Financial and Social System of Information Security

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NISTからこのほど公開された「 NIST SP 800-226 草案」および「差分プライバシー保証を評価するためのガイドライン草案」に対するパブリックコメントの背景と意義

2023-12-16 16:28:23 | 最新科学・技術問題

  2023.12.12 筆者の手元にNIST(注1)からこのほど公開された「 NIST SP 800-226 草案」および「差分プライバシー(differential privacy) (注2)保証評価するためのガイドライン草案」に対するブリックコメントの要請メールが届いた。

 今回のブログは、まず(1)NISTのメールを仮訳するとともに、 (2)大統領令(EO: 14110)の概要・意義にかかるFact Sheetの内容、(3) NIST 特別刊行物 (SP) 800-226 の初期公開草案 (Initial Public Draft :IPD)の概要・意義、(4) 差分プライバシー保証を評価するためのガイドライン草案の概要・意義等をまとめる。

 なお、今般のNISTガイドライン草案についてのわが国で本格的解説は、現時点では皆無と思われる。また、2021年12月にスタートした” U.S.-U.K. PETs Prize Challenges”制度やその後の受賞者の動向等についても言及したものもない。今回のブログでは筆者なりに補足説明を加えた。

1.NISTのメールの内容

 注訳付きで以下、仮訳する。

「親愛なる同僚研究者の各位

 NIST 特別刊行物 (SP) 800-226 の初期公開草案 (Initial Public Draft :IPD)、および差分プライバシー保証を評価するためのガイドライン草案のリリースを発表できることを嬉しく思う。

 これは、個人の情報がデータセットに表示されるとき、プライバシー・リスクを定量化するプライバシー強化技術である「差分プライバシー保証」に関するものである。 人工知能の安全、安心、信頼できる開発と使用に関するバイデン大統領の大統領令「安全・安心・信頼できる人工知能の開発と利用に関する大統領令」に応え、SP 800-226 は、政策立案者、経営者、製品マネージャー、IT 技術者、ソフトウェア開発者などあらゆる背景を持つ政府機関や実務家を支援することを目的としている。

 これら草案によりエンジニア、データ・ サイエンティスト、研究者、学者は、プライバシー保護の機械学習など、差分プライバシーを導入する際に交わされた約束(およびされなかった約束)を評価する方法をより深く理解できる。さらに、この刊行物で説明されている差分プライバシーやその他の概念を実現する方法を説明する、補足的な対話型ソフトウェア・アーカイブもある。

 この草案へのコメント期間は東部標準時間、2024 1 25 ()午後 11 59 分までである。SP 800-226 およびコメント フォームの詳細については、刊行物ページを参照されたい。」

2.20231030日の大統領令大統領令(EO: 14110)の概要ならびに同EOに基づくNISTの具体的責任

 以下、参照サイトを補充しながら仮訳する。

【参照サイト】

Read the Executive Order Fact Sheet 

Read :the Department of Commerce Announcement

1)大統領令の主要な8つの構成要素

 JETROの大統領令のFact Sheet解説「バイデン米政権、AIの安全性に関する新基準などの大統領令公表」を以下、抜粋、仮訳する。なお、内容としては国際的法律事務所Kilpatrick Townsend & Stockton LLPの)英文解説「人工知能に関する米大統領令(Executive Order)はアンクル・サム(米政府)だけのものではない:大統領令の主要な要素と民間セクターへの潜在的な影響」訳文が詳しく参考になる。

 ホワイトハウスが10月30日に公開したファクトシートは大統領令の主要な構成要素を8つの項目に分けている。概要は次のとおり。

  1. 安全性とセキュリティーの新基準:商務省傘下の国立標準技術研究所(NIST)は、AIシステムが一般公開される前のテストに厳格な基準を設定する。国土安全保障省(DHS)は、これらの基準を重要インフラ分野に適用し、AI安全保障委員会を設立する。また、国家や経済の安全保障、公衆衛生や安全性に重大なリスクをもたらす基盤モデルを開発する企業に対し、モデルのトレーニングを行う際の政府への通知、テスト結果の政府への共有を義務づける。
  2. 米国民のプライバシー保護:議会に対し、全ての米国民、特に子供のプライバシー保護を強化するため、超党派のデータプライバシー法案を可決するよう求める。また、国立科学財団(NSF)の実施する助成金事業「リサーチ・コーディネーション・ネットワーク」への資金提供を通じ、暗号ツールのような個人のプライバシーを保護する研究や技術を強化する。
  3. 公平性と公民権の推進:AIアルゴリズムが司法、医療、住宅における差別を悪化させるために利用されないよう、家主、連邦政府の各種支援プログラム、連邦政府の請負業者に明確なガイダンスを提供する。また、AIに関連する公民権侵害の調査および起訴の最善方法に関する研修、技術支援、政府機関との調整を通じ、アルゴリズムによる差別に対処する。
  4. 消費者、患者、学生の権利保護:医療面では、AIの責任ある利用と、安価で命を救う薬剤の開発を推進する。また、米国連邦保健福祉省(HHS)は、安全プログラムの確立を通じ、AIが関与する有害、または安全でない医療行為の報告を受け、それを是正するよう行動する。教育面では、AIを活用した教育ツールを導入する教育者を支援するリソースの創出を通じ、教育を変革するAIの可能性を形作る。
  5. 労働者の支援:雇用転換、労働基準、職場の公平性、安全衛生、データ収集に取り組むことで、労働者にとってのAIの弊害を軽減し、利益を最大化するための原則と最善方法を開発する。
  6. イノベーションと競争の促進:研究者や学生がAIデータにアクセスできる「全米AI研究リソース(National Artificial Intelligence Research Resource)」の試験運用を通じ、米国全体の研究を促進する。医療や気候変動など重要分野における助成金を拡大し、米国全体の研究を促進する。
  7. 外国における米国のリーダーシップの促進:国務省は商務省と協力し、国際的な枠組みを構築する取り組みを主導する。国際的なパートナーや標準化団体との重要なAI標準の開発と実装を加速し、技術の安全性、信頼性、相互運用性を確保する。
  8. 政府によるAIの責任ある効果的な利用の保証:政府全体でAI専門家の迅速な採用を加速するとともに、権利と安全を保護するための明確な基準や各省庁がAIを利用する際の明確なガイダンスを発行する。

3.NISTAI時代のプライバシー保護手法の評価に関するガイダンス草案(NIST Offers Draft Guidance on Evaluating a Privacy Protection Technique for the AI Era)

 AIに関する最近の大統領令で詳述されているその任務の1つで進歩を遂げた12月11日の同草案につき、NISTリリースを補足しつつ、仮訳する。

 異なる保護に対する主張を評価するには、異なるプライバシーピラミッドのすべてのコンポーネントを調べる必要がある。そのトップレベルには、プライバシー保証の強さの数値であるイプシロン(ε/epsilon:数学で、零に近い任意の微少量)を含む、プライバシー保護の最も直接的な対策が含まれている。中間レベルには、十分なセキュリティの欠如など、差別的なプライバシー保証を損なう可能性のある要因が含まれ、下位レベルには、データ収集プロセスなどの根本的な要因が含まれる。ピラミッドの各コンポーネントがプライバシーを保護する機能は、その下のコンポーネントによって異なる。

  この微妙な状況は次のとおりである。フィットネス・トラッカー(fitness trackers)(注3)を消費者に販売する企業は、顧客に関する健康データの大規模なデータベースを蓄積している。一方、研究者は、医療診断を改善するためにこの情報へのアクセスを望んでいる。企業はそのような機密の個人情報の共有を懸念しているが、この重要な研究もサポートしたいと考えている。では、研究者は、個人のプライバシーを損なわずに、社会に利益をもたらす可能性のある有用で正確な情報をどのように入手するのか?

 個人データ中心の企業・組織がプライバシーと正確さのこのバランスをとるのを助けることは、国立標準技術研究所(NIST)からの新しい刊行物の目的であり 「差分プライバシー(differential privacy)」と呼ばれる数学的アルゴリズムのタイプである。この差分プライバシーを適用すると、データセット内の個人を明らかにすることなく、データを公開できるのである。

 「差分プライバシー」は、データ分析で使用されるより成熟したプライバシー強化技術(privacy-enhancing technologies: PET)(注4)の1つであるが、一方、標準がないため、効果的に使用することが困難になり、ユーザーに障壁が生じる可能性がある。

 この作業により、NISTは最近のAIに関する大統領令に基づくタスクの1つを実行するようになるとともに プライバシーの違いなどのPETの研究を進める。この大統領令により、NISTはAIを含む差分プライバシー保証の有効性を評価するために、365日以内にガイドラインを作成する必要があった。

 NISTの新しいガイダンス、正式にはタイトル「 NIST Special Publication(SP)800-226初期公開草案および「 差分プライバシー保証を評価するためのガイドライン」は、 主に他の連邦機関向けに設計されており、誰でも使用できる。すなわち、ソフトウェア開発者からビジネスオーナー、政策立案者まで、すべての人がプライバシーの違いについての主張を理解し、より一貫して考えるのを助けることを目的としている。

 NISTのプライバシーエンジニアリング・プログラムのマネージャーと本ガイダンスの編集者の1人である Naomi Lefkovitz氏は「データセット内の個人を特定できなくても、データとトレンドの分析を公開するために異なるプライバシーを使用できるが、一方、差分プライバシー技術はなお成熟しており、注意すべきリスクがある。今回のNIST刊行物は、組織・団体が差分化されたプライバシー製品を評価し、作成者の主張が正確であるかどうかをよりよく理解するのに役立つことを望む」と述べている。

Naomi Lefkovitz氏

 機械学習モデルをトレーニングするために大きなデータセットに依存しているAIの急速な成長のために、異なるプライバシーと他のPETを理解する必要性が迫っている。過去10年間、研究者たちはこれらのモデルを攻撃し、トレーニングされたデータを再構築することが可能であることを実証してきた。 

個人のプライバシーを保護しながら貴重なデータを確保するにはどうすればよいか? データ主導の世界では、個人を特定できる情報を保護しながらデータを分析する方法について適切な決定を下す必要があるが、差分プライバシーによってそれが可能になった。

 NISTのLefkovitz氏は「機密データである場合は、それを明らかにしたくない。最近学んだ 5.で.後述する「米英PETs賞チャレンジ(U.S.-U.K. PETs Prize Challenges)」では「差分プライバシー」は、モデルがトレーニングされた後の攻撃に対する堅牢なプライバシー保護を提供するためにわれわれが知っている最良の方法であり、すべてのタイプの攻撃を防ぐことはできないが、防御層を追加できる」と語った。

 「差分プライバシー」の考えは、2006年から存在しているが、商業的なプライバシーの差分化ソフトウェアはまだ始まったばかりである。今回の草案刊行に先行して、NISTはブログ・シリーズ(Differential Privacy Blog Series) において ビジネスプロセスの所有者とプライバシー・プログラムの担当者がプライバシー・エンジニアリング・コラボレーション・スペース(NIST’s Privacy Engineering Collaboration Space)においてNISTで利用可能な差別的なプライバシーツールを理解して実装できるように設計された紹介サイトを作成した。

 この新しい刊行物は最初の草案であり、NISTは2024年1月25日に終了する45日間の期間中にそれについてパブリック・コメントを要求している。コメント内容は、2024年後半に公開される最終バージョンで通知される。

 刊行物のタイトルが示すように、差分プライバシー・ソフトウェアメーカーの主張を評価することは困難であった。メーカーが行う可能性のある典型的な約束または保証は、そのソフトウェアが使用された場合、データがデータベースに表示される個人を再識別する試みは失敗することになろう。

 プライバシーの実際の保証を評価するには、複数の要因を理解する必要がある。これは、この著者が“差分プライバシー・ピラミッドでグラフィカルに識別および整理するものです。” ピラミッドの各コンポーネントがプライバシーを保護する能力は、その下のコンポーネントに依存し、異なるプライバシー保護に対する主張を評価するには、ピラミッドのすべてのコンポーネントを調べる必要がある。そのトップレベルには、プライバシー保証の最も直接的な対策が含まれる。中間レベルには、十分なセキュリティの欠如など、差別的なプライバシー保証を損なう可能性のある要因が含まれる。下位レベルには、データ収集プロセスなどの根本的な要因が含まれる。

 Lefkovitz氏によると、この刊行物の主要なポイントの1つは、技術的な専門知識を持たない可能性のあるユーザーがこの技術的なトピックを理解できるようにすることである。また、関係する数学で構成されているが、該当文書にアクセスできるようにすることに焦点を当てており、差分プライバシーを効果的に使用するために、数学の専門家である必要はない」と述べている。

 ガイドライン草案に関するコメントは、2024125日までに提出できる。コメントを提出するには, NIST Webサイトからテンプレートをダウンロードするとともに メールでprivacyeng@nist.govにアクセスする。詳細については、NIST Webサイトで AIに関する大統領令に基づくNISTの責任を参照されたい。

4.NIST 特別刊行物 (SP) 800-226 の初期公開草案 (Initial Public Draft :IPD)の概要と意義

 以下で補足し、仮訳する。

A.概要

 安全、安心、信頼できる人工知能に関する大統領令(EO14110)は、2023年10月30日に発布され、NISTを含む複数の機関に、ガイドラインを作成し、安全で信頼できる開発と人工知能(AI)の使用を推進するための他の措置を講じることを要求するものである。

  同EOは、NISTに安全で信頼できるAIシステムの開発と展開を確実にするのに役立つコンセンサス業界標準化(consensus industry standards)を促進するためのガイドラインと最良実施を開発するように指示した。特にNISTの責務は次のとおりである。

生成AI(generative AI)に焦点を当て、AIリスク管理フレームワーク(AI Risk Management Framework:AI RMF)に合わせた「手引きとなる必携情報源(companion resource)」を開発する。

  2023 年 1 月 26 日にリリースされたこのフレームワークは、情報提供要求、パブリック・コメント用のいくつかの草案、複数のワークショップ、その他の意見を提供する機会を含む、コンセンサス主導の、オープンで透明性のある協力的なプロセスを通じて開発された。これは、他者による AI リスク管理の取り組みに基づいて構築し、連携し、サポートすることを目的としている。

*NIST は、官民セクターと協力して、人工知能 (AI) に関連する個人、組織、社会へのリスクをより適切に管理するためのフレームワーク「AIリスク管理フレームワーク(AI Risk Management Framework:AI RMF)」を開発した。AI RMF は、自主的な使用を目的としており、AI 製品、サービス、システムの設計、開発、使用、評価に信頼性の考慮事項を組み込む能力を向上させることを目的としている。

AI RMFは2部構成であり、前半では「AIに関わるリスクの考え方」や「信頼できるAIシステムの特徴」、後半では「AIシステムのリスクに対処するための実務」が説明されている。主な読者対象は、AIシステムの設計、開発、展開、評価、利用を行う者であり、AIのライフサイクル全体にわたってリスク管理の取り組みを推進するAI関係者(AIアクター)で。(詳細はPwC日本法人の日本語解説を参照されたい)。

② Secure Software Development Frameworkの手引き(必携)情報源(companion resource)を開発して、生成AIと二重用途の基礎モデル(dual-use foundation models)の安全開発プラクティスを組み込む

③ 被害を及ぼす可能性のある機能に焦点を当てて、AI機能を評価および監査するためのガイダンスとベンチマークを作成するための新しいイニシアチブを立ち上げる。

④ 国家安全保障システムのコンポーネントとして使用されるAIを除いて、ガイドラインとプロセス–を確立し、生成AI、特に二重用途の基礎モデル(dual-use foundation models)(注5)の開発を可能にするとともに、 安全で安心、信頼できるシステムを導入するためのAIレッドチーム・テストを実施する。これには、(ⅰ)二重用途の基礎モデルの安全性、セキュリティ、信頼性の評価と管理、およびプライバシー保護機械学習に関連するガイドラインの調整または開発する、(ⅱ) エネルギー省長官(Jennifer M. Granholm)および米国立科学財団(NSF)の理事と連携して、テストベッドなどのテスト環境の可用性を開発および支援し, 安全で安心、信頼できるAIテクノロジーの開発をサポートし、関連するプライバシー強化テクノロジー(privacy-enhancing technologies :PET)((注5)の設計、開発、展開をサポートする。

Jennifer M. Granholm氏

(5)合成核酸配列プロバイダー(synthetic nucleic acid sequence providers)による使用の可能性を考慮して業界および関連する利害関係者と協力して、以下を含む、開発や改良を行う。

(ⅰ)効果的な核酸合成調達スクリーニングのための仕様

(ⅱ)このようなスクリーニングをサポートするための懸念シーケンス データベースを管理するためのセキュリティとアクセス制御を含む最良実施の内容

(ⅲ)効果的なスクリーニングのための技術導入ガイド

(ⅳ) 適合性評価の最良実施とそのメカニズム

(6) アメリカ合衆国行政管理予算局(OMB )長官および国家安全保障担当大統領補佐官への報告書を作成し、以下について既存の基準、ツール、方法、慣行ならびに科学に裏付けられたさらなる基準および技術の開発の可能性を特定する。

(ⅰ)コンテンツの認証とその出所の追跡

(ⅱ)合成コンテンツのラベル付け (透かしなど)

(ⅲ)合成コンテンツの検出

(ⅳ)生成 AI による児童性的虐待素材の作成や現実の個人の同意のない性的関係の画像の作成を防止する

(ⅴ)上記の目的で使用されるテスト・ソフトウェア

(ⅵ)合成コンテンツの監査と保守

(7)AI を含む差分プライバシー保証の有効性を評価するための政府機関向けのガイドラインを作成する。

(8)政府機関による最小限のリスク管理慣行の実施をサポートするためのガイドライン、ツール、慣行を開発する。

(9)AI 関連のコンセンサス標準の開発と実装、協力、情報共有を推進するために、主要な国際パートナーや標準開発組織との調整において商務省長官を支援する。 その後、商務省長官(国務長官および他の連邦政府機関の長と連携して)は、AI 標準を推進および開発するための世界的な関与の計画を確立する。

 これらの取り組みは、NIST AI リスク管理フレームワークと、NIST が主導する米国政府の重要技術および新興技術に関する国家標準戦略(US Government National Standards Strategy for Critical and Emerging Technology)(わが国CRDSの解説参照)に定められた原則に基づいて行われる。

 一部の任務については、NIST が商務省長官に代わって活動する。 NIST は、ガイダンスの一部を作成する際に他の機関と協議する予定であり、同様に、これらの機関のいくつかは、EO に基づく行動を遂行する際に NIST に(直接または商務省長官を通じて)相談するよう指示されている。 NIST への EO タスクのほとんどには 270 日の期限がある。

 NIST は、政府機関との連携に加えて、大統領令(EO: 14110) が求めるガイダンスを作成する際に、民間部門、学界、市民社会とも連携する予定である。 NIST は、これらの分野のいくつかで現在の取り組みを構築し、拡大していく。これには、2023 年 6 月に設立された「生成 AI パブリック ワーキング グループ(Generative AI Public Working Group)」( わが国CRDSの解説が含まれる)

5. U.S.-U.K. PETs Prize Challenges 制度

(1) 英国研究・イノベーション機構(UK Research and InnovationUKRIの概要を述べるとともに、わが国との関連を見ておく。

 わが国「海外動向ユニット」の資料「英国における研究者育成施策の動向」から下図を抜粋する。

 わが国とUKRIの関係は以下のとおりである。

 英国(UKRI)との国際共同研究プログラム(JRP-LEAD with UKRI):本事業は、英国研究・イノベーション機構(UK Research and Innovation, UKRI)との合意により、一国のみでは解決が困難な課題に対して、国際共同研究を実施することで資源の共有や研究設備の共用化等を通じた相乗効果を発揮するとともに、若手研究者等に国際共同研究の機会を提供することを目的として、我が国の大学等の優れた研究者が英国の研究者と協力して行う国際共同研究に要する経費を支援するものです。(日本学術振興会サイト解説から抜粋)

(2) 米国と英国のプライバシー強化技術(PETs)プライズ・チャレンジ制度の概要

① 2021年12月8日付け米国・大統領府・科学技術政策局(OSTP)による標記記事の概要は次のとおりである。

 米国と英国は、プライバシー強化技術(Privacy-enhancing technologies: PETs)の推進に焦点をあてた、イノベーション・プライズ・チャレンジで協力する計画を発表した。この新しい一連の技術は、プライバシーと知的財産を保護しながら、データの力を活用する重要な機会を提供し、国境やセクターを越えて共通の課題を解決することを可能にするものである。

② 2022年11月10日、わが国の研究開発戦略センター(CRDS)(注6)リリース「米国と英国がプライバシー強化技術(PETs)プライズ・チャレンジの第1フェーズ受賞者を発表」の抜粋

 2022年11月10日付、米国立科学財団(NSF)による標記発表の概要から抜粋する。

 76の応募から選ばれた12の受賞論文は、プライバシーを保護する連合学習(federated learning)への最先端のアプローチを提案し、総額15万7,000ドル(約2187万円)の賞金を獲得した。受賞者には、両国の学術機関、グローバルテック企業、スタートアップなどが含まれている。

 11月始めに開始された第2フェーズでは、参加チームが、論文で想定したソリューションを実際に構築する。また規制当局や政府機関に関与し、重要な規制上の原則を維持するためのソリューションの開発について情報を提供する機会も設けられる。第2フェーズの参加者は、総額91万5,000ドル(約1億3千万円)の賞金をかけて競うことになる。

 両国政府はまた、第3フェーズに参加する「レッドチーム」の募集を開始している。レッドチームは第2フェーズで上位のスコアを得たソリューションのプライバシー保護能力を厳格にテストし、最終受賞者が決定されることになる。最高レベルの得点をしたレッドチームには、総額22万5,000ドル(約3195万円)の賞金が授与される。

 本チャレンジの企画は、英国側が英国データ倫理・イノベーションセンター(U.K. Centre for Data ethics and Innovation:CDEI)とイノベートUK(Innovate UK)(注7)、米国側が大統領府科学技術政策局(Office of Science and Technology Policy:OSTP)、国立標準技術研究所(U.S. National Institute of Standards and Technology:NIST)、および国立科学財団(NSF)が主導している。米国のチャレンジは、NISTとNSFが共同で資金提供し管理している。

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(注1) NISTの正式名称は、National Institute of Standards and Technologyで、日本では米国国立標準技術研究所と呼ばれている。NISTは、1901年に設立された最古の物理科学研究所である。現在は、米国商務省(Department of Commerce:DoC)の傘下の研究機関である。 NISTの成果は、スマート電力網や電子健康記録から原子時計、先進のナノ材料、そしてコンピュータチップまで幅広く、IT業界でもNISTが提供する最新技術、測定技術、技術標準に依存することが多くなってきている。

(注2) 「差分プライバシー」とは、プライバシー保護の手法の1つ。個人データを含むデータベースから統計値などを抽出する際に、その数値に乱数を加えることで正確な値を秘匿する。これにより、抽出したデータと他の外部データを掛け合わせて特定個人のプライバシー情報を取り出すといった「攻撃」からデータを保護できる。

 データベースなどに格納してある元の個人データには手を加えず、データを分析などに使う人がクエリー(問い合わせ)を実行した際に、システム側がクエリーの結果に乱数を加えて返答する仕組みだ。クエリーの結果に加える乱数は、数学的に定義された要件を満たすアルゴリズムに基づいて導き出す。

 抽出したデータに乱数を加えることで、仮にデータを第三者に奪われても、そこから特定の個人に関わる情報を取り出すのは難しくなる。データを外部に公開する場合も、差分プライバシーの手法で乱数を加えることで、公開したデータから特定個人の情報が漏れるリスクを抑えられる。(Kilpatric Townsend & Stockton LLPの和訳解説から一部抜粋)

(注3)フィットネス・トラッカー(fitness trackers)とは、日本語では「活動量計」と訳される。海外では「アクティブトラッカー」と呼ばれることもある。文字通り、歩数や消費カロリー、睡眠時間といった身体活動量を計測し、自動的に記録してくれる端末のこと。病気を予防して健康を維持・増進する目的のために行われる健康管理をサポートする。(「フィットネストラッカーとは?主な機能と製品事例、市場動向」から抜粋)

(注4) PETsPrivacy-enhancing technologiesとは、名前の通りプライバシー保護を強化する技術の総称である。PETsは多岐にわたり、通信経路を隠すためのTor(The Onion Router/Onion Routing)、要素の値や性質を集計結果から精緻に推察され難くする差分プライバシー、情報自体は伝えず情報が満たす性質を暗号学的に証明するゼロ知識証明など、目的や用途に応じて使い分けられている。(NRIセキュア ブログから一部抜粋)

(注5) dual-use foundation modelsの意義から一部抜粋、仮訳する。

バイデン大統領の最近の大統領令から:

「セクション4.6. 広く利用可能なモデルの重みを使用して二重用途の基礎モデルに関する意見を求める。インターネット上に公開される場合など、二重用途の基礎モデルの重みが広く入手可能になると、イノベーションに多大なメリットがもたらされる可能性がある。 広く利用可能な重みを備えたデュアルユース基礎モデルのリスクと潜在的な利点に対処するため、このEO発令の日から 270 日以内に商務長官が代理を務める。」

(注6) 研究開発戦略センター(CRDS)は、わが国の科学技術イノベーション政策に関する調査、分析、提案を中立的な立場に立って行う組織として、平成15年(2003年)7月に、独立行政法人科学技術振興機構(当時の名称)に設置された。

(注7) Innovate UKはイノベーションを目指して研究を行う企業を助成し、英国政府に代わって投資する組織である。英国スウィンドンに2007年設立され、約500人のスタッフが所属する。投資といっても単純に資金の支援だけでなく、さまざまな方向から幅広い支援プログラムが用意されている。(ASCII START UPの解説から一部抜粋)

 なお、筆者は当然のことながらInnovate UKに関する情報源として「英国研究・イノベーション機構(UK Research and Innovation, UKRI)」に登録済であり、ちなみに本日12月16日に筆者が受け取ったニュ―スのタイトルを見ておこう。

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STIMSON研究成果報告書(Working Paper)「中国のブロックチェーン:国際ビジョンと地域での取り組み」を読んで(その19

2021-08-20 08:42:43 | 最新科学・技術問題

 このワーキングペーパーの共著者は、サラ・シュー(Sara Hsu)博士(注1)(注2)注3)ガブリエル・グリーン(Gabrielle Green)氏 である。

 Sara Hsu 氏

Gabrielle Green氏

 この報告書の前書きで「ブロックチェーン技術は、暗号通貨の誇大宣伝とヒステリーを超え、さまざまなセクターのプロセスを保護し、合理化するためのソリューションとして業界や政府が採用する技術となった。中国は、特に金融、医療、エネルギー、サプライチェーンなどの分野で、ブロックチェーンの開発者であり迅速な採用者となっている。政府によるブロックチェーン企業やアプリケーションの支援により、全国での技術の使用が促進され、セキュリティが向上し、顧客の取引速度が向上し、世界市場における中国の競争力が向上している」と述べている。

 たしかに中国の国をあげての「分散型台帳技術(DLT)」の本格導入の取り組みは否定しがたい。しかし、具体的評価となるとそう簡単ではないと思う。 

 今回のブログは著者2人の中国のプロパガンダのみにとどまらずに中国の真の実態に迫るべく、極力、参考情報や解説を追加しながら、問題の本質に迫りたいという考えで仮訳のうえ纏めてみた。

 なお、原文では必要に応じリンクが張られているが、筆者から見ると決して十分とは思えない箇所や一部誤りがあった。このため、筆者の責任で改めて追加やリンクを張った

 また、言うまでもないが大学やビジネススクール、シンクタンク等研究分野での米中のコラボレーション範囲は、深くてかつ広い。

 今回のブログは2回も掲載する。

  1.問題点の概要(Executive Summary)

 分散型台帳技術DLT)の一部であるブロックチェーンなどの新しい技術は、単一の分野や使用事例に限定されない。世界の大国は、暗号通貨の使用を上回るブロックチェーンの力と、金融、ヘルスケア、政府、サプライチェーンを含む多くの分野で重要なプロセスを形成する可能性を認識している。グローバルな競争力を追求する上で、中国はブロックチェーン技術のテストや、その周りの法的枠組み、規制、政府の取り組みを実施する上で重要なプレーヤーである。

 本ワーキングペーパーでは、中国の国内の事例を調べ、ブロックチェーン技術のテスト、採用、実装の試みでどのように進歩したかを評価する。また、ブロックチェーン技術における中国のビジョンが多くのイノベーション・イニシアチブにつながった方法についての洞察も提供する。

2.前書き

 ビットコインは10年以上前にブロックチェーンにより新たな世界を導入したが、基礎となる技術、分散型台帳技術(DLT)の周りに話題が続いている。過去10年間、官民は業界ソリューションを開発し、ブロックチェーンの研究開発に資金を提供し続けている。レポートプロジェクトの世界的なブロックチェーン資金は、2022年までに117億ドル(約1兆2750億円)に達する予定であると予想している。(注5)

 DLTに対する世界的な支出が増加するにつれて、中国のようなグローバル・アクターがブロックチェーン技術をどのように、なぜ使用しているかを尋ねる価値がある。DLTは、金融セクターに与える影響と、グローバル市場の競争力の向上に対してどのような影響を与えているのであろうか。コラボレーションの可能性はあろうか?

 中国はブロックチェーンに多大な資源を捧げ、自国の産業におけるその可能性を評価する上ではっきりと前進した。中国にとって、DLTは、グローバルコミュニティの最前線に国を位置づけることを目的とし、より広範な技術ビジョンの一部である。

 本稿では、技術とその意義を説明し、中国におけるDLTの開発状況を評価する。この論文は、ブロックチェーン技術を採用する中国のビジョンと、国内規制、官民のユースケース、イノベーション・イニシアチブの国際的なビジョンに焦点を当てた業界をどのように構築しているかについての洞察を提供する。

 3.分散元帳技術とは

 「ブロックチェーン」は暗号通貨そのものであるという一般的な誤解にもかかわらず、ブロックチェーンは分散型台帳技術(DLT)の一部である基盤となる技術である。 DLT は、複数の場所にタイムスタンプ付きデータを格納し、暗号化、ピアツーピア・ プロトコル、ハッシュなどのテクノロジを組み合わせた共有台帳である。

 DLT は、誰でも元帳にアクセスできる権限なし、および特定の参加者のみが元帳にアクセスできる許可を与えられるものとして分類できる。データを入力するためには、ネットワークの参加者はデータが有効であることに同意する必要があり、これは「分散元帳のアルゴリズム設計で指定されたコンセンサスメカニズム」を通じて行われる。ブロックチェーンに固有のデータは、暗号署名によって相互にリンクされた「ブロック」に格納され、追加専用である。つまり、データは削除されず、チェーンの最後に変更が示されることを意味する。各ブロックは、データが変更されていないかどうかを確認する一意の暗号化署名で"ハッシュ"される。トランザクションとトランザクションのグループ (またはブロック) は、その先行トランザクションのハッシュを格納するため、トランザクションを変更しようとすると、チェーンの残りの部分との互換性がないと拒否され、参加者にアラートが生成される。

 さらに、DLTの重要な点は、デーが不変である記録を提供するため、ライセンス、法的文書、写真などのさまざまなデータの証明の証明を可能にする能力があることにある。このため、企業や政府は、サイバー攻撃に対する対抗するため、DLTの使用に関心を持っている。

 分散型台帳内のデータを操作または変更するには、サイバー攻撃は、複数のノード(ネットワーク接続)または場所に保存されている分散型台帳のすべてのコピーを同時に攻撃する必要がある。 DLTは、一元化されたデータベースやクラウドベースのデータプラットフォームとは異なる。これらはどこからでもアクセスできうが、1つの中央の場所に保存される。 1つの集中型データベースに対するサイバー攻撃は、データを悪意を持って操作またはアクセスするために1つの場所のみを攻撃する必要がある。したがって、単一の元帳への変更は、DLTシステムのように元帳の信頼できるコピーと比較できないため、検出されない可能性がある。

 これらが、中国が様々な業界でDLTのアプリケーションを模索している理由の一部である。以下の節では、(1)DLT の規制、(2)DLT イニシアチブの集中化の現状、(3)中国での DLT の活用分野について説明する。

 4.ITおよびDLTにおける中国の国際化ビジョン

 2019年10月1日、習近平国家主席は天安門広場で「昨日の中国はすでに人類の歴史に刻まれている。そして明日の中国は、さらに繁栄するであろう。 中国は、2049年までに中国を製造業の世界的リーダーにすることを目指した「中国製造2025」計画(2015年5月19日リリース)を通じて、特に技術および製造部門のグローバルリーダーになると決定した。中国のグローバルリーダーになる計画は、テクノロジー分野にまで及ぶ。習主席の演説の数ヶ月前、国務院は中国のイノベーション計画と、中国が2020年までに「イノベーション国」、2030年までに世界的な「イノベーションリーダー」になるという公約を発表した。

  技術の取り組みを進める中国の目標は、外国の依存を減らし、ハイテクメーカーとして中国を進めるという2つの包括的な目標を果たす。中国政府は、このようなイノベーションに対する国家的ビジョンに関心をもって、研究開発を促進し、政府の委員会を設立し、規制基準を特定するためにブロックチェーン空間に参入した。確かに、2019年10月、習近平自身は中国に対し、イノベーションを促進するためにDLTを採用するよう求めた。

 中国国務院は、イノベーションリーダーとしての中国の確立を目指し、デジタルインフラへの投資の重要性を強調した。

 中国工業情報化部(中华人民共和国工业和信息化部(工信部)MIIT)によると、中国政府は、個人に健康状態を示す色コードを割り当てることで、COVID-19症例の追跡にビッグデータを使用している。ブロックチェーン技術は、誤用に対する個人データのセキュリティを確保するために使用されてきたため、COVID-19症例の追跡にこのプロセスを補完することができる。

 DLT開発に対する中国の取り組みの証拠として、業界をさらに標準化するために2020年4月13日に「全国ブロックチェーン・分散型会計技術標準化技術委員会」((全国区块链和分布式记账技术标准化技术委员会组建公示:National Blockchain and Distributed Accounting Technology Standardization Technical Committee)を立ち上げられたことが含まれる。この委員には、JD.com、ファーウェイ(Huawei)、バイドゥ(Baidu)、アント・ファイナンシャル(Ant Financial)、テンセント(Tencent)などの大手企業が含まれる。(注6)また、大学、MIIT、地方自治体の研究者も集結している 技術に関する国内および国際標準の向上に対する中国のビジョンは、中国規格2035年の複数年プロジェクトに具体化され、2020年にリリースされ、前述のブロックチェーン委員会が設立された。(注7)

5.DLTに関する中国の規制の枠組みの基礎と状況

 中国は、2019年に他のどの国よりも多くのブロックチェーン技術(58,990件)を出願しており、DLTの取り組みが中国の技術環境の中でますます重要な部分を占めていることを明らかにしている。以下で、(1)国内でのこれらの取り組みの場所、(2)ステータス、(3)規制の枠組みについて説明する。

 一般的に、DLTの取り組みは東中国海岸地区と四川省に集中してきた。中国は、主要都市の周りに位置する4つの主要なブロックチェーン・ハブを持っている。:四川省と重慶市の深センを中心に広東省、杭州と上海、新区、北京を中心とした長江デルタである。。四川省と重慶は、有利な政策と低い電力コストを誇り、広東省はイノベーションと産業の温床である。長江デルタは高度な経済の中心地であり、グローバリゼーションの中心地であり、北京はトップ大学の本拠地であり、トップテックの才能のいくつかを生み出している。広東・香港・マカオ大湾地域などの地域では、中国人民銀行(PBOC)のパイロット貿易ファイナンスプラットフォームなどのDLTプロジェクトが始まっている。香港:粤港澳大湾区(Guangdong-Hong Kong-Macao Greater Bay Area)は、2018年11月に広東省-香港マカオグレーターベイ・ブロックチェーン・アライアンスを設立した協同組合ブロックチェーングループの最前線にある。22150以上のDLTイニシアチブが香港エリアで開発され、香港のイノベーションとテクノロジーファンド2318のDLTプロジェクトで6,720万ドルの資金を提供している。

 中国政府は、DLTに従事する中小企業向けのホスティング・プラットフォームである「区块链服务网络(Blockchain-based Service Network:BSN)」(注8)を構築し、DLTのさらなる発展を促進することを目指している。このような動きは、中国がDLTイニシアチブが現れ、既存のインフラと共存する機会にどのように関与しているかを示している。DLTの政府の主要な規制当局は「中国サイバースペース管理局(Cyberspace Administration of China CAC) (国家互联网信息办公室)」であり、すべてのDLTイニシアチブが機関に登録することを要求している。 DLTスペースを規制する他の機関としては、中国人民銀行(PBOC)、 中华人民共和国工业和信息化部(工信部)、国家工商行政管理総局(国家市场监督管理总局)中国銀行保険業監督管理委員会(CBIRC) などがある。

 DLTは、中国全土の主要都市で使用されているサンドボックス・パイロットでさらに探求されている。これらのパイロットは2019年12月に始まり、深セン、上海、広州、蘇州、重慶、杭州、北京、成都、新区が含まれる。サンドボックスは、特にフィンテックで、DLTを構築する都市を支援する。トライアル中のプロジェクトでは、買い手、売り手、その他の仲介者が非接触デジタル取引を行うことができるようになった。

6.中国のブロックチェーン

 ビットコインからDiem(旧Libra)(注9)まで、中国のブロックチェーンの最も広範なアプリケーションの1つは、ブロックチェーン支援プロジェクトが仮想通貨、サプライチェーンファイナンス、取引処理に関与している金融技術または「フィンテック」分野にある。フィンテックには、現在のインフラストラクチャを強化し、従来の金融サービスを混乱させるために新興技術を利用している企業が含まれている。27の市場で27,000人以上の消費者にインタビューした2019年のEYレポートでは、中国のフィンテックの採用率は87%であった。

 中国はイニシャル・コイン・オファリング(ICO)(注10)を禁止しているが、中国人民銀行(PBOC)の副部長は、自国のソブリン・デジタル通貨(e-CNY)(注11)の開発に対する中国のコミットメントを再確認した。この通貨は、発売に近く、主要都市で既にテストされており、中央銀行が商業銀行に展開し、顧客に通貨を受け取って使用するためのデジタル・ウォレットやその他のアプリケーションを提供することができる。通貨は、現物通貨での発行で合理化され、経済を可能な限り混乱させることを目的としている。

 フィンテックと伝統的な金融機関の両方を含む中国の金融セクターは、ますますDLTを採用している。百度ファイナンス(Baidu Finance,)、テンセント(Tencent)、JDファイナンス(JD Finance)は、多様な金融目的で大規模なDLTプラットフォームを開発してきた大手フィンテック/電子商取引企業である。「百度金融クレジット収集プラットフォーム」は、上海浦東発展銀行(上海浦东发展银行:Shanghai Pudong Development Bank)と提携し、収集タスクにDLTを使用し、情報共有とプロセスの透明性を高めている。スマート・コントラクト(smart contracts)(注12)にアクセスして、情報セキュリティを維持しながら、収集タスクを適切に決定し、資金を決済することができる。テンセントクラウド(Tencent Cloud)は、倉庫の領収書に記載されている商品の真正性を記録するために、倉庫の誓約ファイナンスにDLTを使用している。このプロセスは、商品の二重資金調達を防ぐのに役立つ。JDファイナンス(注13)とユニオンペイは、詐欺を防ぐために信用情報を共有するためのパートナーシップを確立した。

 銀行は、従来のプロセスを改善するためにDLTプラットフォームを採用している。中国民生銀行(China Minsheng Banking Corporation)は、中華人民共和国の北京市西城区に本社を置く商業銀行である)は中信銀行(China CITIC Bankは、中華人民共和国の北京市東城区に本社を置く商業銀行。中国国務院傘下の中央企業(国有企業)中国中信集団公司のグループ企業の一つとして、1987年2月に設立された)と協力して、最初の信用状ブロックチェーンアプリケーションを作成した。

 2016年8月、WeBank上海Huarui銀行は、ブロックチェーン上のビジネス資本と取引情報を維持する口座間調整プラットフォームを設立した。データは安全に2つの銀行間で受け渡され、準リアルタイムの調整が可能である。

 中国商人銀行クレジットカードセンターは、FunChain Technologyによって設立された資産担保証券プロジェクト管理ブロックチェーンプラットフォームを使用している。これにより、透明性が向上し、債券金融プロセスの状況などのデータが記録され、債券投資家はプロセスを表示し、資産の信頼性を確保することができる。

 DLT は、国境を越えた支払いを追跡するのに役立つ。中国銀行(Bank of china)UnionPayと協力して、国境を越えた支払いのためのブロックチェーンベースの支払いシステムを作成している。中國工商銀行は、港湾会社、銀行、規制機関、税関、その他の機関を結集し、円滑な文書と情報の流れと資金のトレーサビリティのための国境を越えた貿易金融サービス・エコシステムを設定する「中国とヨーロッパのeシングルパス(China-Europe e-Single Pass)」(注14)を設立し、トレード決済の業務処理効率が向上させた。

 ブロックチェーン技術の研究開発を行い、共有するためのアライアンスも設立された。Shenzhen金融ブロックチェーン協力アライアンス( Financial Blockchain Cooperation Alliance)(ゴールドチェーンアライアンス:Gold Chain Alliance))には、銀行、ファンド、証券、保険、現地株式交換、技術に100人以上のメンバーが含まれる。また重慶は、都市のためのDLTアプリケーションを開発し、価値の数十億人民元を生成するために、100以上の企業を組み込むアライアンスを設立した。

 いくつかの提携は、銀行プロセスを改善するために作成されている。例えば、中国国家外貨管理局 (State Administration of Foreign Exchange, “SAFE”)(注15)は、商業銀行と提携し、国家の「国境を越えたビジネスブロックチェーンサービスプラットフォーム」を確立する計画である。外国為替の国家管理は、通関の検証情報を共有し、銀行が通関手続きの資金調達のためのアプリケーションを提出できるように商業銀行と協力している。中国銀行協会が多数の銀行と設立した中国貿易金融クロスバンク取引ブロックチェーンプラットフォームは、DLT を使用して、情報の転送などの銀行間トランザクションを調整する。

 新しいタイプのアライアンスは、既存のブロックチェーンフレームワークを提供することで、DLTアプリケーションの作成コストを大幅に削減することを約束する。国家ブロックチェーンベースのサービスネットワーク(区块链服务网络(Blockchain-based Service Network:BSN) (注16)は、政府部門、銀行、テクノロジー企業で構成されており、中国全土の参加者が独自のDLTアプリケーションを簡単に構築することができる。このネットワークは、企業が独自のブロックチェーンアプリケーションを構築して運用するためのコストを約14,000米ドル(約153万円)から300ドル(約33万円)未満に大幅に削減できる。BSNアライアンスは、国家情報センターと中国テレコムのような主要組織で構成され、香港やシンガポールを含む50以上の都市でBSNをテストしており、国際的に拡大する予定である。 Ant Financialは、中小企業の参入障壁を減らすために、Antブロックチェーンオープンアライアンス)を設立した。このアライアンスは、アリババ・クラウド上に構築されたサービスとしてDLTを導入した。

7.政府主催の各地でのパイロット・ブロックチェーン・プロジェクト

 革新的な技術を拡大するという究極の政策目標に沿って、中国政府はいくつかの主要分野でのDLTの使用を促進している。(1)中央銀行は、小切手をデジタル化するDLTシステムを作成した。(2)最高人民法院は、デジタル証拠の保存におけるブロックチェーンの使用を支持すると述べている。(3)地方自治体は、地方レベルと都市レベルの両方で、この技術を組み込んでいる。30以上の州政府と市政府が、DLTを含む新しい技術を支援するための40以上の政策を導入している。

 広州、北京、上海、蘇州、雄安新区などの都市は、DLTの開発と統合を優先してきた。広州はDLTを開発ゾーンに組み込んでいる。中国政府は、技術の開発を促進するために「中関村ブロックチェーン・アライアンス(Zhongguancun Blockchain Industry Alliance)」を設立した。上海は宝山地区にインキュベーション拠点を設立した。蘇州は、何百人ものDLT技術者を訓練するための訓練拠点を設立した。Xiong'an新区は、移転と再定住と関連する資金の支払いを追跡するために、Xiong'an土地要求と解体基金管理ブロックチェーンプラットフォームを設立した。要求および解体資金管理プラットフォームは、 中国工商銀行(ICBC) によって設立された。このプラットフォームは、要求契約、ファンド承認、資金支払指示、および資金送信を追跡できる。

8.中国、ブロックチェーン、プライベートビジネス

 フィンテック以外でのDLTの使用について、習近平国家主席は18の間に述べた番目中央委員会の政治局の集合的研究は、DLTが中国で多くの用途の可能性を秘めた。2018年現在、中国は世界で最も多くのブロックチェーン特許を保有している。 DLTアプリケーションは、医療産業やサプライチェーン部門を含むように民間部門全体に拡大している。

 A.医学分野

 COVID-19パンデミックは、さまざまな製品要件、支払いの信頼性、サプライヤーの信頼性、輸送全体の追跡、および税関認証の5つの主要な課題を悪化させた。ロックチェーンは、特に医療プロセスの合理化と個人データの保護の確保に焦点を当てて、これらの問題に対処するための潜在的な答えである。2017年にアリババの医療データを保護するためのブロックチェーンプロジェクトが開始されて以来、医療業界における中国のDLTイニシアチブが進行中である。医療分野でDLTソリューションを追求する他の大手企業には、Baidu(百度)とTencentがあり、複数のエンティティ間で医療データを共有するためのプラットフォームも開発している。例えば、2021年3月百度は重慶のユゾン地区に医療データ(診断や治療など)を保存するためのオープンソース・ブロックチェーン・プラットフォームであるXuperChainを立ち上げた。XuperChainは、今後数年間で他の地域にも拡大する見込みである。DLTを使用して医療プロセスを合理化している中国企業の追加の証拠には、タンパー防止プロセスを確保し、不正な補充のための処方箋の悪用を防ぐためにサプライチェーン全体の処方箋を追跡する共同Ant FinancialとHuashan病院2018パイロットが含まれる。

 B.エネルギー分野

 北京に拠点を置くIBMEnergy Blockchain Labs Inc.は、IBMブロックチェーン技術を使用して、カーボンクレジットを取引するためのDLTプラットフォームを開発した。このプラットフォームは、透明性を促進し、高排出者と低排出者がスマート契約を通じて炭素クレジットを取引できるようにすることで、温室効果ガスを制限する取り組みを合理化し、政府が義務付けた認定排出削減(CER)クォータの遵守を可能にすることを目的としている。中国のハイパーチェーン(趣链科技)は、モノのインターネット(IoT)を組み込む中国の国家グリッド株式会社のソリューションを開発している。

C.サプライチェーン

 サプライチェーン側では、DLTはデータ処理時間を増やし、製品の検証を支援する可能性を秘めている。これらのアプリケーションは、国境によって制限されず、国際貿易を伴う可能性がある。。その一例として、簡易取引コネクトプラットフォームを使用した米国の大豆を中国に輸出する場合、出荷に関するデータの処理時間が大幅に短縮されている。同様に、ウォルマート・チャイナとVeChainThorブロックチェーンは、サプライチェーンに沿って食品を追跡するためにウォルマート中国ブロックチェーン・トレーサビリティプラットフォームを開発している。中国におけるサプライチェーン側におけるDLTの第2の応用は、製品検証のためのDLTの使用である。例えば、中国におけるJDディジットのブロックチェーン・データサービスは、この地域で初めてのサービスである。JDのブロックチェーン偽造防止プラットフォームを通じて、ユーザーはモバイルアプリを介してバーコードをスキャンして、製品情報にアクセスし、60,000以上のSKUの記録を追跡することができる。

 中国はブロックチェーンの迅速な採用者であり、金融、エネルギー、医療、サプライチェーンなど様々な産業に適用されている。ブロックチェーン企業やアプリケーションに対する中国政府の支援は、全国の技術の使用を後押しした。この技術は国家を近代化し、顧客のセキュリティと取引速度を向上させた。

2.結語(Concluding Remarks)

 DLTはビットコインのような暗号通貨によって普及しているかもしれないが、この技術の使用は従来の通貨を置き換える試みをはるかに超えている。中国は金融業界でDLTをテストしただけでなく、規制の枠組みを開発し、他の多くのアプリケーションに技術を組み込んだ。政府は政府のブロックチェーン委員会と複数年にわたるプロジェクトである「中国規格2035」を立ち上げた。(注17)

 DLTの開発に対する中国のコミットメントは、様々な規模の企業がDLTに従事することを可能にする国家ブロックチェーンベースのサービスネットワーク(BSN)を開発する最近の政府のイニシアチブを生み出した。したがって、中国は、政府の技術リーダーシップの推進に参加するために、その境界内の他の人々のための扉を開いている。

 国際的なビジョンの面では、中国のDLTの経験は、国際市場における競争力を向上させることであった。DLTに対する同国の国際的なビジョンは、2049年までに中国を製造業のリーダーとして提案する「Made in China 2025(中国製造2025)によって始まった。中国は国家暗号通貨を追求していないが、代わりにデジタルソブリン人民元( Digital Currency Electronic Payment :DCEP)(暗号通貨ではなくデジタル通貨)本格実証テストしている。中国はまた、銀行間の情報共有などの伝統的なプロセスを改善するために、金融セクターでDLTを利用してきた。同国の民間セクターは、DLTを通じてプロジェクトを作成し、プロセスを改善した。DLT開発におけるグローバルリーダーシップの証として、中国は2018年にブロックチェーン技術の特許数の世界的リーダーであった。

 中国が早期導入者の一人であることは明らかであり、まだ完全なDLTプログラムを動かしていない他の国々に相対的な優位性を与えているようだ。中国や他の国々がこの技術を今後何をするのかはまだ分からないが、現在のところ、「スマートシティ」から医療の広範囲に及ぶ進歩まで、可能性は無限に見える。主要なグローバル大国はDLT開発に協力し、もしそうなら、どの程度まで協力するのであろうか?各国で開発されたDLTシステムは互換性があるのか?彼らは競争するのだろうか? DLTが国内市場で発展し続ける中で、これらの質問は技術の将来にとって非常に重要である。

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(注1)サラ・シュー博士は、復旦大学・泛海国际金融学院(FISF) (注2).の客員研究員である。 以前は、ニューヨーク州立大学ニューパルツ校で経済学の准教授を務めていた。

中国のフィンテック、経済開発、インフォーマル・ファイナンス、シャドウ・バンキングを専門家である。シュー氏は、中国のフィンテックに関し「中国のフィンテック爆発(China’s Fintech Explosion)」、また非公式金融(informal finance) (注3)に関しては「中国の非公式の金融:アメリカと中国の視点(Informal Finance in China: American and Chinese Perspectives,)」を出版した。 シュー氏のシャドウ・バンキングに関する本や持続可能な開発、金融危機、貿易のトピックに関する多くの記事や本を出版している。

サラ・シュー氏はユタ大学で経済学博士号を取得し、ウェルズリー大学で学士号を取得している。

(注2)復旦大学(復旦大學、Fudan University)は、上海市楊浦区に所在する中華人民共和国の国立大学である。副部級大学の一つとして、1905年に創立された。数多くの国家重点実験室を持っている。985工程、211工程、双一流の成員校として、中国の国家重点大学である。 

復旦大学・泛海国际金融学院(FISF)の主要教授陣

(注3) 「非公式金融」につきケンブリッジ大学ジャッジビジネススクール「中国における非公式金融:リスク、潜在能力、変革」8/17(40)から一部抜粋し、仮訳する。

*バックグラウンド

 ここ数十年の中国の急速な経済成長は、非公式な契約と相互信頼に基づく関係(コネ:guanxi)への依存に起因している。彼らの主張は、世界的な北部の市場経済のより正式な法的および規制機関の一部の中国での不在に基づいている。

 中国が市場ガバナンスの正式な法的メカニズムを欠いているという主張はやや誇張されているかもしれないが、特に貿易信用、家族内融資、地域内共同投資の形で非公式の金融が中国の成長を支える上で大きな役割を果たしているケースである。

 この非公式金融の蔓延は、国有銀行が国有企業に貸し出す国有銀行が依然として支配している正式なセクターの限界を考えると、中国経済にとって重要な柔軟性の源泉となる。この非公式金融は急速に進化しており、クラウドソーシングなどのメカニズムを通じて、インターネット技術を使用したて融(フィンテック)を提供することに収束している。

 しかし、非公式金融に対する中国経済の依存にはマイナス面があり、フィンテックとの融合から重大なリスクが生じる。大規模なシャドーバンキング・セクターは、主流の銀行に適用される規制のほとんど外に位置づけられたおかげで、システミック・リスクを増大させる。正式部門と非公式セクターは、お互いに代わり合ったり、補完的な金融モードを提供したりする可能性があるが、システミックリスクを強化し、拡大するために運営することもできる。

 同様に、フィンテックの台頭は両刃の剣である。一方で、クラウド・コンピューティングとビッグデータは、成長する社会信用セクター(social credit sector)(注4)のニーズを満たす可能性を秘めた新しい形態のソーシャルクレジットと集団投資スキームを促進している可能性がある。クラウド・ソーシングは、新興企業や革新的なベンチャー企業に新しく柔軟な資金調達を提供する可能性がある。しかし、これらの新しい形態の金融は、市場の透明性を維持し、投資家が直面するリスクを強めるために設計された一見余計な(otiose)規制を低下または放棄するする可能性もある。

(注4) 社会信用システム(Social Credit System)とは、中華人民共和国政府が構想する全国的な評価システム開発のイニシアティブである。所得やキャリアなど社会的ステータスに関する政府のデータに基づいて全国民をランキング化し、インターネットや現実での行動に対して「ソーシャルクレジット(social credit)」という偏差値でスコアリング(採点)することだと報じられている 。それは管理社会・監視社会のツールとして機能し、人工知能(AI)によるビッグデータの分析を使用するものであり、加えて中国市場での企業活動も評価することを意味する。 (Wikipedia から抜粋)

(注5)著者にまだ確認していないがこの予想数字はIDCの2018年8月のデータであり、もっとも新しいデータであるIDC支出ガイドによると、ブロックチェーンソリューションへの世界的な支出は2024年には190億ドル近くになると予測されている。いずれ筆者に直接確認したい。

(注6)全国ブロックチェーン・分散型会計技術標準化技術委員会の構成メンバーは次の記事

(https://www.chinabankingnews.com/2020/04/14/china-assembles-technical-committee-for-national-blockchain-and-distributed-ledger-standards/)を参照されたい。

(注7)中国人民銀行(PBOC)は2020年4月、デジタル研究所やICBC、中国銀行、中国建設銀行、中国開発銀行などの銀行セクターの主要メンバーと協力して起草した「金融分散型台帳技術セキュリティ基準」(金融分散式账本技無安全规范)(JR / T 0184-2020)を発表した。

(注8) 2020年4月、中国政府はブロックチェーンベースのサービス・ネットワーク(BSN – 区块链服务网络)を立ち上げた。これは、ウェブサイトで「ブロックチェーン・アプリケーションをグローバルに展開および運用するための共通インフラストラクチャ」として定義されている。 BSNは、国家発展改革委員会の下にある政府のシンクタンクである国家情報センター(国家信息中心、SIC)が率いるBSN開発協会(区块链服务网络发展联盟)によって統治されている。その他の主要な関連事業体には、国営のチャイナモバイル通信会社と決済会社のチャイナユニオンペイが含まれ、どちらもBSNのホームページにローンチ組織としてリストされている。香港に本社を置く中国の新興企業であるRedDate Technologyは、BSNのテクニカルアーキテクトである。 伝えられるところによると、3社はSICに協力を求める前に、早ければ2018年9月にBSNを構築する計画を起草した(DigiChina:Stanford Cyber Policy Center:Knowledge base: Blockchain-based Service Network (BSN, 区块链服务网络)から一部抜粋、仮訳)

(注9)Facebookが開発するブロックチェーンベースの仮想通貨「Diem」が、主要な事業をスイスからアメリカに移してサービス開始を目指すことを2021年5月12日に発表しました。Diemは仮想通貨関連のビジネスに特化したアメリカのシルバーゲート銀行とパートナーシップを結び、アメリカドルに担保された仮想通貨の発行を目指しているとのことです。

Facebookは2019年に、世界人口の約3分の1を占める「銀行口座を持たない人」に向けて金融サービスを提供することを目指し、独自の仮想通貨「Libra」を発表しました。Libraを運営するために設立された「Libra協会」には数々の世界的企業がパートナー企業としての参加を表明していたものの、フランスやドイツがLibraのブロックを決めるといった逆風の中で多くのパートナー企業が離脱してしまいました。(Gigazine記事から一部抜粋)

(注10)一般に、ICOとは、企業等が電子的にトークン(証票)を発行して、公衆から資金調達を行う行為の総称である。トークンセールと呼ばれることもある。 

(注11) 野村総合研究所「実証実験が進むデジタル人民元」参照。

(注12) ブロックチェーンを応用する上で注目されているのが、「smart contract(スマートコントラクト)」です。日本語に訳すと「賢い契約」、「自動執行される契約」となり、契約の条件確認や執行までの一連の手続きをプログラムで自動化する仕組みのことです。

サプライチェーンにおける企業同士の取引や、スーパーでの消費者による商品購入、住居を借りる際の賃貸契約や鍵の受け渡しなど様々な場面で、署名や代金の支払といった契約条件を満たすと契約が執行され、権利や対価を得ることができます。

スマートコントラクトは、このような取引行動における契約の条件・執行内容をあらかじめプログラムで定義しておくことで、取引プロセスを自動化します。

身近な例ですと、セルフ式ガソリンスタンドでは、「給油する量や油種を選択して代金を投入する」(=契約条件を満たす)ことで、給油が可能になります(=契約が執行される)。これは、人が介在せずに自動的に取引が行われるスマートコントラクトの一種です。

(三井情報株式会社「ブロックチェーンって何だろう?【後編】」から抜粋。

(注13)JD Finance(Jingdong Finance)は、2013年にJD(京東商城)から生まれたフィンテック企業でである。現在、サプライチェーンファイナンス、消費者金融、クラウドファンディング、アセットマネジメント、決済、保険、証券、マイクロファイナンスなどのサービスをオンラインで行っている。彼らはインターネットファイナンスの分野で、企業と個人に対して、良質で包括的なサービスを行うことを目標に掲げている。中国eコマース大手のJD(京東商城)が持つ様々なデータ資源を活用しながら、先端テクノロジーを使用することによる実体経済の発展と、消費行動の底上げ、経済フレームワーク最適化といったイノベーションが、彼らの強みとなっている。

JD Financeは、JDファイナンスグループによって設立された「ワンストップ」のオンライン投資および資金調達プラットフォームである。その使命は「最も信頼できるインターネット投資および資金調達プラットフォームになること」であり、 JD Groupの強力なリソースに基づいて、従来の金融サービスとインターネットテクノロジーを組み合わせて、まったく新しいオンライン金融開発モデルを模索しているため、統合と相乗効果を最大限に活用している。

(注14) 四川省の首都である成都は、複数の輸送モードを含む中国とヨーロッパ間の国境を越えた貿易に対応するために、ブロックチェーン主導のプラットフォームを立ち上げた。

「中国-ヨーロッパE-シングルリンク」(中欧e単通)(China-Europe E-Single Link” (中欧e单通)は、成都の青白江(青白江)地区の地方自治体によって、ブロックチェーン技術を使用して複数の配送の管理を統合することを目的として、10月23日に輸送モードとして正式に開始された。

(注15)中国国家外貨管理局(State Administration of Foreign Exchange, “SAFE”)は 中国人民銀行の管轄にある外貨管理機関。中国企業の海外投資やQFII(指定国外機関投資家)の中国国内投資に関する認可業務や外国為替取扱指定銀行の許可も行うと共に外貨準備金の管理も行っている。SAFEの管理・運用する外貨準備資産は3兆2000億ドル(約250兆円)(アスタリスク解説から引用)

(注16) 区块链服务网络(Blockchain-based Service Network)については米スタンフォード大学

DigiChina:Stanford Cyber Policy Centerが詳しく解析している。(注8)参照。

(注17)中国の産業政策が目を見張った後、中国は次世代のグローバルスタンダード「China Standards 2035(中国標準(中国国标)2035)」を計画し、2020年発表する計画だ。

 人工知能(AI)、通信ネットワーク、データフローなど、今後10年間を定義するとされるグローバル技術分野を網羅する野心的な15年の青写真である。専門家は、この動きは、世界の舞台で中国政府の権力に広範囲に及ぶ影響を与えるかもしれないと語った。

 2020年3月、中国国家標準化管理委員会は「2020年国家標準化作業の要点(2020年全国标准化工作要点)」の文書を公表した。 この文書は、トップレベルの設計を強化し、標準化作業の戦略的ポジショニングを強化し、標準化改革を深化させ、標準化作業の戦略的ポジショニングを高め、標準システムの構築を強化し、質の高い開発をリードする能力を向上させ、国際標準ガバナンスに参加し、標準国際化レベルを向上させ、科学的管理を強化し、標準化されたガバナンスのエネルギー効率を向上させることを含む、2020年の中国の国家標準化作業の5つの側面から117ポイントを提示した。

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生体認証技術の集団訴訟:フェイスブックは顔認識技術の導入に関しプライバシー訴訟の棄却申立

2015-11-20 07:27:51 | 最新科学・技術問題

 2015年6月に起こされたフェイスブックの顔認識技術の使用に関するクラス・アクションの最近の状況につき、その分野に詳しいジェフリー・ニューバーガー弁護士(Jeffrey D.Neuburger )(注1)が10月15日付けのブログで解説している。ブログという性格上、やむをえないが、やや一般の読者にはイリノイ州法の内容や法解釈上の論点、プライバシー保護面からの問題点等説明不足の感は否めない。 

Jeffrey D. Neuburger

Jeffrey D.Neuburger

 筆者は、同ブログを仮訳するとともに、筆者の立場でそれらの問題点を整理してみた。筆者は医療問題の専門家ではなく、あくまで先端IT技術がかかえる新たな人権問題の事例としてこの問題を取り上げた。

 特に同弁護士のブログでも紹介されているとおり、イリノイ州法に関する別のクラスアクション(オンライン写真共有サイトShutterfly事件)が起こされており、SNSが急速に展開しているわが国でも関係者が本格的に取り組むべき問題の予稿としてまとめてみた。 

 筆者は、生体認証にかかる各州のデータ保護立法法案の動向を2017年8月19日のブログで整理している。

 なお、いつものことであるが、この法解説ブログは原典へのリンクは十分でないし、専門用語の解説は皆無である。筆者は可能な範囲でそれらを行った。 

1.ジェフリー・D・ニューバーガー弁護士のブログ仮訳 

○フェイスブックの顔認識技術については、筆者が2015年6月23日の本ブログで投稿したとおり、「暫定集団訴訟( putative class action)」がユーザーのオンライン写真にもとづき「faceprints」を収集し、タグをつける機能(タグ候補:Tag Suggestion) (注2)がプライバシーの侵害にあたるとし、フェイスブックに対しクラス・アクションを起こした。(例えば、Licata対フェイスブック社(第2015CH05427(2015年4月1日にイリノイ郡巡回裁判所に係訴され、その後、同事件はサンフランシスコ連邦地裁に移送された)(同事件は、サンフランシスコ地方裁判所、Licata対フェイスブック社、No. 15-03748 (カリフォルニア州北部地区連邦地裁(N.D. Cal.)として、2015年8月28日に提出された集団訴訟による告発)と統合すべく移送された)。

○原告は、「ユーザーがアップロードされた写真をそのタグ候補機能を求めて調べる顔認識技術のフェイスブックの使用と生成が、イリノイ州の「生物測定情報のプライバシー法(Biometric Information Privacy Act(BIPA):740 ILCS 14/1」(以下「BIPA」という)に違反するものであり、世界最大の消費者の生物測定学データの非公開データベースにあたる」と主張している。

 ○原告は、フェイスブックがユーザーをアップロードされた写真から顔形状データ(face geometry)(または顔画像(faceprints) (注3)を取得し、BIPAの意味の範囲内でそのような「生体認証識別子(biometric identifiers)」を保持すると主張した。とりわけ、告訴理由は、フェイスブックが適切な同意なしで生物測定データを集め、格納していると主張している。その告訴内容は、各違反行為に対し、前記イリノイ州法違反(注:BIPAは、過失による違反につき法定損害額1,000ドル(約123,000円)と故意による違反行為として5,000ドル(約61,5000円)、ならびに弁護士費用の支払いを規定する)ならびに、差止め命令(injunction)と法定損害賠償(statutory damages)を求めた。 

○先週、フェイスブックは、とりわけ、それがサービス条件にかかる法律の規定の選択に基づいたと主張して、イリノイ州法ではなくカリフォルニア州法が適用されるべきという棄却申立を行った。そして、州法はあてはまらなければならない(それによって原告たるユーザーがBIPAを適用するとする主張を妨げる)。また、いずれにしても、BIPAの第10(注4)(注5)(注6)は、明確に「『写真』や『写真に由来する情報』をその適用範囲から除外すると明記していると主張した。 

 今回のフェイスブックの棄却申立に対し、原告の望ましい対応を望む人々は、現在イリノイ連邦裁判所で訴訟されている被告たるオンライン写真共有サイトShutterfly事件において類似したプライバシー訴訟に目を向けなければならない。(Norberg対Shutterfly社(No. 15-05351(2015年6月17日にイリノイ州北部地区の係訴された事件))を参照されたい)。 

○同裁判で、原告ノルバーグ(Norberg)がBIPAのもとで申し立てたところによると、明らかな書面による同意のないタグ候補機能に関し、Shutterfly社がユーザーのアップロード写真からfaceprintsを集めた点、ならびに「その特定の顔がShutterfly社のユーザーまたは知らない非使用者が所有しているかどうかを考慮しないまま「Shutterfly社の写真保管サービス」を行ったと主張した。Shutterfly社(フェイスブックと同様のサービスを提供)は、棄却申立において、イリノイ州法が写真に由来する情報を除外するので、アップロードされた写真に由来する顔形状処理は法が定める「生物測定識別子」でないと主張した。 

○一方、原告は、その反論において顔形状処理以前の写真の介在がそのようなデータをイリノイ州法にいう生物測定識別子の定義から除外するならば、同法はプライバシー保護法として意味がなくなると主張した。

○被告のBIPAの解釈は、すなわち写真の顔のスキャンには適用できないとする点は、生物測定技術のまさしくその性格に反するものであって、このような解釈は法律の中心的な目的を徐々にむしばむものである。顔の写真は、正確に個人のアイデンティティを確立する独特の幾何学的なパターンの計画を立てるために調べられるものである。その当然の結論にとして、彼ら全員が最初のキャプチャー(注7) 、写真または記録の捕獲に基づくので、被告の議論ではすべての生物測定識別子をその定義から除外するといえる。 

○我々は、緊密にこの両方の論争を見ている。もし、これらの訴訟が手続上または契約上の理由から退けられないならば、これは裁判所における顔認識技術に関してイリノイ州の「生物測定情報のプライバシー法(BIPA)」の法的輪郭を解明する最初の機会となる。 

2.イリノイ州法第10条の解釈

 同弁護士が指摘しているとおり、同条にの立法主旨は連邦法や他の州法おいて取得につき明確な目的や保護が定められている場合は適用除外といえる。フェイスブック側の弁護士の主張の原本は十分に読んでいないが、もし本ブログの指摘のとおりであり、かりに筆者が裁判官であったならば被告の棄却申立ては却下するであろう。

 なお、テキサス州は同様の立法措置を行っており、またアラスカ州( House Bill No. 144)もほぼ同様の法案を審議している。

3.フェイスブック等のSNSにおける顔認証技術等に潜む危険性

 ここでは詳しく論じないが、前書きで述べたとおり、わが国のユーザーは自分が撮った写真やイメージが、その意図せざる範囲で第三者(法執行機関だけでなく組織犯罪、なりすまし犯罪者など)の手にわたるとしたらどうであろうか。 

 筆者はこのような観点から、SNSには加入していないし、本ブログもペンネームで書いている。これだけの注意を払ってもハッカーや詐欺師はさらに上を行くのである。 

 なお、(注2)でとりあげた「New Scientist」は、容歩捜査(gait detection) (注8) 、 虹彩スキャン(iris scanning), 心拍認証(heartbeat recognition )等にも言及している。また、筆者はPC操作者特定の技術として顔認証に取り組んでいるマイクロソフト社の動向等も気になる。 

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 (注1) 筆者ジェフリー・ニューバーガー弁護士のプロファイル:

Jeffrey Neuburger is a partner, co-head of the Technology, Media & Communications Group, a member of the Privacy & Data Security Group and editor of the firm’s New Media and Technology Law blog. 

(注2)フェイスブックの顔認証技術の精度を懸念するレポートは、わが国でもすでに出ている。その一例として「Facebookでは、公開した写真に写っている人物に「タグ付け」をすることで、画像とユーザープロフィールを紐付けることができる。タグ付けされた膨大な画像データは解析され、顔認証の精度アップに利用。その結果、新たに写真をアップした場合、写真の顔部分に、その人物と思われるユーザーの名前が表示されるようになっているのだ。2015.6.19のイギリスの週刊科学誌New Scientist』のWebが報じたところによると、Facebook研究している顔認証技術は、顔の特徴だけでなく、髪型や服装、体型、よくするポーズなども分析の対象となっているとのこと。

もはや“顔”認証ですらないほどに進化しつつあるFacebookについて、ツイッターユーザーは、

「ある意味、新しい監視カメラ」

「街頭の防犯カメラとセットにしたら、国民行動総監視システムのできあがり」

「リア充な投稿してた人は、あらゆる部所で認識がされる時代になりそう」

などと、様々な行動が把握されてしまう可能性を指摘」等が上がられる。・・・・」 

「New Scientistへのリンクは筆者が行った。なお、そこで指摘されている問題項目のみあげておく:End of anonymity;②Two-faced(プライバシーについて2つ顔をもつGoogle やMicrosoft):③米国のイリノイ等一部の州では生体情報の収集や処理を州立法で禁止している;④顔認証は多くの遠隔生体情報感知システム(remote biometric sensing technologies)の1つである)。いずれにしても同誌のサイトは興味深いレポートが多い。 

(注3) 平成12年(2000年)の高知工科大学の箱田和宏氏の学士学位論文「顔画像を用いた個人認証システムの性能検討に関する研究」の内容は、比較的平易に書かれている。 

(注4) BIPA第10条のうち、生物測定識別子(biometric identifiers)に該当しないものに関する定義部文を以下、引用し、注書きを加えたうえで仮訳する。

. Biometric identifiers do not include information captured from a patient in a health care setting or information collected, used, or stored for health care treatment, payment, or operations under the federal Health Insurance Portability and Accountability Act of 1996. Biometric identifiers do not include an X-ray, roentgen process, computed tomography, MRI, PET scan, mammography, or other image or film of the human anatomy used to diagnose, prognose, or treat an illness or other medical condition or to further validate scientific testing or screening.

 「生物測定識別子は、健康保健医療現場で患者から採取、収集、使用または保持する情報、または「1996年連邦健康保健情報の携帯性と責任に関する法律(federal Health Insurance Portability and Accountability Act of 1996)(HIPPA)」(注5)もとで健康保健処置、支払いまたは手術に備えて保持される情報を含ない。 生物測定識別子は、X線、レントゲン処理、MRI(Magnetic Resonanse Imaging;磁気共鳴画像)検査、ポジトロン断層法(PET)検査、マンモグラフィーまたはその他の人体解剖イメージまたは診断(diagnose)、予後(病気の経過に関する見通し:prognose)あるいは、病気の治療や病状の診断目的さらには科学的なテストまたはスクリーニング (注6)目的で扱うイメージやフィルムは含まない。 

(注5)HIPPA」は被保険者のプライバシー保護に関して極めて重要な法律である。連邦保健福祉省の公民権局(Office for Civil Rights)がその内容について詳しく解説しているウェブサイト「Understanding Health Information Privacy」を参照。 

(注6) スクリーニング(Screening)の定義「迅速に実施可能な検査,手技を用いて,無自覚の疾病または障害を暫定的に識別すること」(The CCI Conference on Prevention Aspects of Chronic Disease, 1951)

特徴:集団を対象に・すばやく実施可能な方法で・無自覚の障害を暫定的に識別

主な目的:疾病の早期発見,早期治療=二次予防(公衆衛生学 2011 年5 月9 日 中澤 港)から引用。 

(注7)ディスプレイに表示されている画面を取り込んで画像データとして保存する「画面キャプチャ」をさすことになろう。 

(注8) 「容歩解析」、「容歩認証」に関する平易な解説ブログ より専門的に読みたい読者は大阪大学 八木研究室のHP 等を参照されたい。

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EUのガリレオ・GPSナビゲーション・システムの第1号衛星が打上げに成功

2010-10-25 07:15:35 | 最新科学・技術問題

 
Last Updated : March 31.2021
 

 2005年12月28日の朝、カザフスタン・バイコヌールの打上げ基地からソユーズFGロケットによりGIOVE-A衛星が打ち上げられ、地球を回る軌道に乗せることに成功した。衛星は、3時間42分後にロケットから切り離された。

 ガリレオ計画は数10億ユーロをかけ、30個の衛星を打ち上げるもので、そもそもEU委員会の「運輸・輸送事務総局」が中心となって取り組んできたものである。具体的には、①運輸(乗り物の位置、搬送ルートの検索、スピードのコントロール、誘導システムなど)、②社会サービス(障害者や高齢者など)、③司法制度や関税事務(容疑者の居所、境界線の位置など)、④公共事業(地理情報システム)、⑤捜査・情報システムやレジャー(海や山の位置調査など)など多くのユーザーの位置の決定について情報提供するものである。

 衛星は英国の「サリー・サテライト・テクノロジー社(Surrey Satellite Technologies Ltd.)」が組み立てたもので、運用面のテストと2006年の国際電気通信連合(International Telecommunication Union)の定めた締め切り対応期限の前に基幹系システムを試験することが、今回の目的である。

 なお、2番目のテスト衛星(GIOVE-B)は2006年春の発射が予定されていたが、実際は2007年4月27日に打ち上げに成功した。同システムは、米国のGPS及びGRONASS、ロシアのグローバルなシステムと共同利用できるようになっている。

〔参照URL〕
欧州宇宙機構(European Space Agency)のガリレオ計画の解説サイト;
http://www.esa.int/esaNA/galileo.html
http://www.spacetoday.net/Summary/3196  :First Galileo satellite launched

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(今回のブログは2005年12月29日登録分の改訂版である)

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