こころの文庫(つねじいさんのエッ!日記)

家族を愛してやまぬ平凡な「おじいちゃん」が味わう日々の幸せライフを綴ってみました。

おい、おい、老い!・5

2016年06月06日 00時11分24秒 | 文芸
刺身パックと野菜を

買い物かごに入れてレジに並んだ。

「あんた、

それだけかいな?」

「はあ」

 カートに商品山盛りの

買い物かごを積んだ客が振り返り、

声をかけてくれたら

シメタものだ。

「先にレジしなはれ」

「おおけに。

すんまへん」

 人の好意は素直に受ける。

断るなんて、

相手の気持ちを傷つけるだけだ。

世の中は

結構いい人が多いと

感謝すればいい。

 買った食材をを助手席に置いて、

ホーッと息を吐く。

仕事は終わった。

思い通りのものを安く買えた。

残りの食材は

家に買い置きがある。

あとは腕を振るえばいい。

まだ腕は錆びちゃいない。

 意気揚々と

玄関を開ける。

「お帰り。

どないやったん?」

 待ち構えていた妻が

性急に訊く。

「ほれ見てみい。

卵五パックやぞ!」

「えらいえらい」

 口ぶりがあきれ果てている。

定年で現役引退した夫に、

もう期待はしない。

亭主がボケないために、

好き勝手を許しといてやるんだとの

思いが滲んでいる。

「でも、

ちょっと買い過ぎやない、

卵五パックやって」

「あの子は

卵料理が好きなんやど」

「コレステロールが増えて、

あの子も災難や」

 妻の皮肉は、

もう狎れっこだ。

ほざいてろ。

「はい、

サヤちゃん。

おじいちゃんだよ」

 玄関に入って来た娘の第一声。

顔がにやける。

娘の胸に

しっかり抱かれた赤ん坊は、

初孫だ。

それも女の子である。

目に入れても痛くないを

実感させてくれる。

「はよ上がれ。

外はまだ寒いやろが」

「うん。

サヤちゃん、

お願い」

「ん?お、おう。

ほな、預かろか」

 赤ん坊を慎重に受け取る。

落としたら大変だ。

小心者だから、

ふと不安に襲われる。

右の腕で頭と首を支える。

首がまだ座っていない。

油断は禁物だ。

「ほら、

笑ってるよ」

「え?」

 赤ん坊を見やると、

確かに笑っている。

 長女の出産は

立ち会えなかったが、

夜遅く産院に駆けつけ、

保育器の赤ん坊と対面した。

「へその緒が

短かかったらしゅうて」

 長女の伴侶が、

なぜか

申し訳なさそうに説明する。

気にするな。

あんたの責任じゃない。

「ちょっと小さいんです。

二千四百あるかどうかで」

「ちいそう産んで

大きく育てるいうやろ。

なんも心配せんでええわ」

 妻は新米父親の不安を

笑い飛ばした。

男には及びがつかぬ

自信に満ちた物言いだった。

「それで母親の方は

べっちょなかったんか?」

 最も気になるのは

長女のこと。

出産は病気じゃないが、

万が一ということもある。

「はい。

大丈夫です。

元気してます」

 小太りの娘と

痩せてスリムな婿。

実にうまくバランスが取れている。

 病室は明るく小奇麗だ。

娘はベッドに寝ている。

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