つれづれなるまま映画を観て過ごす「ベッチーの映画三昧日記」

映画検定1級のベッチーのベッチーによるベッチーのための映画館鑑賞記録gooブログ。
コンテンツ:ベッチーの映画三昧日記

「バ―ニング 劇場版」

2019-03-19 18:31:01 | goo映画レビュー
●ベッチー的映画三昧日記
 主人公が最後の行動に至った胸の内、心の燃え上がりをどうみるか「バ―ニング 劇場版」


「ペパーミント・キャンディ」で韓国映画界のニューウェーブの旗手として一躍カルトファンを得たイ・チャンドン監督の8年ぶりの新作「バーニング 劇場版」。第71回カンヌ国際映画祭国際批評家連盟賞受賞作で是枝監督の「万引き家族」とパルム・ドール賞を競ったという作品だ。日本つながりは、もう一つあって、本作の原作は村上春樹の短編「納屋を焼く」ということだ。

 大学卒業後、アルバイトをしながら小説家を目指しているジョンスは、ある日幼馴染のヘミと再会する。ヘミの旅行中に猫の世話を頼まれたジョンスは餌やりのためヘミのアパートへ通うが猫と遭遇することはなかった。旅行先のアフリカから帰ったヘミを迎えに空港へ行くと旅先で知り合ったという男ベンを紹介され、男二人と女一人の奇妙な関係が続くようになる。ベンは正体不明だったが教養がありポルシェを乗り回し、高級マンションに暮らしていた。自分と何もかも境遇の違うベンに、ジョイスは言いようのない感情を持つ。ベンがジョイスに「自分はたまに古いビニールハウスを燃やしている。今、次の燃やす準備をしている」と語る。それからしばらくして、忽然とヘミが姿を消す。ベンの言動に不安を持ったジョイスは、ベンを付け回す…。

 ヘミの失踪は自分の意思なのか事件なのか?ベンが燃やすビニールハウスとは?色々な事が、はっきりせず、曖昧な形で物語は展開していく。事象の解釈は観客に委ねられていていて、いかようにも考えられるようになっている。ジョイスが体験したことが現実なのか幻想なのか、はっきりしないあたりの後味の悪さは、村上春樹の小説でよく抱かされる感想である。しかし、村上春樹の原作小説が数ページの短編というから、かなりの部分は脚本も手掛けたイ・チャンドンの創作によるものだろう。
 ミステリー要素はあるが、別に事件の顛末を明らかにしようとする意志は、イ・チャンドン監督にはないらしく、むしろジョイスが最後の行動に至った胸の内、心の燃え上がりを描きたかったようだ。

 本作のタイトルが劇場版(本編148分)となっているのは、昨年12月末に劇場公開に先行してNHKで90分のバージョンがテレビ放映されているからだという。その短縮版を見逃してしまったことが惜しまれる。残念!
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「グリーンブック」

2019-03-15 21:11:04 | goo映画レビュー
●ベッチー的映画三昧日記
シナリオと演出と俳優のパファーマンス3拍子揃った「グリーンブック」


 先日行われたアカデミー賞で作品賞や助演男優賞、脚本賞を受賞した「グリーンブック」。
 まだ、黒人差別が強かった1960年代初頭のアメリカを舞台に天才的黒人ピアニストとイタリア移民の運転手兼用心棒の交流のロード・ムービーだ。
 実話に基づく人間ドラマで、プロデューサーは本編で描かれるイタリア移民の用心棒の息子だという。そしてもうひとつ、この感動作を監督したのが「メリーに首ったけ」やジム・キャリーの映画などおバカ映画ばかり作ってきたピーター・ファレリーだったことに驚いた。

 1962年、天才黒人ピアニストのドン・シャーリー(マハーシャラ・アリ)がレストランもトイレもホテルも白人と有色人種との差別が強く残る南部でのコンサートツアーを計画し、イタリア系の用心棒トニー(ヴィゴ・モーテンセン)を雇う。ふたりは黒人用旅行ガイド『グリーンブック』を頼りに旅を始める。インテリで品性を重んじるシャーリーと口は達者だが粗野で教養のないトニーは全く性格の違う二人だったが、ツアー先での出来事を経て、お互いを理解しあっていく…。

 主演のヴィゴ・モーテンセンとマハーシャラ・アリの演技は見事としか言いようがないが、それを引き出したのがツアー中の多くの出来事からピックアップしたエピソードの選択と数などバランスのとれたシナリオと、ピーター・ファレリーの安定感のある演出のお陰だろう。
 2時間10分、二人の丁々発止の演技にくぎ付けで、どっしりした画面の安定感のある本作品はまるで、クリント・イーストウッド演出作品を観ているかのような心ごちだった。

 主演二人の会話は、二人の生い立ちやこれまでの人生を過剰に説明することなく、それでいて何気ない会話のやり取りを通して、二人の性格や人生の軌跡がわかるような上手い脚本になっている。会話の時の各々の表情がさらに二人の心情を深く表していて引き込まれる。映画の中で出てくる公民権運動やそれに対応したケネディ兄弟、黒人音楽アーティストの台頭の話など1962年という時代設定も絶妙だったと思う。
昨年の「デトロイト」といい本作といい、今日世界中で叫ばれている「分断」が、つい最近までアメリカで行われていたのかという事実をあらためて知ることとなった。
 その歴史を忘れることのできない黒人から見ると、本作は白人を美化しているように感じるかもしれないが、私は悩める現在のアメリカをどうすればいいのだろうかという答えが、本作の中で示唆されていると思う。

 トニーが旅先から良い女房ドロレス(リンダ・カーデリーニ)へ送る手紙のエピソードがいいなと思って観ていたが、最後にこのエピソードが活きて、男二人の出会いから二人が旅の後に到達した関係をあらわす形になったところはとても感動的だ。
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「女王陛下のお気に入り」

2019-03-02 09:23:19 | goo映画レビュー
●ベッチー的映画三昧日記
 女優3人の迫真の演技バトルを観てると制作現場はどうだっただろうと恐ろしくなる「女王陛下のお気に入り」


第75回ヴェネチア国際映画祭銀獅子賞に続いて、2月25日に開催されたアカデミー賞でオリヴィア・コールマンが主演女優賞を受賞して話題の歴史ドラマ「女王陛下のお気に入り」。イギリスの女王を主人公にした映画は数多く作られており、それらの作品はドラマティックなものが多い。

 舞台は18世紀初頭、フランスと戦争中のイングランドの宮廷。痛風持ちで病弱な女王アン(オリヴィア・コールマン)の頼りは政治家たちではなく幼馴染の女官レディ・サラ(レイチェル・ワイズ)で、女王を影で操る存在となっていた。そこにサラの従妹で貴族から没落したアビゲイル(エマ・ストーン)が召使いとしてやってくる。アビゲイルは女王に取り入り、のし上ろうとサラとの間で女同士の駆け引きが繰り広げられる。女同士の戦いは、フランスのとの戦争で、主戦派と和平派で割れる議員たちをも巻き込んでいく…。 


 出演女優3人のバトルが、さながら製作現場でもあったのではと思わせるほどのリアルな迫力だ。邦画で言えば「大奥」と同じような物語で、時に男たちを手玉に取り、自分の名誉と欲のために策略を張り巡らす女性の怖さが強くなっていく展開は本当に恐ろしくもある。野心を持って行動するエマ・ストーンを真っ向から受けて立つレイチェル・ワイズは、「大奥」でいうと浅野ゆう子のような迫力と凛々しさだ。

 また、アン王女やサラなど実在の人物で物語は史実に基づいているが、単に歴史ドラマの再現とせずに、豪華な宮廷内部を極端な広角レンズを多用した映像で見せたり、史実と虚構をうまく組み合わせたストーリー運びにするなど、組織内世代間のトップ争といった現代ドラマのテーストも感じられるようにしたことでエンターティメント性が高まった。

 メガホンを取ったのが本国イギリスの監督ではなく、作家性の強いギリシア出身のヨルゴス・ランティモス監督で、彼の個性が上手く発揮されたのも作品の評価につながっているだろう。
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