3月18日(金)13:20から5分間、埼玉県西部の地域FMラジオの幼児向け絵本を紹介するコーナーに、絵本講師として(電話で)出演しました。
絵本紹介のために用意していたことをここに記録します。
画家であり。漫画家であり、晩年は陶芸など立体作品も手掛けた多才な芸術家、タイガー立石氏の作品。
もともと1984年に福音館書店の月刊こどものとも11月号として刊行され、その後2008年に装丁とサイズをかえてビリケン出版から復刊になりました。
もとのペーパーバック版にくらべて二回りほどサイズが大きくなり、印刷技術の進歩もあってか絵の精度も色彩も鮮やかになりました。
表紙の緑色のトラの姿が、強烈に印象的です。
型にはまらない、柔軟な発想と、表現する一流の画力が発揮された絵本だと思います。
タイトルのとおり、トラの とらきち が見る夢の世界が描かれています。
夢ですから、物語らしい物語はありません。
つたない言葉で少しだけ説明します。
緑色のトラが地面から少しだけ浮いた感じで、なめらかな大地を移動する。
池をのぞき込むと、水鏡に映ったトラが自分の尻尾を口にくわえてくる。
池の水で濡れた身体を乾かすのは、スイカ模様の玉の上にある太陽。
トラが丸くなって眠ると、ダルマに変身する。
ダルマの新体操リボン演技から現れる緑のトラ。
階段を登るトラが階段になる?
巨大迷路とトラ。
トンネルから出てくるたくさんの緑のトラ。
丸まって、カラフルな玉になるトラたち。
リアルな描写なのに、奇妙で不思議でユーモラス、そして少し不気味な感じ。
いわゆるシュールレアリスムと呼ばれるような作品です。
美術の教科書に載っていた画家ならば、ダリや、マグリットや、キリコみたいな。
一般的な物語絵本とは一風変わっています。
どちらかと言えば、美術の画集ぽいかも。
なので人によっては、どこが面白いのかよくわからないとおっしゃる方も。
大人はなまじ文字が読め読解力があるので、絵本の言葉を追うあまり、絵に潜り込めていないのかも。
きっちり理論的なことを受け入れて安心したいのに、この絵本にはそれが感じられないからかもしれません。
絵本とは「絵」の本。
外国の読めない文字でも、言葉がなくても、絵から物語がしみ出てくる。
もし、その絵にわかる言葉が添えられていたら、その言葉を道しるべにして、絵の世界にもぐりこもう。
その世界には、知っている気がする、けれど本当は知らない、わくわくする、ぞくぞくする、心が動く物が見つけられる。
子どもには自然とそれができるようです。
児童館での読み聞かせで、この絵本を読んだ時の子どもたちの様子はこんな風でした。
表紙を見せます。
「なんでトラが緑色~?」
「へんな木がはえてる~」
「ゆめだからだよ~」
思ったことをすぐ口に出してしまう、自由な子たちです。
<ぐう ぐう ぐう とらの とらきちは ゆめを みます ねむい ねむい>
<ぐう ぐう ぐう とらきちは ゆめの せかいへ でていきます>
「地面も緑色~!」
「ゆめだからだよ~」
<ぐう ぐう ぐう とらきちは ゆめの せかいを ひとりで あるきます>
【中略】
<ぐう ぐう ぐう とらきちは びしょぬれ おひさまのところへ いきます>
「太陽がスイカ~?」
「ゆめだから~」
<ぐう ぐう ぐう おひさまに てらされて とらきちは だるまさんに へんしん>
もうこのあたりから「ゆめだから~」というツッコミもなくなります。
予想外の展開と、ページをめくるとどんな絵が出てくるのか期待感で集中している感じでした。
後半になると、わたしが読む「ぐう ぐう ぐう」の詞書きも「ぐうぐう、うるさいなぁ」って言われて。
じっくり絵の世界に見入りたいようすが伝わってきたのでした。
絵本の最後のページに書かれている絵と、冒頭の絵は同じなので、この絵本は心ゆくまで「ループ」して繰り返し読むことがオススメです。
児童館では集団読み聞かせでしたので、「もういっかい!」と繰り返しが出来なかったのも残念でしたが、
絵の中にどんな物語を思い描いたのか、子どもたちに聞いてみたいのはやまやまですが、ここはもう、読みっぱなしで。
ひととき、子どもたちが、のびのびと自由に夢を見る、自由に夢を描いた作品を楽しんでくれればいいので。
2007年8月の『らくがきちょう』には、福岡県田川市美術館で開催された立石さんの回顧展を見に行った記事があります。
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