イノさんシゲさん

井上出と重松彬の往復メール

石油産出州(シ)

2007-10-25 11:30:54 | Weblog
『石油は誰のもの』

「世界に散在する石油と天然ガス。 カナダにも、アルバータをはじめ、ニューファンドランド/ラブラドール、ノバスコシアの沖合いに眠る海底油田など、これからの開発が待たれている。 石油価格が高騰すれば、開発にも勢い力がはいる。 しかしこれらの地下や海底に眠るエネルギー資源は一体誰のものか」

「それはそこに住む住民のものだろう」

「自明の理のようだが、その所有権をめぐっては、カナダでも昔から憲法を踏まえた弁論が法廷で交わされてきた。 強大な資金力とテクノロジーをもつ石油資本だが、最近の産油地のナショナリズムには一目置くようになってきている。アルバータでは、元々石油資本を厚遇してきたが、業界に近かったクライン前州首相が引退し、ステルマック州首相が新たに登場すると、あらためて州の取り前を見直そうという動きが出てきた。 アルバータ州政府の委嘱した調査パネルによると、アルバータ州民は正当な分け前を享受していないというのだ。 しかしこれには石油資本も反撥しており、将来の開発投資も手控えるかもしれないと脅しをちらつかせている」

「しかしテキサス州が石油資本から受け取る分け前は65%であるのに対し、アルバータ州の取り前は44%に過ぎないそうじゃないか」 

「それは通常の石油のケース。 オイルサンドや重油になると、アルバータは、ロシア、ノルウェイ、カリフォルニア、ベネズエラの後塵を拝し、さらに低い割合で甘んじている。 昨年アルバータ州は120億ドルの収入が石油、天然ガスのロイヤルティ、税収などからあったが、国際的な物指しでみるとアルバータ州が貰うべき分を20億ドル損しているのだそうだ。 アルバータも多分来年の春には選挙があるだろう。 そうなるとニューファンドランド/ラブラドールでウィリアムス州首相が強烈なナショナリズムを発揮して、州民の圧倒的な共感を呼び起こしたことが鏡になる。 ナイスガイのイメージをもつアルバータのステルマック州首相が、コワモテで石油資本に対決することができるか。 もしオイルサンドの開発がスローダウンすれば、そこに働く従業員や関連産業の不安をかきたてることになり、そうしたことへの配慮も政治家の仕事。 そこで石油資本は従業員をバスでエドモントンの州議事堂に送り込み、ゆさぶりをかけている」

「ニューファンドランド/ラブラドールでも同じ様な綱引きがあったのではないか。 石油資本はウィリアムス州首相の要求に「ノーウェイ」と一蹴し退席したが、一年後にはまたテーブルに戻ってきて歩み寄りの姿勢をみせている」

「しかしアルバータのオイルサンドはサウジアラビアに匹敵する規模だ。 もっともそれを採取し精製する課題は残っているが、石油資本の膨大な資金力とテクノロジーが不可欠になる」

「10年前は石油の価格も安かった。 だからオイルサンドの開発を進めるためにも低いロイヤルティが必要だったが、今は違う。 価格も空前のレベルに達し、開発にも旨味が出てきた。  それに世界の産油国が国有化を進める中で、アルバータだけはまだ民間投資を歓迎している。 世界の耳目が従来の産油国からアルバータに集まりつつあるのもうべなるかなと言えるだろう」

(2007/10/24)