Financial and Social System of Information Security

インターネットに代表されるIT社会の影の部分に光をあて、金融詐欺・サイバー犯罪予防等に関する海外の最新情報を提供

米国の議会による行政機関の規則のチェック法(CRA)の運用の実態から見た新たな課題(その3完)

2019-02-27 17:48:25 | 三権分立問題

3.FTCとFCCの規制対象通信事業者やエッジ・プロバーダーの規制の権限と規制の在り方

  この問題と複雑に関連して生じているのがエッジ・プロバイダー等インターネット接続事業者の監督権限をめぐるFCCとFTCの縄張りと規制の在り方問題である。

 より詳しいと思われる米国ローファーム(注7)の解説があるが、本稿では2018.1.11 Thomson Reuters記事を以下、仮訳する。

 ネットの中立性規則を廃止するという連邦通信委員会(FCC)の2017年12月14日の決定「インターネットの自由秩序の回復に関する命令(以下、「2017 Order」という)」(注8)は、消費者への潜在的な影響のためにかなりの宣伝効果を得た。この決定が連邦機関による通信事業者など企業の規制環境をどのように変えるかには、一般的にはあまり注意が向けられていないが、この決定により、ブロードバン・インターネット・アクセス・サービス(BIAS)プロバイダのデータのプライバシーとセキュリティの規制が再度FCCから連邦取引委員会(FTC)に移行するのである。

 (1)2015年2月以前の規制スキームに戻る

 FTCは、2015年2月26日FCCが”Open Internet Order”(以下「2015 Order」という」)を採択するまで2015年まで、BIASプロバイダーに対する規制当局の権限を保持していた。この”2015 Order”により、BIASプロバイダーはFCCの管轄下に置かれるようになり、電気通信事業者サービスとして再分類された。 FTCは、検索エンジンやソーシャルメディアネットワークを含むカテゴリである、「エッジ・プロバイダー」に対する管轄権を保持していたが、 FCCの2017年12月の決定により、BIASプロバイダーはFTCの管轄下に戻り、2015年以前に存在していた規制構造が再確立されたことになる。また、この決定により、BIASプロバイダーはいわゆるエッジ・ネットワークと同じ規制構造に戻る。この「エッジネットワーク」には、GoogleやBingなどの検索エンジン、およびFacebookやTwitterなどのソーシャルメディアネットワークが含まれる。FCCが2015年にBIASプロバイダーの監視権限を取得したときも、エッジネットワークはFTCの管轄下にあり、 BIASプロバイダーの監視をFTCに戻すことによって、新しい”2017 Order”により、BIASプロバイダーとエッジ・ネットワークが同じ規則によって管理されている規制スキームに戻ることになる。

(2)”2017 Order”の実務的な意義

 ネット中立性規則を廃止させるという今回のFCCの決定は、BIASプロバイダーを規制する機関を単に変えるだけはない。この決定は、どの規則がBIASプロバイダを管理するのか、およびそれらの規則に違反した場合の影響にも関する重要な問題である。

 すなわち、FTCによる監督は、以下の2つの点でFCCの監督権とは異なる。

FTCの監視は、積極的ではなく即応的である。 FTCは、FTC法による不公正で詐欺的な商慣行の禁止を強制しているが、FTCは、事業活動を管理する新しい規則を作成する上でFCCよりも慎重である。

FTCは、消費者の返済(返金など)および禁止されている慣行に従事していることが判明した企業に対する差し止めによる救済を追求することができる。しかし、FCCとは異なり、FTCは一般的に違反者に対して罰金を課さない。

 以上の結果として、FTCのBIASプロバイダーの監督・統治は、FCCの一時的な監視よりも狭く、強行的ではない可能性がある。

 4.米国ホワイト・ハウスの運用面での非常に重要な課題

 簡単に言うと大統領を中核とするホワイトハウス政権の非連続性や大統領の人事権に振り回される連邦機関のトップの行動の非連続性である。

  大統領が変わるとホワイトハウスの前大統領の立法、法案策定の内容はすべてアーカイブ・サイト(Archived Presidential White House Websites)に移行する。しかし、そこですべての検索が可能かという問題である。

この内容は全くネット上から消えるのである。具体的に例示しよう。

  2015年2月27日、オバマ大統領は、消費者データの収集と普及を管理することを目的とした法案である「2015年消費者プライバシー権利章典法案(Consumer Privacy Bill of Rights Act of 2015)」を発表した。 プライバシーの権利章典は、ホワイトハウスが2012年に最初に導入した法案の復活である。 これは2015年のデータセキュリティおよび侵害通知法の仲間として再導入されている。これにより、組織は個人情報盗難のリスクを軽減するためにタイムリーにデータ侵害を開示する必要がある。

 ホワイトハウスは、提案された法案は、連邦のプライバシー法を可決するという最終目標をもって、議会、消費者、そして業界のリーダーたちとの交渉を開始することを意図していると述べている。 ホワイトハウスの広報担当者は、「このドラフトは、顧客に対してデータ管理の強化、データに対する責任ある管理責任を明確に示すためのより明確な方法を提供すること、そして革新を続けるための柔軟性を備えた全員に提供することを目指している」と述べた。 

 この2015年消費者プライバシー権利章典法案(Consumer Privacy Bill of Rights Act of 2015)の内容は連邦議会、政府、ホワイトハウスのサイト、シンクタンク、大学、人権擁護団体など検索したが、すべて次の画面で終わる。

 したがって、ホワイトハウスの事務方に照会するのも癪なので、筆者は独自に調査してこの法案の検討資料「Administration Discussion Draft: Consumer Privacy Bill of Rights Act of 2015」 (全24頁)にたどり着いた。

5.CRAに定める規則報告遵守義務履行の不完全性調査結果およびCRA改正論議 

  CRAが多用されている真の原因追及研究論文などを筆者なりにチェックした。以下のレポートが参考になろう。必要に応じポイントとなる点を補足した。

 ① 2017.4.4 ブルッキング戦略研究所レポート「議会審査法はどのくらい強力か?」

 不完全な誤まった上院、下院やGAOに対する報告のためにCRAに対して潜在的に連邦機関の規則に脆弱性をもたらす原因や解決策について、これまでで最も厳密な調査を提供する。過去20年間に通過した348の重要な連邦機関の規則は、CRAの決議による逆転に対して脆弱である可能性がある。これは 他の人が主張しているよりもはるかに少ない。その結果、私達は高性能化されたCRAの最大範囲を理解するため、最も現実的な試みを行った結果である。

② 2016.11.21 ジョージワシントン大学Regulatory Studies Centerの論文「Congressional Review Act Fact Sheet 」

CRA制度の概略解説であり、運用上の課題には言及していない。

 

CRAの手続きの図解部分を抜粋

③ 2014.9.15ペンシルバニア大学ロースクール:The Regulatory Review:Curtis W. Copeland「Hundreds of Recent Final Rules Are Technically Unlawful」

 近年、連邦機関は何百もの最終規則をGAOや議会に提出していないため、これらの規則は技術的に有効でない。連邦機関が要求通りに規則を提出しなかったことはまた、そのような規則が「議会によって受領された」ことがなかったため、これらの未提出規則のいずれについてもCRAの不承認決議を提出できなかったことを意味した。

 CRAが制定された直後から、GAOは連邦官報を調べて、対象となるすべての規則が提出されていることを確認した。1997年から2011年まで、連邦機関は毎年平均約3,600の規則をGAOに提出したが、これはその年に連邦登録簿に公表された最終規則の約88%であった。(この割合は、年間で82%を下回ることはなかった)

・・・CRAの運用を改善し、政府機関の規則が合法的に有効になることを保証するために、議会は以下の行動のいずれかまたはすべてを取ることができる。

1) GAOは、提出されていない対象規則を特定するために、ならびにOMBへの通知を再開するために、連邦官報の年次レビューを再開することを要求する。

2) 1997年にアメリカの2つの弁護士会のセクションによってなされた勧告を実行すべきである。そしてそれら規則が発効することができる前に議会とGAOに提出されることを非従属的な規則(全規則の約70%)を必要としない。

3) 議会への提出要件を排除し、GAOへの規則の提出のみを要求する(衆議院が満場一致で通過したが上院では行動を起こさなかった第111回大会のH.R. 2247のように)。

4) 対象となる規則が提出されていないことをGAOが正式に政府機関に通知した後、おそらく一定期間後に限り、CRAの規則提出要件への政府機関の遵守の司法審査を許可する。

④ 2017.1.26 Wall Streew Journal :Opinion「GOP規定のゲームチェンジャー:

法律の専門家は、議会は2009年にさかのぼるオバマの規制を却下することができると言う」

⑤2017.3.7 Forbes「CRAzy After All These Years: Extending The Reach Of The Congressional Review Act」

⑥ 2017.1.26 The Atlamtic「政府の規制に対する静かなGOPキャンペーン:なぜこれらの規則が存在するのか、それらがどのように発行されるのか、そして議会の共和党員は規則に対して何をしたいのか(The Quiet GOP Campaign Against Government Regulation:Why these rules exist, how they are issued, and what congressional Republicans want to do with them)」

*********************************************************

(注7) 2018.1.3 Data Privacy Monitor「Coming Full Circle: FTC Recovers BIAS Regulation Jurisdiction Following FCC Vote 」等を参照されたい。

(注8) Open Internet Orderの正式名称は以下のとおり。

In the Matter of Protecting and Promoting the Open Internet)

GN Docket No. 14-28 REPORT AND ORDER ON REMAND, DECLARATORY RULING, AND ORDERAdopted:  February 26, 2015 Released:  March 12, 2015

 *************************************************

Copyright © 2006-2019 芦田勝(Masaru Ashida).All Rights Reserved.You may reproduce materials available at this site for your own personal use and for non-commercial distribution.

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

米国の議会による行政機関の規則のチェック法(CRA)の運用の実態から見た新たな課題(その2)

2019-02-27 17:29:30 | 三権分立問題

2.Law 360 「1996年議会審議法はネットの中立性を回復できない」の問題提起

 わが国ではCRAの適用に関する解説は限られている。(注5)

 米国において比較的最近時のものとして2018年3月22日のLaw 360 「1996年議会審議法はネットの中立性を回復できない」の問題提起を概観すべく、以下、仮訳する。

 連邦通信委員会(FCC)の「インターネットの自由秩序の回復にかかる規則(Restoring Internet Freedom Order:2017.12.14 採択)」 (以下、「2017 Order」という)を無効化しようとする彼らの熱意の中で、連邦議会の何人かの議員は議会が連邦行政機関によって発布された規則を覆すことを許可するめったに使われない議会の道具である「1996年議会審議法(Congressional Review Act (以下、CRA))」を使った。しかし、CRAは、不承認の決議が連邦議会で可決され、大統領によって署名されたと仮定しても、その提案者が意図して達成しようとしている目的を達成することはできない。

 つまり、CRAは、ブロードバンド・インターネット・アクセス・サービス(BIAS)を情報サービスとして分類するというFCCの決定を元に戻すことはさせない。その「分類」の決定は裁定の結果であり、CRAの対象となる「規則」(Declaratory Ruling)ではなく、命令(注6)でもって具体化されている。また、CRAは、FCCがインターネットの自由秩序の回復において排除したネットの中立性の規則を回復することを議会に許可することもないであろう。

 本日、FCCはブロードバンド顧客のプライバシーを保護する規則を採決した。また、すべての電気通信事業者に対するFCCの規則と調和させるために、現行の規則を修正する。本命令では、最初にいくつかの背景、規則の必要性を説明し、採用する規則の範囲について話し合う。規則の範囲を議論する際に、FCCはFCC規則の対象となる「電気通信事業者」を定義し、そしてそれらの規則中の「顧客」を保護するように設計されている。また、第222条(47 U.S.C. § 222(a))で保護されている情報を「顧客固有情報(customer proprietary information(customer PI)」と定義する。

 FCCは、相互に排他的ではないブロードバンドまたは他の電気通信サービスの提供を通じて電気通信事業者が収集した3種類の情報を顧客PIの定義に含める。(i)第222条(h)に定義される個人識別可能な顧客固有ネットワーク情報(Customer Proprietary Network Information(CPNI))、(ii)個人を特定できる情報(personally identifiable information (PII))、(iii)コミュニケーションの内容である。また、FCCはデータが適切に識別・解除されているかどうかを判断するためのマルチパート・アプローチを採用、説明しているため、顧客PIを採用した顧客の選択体制の対象とはならない。

 次に、FCCは「透明性」、「選択性」および「セキュリティ」という3つのプライバシー基盤を使用して、消費者のプライバシーを保護する規則を採用した。

透明性:消費者が情報に基づいた購買決定を下すことを可能にするための透明性の根本的な重要性を認識して、FCCは通信事業者にプライバシーに関する通知を提供することを要求する。通信事業者がどのような機密情報を収集するのか、どのように使用するのか、どのような状況下でそれを共有するのか、そして共有するエンティティのカテゴリについて、明確かつ正確に顧客に知らせるよう求める。

 FCCは、また通信事業者が顧客の機密情報の使用または共有について(場合によっては)「オプト・イン」または「オプト・アウト」する権利を顧客に知らせることを要求する。FCCは通信事業者が販売時点で顧客に彼らのプライバシー通知を提示すること、そして通信事業者が彼らのプライバシー・ポリシーを永続的にすること、ウェブサイト、アプリケーション、およびそれらの機能的に同等なもので入手可能かつ容易にアクセス可能であることを要求する。最後に、FTCの最善の実務実践(best Practices)およびCPBRの要件に準拠して、FCCは通信事業者に、顧客にプライバシー・ポリシーの重大な変更について事前に通知するよう要求する。

·ブロッキング、スロットル、有料優先順位付け、または関連優先順位付けなど、ISPが消費者、起業家、および委員会にその慣行に関する情報を開示することを要求する。

·透明性が、市場の力、独占禁止法および消費者保護法と相まって、低コストで2015年の「輝線」の規則に匹敵する利益を達成することを見出します。

·FCCが革新的なビジネスモデルをマイクロ管理するための、曖昧で拡張的なインターネット行動規範を排除する。

  したがって、上院(SJRes.52)および下院(HJRes.129)で最近導入されたCRAにもとづくFCC規則不承認の決議は、ブロードバンド・インターネットアクセスサービス・プロバイダを合衆国現行法律第Ⅱ編規制に戻すことも、ブロック、スロットル、および支払優先順位付けの禁止を元に戻すこともできないのである。事実、この場合に制定されたCRA決議の結果は、FCCの「透明性の規則:インターネットの自由の回復命令で採用された唯一の実質的な規則)」を否定し、FCCが将来実質的に同様の透明性要件を採用することを妨げることである。要するに、今回のCRA決議実践は、インターネットの開放性を維持するための真剣な立法努力ではなく、空っぽの政治演劇に他ならない。

 (2) CRAの概要解説

 中小企業規制への法執行公正法(Small Business Regulatory Enforcement Fairness Act (SBREFA))の一部として1996年に制定された。CRAは、その規則が施行される前に、政府機関が連邦議会および連邦議会行政監査局(GAO)に規則を提出することを要求している。 CRAの下で、議会は規則が提出された後に不承認の共同決議に基づいて行動する期間を指定した。上院と下院の両方が決議を通過するならば、それは署名または拒否権のために大統領の席に行く。大統領が合同不承認の決議結果に署名するか、議会が大統領の拒否を無効にする場合、「規則は効力を生じない(または継続しない)」さらに、CRAは連邦機関に対し後続の法律によって明確に承認されていない限り、無効化されたルールと「実質的に同じ」新しいルールの公布を禁止する。

(3) CRAは裁決的な「命令」ではなく「規則」に適用される

 連邦議会は、CRAを「機関の規則制定の監督を行う方法」として制定した。CRAは、行政手続法( Administrative Procedure Act (APA), Pub.L. 79–404, 60 Stat. 237, enacted June 11, 1946APA)に基づく通知およびコメントの規則制定の対象とならない規則を含む、用語「規則」の広範な定義を具体化する。しかし、APAの下に「規則」の定義を取り入れることによって(ここでは関係ない3つの例外を除いて)、CRAはAPAの「規則」と「命令」の区別を包含している。一方、「規則」はCRAの対象である。判決の産物である「命令」はそうではない。

 ここで、インターネットの自由秩序の回復命令は、2015年に採択されたネットの中立性の規則を排除し、その決定を実行するためのFCCの規則を遵守し、そして修正された透明性の規則を採用した。また、ブロードバンド・インターネット・アクセス・サービス(モバイルと固定の両方)を情報サービスとして再分類した。この再分類の決定は、一般的に「裁定の一形態」である申告判決に具体化されていた。実際、当局に申告判決の発行を許可する委員会規則は、APAの裁定規定をその権限の源として具体的に引用している。

 FCCが規則制定と裁定の両方を含む二重の手続きを行ったことは、新しいアプローチでも斬新なアプローチでもない。連邦巡回区裁判所が観察したように、そのような二重の訴訟は「行政手続法や通信法にはそのような分岐を妨げるものは何もない」ので「本質的に不適切」ではない。

 ブロードバンド・インターネット・アクセス・サービスを再分類するというFCCの決定はCRAの対象となる「規則」ではないため、その決定を無効にしようとする議会によるいかなる試みもCRAの言語および構造に反することになる。連邦議会が連邦機関の判決を覆すためにCRAを使用するのであれば、議会は間違いなく第III条裁判所の役割を奪うことになるので、それは憲法上問題がある可能性もある。

(4)CRAは議会が規則を無効にさせるが、蘇生させることはできないようにする

 CRAに基づく不承認の共同決議の結果は、「問題となる規則を無効にする」。規則の無効化は、議会が以前に賢明でないと判断した規則を脇に置くことを可能にする迅速な手続きを確立するCRAの目的を達成する。しかしながら、CRAは議会を行政機関のように機能させていない。議会が実質的な法的義務を課そうとしている限りにおいて、議会はそのCRA第1条の規定に従わなければならない。

 議会が廃止法案を通過させ、大統領がインターネットの自由秩序の回復で採択された規則を否認する共同決議に署名すると仮定すると、それはそれらのFCCの新しい規則を無効にするであろう。しかし、FCCが2015年に公布したが2018年に廃止したネット中立性に関する規則を復活させることはないであろう。このように、CRAに基づく連邦議会の決議が「ネット中立性を回復する」と主張するのは過大な考えである。

(5) CRAは「実質的に同じ」規則の採用を排除している

 FCC規則が効力を発揮しないようにすることに加えて、規則を不承認とするCRAに基づく共同決議は、政府機関が「実質的に同じ形式」で規則を再発行すること、または不許可の規則と「実質的に同じ新しい規則」を発布することを禁じる。この禁止条項は、連邦機関が別の名前で同じ規則を再発布することによって、別の方法で再編成することを妨げているのと同じである。

「インターネットの自由秩序の回復にかかる規則(Restoring Internet Freedom Order」で採択された唯一の実質的な規則は、連邦行政規則集第47編第8.3条(47 C.F.R. § 8.3.)に定める「透明性ルール」である。 今回のCRAの共同決議の結果は、FCCが将来「実質的に同じ」透明性規則を採用することを妨げるであろう。具体的には、FCCは、ブロードバンド・プロバイダーがその「ブロードバンド・インターネット・アクセス・サービスのネットワーク管理の慣行、実行、および商業的条件」を開示することを要求する規則を制定することを禁止されることになる。したがって、CRAの使用はブロードバンド・サービスのために奇妙でかつほとんど消費者に利さない結果をもたらす。

 連邦議会は、透明性の規定を除いて、インターネットの自由秩序の回復を却下する選択肢を持っていない。 通常の法的手続きとは異なり、CRAは政府機関の最終規則を完全に無効にするためにのみ使用できる。 議会に受け入れられるようにするために規則を修正または再構成するために使用することはできない。

(6) 結論

 CRAを利用してインターネットの自由秩序の回復を「取り消す」という提案は、その提案者が達成したいと主張する目的を達成することはできない。 実際、透明性の規則を排除し、将来FCCが実質的に同様の規則を採用することを妨げることで、ブロードバンドサービスに関する重要な情報を受け取る権利を消費者から奪うことになる。 ネット中立性の問題を一度で解決するために超党派的な立法案を作成しようとするのではなく、インターネットの自由秩序の回復を否認する共同CRA決議の支持者は、単に政治的利益のためにこの問題を使用しているといえる。

*********************************************************

 (注5) CRAに関する内外のレポート例を挙げる。

① 国会図書館 .海外立法情報調査室 原田圭子 「【アメリカ】議会審査法による連邦規則の廃止」(外国の立法 (2017.4))

   *連邦議会では、1996年に制定された議会審査法に基づき、オバマ政権の終盤に制定された連邦規則に不同意を示す共同決議により複数の規則が立て続けに廃止されている。・・・

 Wikipedia Congress Review Act 

CRAに基づく連邦行政機関の規則の破棄決議の一覧

③ 2017.4.4 ブルッキング研究所報告「How powerful is the Congressional Review Act?」

(注6) FCCの2016.10.27の決定の包括解説サイトの中から「報告と命令(Report and Oder)」の「要旨」部分を仮訳する。

  本日、FCCはブロードバンド顧客のプライバシーを保護する規則を採決した。また、すべての電気通信事業者に対するFCCの規則と調和させるために、現行の規則を修正する。本命令では、最初にいくつかの背景、規則の必要性を説明し、採用する規則の範囲について話し合う。規則の範囲を議論する際に、FCCはFCC規則の対象となる「電気通信事業者」を定義し、そしてそれらの規則中の「顧客」を保護するように設計されている。また、第222条(47 U.S.C. § 222(a))で保護されている情報を「顧客固有情報(customer proprietary information(customer PI)」と定義する。

*************************************************

Copyright © 2006-2019 芦田勝(Masaru Ashida).All Rights Reserved.You may reproduce materials available at this site for your own personal use and for non-commercial distribution.

 

 

 

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

米国の議会による行政機関の規則のチェック法(CRA)の運用の実態から見た新たな課題(その1)

2019-02-27 17:06:22 | 三権分立問題

 筆者は2016年11月2日付けブログで連邦通信委員会(FCC)がブロードバンド・インターネット・サービス・プロバイダー(BIAS provider)の顧客のプライバシー保護を監督・統治する立場を前提とする規則案を「規則制定提案告示(Notice of Proposed Rule Making(以下「NPRM」という)」として採択した旨を取り上げた。

 この問題は従来から連邦取引委員会(FTC)によるサービス・プロバイダーの監督・統治問題と大きくかかわってくる大きなかつ微妙な問題であり、その後、連邦議会の上院、下院が「1996年議会審査法(CRA)」(注1)に基づき共同の不承認決議を採択し、その結果、同規則を不承認としてトランプ大統領は署名した。

 その結果、(1)米国の各種プロバイダー監督・規制がどのように代わるのか、「ネットの中立性規制」のありかた等、業界との論争、その法的経緯も含めわが国で明確かつ細かに言及しているレポートは皆無である。また、(2)2017年4月以降CRAが連発された背景は、トランプ大統領によるオバマ大統領の最終段階で多発された規則制定の全面否定問題と如何に関連するのか、(3) CRA自体の適用の真の原因解析、多発の運用の背景と議会の行政機関の監視であるGAO運用実態、大統領の独断と議会のねじれ等を踏まえたCRAの運用課題は何か、等を整理する。(第1項と第2項については情報源が異なるため一部重複がある)

 この問題と複雑に関連して生じているのが、インターネット接続事業者の監督権限をめぐるFCCとFTCの縄張り問題である。この問題には、これまで連邦議会、通信業界等を巻き込んだ複雑な動きを展開しており、わが国内での本格的な解説も皆無といえよう。限られた情報源ではあるが、この問題についても、言及する。

 なお、この問題に関連して見えてきた米国ホワイトハウスの運用面での非常に重要な課題が見えてきた。簡単に言うと大統領を中核とするホワイトハウス政権の非連続性や大統領の人事権に振り回される連邦機関のトップの行動の非連続性である。簡単に問題点のみ整理する。

 最後に、本ブログの取材に絡んで、CRAが多用されている真の原因追及研究論文なども筆者なりにチェックした。米国のロースクールやシンクタンクでは多くの研究論文が見ることができた。しかし、本稿の対象とするにはなお時間がかかる問題であり、今回は論文のURLのみ挙げることとした。

 今回は3回に分けて掲載する

1.2017年6月4日の連邦議会調査局(CRS)の議会向け報告「CRS Reports & Analysis Legal Sidebar」の内容

 米国の科学者連盟(FAS) (注2)は、201764日の連邦議会調査局(CRS)の議会向け報告「CRS Reports & AnalysisLegal Sidebar(法的補足解説)」をBroadband Data Privacy and Security: Whats Net Neutrality Got to Do With It?として引用している。以下、その概要を仮訳する。

 2016年10月27日、FCCは、BIASプロバイダーによるデータの管理、収集、および開示を管理に関する最終規則(Protecting the Privacy of Customers of Broadband and Other Telecommunications Services)(一般に「ブロードバンド・プライバシー・オーダー(Broadband Privacy Order」という)を3-2で採択、11月2日公布した。しかし、それに対応して、2017年4月3日、トランプ大統領は、連邦通信委員会(FCC)による2016年11月2日公布のFCCオーダー(2016年プライバシー・オーダー)で定められた新しいブロードバンドおよび電気通信のプライバシー規則を廃止する議会の共同決議に合意、署名した。同規則の廃止は、議会が最近採択された政府機関の規則を取り消すことを可能にする議会審査法(CRA)の手続きを介して行われた。

 これにより、FCCが、今回承認されなかったものと実質的に同じ内容を持つ新しい規則を発布することは禁止される。ただし、”Broadband Privacy Order”の議会による不許可があっても、米国通信法に基づくBIASの電気通信サービスとしての分類区分は変わらない。したがって、FTCは、BIASプロバイダーのプライバシー慣行を規制するためのFTC法第5条に基づく権限を欠く。一方、FCCは、連邦現行法律集第Ⅱ編第222条および潜在的には通信法の他の規定に従って、”BIAS”のプライバシー慣行に対する権限を持つ。ただし、プライバシー規則を実施するFCCの権限の範囲は、”Broadband Privacy Order”に含まれる規則と実質的に同じである新しい規則の発布に対するCRAの禁止措置によって制限される可能性がある。 

 FCCの現在の委員長であるアジット・パイ(Ajit Pai ) (注3)とFTCの元委員長代理であるモーリーン・オールハウゼン(Maureen K.Ohlhausen) (注4)は、FTCがBIASプロバイダーのプライバシー慣行を監督するためのより優れた機関であり、それらの慣行に対する管轄権はFTCに返されるべきであると考えている。

 

FCC Chirman :Ajit Pai

 

FCC :Maureen K.Ohlhausen

FTC Chairman:Joseph J. Simons(2018.5.1 就任)

 2017年5月18日、FCCはそのプロセスの最初のステップとして、BIASを情報サービスとして再分類することを提案しているNPRMの承認に投票した。再分類はBIASプロバイダーの一般的な通信事業者の地位を終了させ、FTC法第5条に基づくBIASプロバイダーのプライバシー慣行を監督するFTCの権限が再開される。 確かに、NPRMは明示的に「インターネット・サービス・プロバイダーのプライバシー慣行に対する管轄権をFTCに戻すことを提案する」と記している。

 FCCがBIASを情報サービス業者として再分類すると仮定すると、別の法的問題が発生する。2016年に、第9巡回区連邦控訴裁判所(以下「第9巡回区」という)の3人の裁判官合議体が「FTC対AT&Tモビリティー事件」につき決定した。裁判所に提示された問題は、FTC法からの電気通信事業者(common carrier)の適用除外(exemption)がステータス・ベース(すなわち、電気通信事業者のステータスにより事業体に適用される)か、または活動ベース(すなわち、事業体は、電気通信事業者サービスの範囲のみ適用される)で行われるかであった。

 同裁判所は、適用除外はステータスに基づいていると判断した。言い換えれば、会社が通信法の下で共通の運送業者のステータスを得ている場合、FTC法はFTCが当該事業者に対して第5条を執行することを禁じることになる。 

 同裁判所は、事業体が電気通信事業者のステータスを得るために必要な電気通信事業者の活動の程度を未解決のまま残した。しかし、AT&Tが事業のかなりの部分で通信事業者の活動に従事しており、それが通信事業者としてのステータスを付与するのに十分なものであったことについては、議論の余地はなかった。2017年5月9日、第9巡回区は事件の再審理の有効性を認め、したがって巡回規則(Circuit Rulesの下で、3名の裁判官による判決は、合議体判決が裁判所によって採択される場合を除き、第9巡回区内での先例として引用されてはならない。

  第9巡回裁判所大法廷が合議体の推論を採用する場合、一部のBIASプロバイダーのプライバシー実務慣行を監督することはFTCの権限に影響を与える可能性がある。合議体の決定に基づき、BIASプロバイダーが通常の有線および無線電話サービスなどの電気通信サービス、およびその他のサービスも提供するかどうかであるが、プロバイダの事業の大部分を占めるため、BIASプロバイダーのサービスがFTC法第5条に準拠していない可能性がある。したがって、これらのプロバイダーは、BIASのような一般的でない通信事業者サービスを提供する場合でも、FTC法の適用を受けない場合がある。そのような結果は、FCC(最近のNPRMで提案されているように、もはやBIASを電気通信サービスとして扱わないことを選択した場合)もFTCにもBIAS以外の電気通信サービスが事業の大部分を占めるBIASプロバイダーのプライバシー慣行を監視する権限がないことを意味する。

 いずれにせよ、連邦議会は、規制当局がBIASプロバイダーを監督する不確実性を排除するための法律を制定することにより、BIASプロバイダーの規制上の地位を明確にすることができるはずでる。

*****************************************************************

(注1) CRAにつき連邦議会調査局が2016.11.17「The Congressional Review Act: Frequently Asked Questions」で詳しく解説している。

 議会審査法の骨子は、連邦政府機関が策定する主要規則(注1-2)に対して、連邦議会両院が不同意の合同決議を可決し、大統領もそれに署名すれば規則は発効しない(又は失効する)、というものであり、合同決議には公法番号が付与される。

(注1-2) 主要規則とは、①経済に対する年間1 億ドルの影響、②消費者、個別産業、政府機関又はある地域への費用又は価格の大幅な上昇、③競争、雇用、投資、生産性、技術革新又は外国企業との競争能力への著しい悪影響を生じたか又は生じるであろうと認められる規則と定義される(第804 条)。(国会図書館・外国の立法「【アメリカ】議会審査法による連邦規則の廃止」から一部抜粋

(注2) 米国科学者連盟(Federation of American Scientists(FAS))。第二次大戦後の1945年、マンハッタン計画に参加した原子力科学者を中心に米国の核科学者たちが集まって結成された非政府組織(NGO)。科学者の立場から軍備競争の中止、核兵器の使用禁止などを訴える。事務局はワシントンにある。

 (注3) FCC 委員長であるアジット・パイ氏は2012年から共和党を代表する委員として、FCCの構成メンバー(委員長を含め5人)を務めてきた。市場競争を重視する規制緩和派として知られる。パイ氏は20日に退任した民主党選出のトム・ウィーラー前委員長と主だった議案で常に対立。インターネット接続業者に対して、ネット上を流れる情報をすべて平等に扱うことを求めた規制「ネットの中立性」の導入などに強く反対した(2017/1/24日経新聞記事から抜粋)

(注4) FTC Chairman:Joseph Simonsの写真を併せて載せた。

****************************************?***************

Copyright © 2006-2019 芦田勝(Masaru Ashida).All Rights Reserved.You may reproduce materials available at this site for your own personal use and for non-commercial distribution.

 

 

 

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

CNILは”Vectaury”にGDPRに基づく明確な「同意」を課すべきとの警告(その1)

2019-02-04 08:37:55 | 違法なマーケテイング規制

  筆者は、自身のブログの(筆者注10)で簡単に言及したが、2018年11月9日、フランスのデータ保護監督機関である「情報処理及び自由に関する国家委員会(以下、CNIL)は、正式な警告仏語で入手可能)を公表し、オンライン広告スペース購入業者”Vectaury”の顧客に対する「同意」の方法を変更し、アプリのインストール以前に取得した「無効な同意」を基礎とすべきでない旨の警告を行い、併せて適切な法的根拠なしに広告目的で地理位置情報データの処理を中止するよう同社に命じた。

 今回のブログは、(1)さる2018年11月16日付け”Inside Privacy”Blog仮訳するとともに、(2)このCNILの命令措置に対する欧州インタラクティブ広告協会(IAB Europe)のTransparency&Consent Framework(TCF)の独自のコメント内容を紹介し、最後に(3)CNIL命令のリリースの要旨を仮訳、引用するものである。

 本文を読んで気が付くと思われるが、CNILをはじめEU加盟国のDPAの「EU一般情報保護規則(以下、DGPR)」の解釈はきわめて厳格である。これをわが国の企業に当てはめるとどうなるであろうか。また、わが国の個人情報保護委員が同様の技術的査定が可能であるか。これらを検証する意味で今回のブログをまとめた。

 今回のブログは、2回に分けて掲載する。 

1.2018年11月16日付け”Inside Privacy”Blogの概要

  以下で、概要を仮訳する。

 ”Vectaury”は、顧客(広告主)に代わってオンライン広告スペースを購入する広告ネットワーク業者である。同社はまた、広告主が自分のアプリに統合して、ユーザーのデバイスやブラウザに関する位置情報データや情報を収集できるソフトウェアツールも提供している。同社はこのデータを分析し、それを特定の地理的な関心のあるポイント(実店舗など)と比較し、ユーザーの習慣のプロファイルを作成する。これらのプロファイルに基づいて、同社は広告主に代わってターゲットを絞った広告キャンペーンを実施する。 広告キャンペーンの効果を評価するために、広告主の実際の店舗にいる間にユーザーを追跡する。

 広告主のアプリが提供する「同意」メカニズムは、アプリケーションがターゲットマーケティングの目的でユーザーのブラウザ履歴と地理的位置を収集することを説明する短い通知を提供した。それはユーザーに3つの選択肢を提供しました。すなわち、「受け入れる」、「拒否する」、または「彼らの好みでカスタマイズする」である。CNILによると、ツールを通じて収集された同意は、「同意」に関するGDPRの要件につき、次の3つの点で準拠していない。 

(1) 第一に、CNILは、提供された情報が不明確で、複雑な用語を使用し、そして容易にアクセスできないという理由で「同意」が通知されていないことを明らかにした(特に個人データを受信するサードパーティ・エンティティのリストがない)。

(2) 第二に、アプリケーションのインストール時に得られた「同意」は、ユーザーに同意または拒否の選択肢を与えただけなので、十分に具体的なものではない。 ユーザーは、ターゲットを絞ったマーケティング目的で、地理位置情報データの処理に特に「同意」することを求められていなかった。 

(3) 第三に、CNILは、ツールを通して得られた「同意」は肯定的な行動に基づいていないと指摘した。「自分の設定をカスタマイズする」を選択したユーザーは、事前にチェックされたオプションを含む別のポップアップに誘導された。 

 CNILの調査中に、”Vectaury”はInteractive Advertising Bureauが開発した「CONSENT MANAGEMENT PROVIDERS (CMPs)」ツールを実装した。しかし、CNILは、このツールによって提供された情報と「同意」がGDPRによって提示された同意の要件を満たしていないことを明らかにした。

 これはCNILがオンラインマーケティング会社に対して実施しているもう1つの法的措置であり、CNILが適用する高い基準は考慮されるべきものである。 ”Vectaury”には同意の経験があり、ユーザーが同意を与えることを拒否することを許可し、さらにはユーザーにきめ細かい設定を提供することさえできたが、それでもまだ十分ではなかった。 興味深いことに、これまでの機会と同様に、CNILはこれらのツールをアプリに組み込んだ広告主を調査していないようである。

2.欧州インタラクティブ広告協会(IAB Europe)のTransparency&Consent Framework(TCF)の観点から見た”VECTAURY”の運用の課題

  20181121IAB Europeは、CNILの査定決定とIAB Europeが策定した「透明性」と「同意」の枠組み(The CNILs VECTAURY Decision and the IAB Europe Transparency & Consent Framework) (注1)に関する客観的に評価した。以下で、その概要を仮訳する。CNILの命令等の内容は3で詳しく述べる。

(1) IAB Europeの Transparency&Consent Framework(TCF)実装との関係

 一部のコメンテーターは、IAB Europeの Transparency&Consent Framework(TCF)を実装したConsent Management Provider(以下、CMPという) (注2)を構築したため、”VECTAURY”はCNILの照準になったと示唆している。”VECTAURY” は2018年5月にTCF CMPとしての地位を確立した。

 しかし、そのコメンテーターの提案は間違っている。CNILの調査は、”VECTAURY”がTCF CMPとして登録される前に開始された。さらに、CNILが”VECTAURY”の行動がEUの一般データ保護規則(GDPR)に違反していると考える多くの点で、それはTCFのポリシーにも違反している。

(2) CNILがなぜVECTAURYの行動がGDPRに違反したと認めたのか

 CNILは、その通知の中で、2つのシナリオで”VECTAURY”がGDPRの下で個人データを処理するための法的根拠を持っていなかったことを発見した。 1つ目は、”VECTAURY”がモバイルアプリのモバイルアプリユーザーからその「SDK」(注3)を介して地理位置情報データを収集して処理し、もう1つはモバイルアプリの目録作成(inventory)に対してリアルタイム入札で受け取った個人データを収集して処理したことである。

 ””VECTAURYが主張する法的根拠は、データが処理されたユーザーの「同意」である。 CNILの警告通知は、両方のシナリオにおいて、”VECTAURY”とそのパートナーは有効な「同意」の条件を満たしていないことを宣言している。その結果、それは処理の法的根拠として役立つことができなかった。

(3) GDPRの要件を満たしていない具体的な行為

 最初のシナリオでは、”VECTAURY”が自社のSDKを介してモバイルアプリのモバイルアプリ・ユーザーから位置情報を収集して処理したため、CNILは、デフォルトのAndroid OSまたはiOS通知ウィンドウで地理位置情報の収集の許可を求めることができなかったと指摘した。有効な「同意」を得てください。それから”VECTAURY”はそれがCNILに提出したそれからの推薦された方法としてTCFに基づいて造られたCMPを開発した。CNILは、”VECTAURY”のCMPは次の点でユーザーの透明性を向上させる一方で、有効な「同意」に関するCNILの基準をまだ満たしていないと述べた。(a)ユーザーがデータを処理したい企業の身元について適切に知らされたことを保証できなかった、(b)同意が明確で肯定的な行動によって表明されたことを保証できなかった。

 この通知には、状況によっては、ユーザーがVECTAURY(または他の会社)が自分のデータを処理することに同意を求めているという事実を知らされず、”VECTAURY”が開発した同意要求UIでは合意を伝えるために設定を切り替えるか、または他のアクションを実行しなければならない。

 どちらの場合も、”VECTAURY”のCMPもTCFの方針に基づく義務を果たすことができなかった。

 GDPRの下で有効であるためには、ユーザーの同意は「通知され」かつ「具体的」でなければならない。ユーザーは、どの会社がデータを処理したいのか、またどの目的のために使用したいのかを知る必要がある。他の情報開示は、誰が同意を要求しているか、そしてその理由についての透明性を伴う必要がある。”VECTAURY”のパートナーが自分の個人データを処理することへの同意を求めている企業の1つであるという事実を”VECTAURY”のパートナーがユーザーに明らかにしなかった場合、パートナーと”VECTAURY”の両方の行動は明らかに不適合である。 TCFのポリシーでは、同意要求がユーザーに、ユーザーの個人データを処理しようとする会社の身元と、ユーザーがその目的を理解できるように処理の目的を伝えることを要求している。この2つの会社は明確に区別されており、互いに別の会社である。

「肯定的な行動」の項目では、その立場も明白である。”VECTAURY”は、同意を伝えるためにいかなる種類の肯定的な行動も取らないにもかかわらず、ユーザがデータ処理に同意したと見なされるであろう同意するユーザーインターフェイス(UI)を実装したように思われる。これはGDPRとTCFのポリシーの明らかな違反であり、どちらもユーザーが肯定的、積極的にに「同意」することを要求する。

(4) データ保護当局の意見を反映しなかった行為

 CNILがGDPRに違反していると解釈した行為の中には、”VECTAURY”が提携しているアプリのUIに情報がどのように提示されたかに関連しているものがあった。ここでCNILは、違法性の認定に到達するために、EU加盟国のデータ保護当局(DPA)からなるEU指令第29条専門家会議の意見、そして場合によってはそのガイダンスの独自の解釈に依拠した。

 たとえば、CNILは、アプリケーションのユーザーインターフェイス(UI)が、すべてのコントローラのユーザーに同意の要求として正確な瞬間に、または正確なUIレイヤでデータ処理の同意を求めてる通知を行っていないことを発見した。同様に、「同意」が要求されているデータ処理に関する詳細な情報も同時に提供されていなかった。また、CNILは、理解しにくいデータを処理する必要がある理由を消費者に説明するために使用される言語を発見した。

 これらは、合理的な人々が反対することができるより主観的な項目である。

「同意」の要求自体と同時に「同意」を求めるコントローラの詳細をユーザに提示する場合、CMPは、ユーザが単一の画面でどれだけの情報を吸収できるかについて判断する必要がある。”VECTAURY” がそのアプリケーションパートナーに推奨したCMPで実装したUIは、データを処理したい会社のリスト(VECTAURYを含む)にナビゲートするためにいくつかのリンクをクリックすることをユーザーに要求したようである。おそらく、より良い実装では必要なクリック数が減ったであろう。実際、TCFのポリシーでは、会社のリストへのリンクを提供し、処理目的を「同意」通知の最初の層(レイヤー)に開示することを要求している。

(5) TCFを改善するための継続的な作業に役立つ情報

 ユーザーの「同意」が求められていたデータ処理目的の定義の場合、ここでCNILは明らかにポイントを持っている。しかし、一方では特異性と細分性、そして他方では単純さと理解しやすさの間で正しいバランスをとることは容易ではない。違法性の発見を促したと思われる定義には、現在TCFに含まれている5つの定義のうちのいくつかが含まれている。それらは、CNILを含むDPAとの最初の会合に続く夏の間に始まったプロセスで、フレームワークを提示するために修正されている。改訂の目的の1つは、定義をユーザーが理解しやすいようにすることである。

 おそらくもっと重要なのは、GDPR自体が沈黙しているか不明瞭な点で、フレームワークとユーザーにとって最善の方法を検討する必要があるということであり、一方で、「同意」要求の文脈におけるユーザーへの情報開示に関しては、タイムリーで完全な情報が必要となる。

 CNILが入札要求を通じて受け取ったデータを”VECTAURY”が取得して処理するという2番目のシナリオについての議論も、フレームワークとGDPRのルールのCMPによる適切な実装をサポートするためにもっとやらなければならないことを明らかにした。 TCFのシグナルが信頼できる企業によって信頼され、ユーザーに適切な透明性が提供され、有効な「同意」が得られたことを意味する場合、これは不可欠である。 CNILは、信頼できる同意がその出所で有効であることを会社が保証し証明することができるとCNILが確認していることを確認しているため、フレームワークのシグナルは信頼できるものである必要がある。有効です。何百万ものWebサイトやアプリを何千ものテクノロジパートナーが個別に検証することは完全に不可能であるため、適切な実装によってGDPRに沿って「透明性」と「同意」が確立されていることを保証できることになる。 

3.モバイルアプリケーション:広告のターゲティングを目的とした位置情報データ処理への同意の得ていない点にかかる正式な警告通知

  前述の内容と一部重複するが、あえて2018119日のCNILのリリース文を以下、仮訳する。

(1) CNILの”VECTAURY”に対する警告

 CNILのイザベル・ファルケ・ピエロタン(Isabelle Falque-Pierrotin)委員長(写真)は、モバイル・アプリケーションを介した広告ターゲティングの目的で、地理位置情報データを処理することについて、本人の「同意」を求めることを”VECTAURY”に忠実であるよう促した。

 CNILは、多機能モバイルを介して個人データを収集し、モバイルでの広告キャンペーンを実施するための技術を使用している会社”VECTAURY”によって実行されるデータ処理を管理している。

 同社は、パートナーのモバイルアプリケーションコードに埋め込まれた「SDK」と呼ばれるテクニカル・ツールを使用している。 彼らはそれがこれらのアプリケーションが動作しないときでさえそれが多機能モバイルのユーザーからデータを集めることを可能にする。この「SDK」は、多機能移動体の広告識別子および個人の地理的位置データを収集することを可能にする。さらに、これらのデータは、パートナーが決定した関心点(店の看板)と相互参照され、訪問した場所から人々の端末にターゲット広告を表示する。

 ”VECTAURY”は、またプロファイリング目的および広告ターゲティングのために、会社が広告スペースを購入できるようにするために最初に送信されたリアルタイム入札オファーを介して受信する地理位置データも処理する。

(2) VECTUARYのSDKデータに関する「同意」の収集に失敗

 ”VECTAURY”は、関係者の同意を得てこれらのデータを処理することを示しているが、しかしながら、CNILの検証によると「同意」が正当に集められなかったことが明らかとなった。

 まず第一に、モバイルアプリケーションをダウンロードするとき、人々は体系的に「SDK」が彼らの位置データを収集することを知らされていない。 インストール時に、ユーザーは広告ターゲティングの目的についても、この治療の責任者の身元についても知らされない。 アプリケーションの一般的な使用条件で提供される情報はデータの処理後に得られるが、必要となる「同意」は事前の情報提供を前提としている。

 ユーザーが「SDK」をアクティブにせずにモバイルアプリケーションをダウンロードすることは、常に可能とは限らない。 両者が切り離せない場合は、アプリケーションを使用すると自動的にデータが”VECTAURY”に送信される。

  同社は最近、情報を強化するために同意の管理プロバイダ(CONSENT MANAGEMENT PROVIDERS (CMPs)」ツールの実装を提案した。 それにもかかわらず、CNILはこのCMPが体系的にアプリケーションに実装されていないことを認めた。それはまた、特にユーザに与えられる情報が不十分であるという点で、依然として不十分であり、かつ位置情報データ収集はデフォルトで有効になっている。また、広告スペースのリアルタイムオークション入札(注4)からデータ主体の同意を得られなかった

 また、コントロール(管理)では、ユーザーの「同意」が、個人データが広告プロファイリングに使用されるまで収集されなかったことを発見した。 ユーザーに提供される情報は、彼のデータがこのリアルタイム入札システムに使用されることを説明するものでも、ビジネスプロファイルを定義する目的で保持されるものでもない。「SDK」と同様に、データ収集はデフォルトで有効になっていた。

 広告スペース入札システムにより、同社は32,000以上のアプリから4200万以上の広告IDと位置情報を収集することができた。

 「SDK」とリアルタイム入札に起因するこれらの処理は、プライバシーに対する特別なリスクをもたらす。彼らは確かに人々の動きと彼らのライフスタイルを明らかにしている。 さらに、これらの行為は、関係者に気付かれることなく、またEU一般保護規定(GDPR)が規定する権利を行使することもできずに行われる。

 したがって、CNILは”VECTAURY”は、関係するすべてのユーザーの有効な「同意」を集めるよう正式な命令通知を行うとともに 過度に収集したデータを削除することも通知する。

 すなわち、指摘された問題点を考慮して、CNIL委員長は、 3ヶ月以内に法律および「自由」を遵守することを ”VECTAURY”に 通知することを決定した。同社が法令遵守に入っても、この手順のフォローアップは行われません。また 手続きの終了は公表される。そうでないと、委員長はCNILによる制限的措置を行うまたは罰金を科すかもしれない。

 問題の性質、これらの影響を受ける人々の数、およびこの種の技術の使用に関連する問題についての業界の専門家の意識を高める必要性を考えと、CNILはこの通知を公表することとした。 それが以前に発表したように、CNILは「SDK」の使用が介入する一連の事業者の様々な行為に特に注意を払う。

〇CNIL公式文書

(1) 2018年10月30日のCNIL決定官報

Décision n°MED-2018-042 du 30 octobre 2018

Décision n° MED 2018-042 du 30 octobre 2018 mettant en demeure la société VECTAURY

(2) 2018年11月8.日の CNIL審決 Délibération n°2018-343 du 8 novembre 2018

Délibération du bureau de la Commission nationale de l’informatique et des libertés n° 2018-343 du 8 novembre 2018 décidant de rendre publique la mise en demeure n°MED-2018-042 du 30 octobre 2018 prise à l’encontre de la société VECTAURY

**********************************************************************

(注1) IAB EuropeとIAB Tech Labは、「GDPR Transparency&Consent Frameworkの技術仕様」をリリースした。 この仕様は、IAB Europeのポリシーおよび法的専門知識とIAB Tech Labの技術的専門知識を活用した、IAB EuropeとIAB Tech Labの間のコラボレーションにより、今後のIAB Tech Labのワーキンググループによって維持される。(IAB Europeサイトから引用)

https://iabtechlab.com/standards/gdpr-transparency-and-consent-framework/

(注2) GoogleAdsenseヘルプ画面を見ておく。

 EU ユーザーの同意ポリシー:サイト運営者様が EU ユーザーの同意を得る方法の3つ目で以下の解説がある。

3. IAB のフレームワークを使用する

Google は IAB Transparency & Consent Framework(TCF:透明性と同意に関するフレームワーク)との統合がまだ完了していません。この数か月間にわたり Google は IAB Europe と協力して、サービスとポリシーが TCF に適合したものとなるよう作業を進め、技術的統合の完成を目指しています。

Google の IAB 統合が完了するまでは、サイト運営者様が ATP 設定画面で選択した広告技術プロバイダのパーソナライズド広告が表示されます。サイト運営者様は引き続き AdSense の管理画面で、広告リクエストにパーソナライズされていない広告シグナルを含めるか、欧州経済領域のすべてのユーザーにパーソナライズされていない広告のみを配信するかを選択できます。なお、IAB の TCF 技術仕様サポート ウェブでは、モバイル アプリの仕様はまだ確定していません。

(筆者注3) SDK(「Software Development Kit(ソフトウェア開発キット)」)とは、あるシステムに対応したソフトウェアを開発するために必要なプログラムや文書などをひとまとめにしたパッケージのこと。システムの開発元や販売元が希望する開発者に配布あるいは販売する。近年ではインターネットを通じてダウンロードできるようWebサイトで公開されることが多い(IT用語辞典から抜粋)

(筆者注4) REAL-Time Auction Offer の意味はReal-Time Bidding?と同義と思う。

**********************************************************************:

Copyright © 2006-2019 芦田勝(Masaru Ashida)All Rights ReservedYou may reproduce materials available at this site for your own personal use and for non-commercial distribution

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする