Financial and Social System of Information Security

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フランス行政最高裁判所は、CNILによる罰金の額をわずかに減らした。これは氷山の一角であるか?

2019-05-26 11:21:51 | プライバシー保護問題

 Last Updated:May 16, 2021

 2019.5.12 付けReed Smith LLPのブログ「フランス行政最高裁判所は、CNILによる罰金の額をわずかに減らした。これは氷山の一角であるか?」が手元に届いた。

 この事件は、 EUの一般データ保護規則(GDPR)が完全実施期限である2018年5月25日の数日前である5月7日に、フランスの個人情報保護機関である「情報処理及び自由に関する国家委員会(Commissionnationaledel'informatiqueetdeslibertés:CNIL)」審決(Délibération n°SAN-2018-002 )は、Webサイト上の個人データの保護を怠ったことを理由に、オプティカル・センター(Optical-center.fr ) (注1)に25万ユーロ(約3,070万円)の罰金を科し、顧客のデータの個人情報および機密情報を含む請求書および購入注文へのアクセスを許可した。

 これに対し、オプティカル・センターは行政最高裁判所である国務院(Conseil d’État)  (注2) に控訴し、国務院は2019年4月17日付けの判決(decision No.422575 10éme -9éme Chambre)で制裁内容を確認したが、罰金の額を20万ユーロ(約2,456万円)に再査定した。

 その点で、国務院による罰金額のわずかな引き下げは、行政最高裁判所による実用的かつ寛容なアプローチを示している。この減額措置は、いかなる理由に基づくものと考えるべきか、今回のブログはCNILの調査の内容、GDPR違反の内容、これからの企業活動への影響などにつき簡単に考察するものである。

1.2018.5.7 CNIL審決に至る経緯

 2019.5.12 Reed Smith LLPのブログ「フランス行政最高裁判所は、CNILによる罰金の額をわずかに減らした。これは氷山の一角であるか?」を仮訳する。なお、必要に応じ筆者が関係するリンクを張った。

 CNILが審決した理由は次のとおりである。

 オプティカル・センターは自身のウェブサイトが確かにセキュリティ上の欠陥を持っていたことを認めている一方で、CNILによる現地調査が同センターの敷地内で行われた。 この場合、同社サイト”www.optical-center.fr”には、請求書を表示する前に顧客が自分の個人用スペース(「顧客エリア」)にしっかり接続されていることを確認する機能は含まれていなかった。このため、同社の他のクライアントが当該ドキュメントにアクセスするのは比較的簡単であった。

 CNILの制限された権限に基づき、同社がフランスの個人データ保護法(Loi n° 78-17 du 6 janvier 1978 relative à l'informatique, aux fichiers et aux libertés)の第34条(注3)に違反して、個人データのセキュリティの義務を破ったことを考慮して、25万ユーロ(約3,070万円)の罰金を言い渡した。

 その後、オプティカル・センターの控訴に対応し、フランス行政最高裁判所である「国務院(Conseil d’État)」が制裁内容を確認したが、2019年4月17日付けの判決で罰金の額を20万ユーロ(約2,456万円)に再査定した。 

 特に米国とは反対に、データ侵害に対する制裁措置はフランスの規制当局であるCNILの手に委ねられている。この制裁措置がEUの一般データ保護規則GDPR)の発効前に行われたことを考えると、CNILの制裁力に限界があり、その当時の適用可能な基準と比較すると、厳しいと見なすことができる。

 もう1つの要因が役割を果たした。すなわち、オプティカル・センターは、2015年11月5日に同様のデータ侵害に対してすでに5万ユーロ(約614万円)の罰金を科されており、2017年6月19日に国務院により確認されていた。 

2.国務院の判決に基づき考察すべき課題

 その点で、国務院による罰金額のわずかな引き下げは、行政最高裁判所による実用的かつ寛容なアプローチを示している。この減額措置は、国務院がデータ管理者の行動を考慮に入れて会社の協力的な態度と反応性のレベルを強調して説明できる一方で、CNILは再修正のみを考慮に入れることを決定した。 

 国務院による罰金の額の削減は重要ではないようであるが、フランスのデータ保護当局による決定に続いて控訴する可能性は、企業にとって真の裁判上の戦略的選択肢と考えられる。今回の国務院のさらなる決定は、国務院がCNILによって課される罰金の額を再検討し、削減するために一定の傾向に従うかどうかを示すかもしれない。 

 しかし、潮流が変化しているので、事業者のデータ・コントローラは警戒しておくべきである。ここ数カ月間、フランスのGDPR以前のデータ保護法の下で行われたCNILの決定に、そしてその後に、徹底的な厳しさの増加が観察された。

  確かに、CNILがOptical Centerに対して行った決定の数ヶ月後、GDPRが発効する前に、CNILは、情報セキュリティ侵害の疑いで GithubコラボレーションプラットフォームであるUber France SASrに40万ユーロ(約4,912万円)の罰金を科した。

 さらに 2019年1月21日には、GDPRの下でCNILがグーグルに対して行った5,000万ユーロ(6億1,400万円)の罰金制裁の決定は、CNILが大手デジタル会社を広範囲にわたって統制するという決意を示している。

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(注1) ”Optical-center.fr”はフランスやカナダ等で営業を行うメガネ、コンタクト販売会社である。

(注2) 国務院(Conseil d’État)は、政府が法律案や政令案 などを準備する際に、政府から 諮問を受けて答申します。また、法に関わる問題について、政府から求められた場合は、意見を述べます。

さらに、政府からの要求に応じ、又は自ら率先して、行政問題や公共政策に関する問題について研究を行います。

国務院は、行政最高裁判所の機能も有しています。国務院は、国、地方公共団体、行政施設などの行為に対する最終審裁判所です。

これら二つの役割(勧告と裁判)によって、国務院は、フランスの行政が、法に従って適正に行われることを保障します。

さらに、国務院は、第一審行政裁判所と行政控訴院を統括して管理する権限も持っています。(国務院の日本語サイトから引用)

(注3) フランスの(Loi n° 78-17 du 6 janvier 1978 relative à l'informatique, aux fichiers et aux libertés)第34条前段を仮訳する。

コントローラは、データの性質と処理によってもたらされるリスクを考慮して、データのセキュリティを保護するために特にそれらが歪められたり、破損されたりあるいは第三者による不正アクセスによることを防止するために、すべての必要な予防措置を講じる必要がある。(Le responsable du traitement est tenu de prendre toutes précautions utiles, au regard de la nature des données et des risques présentés par le traitement, pour préserver la sécurité des données et, notamment, empêcher qu'elles soient déformées, endommagées, ou que des tiers non autorisés y aient accès.)

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中国が米国との貿易交渉に先立つ企業秘密保護法「中华人民共和国反不正当竞争法」を改正強化

2019-05-08 17:46:44 | 違法なマーケテイング規制

 2019年4月23日、第13期中国全国人民 代表大会常務委員会は、不正競争防止法の改正案を採択し、中国の企業秘密保護法にあたる「1993年反不正当竞争法」を大幅に強化した。 中国における知的財産保護の強化は、中国と米国を含む国際社会との間の重要な貿易交渉に先立って行われた。

 なお、国際化という同様の趣旨で中国は商標法の改正法案の改正案も同日、常務委員会で採択している。 

 今回のブログは、2019.5.7 Crowell & Moring LLP「China Strengthens Trade Secret Protections Ahead of Trade Negotiations」に基づき、そのポイントを仮訳、解説する。また、参考までに常務委員会が採決した一連の関連法の改正法うちの7番目の「反不正当竞争法(不正競争防止法)」の改正箇所を筆者なりに仮訳し、2.附則として載せる。 

 なお、同法は2017年11月4日に一部改正を行っている。反不正当竞争法 (2017年改正)は、2017年11月4日、第12期全国人民代表大会常務委員会第30回会議にて可決、公布された。2018年1月1日施行されている。(注1)

 同時に行われた、商標法改正については、別途本ブログで取り上げる。

1.1993年反不正当竞争法の一部改正内容

 不正競争防止法の主な改正項目は、次の点である。 

① 「商業情報」の定義:以前は商業秘密の定義は「技術的または運用上の」情報に限定されていましたが、改訂された定義には現在「商業情報」が含まれ、保護可能な商業秘密の範囲が大幅に広がった。 

② 「侵害者」の定義:改正案は、侵害者の定義を以前のような「事業者(business opreators)」だけでなく、「その他の自然人、法人または法人組織以外の組織」も含むように広げた。新しい定義は、その範囲内に個々のハッカーまたは悪人(bad actor)を明示することによって旧法の定義を明確化した。

③ 「侵害行為」の定義: 改正法の下では、「ハッキング」は他者が秘密の義務を破るように促したり、誘導したり、助力したりする行為を明示的に商業秘密の侵害を構成するとした。

④ 「立証責任」: 改正された規定では、権利保持者が(1)秘密保持のために合理的な措置を講じたこと、(2)その商業秘密は不正使用されたことのみの立証で良いという点で立証責任の移転シフトの仕組みを作り出すことによって、外国の商業秘密保持者が中国における商業秘密の不正流用の法執行行動を起こすことをより容易にする。 もし権利保持者がこの一応の立証(prima facie )表示を可能にするならば、それが合法的な手段を通して商業秘密を取得したことを証明するために、立証責任は被告たる侵害者に移る。 侵害の推定(presumption of infringement)は、権利保持者の権利が大きく有利に変化したことを表す。 

 「損害額」:新法では、権利侵害の繰り返しに対する懲罰的損害賠償額が増加され、1〜3倍ではなく1〜5倍の損害賠償(または権利者の実際の損失)が見込まれる。法定損害賠償額は、法律に違反した場合の300万人民元(約442,875米ドル:約48,738万円)から、500万人民元(約738,125米ドル:約81,266万円)に引き上げられた。

これらの法改正は、2019年4月23日の採択時に即効力を生じた。 

2.2019年4月23日可決、即施行された該当改正法の部分訳(附則)

 以下で仮訳する。なお、筆者は中国法の専門家でないのであくまで原文にあたられたい。

7.「中華人民共和国の不正取引防止法」を改正する。

1項 第9条を次のとおり改正する。「事業者は、次の商業秘密の侵害行為を行ってはならない。

 ① 窃盗、贈収賄、詐欺、強制、電子的不法侵入その他の不適切な手段により権利者の商業秘密を取得すること。

 ② 前号の手段により取得した商業秘密を他人に開示、使用または使用させること。

 ③ 秘密保持義務を開示する、または権利保有者が有する商業秘密を他者に開示、使用または使用させることをもって、保護すべき商業秘密に対する権利保有者の要求に違反すること。

 ④ 他の権利保有者の商業秘密を取得、開示、使用または使用することを促すことをもって、他人の機密保有義務に違反すること、または保護すべき商業秘密に対する権利保有者の要求に違反すること。

    前項の違法行為をした事業者以外のその他の自然人、法人および法人以外の団体は、商業秘密を侵害したものとみなす。

第三者は、商業秘密権の所有者の従業員、元従業員または他の単位または個人が本項の最初のパラグラフにリストされる違法な活動を実行して、まだ、商業秘密を使う他を得て、明らかにして、使うかまたは許すということを知っているかを知る義務がある。

    この法律で引用する商業秘密とは、一般に知られておらず、商業的価値を有し、権利者による適切な商業秘密保持措置の対象となる技術情報や事業情報などの商業的情報を指す。

2)項 第17条を次のように改正する:「事業者がこの法律の規定に違反し、他人に損害を与えた場合は、当該事業者はこの法律に従って民事責任を負う。

    事業者の正当な権利と利益が不当な競争によって損害を受けた場合、人民法院に訴訟を起こすことができる。

不当競争によって損害を受けた事業者に対する補償額は、侵害によって被った実際の損失に応じて決定される。実際の損失を計算することが困難な場合、侵害について侵害者によって得られた利益に従って決定される。重大な行為の場合、状況が深刻であれば、補償の金額は上記の方法で決定された金額の2倍以上かつ5倍の範囲内で決定される。

     「事業者がこの法律の第6条および第9条の規定に違反した場合、侵害により権利者が被った実際の損失および侵害により侵害者が得た利益を決定することが困難である場合、人民法院は侵害の程度に従って権利者を裁定する。その補償額は 500万元未満とする。

 (3)項 第21条の規定をつぎのとおり改正する。

 事業者その他の自然人、法人及び法人組織が本法第9条の規定に違反したときは、監督・検査部(注2)は、違法行為の停止及び違法所得の押収を命ずるものとする。罰金額は 10万元以上100万元以下とするが、違反が深刻な場合は、50万元以上500万元以下の罰金を科す。

(4)項 第32条として以下の1条を追加する。

 商業秘密を侵害するための民事審理手続において、商業秘密権者は、主張された企業秘密に対して秘密の措置を講じ、合理的に企業秘密を示しているという簡単な証拠を提供する。侵害されたと主張する侵害者は、権利者によって主張された商業秘密が本法に規定する企業秘密に属していないことを証明するものとする。

 商業秘密の権利者は、その商業秘密が侵害されているという基本的な証拠を提供し、次のいずれかの証拠を提供する。また、侵害者は、企業秘密の侵害がないことを証明しなければならない。

①侵害者が、商業秘密にアクセスまたはアクセスできること、および使用された情報が商業秘密と実質的に同じであるという証拠があること。

②商業秘密が侵害者によって侵害されていることが開示、使用、または疑われる証拠があること。

③ 商業秘密が侵害者によって侵害されているという他の証拠があること。

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(注1) 2017年の反不正当竞争法の改正につき、わが国での解説を参照。

(注2) 反不正当竞争法の第3章監督と検査において監督検査部門の権限等の規定がある。

 第16条 郡レベル以上の監督検査部門は、不正競争行為の監督および検査を行うことができる。

 第17条  督検査部門は、不正競争を監督および検査する際に、以下の権限を行使する権利を有す。

 以下は略す。

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イタリアGaranteが選挙宣伝活動のために個人情報を違法に利用した医師に16,000ユーロ(約198万4,000円)の罰金

2019-05-04 10:32:59 | プライバシー保護問題

 筆者はこれまで、イタリア情報保護庁(Garante)の法執行や保護法令整備の動向につき、随時取り上げてきた。(最近では2月5日ブログ(その1)(その2完)4月25日ブログがあり、また古くは2016年9月20日ブログ(その1)(その2完)、同年10月11日ブログがある。

 さる3月4日、Garanteは地方選挙で候補者を支持する手紙を送るために約3,500人の元患者の住所を使用した医師に16,000ユーロの罰金を科した。この点に関して特にデータ主体の特段の事前の「同意」はなかった。 

 今回のブログは、Garanteのリリース文の基づき事実関係を中心に論じる。

1.事件の背景

  この問題を報じたいくつかの報道記事の後にGaranteが始めた予備調査の間、医師は重要な腫瘍研究所によって治療を受けた以前の患者に、研究所との職業上の関係をやめたことで、新しい職場が生まれたとする自分のことを知らせるために手紙を書いただけであると自分自身を擁護した。

 本件の場合、医師は選挙の候補者が以前の健康福祉評議会への支持を文脈的に表現し、電子メールの一番下に置かれたリンクを通して受取人がメッセージの受け取りに反対することを許した点で、イタリアのプライバシー規則を遵守していると考えた。

 Garanteは、そのような個人データの処理を異なるプロファイルにつき違法と見なした。 

2.Garanteの判断

 まず第一に、医師は、プライバシー法(注)で要求されているように、患者データの登録時または最初の連絡時に情報を返さなかった。 問題となっている点は、1)関係当事者から直接医師がデータを収集するのではなく、雇用関係の終了時に腫瘍学研究所が受け取ったデータであるため、この要件は実際には必須であった。さらに、2)医師は以前の患者のデータを、特定の自主的な「同意」を得ずに収集し治療以外の目的に使用したのである。 

 2005年9月7日および 2014年3月6日の選挙宣伝活動に関する一般規定でGaranteによって明らかにされているように、「医療専門家および医療機関による健康保護活動の文脈で収集された個人データは、選挙宣伝活動とそれに関連する政治的コミュニケーション目的に関し、この目的はデータが収集された正当な目的にさかのぼることはできない」 

 今回のGaranteの制裁は旧保護法に基づいて科されたが、それを引き出す原則は、2019年3月7日の「健康部門における健康データの取り扱いに関する規律の適用に関する明確化規則」で明らかにされたように、新しいEU一般データ保護規則(GDPR)に基づいても有効であり続ける。 

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