hinajiro なんちゃって Critic

本や映画について好きなように書いています。映画についてはネタばれ大いにありですのでご注意。本は洋書が中心です。

The Collector

2023年12月28日 | 洋書
 何きっかけかは全く覚えてはいないもののずっと読みたいリストに入っていた作品。
 偶然にも娘が友達からお勧めされて譲り受けたらしく、いつの間にか我が家の本棚に入っていました。(そうとはしらずKindleでも買ってしまったので、よっぽど読みたかったようです、私)
 簡単に内容を話すと、好きになった女性を監禁した陰気臭い男の物語。
 前半は一気にこの男の目線からの語り。そして後半は同じエピソードが監禁された女性の目線からの語りという構成になっています。
 テーマ的にはもちろんユニークなところはないのですが、語り手を交互にせずに、前半と後半にわけて完全に分断しているところが、私にはとても新鮮に感じました。
 新鮮?この作品が書かれたのは1965年なのですが、あまりにもここのところよくある題材ですし、文章や登場人物のあり様に特に古さを感じさせない描写のため、ずいぶん前に書かれていることを幾度と忘れてしまいました。お金の価値が違うことだけが、あー、そうそう、昔の話だった、と思い出させてくれるという風に。そして最近の作品なら、語り手を交互にするのではないかなとも思ったわけです。
 この作品は娘たちの代の高校卒業試験(A Level)の English Language という教科の試験に採用されていた作品でもあることから、クラシックとして長く読まれています。そしてその理由を私は文体の興味深さが故だろうと思いました。
 前半の主人公の語りでは、乾いていて語彙も少なく、孤独で特に何に対しても興味も持たずただただ生きていた彼の性格が表されています。後半の女性の方の語りでは、地下に監禁されて絶望的な状況にかかわらず、好奇心旺盛で社交的だからこそ身に付いたであろう生き生きとした言葉が繰り出されます。
 この圧倒的な違いが長い間文学好きを掴んできたんだろうなぁと、読んでいる最中「やっぱり文学っていいよなぁ」と胸を熱くしました。

 さて、こういうテーマだと必ずストックホルム症候群が語られるわけですが、もしこの作品にもそういういった一面があったと語る評論家がいたとしたら、その方がどんな著名人だろうと絶対的に異論を唱えたいと思う。
 手を替え品を替え最後まで戦ったのに、ストックホルム症候群だったなんて言われたら、この女の子は浮かばれない。

 8 out of 10
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