5月の日本の貿易収支は1兆2212億円の赤字だった。前年同月に比べて14.9%も円安だったにもかかわらず、輸出数量が4カ月連続のマイナスとなり、かつてのような「円安での輸出ドライブ」が不可能となったことを明確に示した。他方、輸入は円安による原粗油や石油製品の購入額が膨らみ、円安が進むと貿易赤字が増大する構図が出来上がっており、円安→貿易赤字増→円安のスパイラルが市場関係者に強く意識されることになりそうだ。
為替レートが前年5月の135.31円から155.48円へと大幅な円安となったにもかかわらず、輸出数量は前年比マイナス0.9%と落ち込んだ。前年比マイナスは今年2月以来、4カ月連続で円安による数量効果は全く見られていない。
<輸出価格の上昇が示す企業採算の好転>
ただ、これを個別企業の視点から見ると、別の映像が浮かび上がる。今年5月の輸出価格は前年比プラス14.5%で、輸出企業は過去のように円安で外貨建て価格を下げるようなことはせず、外貨建て価格の値上げを容認している実態だ。輸出企業の採算は円安によって大幅に底上げされているといえる。
特に対米輸出では、数量ベースが前年比プラス6.7%、価格が同16.1%、輸出額が同23.9%と大幅に伸びており、トヨタに代表される自動車各社は4-6月期に円安の効果をフルに発揮する公算が大きい。
ただ、マクロベースでは円安が日本の貿易赤字を拡大させる構図となっているため、実需面での円安と貿易赤字のリンクは強まっていると言っていい。したがって米連邦準備理事会(FRB)の利下げ時期がはっきり見えてくるまでは、マーケットでの円安バイアスが弱まる気配は見えないだろうと予想する。
<急増している半導体製造装置の対中輸出>
一方で、対中輸出をみると、興味深い現象が起きている。対中国向け輸出の中で半導体製造装置が数量で前年比プラス65.3%、金額で同130.7%と大幅に伸びている。この背景には、米国による先端半導体の対中輸出規制が影響している可能性がある。米国製の先端半導体を使用しないための生産工程の見直しによって、新たな半導体製造装置の受注が増加しているとの見方だ。
ブルームバーグ通信は19日、米政府高官が近く日本とオランダを訪問し、人工知能(AI)に必要な高性能半導体の製造能力を含め、中国の半導体分野への新たな規制を設けるよう要請する予定だと報道した。米側の具体的な要請内容にもよるが、日本が要請を受け入れた場合、足元で発生している日本からの半導体製造装置の輸出急増に大きな変化が発生することも予想される。
いずれにしても、円安の進展が日本の貿易収支の赤字構造を変えるパワーを失ったと早く政府が自覚し、短期と中長期に分けた対応策を早急に検討するべきだろう。