番頭通信

アラフィフのドメスティックな時々。

劇団ちりぢり「失踪前夜」(8/30・風のスタジオ)。

2013-09-02 18:57:38 | 演劇
 盛岡には多くの劇団がある。ところが、どの劇団もオリジナルメンバーだけでは舞台が成り立たないことが多く、「プロデュース公演」「客演」「フリー」という文字が飛び交っている実情がある。これは「活気に満ちた現場」と「なれ合っている現場」が紙一重だということも表している。そして劇団ちりぢりも例外ではなく、他の劇団の力を借りている実情だ。ただしキャストについては「盛岡一高演劇部を卒業している」点を残すことで、他の劇団と一線を画している。
 劇団ちりぢりの武器は、創設メンバー赤坂友理絵・荒井香澄・佐藤桐華という女性陣に、鈴木一生と、今回は作・演出に徹した藤原瑞基を加えた男性陣(この5人がオリジナルメンバー)がどう絡むかだと思っている。事実、今回の舞台でもっとも面白かったのは、姉ガソリン(荒井香澄)に弟(鈴木一生)が絡む場面だった。では新メンバー--例えば弟の彼女(主濱沙紀)--はどうか。キャストがピンで舞台にいると面白いのだけど、オリジナルメンバーほどインパクトがないのが、物足りないところである。
 今回のちりぢりのテーマ
「オリジナルメンバーに新メンバーをどう融合させるのか」。
少なくとも観劇した初日は化学変化が起こらないままだった。キャストに目配りし、当て書きしたはずの作者(藤原瑞基)がじりじりしたことは想像に難くない。
 それでも、吉田(伊藤栞)とまぼろし(菊池真衣)は、自分の役割を全うしていたと思う。それは第1世代のキャストたちとの距離を彼女らなりに計算していたからである。願わくは、からみー(藤田ありさ)の距離感をどうにかしたかったのだけれども、全体的に前半がグダグダだった(その様子をそのまま見せる目的があったとしても)ので、彼女がやり過ごすしかなかったのが残念なところである。。
 蛍光灯を使った照明だった。折り紙を天井に吊るのは、一般的な舞台照明を使うと燃えてしまう恐れがあるので、蛍光灯で行くのはやむを得なかった。そして今回「日常の描写」を目的としていたので、キャストを立体的に見せない、飾らない(きれいに見せない)というのは狙いだった。けれども、
「失踪することなんて、特に目的もなく、日常と紙一重」(藤原)
だとしても、キャストに華がない。それはジャージに象徴される衣装が原因なのかもしれない。あるいは素舞台で、ほぼノーメークだったのも原因なのかもしれない。それならキャストの力で、物語動かしたいところだったのだが、そうでもなかった。キャストしばり(盛岡一高OG・OBしばり)を外すと他の劇団と同じになるのが、痛し痒しである。
 ちりぢりの制作能力は、劇団の中で屈指だと思う。チラシのデザイン、外へのPR、ノウハウの継承など、彼女たちはどの舞台を担当しても機能すると思うし、重宝がられる。相手の懐に入ってPRをする技は、やりたくてきもできない劇団も多い。そして、ブレーンが20歳前後だというのもポイントだ。
 結論を強引に書く。ちりぢりに集う客は「外連味のなさ」に加え「ちょっとしたアクのある舞台」を観たい。「迷っている」と伝えなくていい。ただ演出は自信を持って、自らが納得できる舞台を追求していい。ちりぢりはそれができる集団だと思うのだ。
(敬称略)

劇団ちりぢり「失踪前夜」(藤原瑞基/作・演出)
2013年8月30日(金) いわてアートサポートセンター風のスタジオ

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。