ハミなし頭絡で楽しい馬生活!日本ビットレスブライドル協会

テーマ別に連載形式になっています。テーマ別に最初の記事からお読みください。

疝痛の治療、これでいいのか?

2019年10月22日 | 馬の医療や管理について

 小動物の獣医が書くのは、かなり勇気が要りますけども。やっぱり、どう考えてもおかしいから。

 まずは、人間の「疝痛経験者」の方の経験談をご覧ください。

 この方の入院体験談がこちら。

 

 この方は、潰瘍性大腸炎の既往症があり、何回も入院や手術の経験をされています。ので、腸閉塞の症状は、その後遺障害の一種であろうと考えられます。でも、テニスを頑張っていらっしゃるんですよ~~。ワタクシ、この方のやってる大会にお邪魔したこともあります。コテンチョンにやっつけられたな~~。そう、テニスってやってる人ってムードが明るいんですよ~~。馬周りの人って暗いでしょ。やなんだなあ。もっと明るくいきませんか

 それはさておき、この方のお話は、馬の疝痛の症状を馬が言えたとしたら、こうでしょう、というのがよ~~く分かる内容になっています。症状に浮き沈みがある、そのうち七転八倒状態になってしまう、点滴を打ってもらうとかなりやわらぐ、この中に「運動したらよくなった」という話はこれっぽっちも出てないでしょう。というか、運動どころじゃなくなってるのが、良くご理解いただけると思います。

 疝痛馬に対して「調馬索で運動させる」というのが、今も手広く行われている治療(というか対処?)のようですが、完全に間違い。十分な輸液・鎮痛・安静がキモだし基本で、なにかというとバナミンというけど、辛そうなら、メデトミジン&ブトルファノールの投与をためらってはいけない。バナミンは人間でいうところのロキソニンの親戚薬で、有効といってもたかが知れてる、筈なんですよ。メデトミジンとブトルファノールの効果は抜群なだけでなく、痛くてパニックに陥ってる馬を鎮静することで、安静も守れるようになる。落ち着かせるというのは、草食獣に対しては非常に重要な対応です。

 そういう基本対応を間違っているから、疝痛馬の死亡率が高いんでしょうね。

 で、輸液。夏場に多発する疝痛は、脱水が原因であることが多い。この場合はとにかく輸液して水分を補給しなければならないんだけど、馬では、その輸液剤として酢酸リンゲルや乳酸リンゲル液しか用いられてないのはなぜ?このリンゲル液は、水分欠乏型脱水を改善することはできません。等張液だから。だから、3号液等々の低張輸液剤を使わないと。この手の輸液剤はナトリウムを含まない分低張液になるので、細胞内に入り込んで脱水を効率的に補正する。だけど、低張液をそのまま体内に突っ込んだら、当然血球が壊れてしまう(浸透圧の違いのせいですね)ので、そこをブドウ糖で補って等張にしている。この辺はこちらを読んでください。輸液の理論って結構難しいんですが、正確な知識に基づいて使うと効果は抜群。

 馬は輸液ができる(つまり、血管確保をしやすい)のが有利で、ウサギなんかよりよほど治療しやすいと思うんだけど。

 で、おそらくこれに対する反論として「糖質を入れると蹄葉炎になる」というのがあると思います。これは、確かに事実としてあります。しかし、蹄葉炎になる、その原因は、実は糖質ではない。これについてはおいおい書きます。自分が馬の医療で理解したことは、今まで言われていることを全て覆すことになってしまうことになりそうなんですよね・・・・・。 

つまり、疝痛に対する対応は、1~5くらいが「予防」で、6くらいに「正しい内科治療」7以降に外科(できるならね)となる。現実には7なんか無理なんだから、1~5を頑張らないといけません。ので、予防について、詳しく書こうと思います。

 あとですね、そこらじゅうの乗馬クラブで、どうやら勝手に輸液やったり注射したりしてるらしいんですけど、それ、獣医の仕事なんですよ。こんな記事を書くと、途端に「じゃあメデトミジン分けてくれ」とか言われそうで。冗談じゃない。埼玉県では「愛犬家殺人事件」が起きてますからね~。獣医から横流しされた筋弛緩剤でもって人を殺しちゃった、という事件でしたけども。「疝痛くらいで一々獣医なんか呼んでられるか」というセリフは漫画「動物のお医者さん」に出てきましたけど(罪作りな漫画だ…困ってます)、獣医を呼んでください。ちゃんとした知識のある、勉強している先生を。


馬の疝痛を引き起こすもの

2019年10月20日 | 馬の医療や管理について

 ウサギでは「朝見たら死んでた、が割と普通に起こる」と書きました。これは草食獣&鳥でよく見られる現象ですが、勿論理由があります。要するに「黙って具合が悪くなってる」から、ですね。草食獣は、野生の世界では、まず寿命で大往生にはなり得ない。体調不良でよたよたした途端に肉食獣に食われてお陀仏、というのがほぼほぼ100%じゃないかと思う。なので、とにかくなにがなんでも「正常っぽくみせる」のがうまい。というか、本当にあまりよく分かってないんじゃないか、と思う時すらある。今までのケースだと、後ろ足がびっこ引くんです、という稟告で連れてこられたウサギの本当の疾患は子宮破裂&腹膜炎でした、なんていうのもありました。人間だったら七転八倒になりえるような深刻な病態なのに、飼主が理解できるのがいいとこ「びっこ」。腹痛を表現する症状がその程度だもの、ホントに困る。飼い主が病状の深刻さを全く理解してくれないしね。「昨日までは元気だったんです」。ウサギを診察する先生なら、誰でも聞き飽きているセリフ。元気そうに見せていただけですってば、となるわけですが、これが大きい診療トラブルに繋がりかねない実態がありまして(昨日まで元気だったのに、診察されたら死んじゃった、どうしてくれる、となる)、ウサギの診療をやめちゃう先生も多い。とてもよく分かります。はっきり言って、草食獣は、同じ哺乳類かもしれませんけど、全然別物、人間の常識なんか通用しません、という事は、ウサギを飼う方にはぜひともご理解頂きたいことではあります。

 馬はどうか?やっぱりどうも、分かりやすく「やばいんです」とは教えてくれなさそうですよね・・・・。

 で、ウサギでは、腹痛の原因になっているらしい原因が「毛」だったり、餌だったり、と割とはっきりしているんだけど、馬の場合、腹痛を誘発するものは何なのでしょう?「ストレス」だ、と簡単に片づけたいわけですが、この「ストレス」、馬にとっては、本当にたくさんあって、可哀そうになっちゃうんだよね・・・・。というか、そうしたストレスは結局使役されている馬に疝痛が多発している実態にリンクしている。呑気に暮らしているポニーが疝痛で死にました、という話をほとんど聞かないのは、やっぱりいわゆる「ストレス」をあんまり受けていないから、なんでしょうね。

 では、使役されている馬が被っているストレスとはなにか?図解してみました。乗馬とか競馬馬の場合です。騎乗されてる時のストレスと、厩舎にいる時のストレスと。乗っている場合は、これが基本でしょう。体があちこちガタピシしている馬がすごく多いんですが、体の痛みをあれこれかばっているうちに全体がおかしくなってしまってる可能性が高い。これを小手先のマッサージなんかで改善なんか、できるわけがない。根本をどうにかしないと。

 これに乗り手の操作が加わる。とりあえず、馬に乗りたきゃ「痩せろ」。痩せるために馬に乗るとか乗馬でダイエットなんていいますけど、これだけで振り落とされて当然と言えます。あと、手綱を引っ張ってバランスを取ってしまう乗り方をするなら、ハミを使うな。よくいます、軽速歩の時、立ち上がる時に自分の体重を下半身だけで持ち上げられないもんだから手綱を引っ張り込んで立ち上がってる人。ハミにもたれるなんて、馬を非難するバカが多いけど、ハミにもたれてんのは、人間側なんだってば。こういう乗り方をしちゃう人、初心者はほぼ全員じゃないかと思うんだけど、いつまでもそうやってる人が9割、というのが日本の乗馬の現状です。だって、指導員がそういう事を指摘しない、だけじゃなくて、自分を鍛えることを全くやっとらん人ばかりだものね。軽速歩の時に手綱を離して立つ座る、できますか?これができないなら、できるまでスクワットくらいするべきでしょ。なんもせんで要求ばかりされたら、馬がブチ切れるのは当然でしょう。おまけに鞭だの拍車だの、乗られるたびにこんなんじゃ、乗馬される=苦行以外のなにものでもない。

 あとね、夏場のアブ・ブユ・サシバエ。こいつらを防御する方策を全力で考えないと、更に事故率が上がる。馬がいる=ハエがいてもしょうがない、じゃ済まないです、これからは。虫=不衛生=病気・怪我なんだから。

 しんどくて仕方のない馬場からやっと帰ってきて、休息できる厩舎ではどうかというと。

 

 大体、乗馬クラブって川沿いにある場合が多い。土地が安くて、あまり近所に民家がなくて、割と平らで広い、というのがどうしても河川敷や、それっぽい場所になってしまうんでしょう。だから、いつも湿度が高めだというのは、考えていなければならないことだと思う。それから、濃厚飼料は、絶対に給与するべきでない。なんか、ここで人間の「常識」が出てきちゃうみたいですよね。毎日こき使ってるから、栄養のあるいい飯で、とリポビタンDを飲ませるような感覚で給餌しちゃうんでしょうけど、それやるから胃炎が起こる・で、馬ががれまくる結果になるのよ。これを一番やられてるのがサラ。若い頃、というか子供の頃から、そんな飯を給餌されている実情は、この本

に書いてありましたけど。獣医はなんも指導してないらしいなあ。なにやってんです?だから、乗馬になったサラに対しては、特に粗飼料だけにして、消化管をいたわってあげなくちゃだめです。

 馬はやっぱり草食獣ですんで、奴隷じみた日々でも、黙々と我慢してるんですよね。でも、時々ブチ切れるってわけ。日々の「苦行」に対する馬の許容レベルは、個々の馬の性格・性別・鈍感か敏感か・季節・年齢・その日の体調で日々揺れ動く。今まで見てきた奴だと、いわゆる「物見」と言われているもの・突然暴れ出す・乗り手を振り落として厩舎に逃げ帰る・色々あります。他にもありますよね、鞍付けを嫌がる・ハミを付けさせたがらない・どこかちょっと触ったらいきなり噛みついてくる・蹴る・逆に洗い場で寝落ちしてしまう・なんというか、およそ人に「慣れている」と言い難い数々の反応は、結局人といること・人からされることが不快だ」という表現に他ならない。噛むだの蹴るだのは、もう、最終手段ですから、そんな行動を引き出してしまっていることに、元来人間は猛反省するべきなんですよね。で、どうすればいいか、真剣に深刻に考えろよ、と思うんだけど、そうしないでしょ。で、あの馬は危険だ・性格が悪い、と馬におっかぶせると、最終的にはある日、限界を超えちゃって、疝痛起こして死んじゃうわけだ。

 ので、極論すると「使役をやめろ」になっちゃうんですけど、残念ながらそうはいかない。使役しないで大動物を飼う、ことはほぼ無理筋で、これを実行すると、おそらく今の「大動物」家畜の大半が絶滅すると考えられるんですよ。馬は、大動物家畜の中で一番減少率が高いと思うのだが、結局、この動物が使われてきた理由である「移動の手段」が車等々にとって代わられちゃったもんだから、使いどころが減ってしまった、のが痛いです。競馬をやめろ、というのも時々聞くが、それやったらサラは全滅となります、おそらく。だから、使役は使役として、もっと馬が快適に使役に応じてくれるような工夫をする、というのが現実的でしょう。で、それって結構簡単だと思うんですよ。なのに、だーれもそれを考えないし、実行もしないし。ので、いつまでたっても疝痛が減らない。バカな話だ。


ウサギの疝痛

2019年10月02日 | 馬の医療や管理について

 ウサギの病気は、その大半が生殖器系(ただしメスのみ)と消化器系疾患。最近はウサギも長生きするようになりまして、ガンや老衰になるウサギも出てくるようになっちゃいましたけども。で、消化器系疾患はほぼ2種類。

1)歯の疾患。伸びすぎや、不正咬合・歯牙膿瘍等。:歯は消化器の一種です。

2)麻痺性腸閉塞(便秘という症状になります)

 ウサギの麻痺性腸閉塞の症状は、本当に急性で、さっきまで普通にしていたのに、いきなり食べなくなる、なんか元気がなくなる、便が出なくなる、とこんな感じ。まあ、馬と似ていますね。で、つい様子を見てしまうと、翌朝死んでました、ということになる。

 この腸閉塞症状は、当院では割と季節性があって、春秋に多い。最近は減少傾向にあるが、昔は本当に多発して、往生しました。

 さて、この原因は何なのか?ウサギについては、朝見たら死んでた、というのが現在も普通にあるので、「寂しいと死ぬ」なんていう変な説がまかり通ったりしている。残念だが、ウサギは頭が悪くてですね、「寂しい」なんて高級な感情を持つこと自体あり得ないんですよね。別にちゃんと理由がある。で、これは、基本人間がこしらえてしまったものだ。原因は大きく分けて2つ。

1)食餌:かつて、ウサギはその辺の残飯や野菜くずを与えられていた。で、しょっちゅう下痢して死んでいた。草食獣の下痢は我々の下痢とは違って、腸内細菌叢のかく乱によるものだから、死に直結しかねないくらい危険な疾患であることを理解するべき。で、犬にはドッグフード・猫にはキャットフード・ウサギにはラビットフード、となってきたんだけども、そのラビットフードが腸閉塞の大きな原因になってしまったのだ。

2)毛:草食獣のウサギは、野生の状態では常に皆さんの食糧として狙われてますからピリピリと緊張に溢れた生活をしてます。ところが、家で飼われてると、その緊張がない退屈やることない毛づくろい、というパターンにはまるウサギが非常に多い。で、ウサギはそもそも毛皮の元として家畜化されたという由来もあって、毛が細い・長い・もつれやすい、これを毛づくろいの時にどんどん飲み込んでしまう。ウサギは嘔吐ができないから、飲み込んだ毛は糞便で出すしかないのだけれど、ここにラビットフードが絡まりついて、胃の中で毛玉をつくってしまう。胃が自分の毛でパンパンになるウサギもいる。こうなると、手術して取り出すしかないのだが、その手術で死んじまうウサギも多い。痛いくらいなら死ぬ、というわけで、苦慮させられます。

 この「胃内毛球症」は、エキゾチック専門誌で特集されるくらい多発する重要疾患である。毛玉症というと、すぐ猫となりますが、嘔吐ができる猫ではまず、こんな病気は起きない。そうでなくても、毛のせいで胃潰瘍や胃炎が普通に起こる。その結果、胃が痛い腹が痛い腸管の蠕動がストップ便秘、という流れ。春秋にこの病気が多発するのは、要するに毛の生え代わりのシーズンで、毛がどんどん胃にたまりやすい時期になるから。

 ラビットフードが毛玉を大きくしてしまう理由は、そもそもラビットフードをフードの形にまとめるために使われる「のり」の役割をする物質(グルテン等々・または炭水化物)が胃の中で毛に絡みつくからだ、とわれています。だから、現在推奨されているラビットフードは、ノングレイン系になっているわけ。それも、ほんの少量でたくさんでしょ、というのが最近は主流の見解です。ペットウサギは短期間で体を大きくして毛をよくして肉やら毛皮やらに変身させる家畜ってわけじゃないので、家畜ウサギを念頭に置いてつくられたラビットフードは、そもそも適合しないんですね。

 で、今は、ウサギにラビットフードなんかほとんどやらなくていい、牧草だけ与えてください、というのがウサギを診療している先生の意見です。大体盲腸でなんでもつくれるんだから、栄養バランスなんか別に考える必要なし、消化器を甘やかすな!!という結論なんですね。牧草のみ与えていると、毛が牧草と一緒に腸に押し流される傾向が高くなる、そのせいか、最近はこの疾患は減ってきた。歯もしっかり使うから、歯牙疾患も減少するようになる。牧草は食べるのに時間がかかるから、退屈病も若干なくなるわけで。草食獣にとって、「退屈」というのは、困った事態なんですよね。

 あと、それと別にウサギに起こる便秘や下痢の原因として、いわゆる「ウサギのおやつ」が挙げられる。ドライフルーツだの、クッキーだのといった糖質や炭水化物が盲腸をダメにしちゃうんですね。発酵腐敗モードにチェンジしちゃって、敗血症、となりかねない。特にメスウサギは、そういう「美味しい餌」に慣れてしまうと、普通の牧草を食わずにハンストを起こしたり、もらえないとストレスで毛引き症(自分の体毛を引っこ抜く一種の精神疾患)を起こしたりするから面倒なのだ。だから、最初からそんなもんやりなさんな、甘やかしちゃいけません、と口を酸っぱくして言うんですが・・・・・。可愛いからどうこう、というのは、こういう点でもダメなんですよね。

 馬についてはどうか。皆さん、甘やかしてませんか?