国立劇場(小劇場) 文楽九月公演の第二部。一部の「伊勢音頭恋寝刃(いせおんどこいのねたば)」は早い時期に売り切れになっていた。第二部も満席の様子です。文楽の人気が高まっているようです。
第二部は、午後4時開演・8時終演(途中10分と30分休憩)。
「妹背山婦女庭訓(いもせやまおんなていきん)」は全五段、長時間にわたる時代物ですが、本公演は四段目を上演。女庭訓(婦女庭訓)とは、女性の生き方、処世訓を述べた江戸時代の教科書です。四段目では酒屋の娘お三輪が恋を成就するために命を投げ出した結果利用されてしまうという物語り。利用されてしまうとみるのは現代の目からであって、物語がつくられた江戸時代では美徳とされたから「女庭訓」と名付けられたのでしょう。
奈良時代、天智天皇(中大兄皇子)は盲目であり大悪人蘇我入鹿が権勢を奮っているが、藤原鎌足親子が入鹿を倒して入鹿が天皇から奪った三種の神器のひとつ、十握の宝剣を取り戻すというのが大筋。歴史の流れと違うとういう細かなことを気にして観てははいけない。
入鹿という名前は、父である蘇我蝦夷にはなかなか子が授からなかったが、鹿の生血を妻に飲ませたところ子が宿ったことから付けられたという。それゆえ入鹿には不思議な霊力がある。
<井戸替えの段>4:00-4:28
三輪の里(現在の奈良県桜井市)の酒屋では七夕恒例の井戸掃除が行われている場面から始まる。5人が賑やかにふるまっている。借家仲間とは雰囲気が違う求馬(もとめ)はちょっと顔見せする程度。酒屋の娘お三輪の恋人のようだ。
<杉酒屋の段>4:28-4:53(10分休憩)
外出から帰ってきたお三輪は求馬に願いを込めた赤い苧環(おだまき)を渡し、自分は白い苧環を手にする。求馬の家には謎の姫様が夜時に訪ねてくる。どうやら三角関係になっているようだ。お三輪と謎の姫とで求馬の奪い合い、揉み合いになる。謎の姫はその場を抜け出し、求馬とお三輪も店から出ていく。
<道行恋苧環>5:03-5:31(30分休憩)
店を出た姫、実は入鹿の妹橘姫に、布留の社で求馬は追いつく(布留の社とは石上神宮(天理市)のこと)。求馬が訪ねても姫は素性を明かさない。お三輪も追いついてきた。
夜明けの鐘とともに橘姫は帰ろうとするとき、求馬は赤い苧環の糸を姫の袖に付けて後を追う。その求馬の裾に白い糸を付けたお三輪も、追いかけていく。
橘姫(吉田和生/豊竹芳穂太夫)、求馬(吉田玉男/豊竹靖太夫)、お三輪(桐竹勘十郎/豊竹呂勢太夫)、三味線(鶴澤清治、ほか)によるこの段は、見ごたえがある。主遣いの3人が揃うのは珍しい。床の三味線が私の席から正面なので響いてきました。
※ここでの30分休憩は、余韻を楽しむ時間枠になった。
<鱶七上使の段>6:01-6:50
鎌足の使者として鱶七という名の漁師が、三笠山の入鹿の御殿に現れる。鱶七(吉田玉也)の活劇の場です。
<姫戻りの段>6:50-7:03
橘姫が御殿に戻ってくる。姫の袂には赤い糸がついており、求馬が糸を手繰り寄せ庭に現れる。入鹿の妹橘姫と気づく求馬。求馬が政敵藤原鎌足の長男淡海と気づいており素性を明かせなかった橘姫。
淡海は、入鹿が天皇から奪った宝剣を姫が取り戻してくるなら夫婦になろうという。兄と恋人との板挟みに姫は苦しむが、天皇のためと考えて淡海の言葉に従うことにした。
<金殿の段>7:03-7:43
お三輪がようやくやってくる。姫と求馬が祝言をあげることを知ったお三輪は、婿君に合わせてほしいと頼み込むが、官女たちにからかわれ笑いものにされ、嫉妬から逆上したお三輪の前に鱶七が現れ、刀をつきたてる。
鱶七は、求馬こそ淡海であると明かす。さらに霊力をもつ入鹿には弱点があり、爪黒の牝鹿の血と、疑着の相(激しい疑念と嫉妬の表情)のある女の生血を混ぜて注いだ笛を吹くと、入鹿は正気を失うと語った。自分の死が、思う男のためになるならと、お三輪は息絶えていく。
この段のお三輪の動きは美しい。
<入鹿誅伐の段>7:43-8:01
入鹿が笛の音によって正気を失い、宝剣は竜になって空に飛び立つ。入鹿の首は鎌足の鎌で切られて空中を漂う・・・。
<日本芸術文化振興会のHPから>
◆9月文楽公演第二部『妹背山婦女庭訓』ゆかりの地を巡って来ました。
成功祈願の様子の動画を公開!
9月文楽公演の第二部で上演される『妹背山婦女庭訓』では、橘姫を吉田和生が、お三輪を桐竹勘十郎が、求馬実は藤原淡海を吉田玉男が遣います。和生、勘十郎、玉男の同期三人が、道行の名作「道行恋苧環(みちゆきこいのおだまき)」で初めてそろう必見の公演です。 物語の軸となる伝説と関係が深く、舞台ともなる大神神社(おおみわじんじゃ)拝殿にて、公演の成功を祈願しました。
http://www.ntj.jac.go.jp/topics/kokuritsu/27/4746.html