●ベッチー的映画三昧日記
ジョエル&イーサン・コーエン兄弟の脚本が光る「ブリッジ・オブ・スパイ」
数々の傑作を送り出してしるスティーヴン・スピルバーグ監督だが、特に第2次世界大戦に絡む物語については「太陽の帝国」、「シンドラーのリスト」、「プライベート・ライアン」など監督の大戦に対する特別な思いを感じさせるような作品が多い。
同監督が相性の良いトム・ハンクスと組んで制作したのが大戦後の東西冷戦下にアメリカ、ソ連の間で実際に起きたスパイ交換事件を基にしたサスペンス映画が「ブリッジ・オブ・スパイ」だ。つい先日、本年度アカデミー賞の作品賞、助演男優賞、脚本賞をはじめとした6部門にノミネートされた。
米ソが諜報合戦を繰り広げていた冷戦中の1957年、FBIがソ連のスパイルドルフ・アベル(マーク・ライランス)を逮捕した。保険関連の敏腕弁護士ジェームズ・ドノバン(トム・ハンクス)は、いわゆる国選弁護士として彼の裁判を引き受ける。ドノバンは様々な嫌がらせを受けながらもルドルフの死刑判決から禁固刑への減刑を成功させる。それから数年後、アメリカがソ連に送り込んだ撮影偵察機U2が撃墜され、パイロットのパワーズがソ連に捕獲される。CIAはソ連とアベルとパワーズのスパイ交換を画策し、アベルを弁護したドノバンに交換という任務を依頼する。ドノバンは一民間人として交換交渉のためベルリンへ赴く。時はまさにベルリンに東西の壁が作られている緊張の緊迫したまっただ中だった…。
スピルーバーグとトム・ハンクスが組んだのだから面白くないはずはないが、本作はやはり脚本が良い。「ノーカントリー」のアカデミー受賞監督でもあるジョエル&イーサン・コーエン兄弟が担当した本は、国家を揺るがすような実話の舞台裏でごく普通の民間人がかくもヒーローのような作戦に挑んでいたというところがサスペンスタッチで見事に描かれている。導入部のソ連スパイ、アベルの逮捕から裁判に至る話とアメリカCIAのソ連偵察作戦が同時進行で描かれるところは秀逸だ。やや長いが、この過程でドノバンとアベルのやり取りが丁寧に描かれているため、後にドノバンがなぜ、この危険な任務を引き受けたのか、またアベルが敵国のドノバンにどれほど信頼を寄せていたのかが、ぐっと迫ってくる仕掛けとなっている。
また、当時の緊迫したベルリンの様子がリアルに映像化されたところも本作の見どころだ。西側への脱出を食い止めるため、ベルリンに壁が出来たのが1961年。映画ではブロックによって壁がどんどん高くなり、同じ都市の中で住民が次第に行き来が出来なくなっていく恐ろしい様が克明に描かれている。そのような状況下、ベルリンに降り立ったドノバンが一人で交渉のため東西ベルリンを行き来する様子は手に汗を握るスリルの連続でサスペンスにあふれている。
そして、ドノバンが東ベルリンから西ベルリンに戻る列車の中から見てしまう壁を乗り越えようとして射殺される市民らの姿はスピルバーグが戦争に対して一貫して見せるヒューマニズムの思想を表す象徴的シーンと言える。
ベルリンに壁が作られたのが1961年8月。
そして、その壁が崩壊したのが1989年11月。
半世紀前の出来事なのに、はるか昔のことの思えてしまうが、今自分たちが犯してきた歴史を認識することはとても大事な事かもしれない。
ジョエル&イーサン・コーエン兄弟の脚本が光る「ブリッジ・オブ・スパイ」
数々の傑作を送り出してしるスティーヴン・スピルバーグ監督だが、特に第2次世界大戦に絡む物語については「太陽の帝国」、「シンドラーのリスト」、「プライベート・ライアン」など監督の大戦に対する特別な思いを感じさせるような作品が多い。
同監督が相性の良いトム・ハンクスと組んで制作したのが大戦後の東西冷戦下にアメリカ、ソ連の間で実際に起きたスパイ交換事件を基にしたサスペンス映画が「ブリッジ・オブ・スパイ」だ。つい先日、本年度アカデミー賞の作品賞、助演男優賞、脚本賞をはじめとした6部門にノミネートされた。
米ソが諜報合戦を繰り広げていた冷戦中の1957年、FBIがソ連のスパイルドルフ・アベル(マーク・ライランス)を逮捕した。保険関連の敏腕弁護士ジェームズ・ドノバン(トム・ハンクス)は、いわゆる国選弁護士として彼の裁判を引き受ける。ドノバンは様々な嫌がらせを受けながらもルドルフの死刑判決から禁固刑への減刑を成功させる。それから数年後、アメリカがソ連に送り込んだ撮影偵察機U2が撃墜され、パイロットのパワーズがソ連に捕獲される。CIAはソ連とアベルとパワーズのスパイ交換を画策し、アベルを弁護したドノバンに交換という任務を依頼する。ドノバンは一民間人として交換交渉のためベルリンへ赴く。時はまさにベルリンに東西の壁が作られている緊張の緊迫したまっただ中だった…。
スピルーバーグとトム・ハンクスが組んだのだから面白くないはずはないが、本作はやはり脚本が良い。「ノーカントリー」のアカデミー受賞監督でもあるジョエル&イーサン・コーエン兄弟が担当した本は、国家を揺るがすような実話の舞台裏でごく普通の民間人がかくもヒーローのような作戦に挑んでいたというところがサスペンスタッチで見事に描かれている。導入部のソ連スパイ、アベルの逮捕から裁判に至る話とアメリカCIAのソ連偵察作戦が同時進行で描かれるところは秀逸だ。やや長いが、この過程でドノバンとアベルのやり取りが丁寧に描かれているため、後にドノバンがなぜ、この危険な任務を引き受けたのか、またアベルが敵国のドノバンにどれほど信頼を寄せていたのかが、ぐっと迫ってくる仕掛けとなっている。
また、当時の緊迫したベルリンの様子がリアルに映像化されたところも本作の見どころだ。西側への脱出を食い止めるため、ベルリンに壁が出来たのが1961年。映画ではブロックによって壁がどんどん高くなり、同じ都市の中で住民が次第に行き来が出来なくなっていく恐ろしい様が克明に描かれている。そのような状況下、ベルリンに降り立ったドノバンが一人で交渉のため東西ベルリンを行き来する様子は手に汗を握るスリルの連続でサスペンスにあふれている。
そして、ドノバンが東ベルリンから西ベルリンに戻る列車の中から見てしまう壁を乗り越えようとして射殺される市民らの姿はスピルバーグが戦争に対して一貫して見せるヒューマニズムの思想を表す象徴的シーンと言える。
ベルリンに壁が作られたのが1961年8月。
そして、その壁が崩壊したのが1989年11月。
半世紀前の出来事なのに、はるか昔のことの思えてしまうが、今自分たちが犯してきた歴史を認識することはとても大事な事かもしれない。