ケセランパサラン読書記 ー私の本棚ー

◆『二日月』 いとうみく 作 丸山ゆき 絵 そうえん社



『二日月』という、タイトルが素晴らしい。
しっかりと、人が描けていて、物語も素晴らしい。
でも、この本のレビューを書くことは、とても、難しい。
それは、なぜかというと、とってもヒューマンなお話しだからです。
私は、ヒューマンなお話しは苦手なのです。
どうも、偽善的なことを、書いてしまいそうだからです。

多分、作家も、偽善的にならないよう、心して書いた作品ではないかと思われます。
そのことは、作家、いとうみくの筆致から、伝わってきます。
だからこそ、作家が、頑張った力に、見合うほどの力で、レビューを書かなくては、作家に失礼だと思うのです。
感動とか、共感とか、そういう、言葉では、書きたくないのです。

だからと言う訳ではないけれど、ちょっと内容を紹介。
これは、姉妹と母の関係の物語です。
待ちに待って生まれた赤ちゃんは、なぜか、ミルク(私は、これは、"おっぱい"と同義語と思います)を飲めず吐いてしまうのです。
医師からは原因は不明だと、そう長くは生きられないだろうと、告げられます。
勿論、家族は、必至になって、あかちゃんを、すこしでもミルクを飲むように、一日でも頑張って生きてくれるように、頑張ります。
あかちゃんの名前は、芽生(めい)ちゃんというのですが、訓読みだと芽生え(めばえ)です。
作家が、この作品に向き合い、込めた気持ちが、こういうところでも感じられます。

それで、小学校高学年のお姉ちゃんの杏ちゃんは、そういうすべての状況を把握し理解しています。
だからといって、杏ちゃんが生きている時間は、それでOKなのではないのです。
杏ちゃんもまた、芽生ちゃんと同じぐらい、生易しくない、時間を生きているのだと、私は、感じたのです。
杏ちゃんという存在の臨場感がとても、読み手に伝わってきます。
で、お母さんが、やっぱり、とっても、よかった。
ちゃんと描けていたと思う。

このようなことしか書けない私は、実に凡庸で、本当に情けないけれど、こういうヒューマンな作品を、このように外連味がなく書き上げ、世に出した作家いとうみくは、とても良い仕事をしたと思うのです。

文学は、なによりも人を描くことなんだと、言った作家があった。
まったく、その通りだと思う。
それに、いとうみくは、己の作家力を、賭けて、没頭して、書いている作品なんだと、それが伝わってくる。

『二日月』、今年の夏休みの小学生読書感想文の課題図書になればいいなー!
児童文学は、少子化の他に、親の購買力が落ちており、そのせいで、出版部数もどんどん少なくなてきている。
『二日月』が、課題図書になって、少しでも多くの人が、手に取って読んでくれるきっかけになれば、嬉しい。

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