著者がこの小説を書こうと思ったきっかけは、東日本大震災のあと、ダンボールの仕切りを
最後まで使わせなかった避難所があったと知ったことだそうです。現実にあった事例で、こ
れを強いられた被災者はどんな思いで暮らしていたのかと想像すると眠れなくなった。とあ
とがきに書いています。小説中では乳飲み子を抱えた遠乃は授乳の度に好奇の目にさらされ、
女子高校生たちも常に見られている。プライベートが確保されず、被災者たちは精神的に追
い詰められていく。
冒頭大地震による津波の描写は、あまりにもリアルで衝撃的だ。普通のおばさん然とした福
子の東北弁の語りは、電車で読んでいる時にウルっと来てしまった。誰も自分にそんな災難
が降りかかるなど考えもしない。ましてや津波となるとこの経験を思い出し、大仰な警報と
は裏腹で影響が軽微だった記憶が「自分だけは大丈夫」という感覚に縛られてしまう。
そして被災し、現実になった時にどう受け止めることが出来るかだ。著者の書く小説には主
人公たちが追い詰められるシーンが多いが、本作ではさらに絶望的になる。それでも静かな
怒りから、立ち上がっていく女性たちの姿に本当に元気づけられる。遠乃が「日本の社会は
女の我慢を前提に回っている」という言葉は著者の前々からのメッセージだ。
女たちの避難所 垣谷美雨 新潮文庫