つれづれなるまま映画を観て過ごす「ベッチーの映画三昧日記」

映画検定1級のベッチーのベッチーによるベッチーのための映画館鑑賞記録gooブログ。
コンテンツ:ベッチーの映画三昧日記

『ファミリー・ツリー』 75点

2012-05-26 08:23:34 | goo映画レビュー

ファミリー・ツリー

2012年/アメリカ

ネタバレ

本作を観て、今年のアカデミーはJ・クルーニーにあげたかったと強く思ったね

総合★★★★☆ 75

ストーリー ★★★★☆75点

キャスト ★★★★☆80点

演出 ★★★☆☆70点

ビジュアル ★★★★☆75点

音楽 ★★★★☆80点

●べッチー的映画三昧日記
『ファミリー・ツリー』

 ハワイを舞台に王家の血筋を引く家族がある事件を契機に離れていた絆を取り戻すまでを描くお話。ジョージ・クルーニー扮する弁護士マット・キングは、仕事一筋に生きてきた男だ。何も問題がない家庭生活だと思っていたが、妻の事故により一変する。夫との距離を埋めるかのようにパワーボート競技に明け暮れていた妻が事故により意識不明の植物人間になってしまう。マットは妻の介護をしながら娘二人とも真正面から向き合った生活をしなければならなくなる。時を同じくして、先祖代々の広大な土地を手放すかどうかの選択を迫られることになり悩むマットに、娘から妻が浮気をしていたことを聞かされ、さらに動揺する…。

 本作を観て、J・クルーニーが時折見せる微笑みながらも、ちょっと困ったような顔をどこかで観たような、と思った。それは、今年のアカデミー主演男優賞発表の時の顔だと思い出すまでそれほど時間はかからなかった。下馬評ではかなり主演男優賞が有力だったのに、名前を呼ばれたのは「アーティスト」のJ・デュジャルダンだった時の彼の表情だ。

自分はだれよりも家族のために働いてきたのに、妻とはうまくいかず、子どもたちともしっくりいかない。
「WHY?」というのは、家庭より仕事重視の生活をしてきたお父さんの良くあるパターンだ。そんなお父さんであるマット・キングが魅せる顔が前述のJ・クルーニーの顔と重なるから面白い。

本作の新鮮なところは、アメリカ人ばかりか日本人も羨む人生の楽園、ハワイが舞台ということ。毎日がリゾート生活のようにイメージされるが、実際のところはどこに住もうがそれぞれの人生があるということだ。そして、人の営みとは自分だけでない部分から成り立っており、生きていくいくことは何らかの責任も持つということを原題の「TheDescendants」(子孫)が意味しているのかも知れない。

また、物語を進める手法として、直接的描写を極力していない点も特徴だ。妻のボート競技による大事故、妻の不倫、それが基の娘と母親のけんか、仕事に明け暮れる夫など色々なトラブルが起きるがそれらは言葉で語られるだけだ。それがかえって観る側のイマジネーションを膨らませ、ストーリーに感情移入していってしまう感じだ。妻の不倫を聞かされ逆上したマットがサンダルをはきドタドタと道を下って行くシーン。走るのだったら、普通は靴を履くのに一番履きやすいサンダルをはいてしまう人間心理。机でうつぶせのまま寝てしまうクルー二―が突然起き上ったとき、顔に本の跡がついて居るあたりのリアルティ感、病室の妻を包んでいたハワイアン・キルティングがラストで居間でテレビを観る残された家族3人を包んでいるシーン。このような細かい描写が本当に心にくい。

ラストのシーンから、マットは娘二人との絆を結び直すことが出来たと、同じお父さん目線で観ていた私は思っている。


『アーティスト』 80点

2012-05-09 19:42:13 | goo映画レビュー

アーティスト

2011年/フランス

企画、発想の勝利、映画はイマジネーションの見本のような作品

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆75点

キャスト ★★★★☆80点

演出 ★★★★☆75点

ビジュアル ★★★★☆80点

音楽 ★★★★★95点

●べッチー的映画三昧日記
「アーティスト」
 
 本年度のアカデミー賞主要部門をほぼ総ざらいした「アーティスト」。その特徴は、なんといってもフランス製のハリウッド創世記の物語ということとモノクロ・サイレント映画ということだ。そして過去の名作映画からインスパイアされた数々のシーンなど、その懐古的主義的作りはアカデミー会員を感動させたのは間違いない。

 映画産業がサイレントからトーキーへと変わりつつある1920年代後半から30年代のハリウッドを舞台に、サイレントの大スター、ジョージ・ヴァレンティン(ジャン・デュジャルダン)とトーキーの新進女優ペピー(ベレニス・ベジョ)との恋物語を描くラブロマンスだ。

必要以上に語りが入る説明的映画に慣れてしまった今日この頃、1時間41分、セリフなしの画面に耐えられるのかな、とはじめは不安だったが、役者たちのクラシックスな演技に吸い込まれて、かえっていつもより画面にくぎ付けになった感じだ。

今回、本作を観て、モノクロ画面とともに、あらためて映画にとっての音楽の存在を再認識した。セリフが無い分、登場人物たちの色々な心理的表現が音楽でなされている。今作られた映画だと言うことを意識させるために入れたわけではないだろうが、時々、入る物音が、これほど新鮮なサウンドとなって心に響くとは驚きものだった。最近の映画音楽というと、シーンにあまり関係ないように思える歌曲ばかりが目立つが、本来“映画音楽”というジャンルが確立したのは、本作のような映像の情感部分を補う、または表現するための音楽を指してのことなのだろう。

もう一つの驚きは、ヴァレンティンの浮き沈みに関係なく絶えずそばにいる愛犬アギー。このワンちゃんの演技にCGが使われてなく、犬の演技そのままだとしたら、この名犬の演技にもアカデミー賞を上げたいくらい。


『テルマエ・ロマエ』 80点

2012-05-05 13:26:47 | goo映画レビュー

テルマエ・ロマエ

2012年/日本

阿部寛の怪演と「ROME」のセットのおかげで、極上のエンターティイメントに仕上がった

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆80点

ビジュアル ★★★★☆85点

音楽 ★★★★☆75点

●べッチー的映画三昧日記
『テルマエ・ロマエ』

 最近の日本映画界はヒット漫画を原作としたものが花盛り、本作もそのような企画から生れたものだが、最初にニュースを聞いたときの感想は「それは、無理があるだろう!」。

 何しろ、原作は二大漫画賞に輝いた人気作「テルマエ・ロマエ」といえ、タイトルの通り、主人公は古代ローマ人なのだから。それを、阿部寛主演で製作すると聞いて、観るに耐えないのでは…と思った。しかし、他のキャストや撮影ニュースがだんだん流れるにつれて、これはひょっとすると、逆転の発想で大化けする映画になるかもという予感がしてきた。

 そして、待望の初日に観に出掛けてみたが、予想通りの娯楽作に仕上がっていた。

 古代ローマ帝国の浴場設計技師ルシウス(阿部寛)は、生真面目すぎる性格から時代の変化を読んだ新しい設計が出来ずに職を失ってしまう。落ち込んだ彼は、友人に誘われて公衆浴場を訪れるが、そこで突然、現代日本の銭湯にタイムスリップしてしまう。そこで出会ったのは、漫画家志望の真実(上戸彩)たち“平たい顔族”、つまり日本人だった。風呂桶、洗い場、脱衣場のフルーツ牛乳など日本の風呂文化に衝撃を受けたルシウスは、再び古代ローマに戻ると、そのアイデアを利用して浴場を作り、大きな話題を呼ぶ。タイムスリップを繰り返すルシウスは、ローマで浴場技師としての名声を得て皇帝ハドリアヌスのお抱えとなるが、一方で、風呂を愛する2つの民族が出会ったことで、世界の歴史を揺るがすことになっていく…。

古代ローマ帝国と日本の公衆浴場とを時空を超えてエンターティメントの場として描く。この着想自体は原作のよく出来ていたところだったが、短編漫画のエピソードを漫画にはないキャストも加え、1本の映画としてうまくまとめあげた脚本陣の功績をほめたい。

主要キャストは日本人なのに、画面に違和感なく見事にはまっている。阿部寛のルシウス・モデストゥスをはじめ、宍戸開、北村一輝、市村正親など濃い顔の俳優を集めたこと自体も面白いが、それに対応する平たい顔族(日本人)のロートル俳優軍団たちの個性が際立っている。それぞれの双壁はハドリアヌス皇帝役の市村正親と平たい顔族の長老(?)だろう。邦画のため外人俳優も吹き替えられている。その中で市村のハドリアヌスが出てくると突如、劇団四季のシェイクスピア劇でも観ているよう感じになってしまう。市村のいかにもという演技が本作では余計に面白みを出し、彼が真面目に重厚に演じれば演じるほど可笑しい。これは阿部寛も同じで全編ほぼ半裸で通した怪演に拍手。真面目な性格が彼のコメディセンスの持ち味なので本作のような設定は彼を活かす。今回は、それをその他大勢のローマ人(西洋人エキストラ)と混じることで、かえって異業種交流的な面白みを増幅させた感じだ。

そして、最大のヒット要因は、本家ローマのシネチッタ撮影所に残っていたアメリカのTVミニシリーズ「ROME]の豪華実物大セットをそのまま使ったことだ。おかげで、安っぽくなく、ローマのリアルティが良く出ていた。もし、新たにセットを作っていたら、邦画の制作費から考えたら、あのようなリアルな豪華セットになるはずもなく、映画自体がチープな結果になってしまっただろう。