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by hamarie_february

中国帰還兵と南方に散った「英霊」たち

2010-08-24 19:17:19 | 映画・TV・書籍

毎年恒例にしている敗戦日のエントリー。ずいぶん遅くなってしまいました。

【関連エントリー】敗戦の日に(2006年8月15日)/沖縄密約(2007年8月15日)/「靖国」再考(2008年8月15日)/1Q84と天皇制(2009年8月15日)

今年はなんだか、特番やらドラマやら映画やら、いろいろあるなーと思ってたら、あれから65年になるのですね。

そんなわけで、話題の映画「キャタピラー」を観てきました。ツイートはこちら。

http://twitter.com/ha_marie/status/21464534391

http://twitter.com/ha_marie/status/21464956787

http://twitter.com/ha_marie/status/21465140054 

それから、TBSで放送された倉本聰さん脚本の「帰国」(←古い漢字に変換されましぇん)を観ました。プラス毎朝のお楽しみ「ゲゲゲの女房」でも、先週は敗戦ウィークとでも呼べそうな戦争秘話が満載でしたし、そのあたりの感想でもって、敗戦日のエントリーにしてみたいと思います。

若松孝二最新作「キャタピラー CATERPILLAR」公式サイト

映画「キャタピラー」に登場するのは、中国戦線で両手両足を失い、「キャタピラー=芋虫」状態になって日本に帰還した軍人の男と、彼の面倒を見続ける妻。

妻役を寺島しのぶが好演していて、今年のベルリン映画祭で、見事に銀熊賞最優秀女優賞を受賞したのも話題です。

昔、「ジョニーは戦争へ行った」という怖い映画がありましたね。ジョニーもやはり両手両足を切断され、さらに彼は耳、目、口を失ってましたが...。

映画「キャタピラー」の場合、目と口は失ってないようで、だから、男は性欲と食欲だけは存分にあるんですが、声帯がつぶれているのか言葉にならず、呻きのような音を出すにとどまり、男と妻のコミュニケーションは、読唇術に頼る不安定なものとして設定されていました...。そういう理由もあるのか、顔のアップが多い映画で、男と妻の顔の表情が、次第に微妙に変化していき、その立場の上下が逆転していく展開は、見事なものでした。

四肢を失う代わりに勲章を3つもらった男を軍神と称える新聞や村人たち。変わり果てた夫の姿に、恐れ慄き、嘆き哀しみ、憎しみ蔑み、それでも愛しく思う妻の心模様。パートナーのいない私には、本当にわかったと言えないかもしれませんが、戦争映画というより介護映画なのかもなと思ったりw いや、銃後の守りとはこのようなものを含めて、構築されたシステムなのかもしれませんね。

フラッシュバック的に挿入される戦闘シーンや士気高揚するラジオ放送が、かろうじて戦争状態を想起させます。そうでなければ村の生活は空襲も無く平和そのものなのです。いつしか立場が上下逆転となった妻に犯されるようにセックスを強要される男の脳裏には、満州での自分の罪が、犯し殺した女たちの幻影が、浮かびあがり決して消え去ろうとしません。その表情は暗く険しい...。そして、8月15日。平和な村にも玉音放送が鳴り響き、戦争が終結した後、男の命運はどうなるのかーーー。

結末は是非とも映画館で観ていただきたいです。エンディングで流れる、元ちとせさんの「死んだ女の子」という曲も鳥肌ものです。是非!

「キャタピラー」と対照的だったのが、倉本聰さん脚本のTBSドラマ「帰国」です。こちらに登場するのは、南の海に玉砕した英霊の方々...ってヘンな言い方だけど、幽霊がメイン(主人公)のお話なんですな。

TBS「帰国」終戦ドラマスペシャル
8月15日、終戦記念日の深夜。
静まり返った東京駅のホームに、ダイヤには記されていない1台の軍用列車が到着した。
そこに乗っていたのは、60余年前のあの戦争中、南の海で玉砕し、そのまま海に沈んだ英霊たちだった。
彼らの目的は、平和になった故郷を目撃すること。
そして、かの海にまだ漂う数多の魂に、その現状を伝えることだ。
永年夢見た帰国の時。故郷のために死んだ彼らは、今の日本に何を見たのか……。

ビートたけし演じる一兵卒のエピソードがドラマのほとんどを占めていたんですが、それが残念ながら余分だったような気がします。あの説教臭いエピソードが無ければ、ほんと良かったのに。

特に、ARATA演じる検閲官の、喉を締め付けられるような声(首を吊って自死したためでしょうか)の独白に心揺さぶられました。あの検閲官を狂言回しにして、物語を進めれば良かった。

元画学生役の向井理くんのエピソードなんて、あっという間に終わっちゃった。彼は検閲官の自死に間接的に関係するんですよね。そのあたりの事情、さらっと流れましたよね。プンプン。なるべくならイケメンを多く映していただかないと...

あと小栗旬と八千草薫のカップルのようなエピソードはもっとなかったのかな。65年経っても、「あっ戻ってきた」とわかるなんて純粋に感動します。現実にはありえない美しすぎる話なんでしょうけど、八千草薫も美しかったw。何歳?...と今調べたら、79歳か。すごい。小栗旬と違和感なかったぞ。いや、皇潤は飲まないけれどもw

...って不真面目ですみません。

真面目な話をすると、彼らを殊更に「英霊」なぞと呼んで、「英霊さんは今の日本にガッカリしてます」みたいなパターンは使い古されてるし、かなりわざとらしいなと思いました。こういう愚痴に都合よく使われて「英霊」もいい迷惑だろうと。

そんなわけで、ジャングルの中で彷徨って最後に玉砕に散った方々を悪く思うわけはありませんし、帰ってきてもらっていいんですけど、出来れば「ベルリン天使の詩」みたいに、上空から見守ってほしいです。間違っても海底に沈んでいた刀剣を凶器に使わないようにしてくださいっ。

別に玉砕してくれなんてこちらは言ってませんから。そもそも戦争してくれとも言ってないし。www

...なーんて吐かなくてもよかった暴言まで吐きたくなったよ。と、もう吐いちゃってますけどね。

ツイッターで

死んだ日本人だけが良い日本人なんだよ、あの戦争では。きっと。
http://twitter.com/ha_marie/status/21754241521

と、つぶやきました。

これは、ハンナ・アーレントの「死んだドイツ人だけがよいドイツ人だ」ちゅうのを拝借した皮肉なわけですが、レジスタンスなどほぼ皆無だった日本で、「死んだ日本人だけが」なんてあるわけがない。運の問題です。上層部には自分だけ敵前逃亡したやつも多いと聞くし、そういう点では「生き残った日本人」に一部共感は出来かねるかもしれないけど。

そんなわけで、久々に、なんじゃこりゃと思ったドラマでした。こんなもん大真面目に作られても困ります、TBSさん。

そういえば、2006年に放映されたドラマも戦時中の兵士が現代社会に紛れ込むという設定でした。(これもTBSさんのドラマだったかな)

僕たちの戦争@Intersecting Voice Cafe (2006年9月17日)

この時も確か「こんな日本をつくるために」云々のセリフがあったと思うんですが(うろ覚え)、全然スッと入ってきたんですよねー。こちらは森山未來くん。役者の差かしら、若さの勝利かしら。ビートたけしがウザかっただけかも(爆)

では最後に。すごく長くなってきたので、簡単に「ゲゲゲの女房」の話題。

先ほども書きましたように、先週のゲゲゲは敗戦ウィークでして、戦争の話、それも水木しげるさんが体験した総員玉砕の話がメインでした。

今日のゲゲゲは感動的だった。今日はキャタピラーも観たし、戦争ものが続く。本物の戦争を描かねばと水木せんせい。忘れるな、これが戦争だと若松監督。
http://twitter.com/ha_marie/status/21480797397

水木先生がラバウル旅行から戻ってきてから、その民族音楽に夢中になってるシーン、向井理くんのあの風貌ゆえ、どうもロックンロールに興じているように見えてしまった。映画版「BECK」ももうじき公開されますしね。と余談は置いて。

戦闘で敵から逃れて九死に一生を得て戻ってきた者に対して、何故死ななかったのか。もう総員玉砕と本部に報告したのだから死ねと迫る上官。なんかもう、「信じられない」と言いたいところだけど、「ありえるな」と思ってしまいました。諦めに近い感情。

一方で、遠く離れた日本で、真夜中に胸騒ぎがして起きて、南方へ向かって「死んではいかん」と叫び祈るイカルとイトツ(水木さんのご両親)の姿に、ほろりとして。

部隊に玉砕命令が出ていて生き残るのは、ほんとうに強運の持ち主なのだろうと思います。マラリアにやられて、左腕切断という代償つきですが、水木さんは生き残るべくして生き残ったのだと言えるのかもしれません。

その後、左腕切断の療養のためにニューギニアの病院にいたときに、土着のトライ族と仲良くなったのですね。

そんな、水木さんの敗走記を聞きながら、思ったこと。

Wikipediaによると、水木さんは初年兵教育を終えたあと、ラッパ卒から配置転換を申し出て、「北がいいか、南がいいか」と尋ねられ、てっきり国内の南・九州の連隊への配属と思い「南であります」と答えたらしいです。その勘違いから、戦線悪化していた南方戦線に送られるわけですが、このとき水木さんが勘違いせず、「北」つまり満州行きを希望していたら、どうなっていただろうかと。

満州に行き、満州での戦闘を、あの惨い虐殺を経験すれば、やはり生きて帰れてたとしても、もしかしたら漫画家・水木しげるは誕生しなかったかもしれないと思わずにおれませんでした。

南方に行った人と、中国に行った人とでは、あの戦争も違ってくる。ゲゲゲ。
http://twitter.com/ha_marie/status/21527508502

そんなことを、とめどもなく考えた、敗戦ウィークなのでした。 


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