人質の朗読会
小川 洋子 著 中央公論新社 / 2011.2
遠く隔絶された場所から、彼らの声は届いた。
紙をめくる音、咳払い、慎み深い拍手で朗読会が始まる。
祈りにも似たその行為に耳を澄ませるのは人質たちと見張り役の犯人、そして…。
囚われの身となった人々が、遠く、隔絶された場所で語るのは、絶望ではなく生きるための物語。
しみじみと深く胸を打つ連作短篇集。
第一夜 杖
第二夜 やまびこビスケット
第三夜 B談話室
第四夜 冬眠中のヤマネ
第五夜 コンソメスープの名人
第六夜 槍投げの青年
第七夜 死んだおばあさん
第八夜 花束
第九夜 ハキリアリ
これはなんていうか、深いですね~。
それぞれのお話は特筆するようなものではないのですが、それぞれが物語を書いた背景と、その物語の伝わり方っていうんですかね、そういうところに感慨深さがありました。
ツアー先で反政府ゲリラに身代金目当てで誘拐されたツアー参加者たち8人のお話です。
100日以上も監禁され、ようやく助けられるかと思いきや、犯人の仕掛けた爆弾によって全員が死亡してしまう…という、とてもショッキングな出来事から始まりした。
その後、監禁中の人質たちが、自らの出来事をお話にし、順番に朗読していくということを始め、それを盗聴し録音していた特殊部隊の一人が録音テープを遺族に渡したことがきっかけで、それが「人質の朗読会」としてラジオで放送されるのでした。
それぞれに思い出とか出来事を丁寧に記し、そして、それを本人が丁寧に読み、更に、他の人たちが丁寧に聞いているのだろうなと思うと、その人質たちの様子が浮かんできて胸を突かれる思いがしました。
と同時に、やはり、それを聞いていた異国の特殊部隊の人も言葉は通じなくても厳粛に聞いていただろうなと思いました。
長い人生の人もいれば、まだ若い人生の人もいて、それぞれにお話に出来るような出来事があったんだな~と、ちょっと意地悪な感想も持ったのですが、極限の状況で、何もすることもなくただ不安な気持ちでいる中、たぶん、自分の人生を振り返るきっかけになり、きっと、自分自身と真摯に向き合い、一つずつ丁寧にそれまでの人生を思い起こしたのかなと思いました。
もちろん、小川さんが描いたフィクションなのだと意識していてもとてもリアルに感じました。
それぞれのお話の最後に、職業と年齢、性別、ツアー参加理由が書かれていて、その瞬間にグッと押し寄せてくるものがありました。
このお話は、単なるお話のようで、物凄く深みのあるお話だと思います。