こころの文庫(つねじいさんのエッ!日記)

家族を愛してやまぬ平凡な「おじいちゃん」が味わう日々の幸せライフを綴ってみました。

あの日あのとき

2017年10月23日 01時13分31秒 | Weblog
最近
身の回りを整理し始めた。
断捨離というわけである。
子供たち三人が巣立ち、
田舎特有の大きな家に
夫婦と末娘だけの
暮らしに入ってから、
余計なものが多すぎるのが
気になった。
後生大事に取りおいておくのに、
どんな意味があるのかと
猜疑的になり、
モノを片付けるようになった。

 かなりの量を捨てた。

「えらい!
やっと片付ける気になったんだ。
おいてたって
何の役にも立たないものばかりなんだから、
どんどん捨てちゃおうよ」

 妻はがぜん張り切った。
現実的な性格だけに、
必要なもの
不必要なものとの区別を
つけるのに容赦はない。

「そやけど、
これはまだ使えるやないか……?」

「なんに使うのよ。
コーヒーカップやお皿、
うちは三人家族なの」

三十代のころ
喫茶店をやっていた。
十年目で閉めたが、
什器備品は
(いつか使うかもしれない)との思いで、
丁寧に梱包して
段ボールに詰めてあった。
二十年以上たった段ボールは
劣化してボロボロ状態で、
保管箱の体を
もはやなしていない。
恐る恐る中身を確かめてみると、
どれもこれも
懐かしいものばかりで、
破損も汚れも生じていなかった。
銀器の輝きが
時の流れを逆流させる。

未練な気持ちを
心中深く押し込めて
手当たり次第に始末し始めたが、
やはりそれぞれに
思いが強く捨てるに忍びなく、
作業は遅々として
進まなかった。

段ボールのいくつかが
やけに軽かった。
袋に入ったストローや
オリジナルデザインのマッチや箸袋などが、
新品状態で詰められていた。
なんと手書きしたメニュー板や
店内のテーブルに置いた落書きノートも
几帳面に残していた。
(さてどうしたものか?)と
躊躇するのを見かねた妻が
呆れ顔でいった。

「こんなもんこそ使い道ないでしょ。
さっさと捨てなきゃ、
ちっとも片付かないわよ」

「……?」

 何も言い返せなかった。
古くなった消耗品のストックに
使い道などあるはずはない。
懐かしい記憶は刻まれているが。
確かに第三者には
なんの価値もないガラクタに過ぎない。

 戸棚の中にアルバムが
無造作につまれていた。
当時使い勝手がよかった
フエルアルバムというやつで、
表紙はシミに似た汚れが見られた。
一番手近にあったアルバムを開いた。
片付けの手を止めて見入った。
写真に混じって
貼られた新聞記事に
目が留まった。

 A新聞の夕刊だった。
カウンターで
コーヒーをサイフォンでたてる写真が掲載され
『播磨に禁煙喫茶店』の見出しが読めた。

「いい試みですね。
うちも応援しますよ」

 開店日に姿を見せた
A新聞の記者は好意的だった。

「まだ都会でも珍しい禁煙喫茶店を、
地方都市で実現しようというのは
すごいですね」

 嫌煙権が社会で問題提起され始めて
まだ日は浅い。
タバコが吸えない喫茶店は
格好の話題だったに違いない。

「家族のために
やむなくやるんです」

 (続き)

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« つれづれ | トップ | 台風 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

Weblog」カテゴリの最新記事