケットまで、ファルトボートで旅をする計画を立てた。しかし、情報収集をすると、すでに治安が低下、爆弾テロや襲撃で100人以上の死者が出ていること、そしてタイの協力者からのアドバイスでこの旅を中止した。

タイーマレーシア間の地図を手に入れた。この地図上でタイの国土は10%分ぐらい。90%はマレーシアの領土。隣国の正確な地形図も、地理調査庁は持っている。表向きでは売っていなくても、交渉次第で手に入ることもある。このような時は高度で独特の交渉術が物をいう。
しかし、すごい人がいた。2002年の2月にマレーシアのクアランプールからタイのプーケットまでシーカヤックでハイスピードで漕ぎぬけた人がいる。治安の悪化が起こる直前に、一気に駆け抜けてしまったのだ。
この人は、ガールフレンドが陸上サポートでずっと併走し、キャンプや食事、情報収集でこのパートナーが多きな役割を果たすらしい。そのため漕ぐことに集中でき、一日の漕行距離がとても長いそうだ。
この人とは、ニュージーランドのポールカフィン氏。僕が最も尊敬するシーカヤッカーだ。