自民党の総裁選挙が今年9月に行われる。具体的な総裁選の日程はまだ固まっていないが、岸田文雄首相は6月21日の会見で、総裁選への出馬は表明しなかったものの電気・ガス料金の支援策復活を表明するなど政権維持への強い意志を示した。だが、総裁選では党員票が議員票と同数割り当てられ、岸田首相が党員票で大幅な劣勢になれば、1978年に当時の福田赳夫首相が大平正芳氏に敗北して以来の現職敗退の可能性もある。
マーケットの一部では、岸田首相が総裁再選を勝ち取って、直後に臨時国会を召集して衆院を解散し、自民党大敗と政権交代が現実になるシナリオを最悪の展開として位置付けている。もし、自民党総裁選で岸田首相が敗北しそうな情勢になれば、最悪事態の回避と受け止めて日経平均が上昇する展開も予想されている。果たして岸田首相の自民党総裁再選はあるのか──。東京市場の参加者にとって、米経済や米金融政策の動向以上に注目材料となる可能性が高まってきた。
<市場心理、岸田首相の再選は「凶」>
21日の会見で岸田首相は、5月末で打ち切りとなった電気・ガス料金の支援策を8月から10月までの3カ月間に限定して復活させる方針を表明した。直前まで関係省庁の幹部に連絡せずに「鶴の一声」で決定したとみられている。ここで妙なうわさが浮上している。電気代のかさむ真冬を前に10月で支援策を打ち切るのは「10月に衆院を解散するからではないか」との見方がひそひそと語られているという。
そのケースでは、岸田首相の思惑とは全く正反対に自民党と公明党の連立与党が過半数を割り込み、ないと思われてきた政権交代が実現する可能性が高まるかもしれない。自公連立政権の継続を希望している大多数の市場関係者にとって、このシナリオ実現が「最悪の展開」と言っていいだろう。
岸田首相にとっては極めて不都合な現実だが、内閣支持率の低下に歯止めがかからない岸田首相の総裁再選は「凶」であり、岸田首相とは別の新総裁で衆院選を勝ち抜くことができれば「吉」というセンチメントが形成されつつある。
<党員票の獲得、岸田首相に高いハードル>
そこで、今年9月実施の自民党総裁選の行方を展望してみると、岸田首相にとってのハードルはかなり高いことがわかる。
議員票は自民党衆参両院の議員数になるが、6月25日現在の衆参における自民党会派の数が所属国会議員の数と一致しているという前提に立てば、衆院258人・参院111人の計369人となる。前回は382人だった。議員票と同数が党員票として割り当てられ、議員票が369票と確定すれば、党員票も369票となる。
前回は岸田首相が議員票146票・党員票110票で256票、河野太郎氏が議員票86票・党員票169票で255票となり、両氏ともに過半数に達していなかったため、決選投票で岸田首相が勝利した。
今回はどうなるのか。岸田首相も含めて立候補を表明した議員は今のところゼロだが、岸田首相が立候補し、石破茂氏と高市早苗氏の出馬可能性も高いとみられている。茂木敏充幹事長や河野氏、加藤勝信氏も立候補に意欲を持っているとみられており、前回以上の乱戦模様になる余地もかなりある。
ここで支持率低下に悩む岸田首相が、総裁選の直前に立候補断念を表明した場合、株価は大幅上昇する可能性を秘めていると筆者は予想する。
また、立候補した後の情勢調査で党員票での劣勢が判明し、決選投票に残る2位までに入ることが難しいと報道された場合も、株価は上昇することが予想される。
<衆院選控え、強まる党員票の重み>
仮に1回目の投票で2位に入ったとしても、地方で人気のある石破氏が党員票で大差をつけて1位になった場合、次の選挙の顔を意識した議員票が岸田首相に集まることになるのかどうか。2025年10月に任期を迎える衆院議員の心理を深読みすれば、党員票の獲得の意味は、前回の総裁選を大幅に上回ることになるだろう。
一方で、岸田首相は党内での批判をものともせず、政権維持にまい進していると言われている。菅義偉前首相のようにあっさりとは退陣表明しないとの見方も根強い。
今後、マーケットは岸田首相の強気の姿勢を見て落胆し、総裁選での岸田首相の劣勢報道や退陣の可能性を指摘する報道で上昇期待を高めるという振れの大きな展開になるかもしれない。
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