BELOVED

好きな漫画やBL小説の二次小説を書いています。
作者様・出版社様とは一切関係ありません。

大事なものは目蓋の裏 1

2024年05月19日 | ツイステ×薄桜鬼クロスオーバー腐向けパラレル二次創作小説「大事なものは目蓋の裏」
「薄桜鬼」「ツイステッドワンダーランド」二次小説です。

制作会社様とは一切関係ありません。

BL・二次創作が苦手な方はご注意ください。

リドルとアズールが純血の鬼設定です、捏造設定ありですので、苦手な方はご注意ください。

「ねぇアズール、ひとつ聞きたい事があるんだけれど・・」
「何ですか、フロイド?」
「俺達、何処に居んの?」
「それはこっちが聞きたいですよ~!」
アズール=アーシェングロットとその幼馴染であるジェイドとフロイド=リーチ兄弟は、見知らぬ場所を先程から全速力で駆けていた。
事の始まりは、ナイト=レイヴン=カレッジ内にある鏡舎で三人が取引先へと向かおうとした所、何かのトラブルが発生し、気づけば見知らぬ場所に居たのだった。
「ここ、金魚ちゃんの実家でもねぇし、学校でもねぇじゃん!」
「確かに、妙な建物がありますね。それに、先程から僕達を追い掛けている方達は、一体どなたなのでしょう?」
「そんなの知るか!」
「待て小僧~!」
「逃がすか~!」
三人を執拗に追い掛けていたのは、偶々彼らと目が合っただけの、変な身なりをした男達だった。
「これでは埒が明きませんよ、お前達、何とかなさい!」
「え~、無理言うなよ!」
「全く、しょうがないですね。」
アズールの言葉を聞いた双子は寮服の胸ポケットからマジカルペンを取り出し、男達に向かって攻撃魔法を繰り出したが、何も出なかった。
「え?」
「は?」
「こうなったら、仕方ありませんね・・」
ジェイドはマジカルペンを握り締めたまま、男達の内一人に回し蹴りを喰らわせ、もう一人の側頭部をマジカルペンで殴りつけた。
「暴力・・やはり暴力で全ては解決出来ます。」
「ジェイド、すげ~」
フロイドがそう言って笑っていると、突然三人の前に白髪の化物が現れた。
「ジェイド、フロイド、やっておしまいなさい!」
「了解~!」
フロイドは口端を上げて笑うと、化物の頭を潰した。
「何こいつ、チョ~弱ぇじゃん。」
「フロイド、余所見してはいけませんよ!」
「わかっているってぇ~」
ジェイドとフロイドが化物を倒していると、向こうから揃いの服を着た男達がやって来た。
「あれぇ、君達、何をしているの~?」
「ゲッ、何かやばそうな奴が来た。」
「少し厄介な事になりそうですね。」
「どうしました、二人共?」
ジェイド、フロイド、アズールが一斉に背後を振り向くと、そこには癖のある茶色の髪を揺らしながら、翡翠の瞳で自分達を睨みつけている男の姿があった。
「へぇ、君達が“あれ”を倒したんだぁ。」
「あの、申し訳ありませんが退いて頂けないでしょうか?僕達は先を急いでいるので・・」
「はいそうですかと、僕が逃がすと思う?」
男はそう言うと、白刃を煌めかせた。
「ふぅん、アズール、こいつ絞めていい?」
「お待ちなさいフロイド!何か考えないと・・」
拳を鳴らすフロイドを制したアズールは、あの化物が自分に向かって来ている事に気づいた。
「アズール、危ない!」
慌てたフロイドがアズールに駆け寄ろうとしたが、化物はアズールの眼前に迫っていた。
だがその化物の爪がアズールに届く前に、一人の青年が化物を一撃で斬り伏せた。
「あ~あ、僕が倒そうと思ったのに。はじめ君、仕事早いね。」
「俺はやるべき事をやっただけだ。それよりも総司、こいつらは・・」
「さぁ・・でも、“あれ”を見ちゃったから、見逃す訳にはいかないなぁ。」
「彼らの処遇を決めるのは俺達ではない。」
アズールがフロイドの元へと向かおうとしていると、冷たいものが首筋に押し当てられる感触がした。
「逃げるな、背を向ければ斬る。」
アズールが振り向くと、そこには一人の男が立っていた。
月光に照らされた、美しい黒髪に紫の瞳、雪のような白い肌を持った彼は、まるで―
「アズール、何をしているんです?」
「ジェイド、フロイド、この方達に従いましょう。このままここで揉めても埒が明きません。」
「えぇ~、こいつら絞めたかったのに。」
「フロイド、アズールの言う通りにしましょう。」
「つまんねぇの。」
フロイドはそう言って舌打ちして不貞腐れたが、赤髪の恋人の姿を見るとすぐに笑顔になった。
「あ~、金魚ちゃんだぁ!」
「フロイド、どうして君がここに?」
「僕達も居るんですがね、リドルさん。」
「ジェイド、それにアズールまで・・一体、何で・・」
「それはこちらの台詞です。さぁリドルさん、行きましょうか。」
妙な所でアズール達と会ったリドル=ローズハートは、アズール達と共に浅葱色の服を着た男達とその場を後にした。
「トシ、その子達は?」
「今から話す。」
アズール達が黒髪の男に連れられた所には、数人の男達が座っていた。
「土方君、話をする前に、まず自己紹介をしないといけませんね。」
「そうだな。俺は新選組副長・土方歳三。俺の右隣に居るのが局長の近藤勇、近藤さんの隣に居るのが総長の山南敬助だ。みんなは、山南さんと呼んでいる。」
「皆さん、宜しくお願いしますね。」

こうして、アズール達は新選組で暮らす事になった。

―リドル、“あの事”はお友達には知られていないのね?
―はい、お母様。
―そう、なら良かった。リドル、あなたはもっと自分の魔力を管理しないといけないわ。
―はい、お母様・・

また、あの夢を見ていた。

リドルがオーバーブロットし、ウィンターホリデーに実家に帰省した際、母と交わした会話。

―あなたは、・・なのよ。”それ“を自覚して頂戴。

母が決めたルールは守らなければ。
そうしなければ。

「うっ」
リドルは急に胸の上が鉛のように重くなり、思わず呻いた。
ふと目線を上に向けて見ると、そこには自分に覆い被さっているフロイドの姿があった。
身長191センチの彼に覆い被さられ、リドルは必死に藻掻いてフロイドから逃れようとしたが、彼の身体はビクともしなかった。
「ウギィ~!」
「うるせぇな・・あ、金魚ちゃん?」
「首をはねてやる!」
リドルの怒声で、新選組屯所が揺れた。
「皆さん昨夜は良く眠れましたか・・フロイドさん、どうなったのですか、その顔は?」
「おやおやフロイド、その様子だとまたリドルさんにちょっかいを出しましたね?」
ジェイドはそう言うと、フロイドの顔に残る赤い手形を見た。
「リドルさんはどちらへ?」
「彼なら土方君の所です。」
「へぇ~・・」
「フロイド、顔が怖いですよ。」
大広間でアズール達が朝食を食べている頃、リドルは副長室に呼ばれていた。
「そうか。つまりお前達は、ここではない世界に居て、ここへ来てしまったと・・」
「はい。僕達が居た世界は、魔法が使えたのですが、この世界は魔法が使えないのです。」
「そうか・・まぁ、これからお前達の処遇を考えなきゃなんねぇが・・」
土方はそう言うと、眉間に皺を寄せた。
「あのデカい図体の奴らをどうするのかが問題だな。」
「ジェイドとフロイドの事は、アズールに任せておけば大丈夫だと思います。」
「アズールっていうのは、あの眼鏡の奴か?あの二人とどんな関係なんだ?」
「アズールとジェイド達は、幼馴染なんです。」
「朝飯の前に呼び出して悪かったな、もう行ってもいいぞ。」
「はい、では失礼します。」
リドルが副長室から出て大広間に入ると、フロイドが彼に抱きついて来た。
「金魚ちゃん、サメ方と何話していたの?」
「サメ方?」
「土方君の事ですよ。何でも、フロイドさん土方君の事が怖いみたいで・・」
「だってあの人、苦手なんだもん。海の中に居た頃、天敵と出くわした事を思い出しちゃってさぁ・・」
「海の中、とは?」
山南がフロイドの言葉を聞いて戸惑った顔をしていると、そこへ帳簿を持ったアズールが入って来た。
「フロイド、またリドルさんにちょっかいをかけているのですか?」
「アズール、それ何?」
「新選組の帳簿です。先程朝食の準備をしていたら、少し気になる事がありまして・・」
「気になる事?」
「食材が余っているというのに、その半分が腐っています。それで、食材をどう仕入れているのか気になりましてね。」
「アズール、相変わらずだね~」
フロイドはそう言って笑いながら、道場へと向かった。
「あ、やっと来た。」
そう言ってフロイドを迎えたのは、新選組一番隊組長・沖田総司だった。
出会った時から、フロイドと沖田はウマが合わないらしく、互いの目が合えば、「何、斬られたいの?」と沖田が言えば、「あ、絞められてぇの?」と、フロイドが返す始末だ。
「絞めてやるから、覚悟しろよ!」
「へぇ・・」
木刀で激しく打ち合う音が道場から聞こえ、ジェイドは洗濯物を干す手を止めた。
「どうしたんだ、ジェイド?」
「いえ・・まだフロイドと沖田さんがやり合っているなと思いまして・・」
「同じ顔をしていても、性格は全く違うんだなぁ~」
「ええ。」
ジェイドが藤堂平助とそんな事を話していると、道場の方からリドルの怒鳴り声が聞こえて来た。
「おやおや、何かあったのでしょうか?」
「行ってみようぜ!」
ジェイドと平助が道場へと向かうと、そこには顔を真っ赤にしてフロイドに怒鳴るリドルの姿があった。
「何で、僕だけが女物の着物なんだ!?」
「だって、仕方無いじゃん、金魚ちゃんは小さいんだから。」
「ウギィ~!」
「そんなに怒らなくていいじゃん~」
フロイドはそう言って唇を尖らせると、ジェイドはそれを見て溜息を吐いた。
「一体、何の騒ぎです?」
「ジェイドさん、いい所に。実は、リドルさんの着物を副長が選んで下さったのですが、どれも女物でして・・」
新選組三番隊組長・斎藤一が状況をジェイドに説明すると、ジェイドは噴き出した。
「何だ、そんな事でしたか。」
「ウギィィ、みんなまとめて首をはねてやる!」
「金魚ちゃん、落ち着いて・・」
「おい、一体何の騒ぎだ?」
「副長・・」
「おや土方さん、いい所に。」
沖田がフロイドに殴りかかろうとしているリドルを押さえていると、そこへ土方がやって来た。
「土方さん、リドルさんはあなたが選んだ着物が気に入っていないみたいなのです。」
「そうか・・リドルには色々見繕っていたんだが、男物には似合う物がなくてな・・済まなかった。」
「いいえ、事情を知らずに怒ってしまって、申し訳ありませんでした。」
リドルはそう言って土方に頭を下げると、道場から去っていった。
それから数日後、アズールは渋面を浮かべながら副長室へと入った。
「失礼致します、副長。実は、外出許可を頂きたいのです。」
「外出許可?理由は?」
「実は、ジェイドが一週間分の食糧を食い尽くしてしまって・・このままでは、僕達飢え死にしてしまいます。」
アズールは溜息を吐いて紫の着物の袖口で口元を覆った。
「わかった、許可しよう。」
「ありがとうございます。」
アズールはジェイドとフロイドを連れ、ジェイドが食べ尽くした一週間分の食糧を買いに、初めて京の町へと出た。
「何もかも僕達が住んでいる世界と違いますね。」
「えぇ。」
「ね~、これ重てぇんだけど~」
「フロイド、文句言わないで運びなさい。」
京の町は、アズール達にとって別世界そのものだった。
「な~、もう帰らねぇ?」
「そうですね。ですがその前に、昼食を済ませましょうか?そこに丁度いい店がありますし。」
「賛成~!」
「そうしましょう。」
アズール達は、買い物帰りに小料理屋で昼食を取る事にした。
「ジェイド、それ何杯目なの?」
「十杯目です。このおうどん、きのこが沢山入っていて美味しいです。」
そう言いながらうどんを啜るジェイドを、アズールとフロイドは呆れ顔で見ていた。
「アズール、見て下さい!きのこ雑炊にきのこの炊き込みご飯・・これは、頼むしかありませんね!」
「いい加減になさい、これ以上食べてどうするつもりですか!?」
「ねぇジェイド、俺帰りてぇんだけど・・」
「アズール、お店のご主人にきのこ雑炊のレシピを聞いて来ます!」
「もう帰るぞ!」
店に居座ろうとするジェイドをアズールとフロイドが二人がかりで店から引き摺り出した。
「あぁ、もっと食べたかったのに・・」
ジェイドは嘘泣きしながらアズールとフロイドを見て、彼らと共に屯所へと戻った。
「お帰り、遅かったね。」
「ええ、ジェイドが色々と寄り道をしていたので、帰りが遅くなりました。」
「そう。で、そのジェイド君は?」
「アズール、フロイド、お待たせしました!」
「ジェイド、お帰りなさい・・」
「うわ、土臭ぇ!」
「ただいま戻りました。」
そう言いながら満面の笑みを浮かべたジェイドは、背負子に大量のきのこが載った籠を積んでいた。
「お前、それは何ですか?」
「きのこです。小料理屋の店主から余ったきのこを頂きました。」
「それだけ貰ったんだ、こんな量を食べきれると思っているのか!?」
「僕が全部食べるからいいでしょう?」
「いい訳ないだろうが!」
アズールの怒声が、屯所に響いた。
「うわぁ、すげぇ量のきのこだな!」
厨に入って来た平助は、大量のきのこを見てそう叫んだ。
「今日はきのこの炊き込みご飯にしようと思います。」
「え~、俺いらない!」
「フロイドがそんな事を言うなんて、悲しいです、しくしく・・」
ジェイドは嘘泣きをしながらきのこの炊き込みご飯を作った。
「お、今日は美味そうなきのこの炊き込みご飯だなぁ・・」
「僕が作ったのですが、お口に合うかどうか・・」
「いやぁ、美味い!」
近藤の言葉を聞いたジェイドは、頬を赤らめた後俯いた。
「アズール君、リドルちゃん、土方さんが呼んでいるよ。」
「わかりました、すぐ行きます。」
夕食の後、アズールとリドルが副長室に入ると、土方は渋面を浮かべていた。
「失礼します。」
「お前達か・・」
土方の口から、アズールとリドルは信じられない言葉を聞いた。
「僕達が、島原に潜入ですか!?」
「あぁ。」
「お言葉ですが、何故僕達が島原に潜入―しかも女装して潜入しなければならないのでしょう?」
「うちは男所帯で、しかもガタイが良い奴ばかりだ。」
「・・それで、僕達に白羽の矢が立ったと・・」
「まぁ、そういう事だ。」
「わかりました、引き受けましょう。但し、後で“対価”を頂きますよ・・と言っても、もう頂いていますけれど。」
「は?」
アズールは口端を上げて笑うと、土方にある物を見せた。
それは、“豊玉発句集”だった。
「沖田さんに見せて頂きましたが、とても素敵な趣味をお持ちですね。」
「返せ・・」
「潜入捜査が終わり次第、お返ししますよ。」
そう言ったアズールは、何処か嬉しそうな顔をしていた。
こうして、リドルとアズールは島原に芸妓として潜入する事になった。
芸妓として完璧に“化ける”為、リドルとアズールは短期間で舞や琴・三味線などをマスターした。
「わたしの酒が飲めんのか?」
「こんな安酒如きで僕の心を買おうなんて片腹痛いですよ、僕に袖にされたくなければ高い酒を頼みなさい!」
「この程度で僕を満足させようだなんて、良い度胸がおありだね?」
島原に土方が来ると、置屋の女将が彼を出迎えた。
「二人の様子はどうだ?」
「それが、贔屓のお客様が増えてしもうて、二人共忙しそうに働いていますえ。」
「そうか。」
土方が女将とそんな事を話していると、奥の座敷の方から誰かが言い争うような声がした。
「離して下さい!」
「良いではないか。」
座敷へと土方が向かうと、そこには金髪紅眼の男と争っているアズールの姿があった。
「お前ぇ、何者だ!?」
「この者を、我妻として貰い受ける。邪魔をするなら斬り伏せる。」
「悪いが、そいつをてめぇに渡す訳にはいかねぇなぁ。」
「ほぉ・・」
土方と金髪の男が火花を散らしていると、そこへ一人の大男がやって来た。
「風間、こんな所に居たのですか、帰りますよ。」
「やめろ、離せ!」
「ご迷惑をかけて申し訳ありません。」
大男はそう言って土方とアズールに一礼した後、金髪の男を座敷から引き摺り出していった。
「怪我はねぇか?」
「はい。」
潜入捜査を終えたリドルとアズールは、副長室に呼ばれた。
「句集は返しますよ。」
「ありがとう。それとアズール、お前に絡んで来た金髪の男とは全く面識がないのか?」
「はい、あの方とは初対面です。」
「そうか。島原では、倒幕派の浪士達の動きに目立ったものはなかったな。」
「そうですね。ですが、おかしな噂を聞いたことがあります。」
「おかしな噂?」
「ええ。何でも、不老不死の“妙薬”を売り捌いている者が居るとか・・」
「不老不死の“妙薬”ねぇ・・」
土方はアズールの言葉を受け、渋面を浮かべた。
「心当たりがあるのですか?」
「あぁ。ちょっとついて来い。」
土方に二人が連れられたのは、山南の部屋だった。
「山南さん、ちょっといいか?」
「ええ。どうぞお入りください。」
「失礼致します。」

アズールとリドルが山南の部屋に入ると、そこには謎の液体が入っているフラスコが置かれていた。
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天使の唄 1

2024年05月19日 | ハリー・ポッター腐向け転生フィギュアスケートパラレル二次創作小説「天使の唄」
ハリー・ポッターシリーズの腐向け二次創作小説です。

作者様・出版社様とは一切関係ありません。

―ハリー、あなただけは生きて・・
母と瓜二つの顔をした女性は、そう言うと赤ん坊のハリーを抱き締めた。
“退け、女!”
“お願い、ハリーだけは、ハリーだけは!”
“アバダ・ケダブラ!”
緑の閃光が走った。
「ハリー、起きなさい!」
「おはよう、母さん。」
「ご飯、出来ているわよ。」
ハリーが眼鏡を掛けて自分の部屋から出てダイニングへと向かうと、そこには何処か険しい表情を浮かべたジェームズの姿があった。
「どうしたの、父さん?」
「また、ドーピング疑惑で15歳の選手が・・」
「またなの。」
「この選手を僕は良く知っているよ。ドーピングなんかする子じゃないのに・・」
「ジェームズ、落ち着いて。」
「済まない、リリー。」
「ハリー、今日は大切な日だから、精をつけてね。」
リリーがそう言ってハリーの前に置いたのは、彼の大好物の糖蜜パイだった。
「緊張するな、ハリー。いつも練習でしていた事をすればいい。」
「わかったよ。」
「それにしても、あのスニベルスがよりにもよって・・」
「セブルスよ、ジェームズ。」
「わかった・・」
ハリーは、両親に話していない事があった。
それは、自分に前世の記憶がある事。
リリーとジェームズを赤ん坊の時に亡くし、リリーの姉・ペチュニアの元で虐げられて育ってきた。
しかし、11歳の誕生日を迎えたハリーは、その時自分が魔法使いである事を知ったのだった。
「忘れ物はないか、ハリー?」
「うん。」
ジェームズが運転する車で、ハリーはスケートリンクへと向かった。
「ハリー、久しぶりだな!」
「シリウス!」
「少し会わない内に、大きくなったな、え?」
ジェームズの親友・シリウスは、そう言うとハリーを抱き締めた。
「そんなに変わっていないよ~!」
「はは、そうか。」
「ブラック、ここへは遊びに来たのかね?」
「スニベルス・・」
シリウスは、そう言うと苦虫を噛み潰したかのような顔をした。
「セブ、久し振りね!」
「リリー。」
ハリーのコーチ、セブルス=スネイプは、そう言うと幼馴染のリリーに微笑んだ。
「スニベルス、リリーは僕の妻なんだからな!」
「ジェームズ、黙って。」
リリーはそう言うと、ジェームズを睨んだ。
「ハリー、こちらへ。」
「はい、先生。」
ハリーはセブルスと共に、選手が集まる更衣室へと向かった。
「昨夜はよく眠れたか?」
「はい。」
「余り神経質になるな。」
「わかりました。」
この日、ハリー=ポッターにとって初めて臨むジュニアフィギュアスケート大会初日だった。
「行って来ます!」
元フィギュアスケート男子シングル世界王者、ジェームズ=ポッターの一人息子・ハリーが世界中に注目されるようになったのは、彼が11歳の時に撮影された動画だった。
その動画を撮影した親バカ全開のジェームズが、その動画を動画配信サイトにアップした所、あの難易度が高いジャンプを11歳のハリーが跳んでいる姿を観た者達からは、“流石キングの息子”、“将来が楽しみ”と称賛の声が上がった。
動画はすぐにリリーによって削除されたが、それは数々のサイトに転載され、大いにバズった。
「あなた、何て事をしてくれたのよ!」
「いやぁ~、流石僕の息子だなぁ~、ジャンプの着氷がいい!」
「ジェームズ!」
まだノービスクラスに居たハリーは、その動画で瞬く間に有名人となった。
有名人の子供として生まれてしまったが故に、ハリーは同級生から嫉妬などを受け、少しスケートが嫌いになりかけていた。
そんな時、ポッター家に一人の男が訪ねて来た。
その名は、セブルス=スネイプ。
ジェームズと共に世界で活躍していた元フィギュアスケーターで、現在は銀盤の世界で、“鬼コーチ”としてその名を轟かせていた。
「スニベルス、何の用だい?」
「セブ、久し振りね。」
「リリー、元気そうで良かった。実は、ここへ来たのは君の息子の、ハリーの事で話があるんだ。」
「ハリーの事で?」
「スニベルス、一体何を・・」
「ハリーを、我輩に預からせて頂きたい。」
「はぁ!?何言ってんだ・・」
「セブ、わたし達にもわかるように話してくれない?」
「ハリーの、あの動画を観た。」
スネイプは、そう言うとジェームズの方に向き直った。
「ハリーは、誰かの弟子なのか?」
「あぁ、コーチの事?実は僕がやろうと・・」
「ハリーのコーチは、我輩がやる。」
「な、なんだってぇ~!」
「お前のようなテキトーな人間に、ハリーにフィギュアスケートの何たるかを教えられる訳がなかろう。」
「ただいま~!」
「ハリー、お帰りなさい。」
「母さん、この人が僕のコーチになる人?」
「そうよ。ハリー、ご挨拶なさい。こちらが、今日からあなたのコーチになる、セブルス=スネイプさんよ。」
「初めまして、ハリー=ポッターと申します。」
(憎い父親に似ているが、目はリリーの美しい緑色の瞳だ。)
「よろしく頼む。」
これが、セブルス=スネイプとハリー=ポッターの、運命の出会いだった。
「リリー、本気なのか?」
「ええ。わたしは、ハリーを信じているわ。あの子には、才能がある。わたしとあなたとは違う才能が。」
「君がそう言うのなら、僕は何も言わないよ。」
「ジェームズ、セブの事を苛めないでね?」
「わ、わかっているよ!」
「そう・・」
スネイプの元で、ハリーはスケートの才能を開花させていった。
そして、彼は“この日”を迎えた。
最終滑走のハリーは、緊張しながらその時を待っていた。
「ハリー、わたしと今までしてきた事を思い出せ。」
「はい、先生・・」

その大会で、ハリーは優勝した。
しかし、その前に彼は転倒し、額に稲妻型の傷が残った。

それは、大会前の六分間練習の時に起こった。
ハリーは、リンクで演技の最終確認をしていたが、その時一人の選手とぶつかった。
「ハリー!」
転倒した衝撃で、ハリーは気を失った。
「脳に異常はありません。」
「そうか。」
「棄権させた方がいいかもしれない。」
「それは、我輩達が決める事ではない。」
「セブルス、何を・・」
病院の処置室前でスネイプはそう言うと、ハリーがそこから出て来るのを待った。
「ハリー、もう大丈夫なの!?」
「うん。」
頭に包帯を巻いたその姿は痛々しかったが、ハリーの緑の瞳は闘志に燃えていた。
「ハリー、棄権するか?」
「嫌です。」
「そうか、わかった。」
「セブ、ハリーの事をお願いね。」
「わかった。」
その後、病院から試合会場へと戻ったハリーは、圧倒的な演技で世界中をわかせ、優勝した。
「良くやった、ハリー!流石パパの子だ!」
「やめてよ、父さん。恥ずかしいよ。」
「帰ったら、祝勝パーティーをしよう!」
「ハリーは疲れているから、休ませてあげないと。」
「うん、そうだね。」
「スネイプ先生、さようなら。」
「さようなら、ハリー。」
会場から遠ざかってゆくポッター家の車が見えなくなるまで、スネイプはその場に佇んでいた。
「あ~、僕の可愛いハリーに、傷が!」
「名誉の負傷よ。それよりもジェームズ、あなたはいつまで経ってもセブの事を目の敵にしているわね?」
「そ、そんな事はないよ!」
「目が泳いでいるわよ。」
「そ、そうかな?」
「言っておくけれど、セブに何かしたら・・あなたを一生許さないわ。」
「リリー!」
大会から一週間が経った後、ハリーがいつものようにスケートリンクに併設されているバレエスタジオでクラシックバレエのレッスンを受けていると、そこへジェームズ、シリウスの親友、リーマス=ルーピンがやって来た。
彼は白髪交じりの明るい茶色の髪を揺らしながら、ハリーの隣に立って柔軟体操を始めた。
「やぁハリー、元気そうだね?」
「ルーピン先生、お久しぶりです。」
「“先生”はよしてくれ。」
「すいません、つい“昔の癖”で・・」
「そうか。」
“昔”狼人間に噛まれた傷痕は、彼の顔にはない。
「さっき、セブルスと会ったよ。彼は、君の事を捜しているようだったよ。」
「そうですか。じゃぁ、僕はこれで失礼します!」
ハリーは慌てて荷物を纏めると、バレエスタジオを後にした。
「全く、君は“昔”のままだね、ハリー。」
遠ざかってゆくハリーの背中を見つめながら、ルーピンはそう呟くと笑った。
「すいません、遅れました!」
「遅いぞ、ポッター。」
息を切らしながらハリーがスケートリンク内の会議室に駆け込むと、そこには渋面を浮かべ、腕を組み仁王立ちをしているスネイプの姿があった。
「座れ。」
「は、はい・・」
「ポッター、これが何だかわかるかね?」
「はい・・」
今自分の前に置かれているのは、ハリーの成績表だった。
「何故我輩が君をここへ呼んだのか、わかるか?」
「わかりません・・」
「数学の成績が下がっているな。」
「それは、練習が忙しくて・・」
「言い訳をするな。」
スネイプはそう言うと、ハリーを睨んだ。
「いいか、これから君は練習や大会が忙しいからといって勉強を疎かにしてはならない。なので、これから君の勉強は、我輩が見る。」
「え・・」
「何か、不満でも?」
「いいえ・・」
こうして、ハリーはスネイプに勉強を教えて貰うようになった。
スネイプの教え方は正確で、ハリーは苦手だった数学が徐々に理解できるようになっていった。
「ただいま。」
「ハリー、お帰り。スニベルスから、何か言われたのか?」
「ジェームズ!」
帰宅したハリーが浮かない顔をしていたので、ジェームズが心配して彼にそう尋ねると、リリーに睨まれてしまった。
「今日、数学のテストがあったんだ。僕、クラスで一番だった。」
「すごいじゃないか、ハリー!」
「でも、マルフォイが・・」
「マルフォイ?あぁ、お前にあいつが何を言ったのかは、簡単に想像できる。そんな奴は、無視が一番だ。」
「うん・・」
「さぁハリー、そんな顔をしないでパパにハグしてくれ!」
「二人共、ハグが終わったら手を洗って。」
リリーは少し呆れたような顔をしながら、ハグを迫るジェームズと、彼から逃げようとするハリーを見た。
「ハリー、おはよう。」
「おはよう、ハーマイオニー。」
「昨日の数学のテスト、全問正解だったわね!」
「優秀な先生が勉強を教えてくれたから、前より良くなったかな。」
「へぇ、どんな先生なの?」
「僕の父さんの同窓生で、セブルス=スネイプって人。」
「スネイプって、あのスネイプ!?」
「ハーマイオニー、君まさか・・」
「わたしも、あなたと同じなの。ロンも、彼の家族もよ。」
「そうなんだ。」
初めてロンとハーマイオニーと会った時、ハリーは漸く彼らと再会出来て嬉しかった。
だが、人生とは楽しいものではない。
「また、“穢れた血”とつるんでいるのか、ポッター?」
「黙れ、マルフォイ。」
「行きましょう、ハリー。こんな人と話すだけ時間の無駄よ。」
“昔”―前世では色々と因縁があったドラコ=マルフォイとも再会を果たしたハリーだったが、彼の性格は今でも変わらないらしい。
「ハリー、今日新しい先生が来るんだって!」
「へぇ、そうなんだ。」
そんな事をハリー達が教室で話していると、スネイプが教室に入って来た。
「おはよう、我輩がこのクラスの担任を務める事になった、セブルス=スネイプだ。」

(え、えぇ~!)
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天使の唄 設定

2024年05月19日 | ハリー・ポッター腐向け転生フィギュアスケートパラレル二次創作小説「天使の唄」
ハリー・ポッターシリーズの腐向け二次創作小説です。

作者様・出版社様とは一切関係ありません。

ハリー=ポッター 記憶有り

前世は、“魔法界の英雄”だった。
父親がフギュアスケーターだったという事もあり、11歳でスケートの才能を開花させる。
コーチのスネイプとは、良好な関係を築いている。

セブルス=スネイプ 記憶無し

ハリーのコーチ。
かつてはハリーの父・ジェームズと共に世界で活躍していたフィギュアスケーターだったが、引退。
何かと自分に絡んで来るポッター父子に手を焼いている。

シリウス=ブラック 記憶有り

ジェームズの親友。
ハリーの名付け親で後見人でもある。
スネイプとは犬猿の仲。

リーマス=ルーピン 記憶有り

ジェームズ、シリウスの親友。
ハリー達の良き相談相手。

ジェームズ=ポッター 記憶有り

元フィギュアスケーター。
スネイプとは反りが合わない。

リリー=ポッター 記憶有り

ハリーの母。
スネイプとは幼馴染。

アルバス=ダンブルドア 記憶有り

ホグワーツ校長。
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