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わが国の法令外国語訳の取組みとドイツの法令・判例の英語訳化

2010-10-09 15:51:41 | 海外の法律・司法情報検索


Last Updated : March 16,2021

 前回2005年9月21日に取り上げた問題をさらに整理してみる。まずわが国の状況を見ておく。

 2004年6月30日に「司法制度改革推進本部―国際化検討会―法令の外国語訳に関するワーキング・グループ」(注1)第1回会合が開かれ、10月22日までに4回会合が開かれている。
 主たる目的は、①国際取引の円滑化、②対日取引の促進、③法整備支援の推進とされているが、現状については行政機関・民間(大学なども含まれよう)による個別的な取組みとなっており、統一的・信頼性の高い外国語訳が十分行われていない、さらには外国語訳された法令についてのアクセスが容易でない点が指摘されている。特に、前回述べた英連邦LIIの例を見るとおり、最近の海外の主要国におけるインターネット技術を十分に活用した法令・検索サービスの向上は目覚しいものがあり、筆者としてもこの点は別途改めて意見を述べるつもりである。

 まず第一に、主要国における法令外国語訳の現状を見ておこう。ワーキング・グループの第1回において配られた資料でみると、韓国が主要法令の約8割を英語訳済である。ドイツやフランスも主要法令を中心に英訳化(フランスではスペイン語も含まれる)を行い、インターネットのHP等で公開している。なお、事務局(首相官邸)が作成したものであろうが、この資料はあまり正確でない。例えば、①フランス政府の法令サイト「Legifrance.gouv.fr」は英語、スペイン語となっているが、ドイツ語も対象になっている(この点は自信がない)。また、②ドイツではフランスのように一元的な翻訳でなく、各省庁が関係法令を英訳化している点の説明がない。

 さらに注目したいのはEUである。加盟25カ国が25カ国(現時点の資料では20カ国)の言語を平等に扱うためか、翻訳作業に熱心である。例えば、欧州司法裁判所(CVRIA)サイトでは、①加盟国の国内・国際的な判例法、②「EUR-Rex」という専用の法令検索サイトとのリンク、③EUの各種条令、④各国の法令サイトとのリンクが可能となっている。さらに具体化すると、各国別に、立法・行政機関、司法制度、判例法について公的な資料の検索が可能となっている。ただし、法令そのものは検索できない。

 第二にドイツの法令や判例の英訳化について見ておこう。わが国でドイツの法令検索を行うには、国立国会図書館議会官庁資料室が最も充実しているといえるが、あくまで調べられるのはドイツ語である。ドイツ語が十分に理解できかつ一定以上の法理論に習熟していることが前提となる。
 最終的にドイツ語で読むにしても、やはりはじめは英語で概要は読んでみたいであろう。そこでわが国でよく紹介されるのが、ドイツのザールブリュッケン大学法学部の「法律インタ-ネットプロジェクト( Law-related Internet Project )」である。翻訳可能な言語が7ヶ国語並んでいるので、すぐに日本語を選択してみたがこれは期待はずれである。英語圏の人にとってはどうであろうか。英語を話せる人たちへの「英語ニュース」コーナーがあるが法令検索ではない。

 次に紹介されるのがオックスフォード大学の「German Law Achieve」である。欧米の大学では、もともと比較文化の観点からか「比較法」の研究が充実している。したがって、同サイトでは、主要法令、判例、研究文献などが閲覧できる。対象となる法律も憲法、民法、刑法、商法、訴訟法、裁判所法、環境法、地方自治法、個人情報保護法、郵便法、放送法等であり、充実度はすばらしい。しかし、企業法務の観点からは、例えばドイツの「電子署名法」(Act on Digital Signature(Gesetz zur digitalen Signatur)の内容が見たい場合はどうであろうか。実は、同法の英訳化は連邦政府の電気通信や郵便サービスを監督する「連邦ネットワーク庁(Bundesnetzagentur:BNetzA )」(2005年3月13日にこの名称に改称されている)のサイトで見なければならない(ドイツ連邦ネットワーク庁サイトはほぼ完全にサイト情報がドイツ語と英語とパラレルである。極めてよく出来ている)。

 ちなみに、German law ArchieveでAct on Digital Signatureを知らべると以下の画面がでる。

  なお、当然であるが、ドイツ連邦法務・消費者保護省(Bendesministerium der Justiz ind Fur Verbrucherschutz)および連邦司法庁(Bundesamt fur Justiz )共管の法令検索サイトの”Translations”を選んでみよう。

例えば、一番初めに”AbgG”:Members of the Bundestag Act”(Abgeordnetengesetz)が表示される。同法は連邦選挙法に基づく連邦議会の議員資格の取得と喪失にかかる法律である。冒頭に改正の経緯の説明がある。

法律名をクリックすると以下で英訳された各条文表示される。

 さらに調べてみたところ、ドイツの「words worth」というサイトを発見した。その解説を読むと、すべての単語が重要な英語への翻訳:Words-Worthはデュッセルドルフとボンの2人の経験豊富な専門翻訳者のよく訓練されたチームであり、公的機関、省庁、研究機関、企業、企業団体、非政府組織向けに翻訳している。英語のネイティブスピーカー向けに、ドイツ語から英語に翻訳するテキスト作業を行うとある。

このWeblogについて、2005年当時は筆者は以下のとおり説明したが、2021年時点では、同サイトは以下のカテゴリーに区分整理されている。今回のブログの内容とは直接関連しないが、ドイツの経済、社会、文化、人類学などにおいてどのようなテーマに強い関心をもって英語圏の国々に謳えようとしてるかが理解できよう。

(1) Corpprate Communications

①CORPORATE SOCIAL RESPONSIBILITY (CSR);

②FINANCIAL MARKET COMMUNICATION;

③WEBSITE TRANSLATIONS;

④TURNAROUND MANAGEMENT(注2)

(2)ビジネス&ファイナンス

①FINANCIAL MARKET COMMUNICATION;

②INVESTMENT FUNDS:

③BUSINESS AND ECONOMICS:

(3)Environment, Social Policy, Sustainability

①犯罪学(CRIMINOLOGY)/人 を 搾取 し 犠牲にする 行為 (VICTIMISATION);

②都市開発(URBAN DEVELOPMENT);

③社会保障(SOCIAL SECURITY);

④洋上風力発電(OFFSHORE WIND POWER);

⑤人身売買(HUMAN TRAFFICKING);

⑥海洋自然保護(MARINE NATURE CONSERVATION);

⑦CRIMINOLOGY;

⑧気象政策と排出取引(CLIMATE POLICY AND EMISSIONS TRADING);

⑨GENDER EQUALITY ATLAS FOR GERMANY(注3)

【2005年当時の「words worth」の説明】2005年当時の「words worth」の説明

.一番の特徴は電子署名法も含め各省庁が所管するかなりの(数えてはいないが)法律の英訳化資料がアルファベット順に検索できるのである。
 法学部の学生だけでなく、企業法務の方もぜひ勉強してはいかがか。ただし、その後同グループは翻訳ビジネスに変わったようである。

 なお、フランスの法令の英訳化について機会を見て紹介する。
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(注1) 筆者は同ワーキング・グループの座長である中央大学法科大学院の柏木昇教授とは、本ブログ初版執筆後「国際取引法フォーラム」会員として知り合いとなり、常日頃親しくこれらの問題につき意見交換等を行っている。

(注2) ターンアラウンド(Turn Around)は、原語の直訳は「方向転換」で、ビジネスにおいては、事業再生や経営改革のことをいいます。これは、業績不振の企業が直面する様々な問題に正面から取り組み、事業を再生して企業価値を高めることを指します。また、事業再生の現場で陣頭指揮を取り、企業を再生させる責任者のことを「ターンアラウンド・マネージャー」と言います。
一般にターンアラウンドでは、財務リストラ等で短期的に収益の改善を目指す「ワークアウト」とは異なり、事業構造や組織構造、収益構造といった企業の本質に切り込んで、中長期的に企業価値を向上させる施策が行われます。例えば、事業再生ファンドビジネスにおいては、投資によって、営業面のテコ入れや設備投資の実施、研究開発力の強化といった「戦略的な収益改善策」を実施して、企業価値を高めたりします。(iFinanceから一部抜粋)

(注3) https://www.bmfsfj.de/resource/blob/114008/de3c25bc8c0f00a118920c08e326ccce/3--atlas-zur-gleichstellung-von-frauen-und-maennern-in-deutschland-englisch-data.pdf
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(今回のブログは2005年10月1日登録分の改訂版である)
                            
Copyright © 2005-2010 芦田勝(Masaru Ashida ).All Rights Reserved.No reduction or republication without permission.


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