屋根の上を思わせる骨組みのセット、仙台・大年寺山を思わせるシルエット。60's~80'sにかかった古めのBGM。無茶なことを言って相手と観客を混乱させる台詞。かつて藤田傳(劇団1980)が宮城県大会で言った講評
「本当のことを伝えるよりも、嘘を突き通すことができるのが、実は素晴らしい舞台」
という教えを守り、その世界観にどっぷりと浸っていた。そのまま夢のような時間が過ぎていくと油断していた。
「好きにならずにはいられない」(役者が原語で歌うんだ)、「アップタウンガール」が通奏低音のように使われ、「恋人と別れる50の方法」を姉・アキのために用意する。級友を、人を信じることができない今野が、アキの狂信的なまでの求愛を拒み、アキもまた傷つきそうになった時、アキは一世一代の勝負に出る。今まで彼女がしてきた駆け引きではなく、妹・幸から託された思いを込めて。
あのことを舞台にするまで、宮城から発信されるまで1年数ヶ月を要した。そんな中で、石川裕人("OCT/PASS")が上演した「方丈の海」が、戯曲を書くことを躊躇した安保の背中を押す。地区大会で、県大会で際どくもしぶとく作品が残り、いろいろと上演をためらっただろう名北演劇部員の背中を押した。「上演せずにはいられない」という思いが、一気に秋田市文化会館の舞台で大きなうねりとなった。
東北大会に戻ってくるまで、顧問の安保は3年、名取北高校は11年かかった。鉄のように硬かった扉をこじ開けたのは、全国大会出場へ向けた執念だったり、地味な練習を厭わなかった日常の姿勢だったり、脚本についてあれこれと落とし込む作業だったりという要因ももちろんある。加えて「この作品を東北代表にしないで、どの作品を東北代表にするのだ」という思いがあちこちから働き、それが実ったのだと。
ラスト15分、それまでの伏線が一気に明らかになり、今野が動揺するように、観客も動揺する。デフォルメされていたと思っていたアキの言動は、実は幸が言えなかった分も増幅されていて、今野が、観客がそのことに気づいたとき、彼は初めて自分の思いをアキに、そして幸に伝える。 甘酸っぱいほどの懐かしさを、10代の生徒よりもむしろ大人たちが感じたのかもしれない。大人の物語を「安保健+名北演劇部」の物語に落とし込んだとき、秋田市文化会館の観客は大きな拍手を持って受け入れた。最優秀賞・創作脚本賞を受賞した一同が、笑顔でも満身創痍の姿で会館を後にしたのが忘れられない。
彼らが「2012年を名取北の年」にしたのは正当な報酬だったし、審査員の流山児祥が「今年ベストの1本」とブログに記した。同じく林成彦も「あのふたりを好きにならずにはいられない」と記している。この愛らしくも哀しい舞台を、なお多くの人に見てほしく、私も自信を持って「2012年のベスト」と記す。
名取北高校「好きにならずにはいられない」(安保健+名北演劇部作)
2012年12月22日、第45回東北地区高等学校演劇発表会(秋田市文化会館)での上演
「本当のことを伝えるよりも、嘘を突き通すことができるのが、実は素晴らしい舞台」
という教えを守り、その世界観にどっぷりと浸っていた。そのまま夢のような時間が過ぎていくと油断していた。
「好きにならずにはいられない」(役者が原語で歌うんだ)、「アップタウンガール」が通奏低音のように使われ、「恋人と別れる50の方法」を姉・アキのために用意する。級友を、人を信じることができない今野が、アキの狂信的なまでの求愛を拒み、アキもまた傷つきそうになった時、アキは一世一代の勝負に出る。今まで彼女がしてきた駆け引きではなく、妹・幸から託された思いを込めて。
あのことを舞台にするまで、宮城から発信されるまで1年数ヶ月を要した。そんな中で、石川裕人("OCT/PASS")が上演した「方丈の海」が、戯曲を書くことを躊躇した安保の背中を押す。地区大会で、県大会で際どくもしぶとく作品が残り、いろいろと上演をためらっただろう名北演劇部員の背中を押した。「上演せずにはいられない」という思いが、一気に秋田市文化会館の舞台で大きなうねりとなった。
東北大会に戻ってくるまで、顧問の安保は3年、名取北高校は11年かかった。鉄のように硬かった扉をこじ開けたのは、全国大会出場へ向けた執念だったり、地味な練習を厭わなかった日常の姿勢だったり、脚本についてあれこれと落とし込む作業だったりという要因ももちろんある。加えて「この作品を東北代表にしないで、どの作品を東北代表にするのだ」という思いがあちこちから働き、それが実ったのだと。
ラスト15分、それまでの伏線が一気に明らかになり、今野が動揺するように、観客も動揺する。デフォルメされていたと思っていたアキの言動は、実は幸が言えなかった分も増幅されていて、今野が、観客がそのことに気づいたとき、彼は初めて自分の思いをアキに、そして幸に伝える。 甘酸っぱいほどの懐かしさを、10代の生徒よりもむしろ大人たちが感じたのかもしれない。大人の物語を「安保健+名北演劇部」の物語に落とし込んだとき、秋田市文化会館の観客は大きな拍手を持って受け入れた。最優秀賞・創作脚本賞を受賞した一同が、笑顔でも満身創痍の姿で会館を後にしたのが忘れられない。
彼らが「2012年を名取北の年」にしたのは正当な報酬だったし、審査員の流山児祥が「今年ベストの1本」とブログに記した。同じく林成彦も「あのふたりを好きにならずにはいられない」と記している。この愛らしくも哀しい舞台を、なお多くの人に見てほしく、私も自信を持って「2012年のベスト」と記す。
名取北高校「好きにならずにはいられない」(安保健+名北演劇部作)
2012年12月22日、第45回東北地区高等学校演劇発表会(秋田市文化会館)での上演