つれづれなるまま映画を観て過ごす「ベッチーの映画三昧日記」

映画検定1級のベッチーのベッチーによるベッチーのための映画館鑑賞記録gooブログ。
コンテンツ:ベッチーの映画三昧日記

『空気人形』 75点

2009-12-09 20:35:59 | goo映画レビュー

空気人形

2009年/日本

日本映画第4位 「空気人形」は「現在版ピノキオ」だ!。悲しく、せつない大人の御伽草子か

総合★★★★☆ 75

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆80点

演出 ★★★★☆75点

ビジュアル ★★★☆☆70点

音楽 ★★★☆☆65点

●ベッチーの映画三昧日記
「空気人形」

 人形という語感の響きは何かロマンチックな感じがするが、本作「空気人形」は恋愛ドラマの要素はあるものの現在社会に生きる我々を描いたなかなかシリアスな内容となっている。
 
 是枝裕和監督は15年間で5本の映画と寡作であるが、海外映画祭の常連で1作ごとに話題作を発表してきた。どちらかというと国内より海外での評価の方が高い作家である。
 ドキュメンタリー出身の是枝監督は、一貫して生きるということ、人と人のつながりということを映画にしてきた感じがする。前作の「歩いても歩いても」も現在の世相を反映させて、親子であっても疎遠になり、わかりきれない人間関係を描いていたが、「空気人形」では家族単位ではなく、さらに対象を広げて都会に住む人々の孤独感や空虚な日々を描いている。

 映画「空気人形」の舞台は、高層マンション群と下町風情が混在する東京隅田川沿いである。独居老人、中高年離婚の親父、フリーター、拒食症やアラフォーのOLなど、社会の縮図を表すように様々な人が暮らしている。そんな街で、一人暮らしの男(板尾創路)と古ぼけたアパートに住む空気人形(ぺ・ドゥナ)が、ある日突然、心が宿って自分の意思で動き出すようになる。そして、本当の心を持ちたいと色々な人と出会っていき、色々な事に遭遇していく。

 映画を観ていて、これはまるで「現在版ピノキオ」みたいだと思った。
 ただ、本作の場合は人間の心を持ちたいと思っていた空気人形が実は一番人間らしかった、なんていうところがミソのような気がする。

 とにかく、この映画の素晴らしさはぺ・ドゥナの魅力に尽きる。冒頭のビニール人形の空気に心が入り、そして初めて外の世界(ここでは水のしずく)と接するシーンの美しさは圧巻である。ぺ・ドゥナは決して正統派の美人ではないが、彼女のちょっとコケティッシュな顔が本作では心を持った人形を演じるのに効果的で、美しい表情だ。げすな言い方をすれば、ダッチワイフが生身になるなんて話は、一歩間違えば、ピンク映画になってしまうようなお話である。「空気人形」がここまで人間の情感に訴える完成度の高い映画になったのは彼女の起用によるところが大きい。
 おそらく、今の日本の女優さんので、この役を演じられる女優はいなかっただろう。ここまで体を張った演技は女優としては非常にリスクが高く尻込みしちゃうから。
 


『スペル』 75点

2009-12-03 21:43:00 | goo映画レビュー

スペル

2009年/アメリカ

アミダばばあに匹敵する史上最大の逆恨みばばあのアップは、怖かった。

総合★★★★☆ 75

ストーリー ★★★☆☆70点

キャスト ★★★★☆75点

演出 ★★★★☆80点

ビジュアル ★★★★☆80点

音楽 ★★★★☆75点

●ベッチー的映画三昧日記
「スペル」

 「悪魔のいけにえ」などスプラッターホラーで名を馳せたサム・ライミ監督。
 「スパイダーマン」シリーズの成功ですっかり大作監督の仲間入りをしたかと思っていた。そこへ、初心回帰で遊び心たっぷりの「スペル」が公開された。

 この映画、巷ではサブプライム・ローン・ホラーとか言われているが、銀行員のヒロイン(アメリカのどこにもいそうなかわいい娘)が出世に目がくらみ、成績アップのため、ローン返済の猶予を懇願する老婆の頼みを拒否したことから、呪いの言葉を浴びせられる。すると、次々と恐怖の出来事が彼女に降りかかり、最後は…、というお話。

 サム・ライミって邦画で言うと三池崇史監督と同じ匂いがする。
 低予算で一味違う作品を作り、大作を作らせてもらうようになっても何か物足りなさを感じるというもの。金の無さはアイデアでカバーするといった彼らの手腕は低予算のB級テーストでこそ活きると思っていたからだ(タランティーノもこの手の部類かな) 

 本作「スペル」は「スパイダーマン」のアンチテーゼなのか、かつての自分のフィールドに戻り、有名俳優を起用せず、湯水のようにお金はかけずに作ったようだ。しかし、その分、サム・ライミ監督の力量が存分に発揮された作品になった。

 昔の首や手足が飛び、血しぶきによる怖さではなく、直接描写ではなく突然のドアップや擬音など映像や音の使い方で恐怖をあおっていく。とくにアップで見る、老婆の顔に始まり、入れ歯やと出物があれ程怖いものとは思いもしなかった。
 ヒロインに襲いかかる恐怖の連続も、あそこまで行くとそれは逆恨みというものでしょうと思えて、一歩間違えば、明石家さんまのアミダばばあの世界になっちゃう。
 でも、楽しく怖いは、怖い。娯楽映画としては面白い出来だと思う。

 原題の「Drag Me To Hell」が意味するのは呪い(スペル)ではないだろう、と突っ込みたくなるが、日本では昔のホラーの感じで売ろうと「スペル」となったのだろう。

 でも、原題が意味するのは、もしかしてハリウッドの呪縛から解き放たれたいと願うサム・ライミ監督のメッセージだったりして。